皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
一歩、脚を進める。
一歩、また一歩。ただそれだけを意識して、途切れそうになる意識を繋ぎとめる。
朦朧としてきた。確実に、まっすぐ歩けてはいない。それでも、脚を動かす。同じところをぐるぐる回っていても構わない。
ただただ、脚を動かす。それだけを意識して、それだけを心のよりどころに。一歩、また一歩。ただそれだけを繰り返し、
「あれは……」
洞窟を、見つけた。
考える。このまま雪と風にさらされ続けるよりは、よっぽどいいだろう。きっと、いいはずだ。
一歩ずつ、歩みを進める。逸る気持ちを抑え、牛歩のようなペースで、確実に。
たどり着き、荷物を下ろす。
座り込みたくなる気持ちを抑え、荷物を漁る。意識があるうちに、暖をとる準備をしないと。
何か、なんでもいい。服でもなんでもいいから、燃やせるものとか……
「……うん?」
と。
火をつけられそうな物、火種になりそうな物をひたすらにあさっていたら。ふと、何かの気配を感じた。
俺と同じように雪籠りしてる動物でもいるのか?いや、そもそもここが動物の巣だった?まさか熊の巣ってことはないよな……
後手に回るのは怖い。荷物から視線を外し、洞窟の奥を見る。
別段、何かいる様子はない。気のせいだったか、と気を抜いた瞬間……ユラリ、と。
何か、光源がうごいた。
「……は?」
雪山の洞窟で、光源が、ユラリと動いた。
普通じゃない。とうとう狂って幻覚でも見てるんだろうか。
「—――あ、どうもこんばんは……」
人が、現れた。
白い和服の女性。ユラリと動いていた光源は、その手に持つ蝋燭だったのだろう。
「っていや、そうじゃなくて……えっと、なんでこんなところに?」
雪山の洞窟に、和服姿の女性。
異常事態である。やっぱり、幻覚を見ているのかもしれない。
「あの、もしもーし?」
それでも。一縷の望みにかけて、声をかけ続ける。どうせ幻覚を見てしまっているのなら手遅れなんだ、生き残れる可能性にかけた方がいい。
「その、自分遭難しちゃって」
「……」
「途中で変な道に入ったのか、全然元の道に戻れないままこんな時間になっちゃって」
「……」
「もしよろしければ、ここがどこなのかとか、暖が取れる場所とか、教えてもらえませんか?」
「……」
「えっと、我がままを言うようなんですが、欲を言えば食べ物と飲み物も分けていただけたりとか……」
「……」
「……いい天気ですね!」
すべて無視された。
やっぱり幻覚か、さもなくば夢ても見ているんだろうか。
遺書とか残さないとかなぁ、と絶望していると。ふと、女性が手招きをした……ように見えた。
しかも、そのまま背を向けて洞窟の奥へと向かっている。
「……どうせ、このままここにいてもしぬだけか」
覚悟を決める。
少なくとも、このままだとしぬんだ。荷物の入ったカバンを持ち上げ、女性の後を追う。
幸いにも、女性はちょっと行った先で足を止めていた。
「えっと、こっちに何か」
あるんですか、と続くはずだった。
が。目の前に無言で突き出された皿に、全ての意識を奪われた。
ホッカホカの肉まんに、全ての意識を奪われた。
「……えっと、これは俺に?」
懇願するように、問う。
彼女は、こくりと頷いてくれた。
カバンを放りだし、鷲掴みにして喰らいつく。
いくらか指の隙間や口からこぼれた気がしたが、そんなこと気にせず貪った。
「あ、ごめんなさい。つい……」
あまりにも失礼だったな、とキッチリ完食してから返そうとする。
差し出されていた。ホッカホカの、おでんの大根が。出汁と共に。
気付いた時には、出汁すら残ってなかった。
再び、女性の方を向く。
湯気すら立てるまっしろなご飯に、カレールーがかけられていた。
受け取り、かっこむ。
足りない。それでも、まだ足りない。
乞食のような、卑しい感情になっている自覚はある。それでも、今は縋ることしかできない。
三度、顔を上げる。そこにはやはり、湯気を立てるほどに温かい食べ物が差し出されていた。
=〇=
翌日。
晴れるのを待って出動した捜索隊は、洞窟内で、雪を口に詰め亡くなっている男性を、発見した。