皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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※二貂理の初出し情報を、周年記念に書きなぐりました


第六十九回 足

「よっし、安定してきた」

 

 わたしが人間の家に住み着いてからどれだけか……えっと、何週間?かが過ぎた。

 山で動物を襲って過ごすのと比べればあまりにも快適である。二度と野生には戻れないな。

 

「何が安定してきたって?」

 

 ゴ主人が声をかけてくる。

 半ば諦めたようにというか、妖怪なんて意味不明な存在に思考停止したと言うべきか。

 最初のころは「なんだコイツ……」と言う目で見てきたのに、こちらを見もせずに声をかけてくる。

 

 住み着いた身で言う事じゃないけど、いい加減すぎないか、コイツ。

 

「変化。ほれ、しっかり人間の手でしょ?」

 

 腕を突き出し、ぐーぱーぐーぱ―。

 指の関節に過不足なく、また逆向きに曲がったり回転したりすることもない。

 冷たかったり異様に熱かったりもしないし、触った物が全部切断されたりもしない。

 

 小指以外は独立して動き、それなりに細かい作業にも対応している。

 10人が見れば10人が人間の手というであろう物が、再現できていた。

 

「なんで腕と脚がケモノだったのかは

分かんないけど、これで腕は完璧でしょ」

「おー、ホントd……や、ちょっとゴツくね?」

 

 なんだ、文句かキサマ。

 

「ゴツイというと?」

「何というか、こう」

「うん」

「手があまりにも男の手」

 

 言われて、改めて見る。

 見る、が……

 

「あのさ」

「うん?」

「そもそも、女の人の手見たこと無いや、わたし」

 

 そもそもとして。関わったことのある人間はゴ主人だけであり。

 必然、女の人の手なんて見たことがないのだ。知らないものは、模倣できない。

 

「そういや、そうだったか」

「うん、だから何も分からん。そんなに変?」

「へったくそなコラ画像みたい」

「例えが分かんないんだけど」

 

 まぁでも、変なのだろう。

 しかし、そうなるとどうするか……別に変な状態でも困らないしなぁ。

 

「ほれ、こんな感じ」

「ほむ」

 

 スマホの画面を見せられる。

 誰かの写真?だろうか。確かに、今のわたしの手と比べ、丸い印象というか、柔らかい印象を受ける。

 なるほど、これはかなり違う……

 

「ん、っと……こんな感じでどう?」

 

 写真の印象をそのまま腕に向ける。

 まんま同じとはならなかったが、受ける印象は近づいたんじゃなかろうか。

 

「あー、うん。それなら良いと思う」

「よっし。じゃあ後は、スマホが触れれば……」

 

 ゴ主人のスマホに指を伸ばし、画面に触れてみる。

 上にスライド、下にスライド。

 一回ポンと叩いて、二本の指を開いて閉じて、開いて閉じて。

 

「よし、しっかり反応してる!」

「おめでとさん。んじゃこれ、約束のお古」

 

 ところどころキズの入ったスマホを渡される。これでネットやら何やらで1日中遊んでられる!

 

「にしても」

「うん?」

「完全に人間の腕の形にするのには何週間かかかったのに、そこから形変えるのは一瞬だったな」

 

 ふむ、確かに。

 なんかイメージしたら一瞬で変わってたんだよなぁ。

 

「あー、うん。なんかできた」

「なんかて」

「わたしにも分からん」

「オイコラ化けイタチ」

「新米なので」

 

 便利な言葉だと思う。今後も乱用していこう。

 

「強いて言うなら、変化の感覚が掴めたと言うか。維持するのはちょっと疲れるけど、変えるだけならなんとでもなるかも」

 

 言いながら、右腕をでっかい包丁に変えて見せる。人間の腕なんていう複雑怪奇なものに変われるようになり、勘とかコツとか、そういうものが鍛えられたのかもしれない。

 

「その調子で脚もいってみたら?」

「えー、いる?」

 

 腕……というか手は、スマホを使って遊んだりキーボードを打つのに必須だった。だから遊ぶために頑張った。

 それに対して。脚は、なんというか、こう。別に今のままでも不便はない。なら面倒だし獣状態(このままで)いいかな、って。

 

「床の掃除が大変だからいる」

「あー」

 

 当然だが。脚が獣ということは、しっかり毛皮という事である。

 当然、毛は抜ける。その分掃除が大変というのは、うん。確かになぁ、と納得させられた。

 納得してしまったのなら仕方ない。さっそく貰ったスマホで女性の脚を調べて、イメージを固める。

 そして、イメージをそのまま脚へ流し込むようにし……

 

「…………あれ?」

「うん?」

「変わんないや」

 

 うんともすんとも言わない。

 若干獣脚との境目がズレた感覚はあったが、それだけ。脚は獣のままである。

 

「……つまり?」

「脚は脚で全く別の物、ってことかなぁ」

「融通の利かない体してんなぁ、妖怪」

 

 変な石ころ食べてニホンイタチから化けイタチになっただけのわたしに言われましても。

 

「ま、でも。出来ないものは仕方ないよね。うんうん、よし!スマホであ~そぼっと」

「まて、もうちょっと頑張ってみようとか、そういう感情はないのか」

 

「そんな物はない!」

「威張るな阿呆」

 

 そうは言っても、仕方ないじゃん。

 出来ないものは出来ないんだから。

 

「そんなことより、漫画読みたいんだけど。どこから読めるの?」

「あーっと、それはこのアプリの……」

 

 ゴ主人も諦めたのだろう、素直に教えてくれる。

 よしよし、しっかり遊びつくそっと。

 

 

 

=〇=

 

 

 

 と。

 この時点で、彼女は知らないのだが。 腕か脚かで腕を選んだ時点で、脚が完全に人間のソレになる可能性は消えている。

 

 何故かって?

 欠損のメタファーとして、そこにあるからだ。

 

 石を喰らい、化けイタチとなった存在。では、彼女がくらった石はなんだったのか。

 

 食べるとは、奪う事である。

 食べるとは、取り込むことである。

 

 喰らい、奪い、取り込んで。

 その結果、「何かしらの欠損」を形を変えて再現してしまった。それが、あの獣の腕と脚の正体。

 

 それ故に。

 腕がその役目を放棄した際、脚まで逃げられるはずもなかったのだ。

 

 ……果たして。

 彼女は一体、何を食べたんだろうね?

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