皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第七十三回 雪、おいしさ

 一歩、脚を進める。

 一歩、また一歩。ただそれだけを意識して、途切れそうになる意識を繋ぎとめる。

 朦朧としてきた。確実に、まっすぐ歩けてはいない。それでも、脚を動かす。同じところをぐるぐる回っていても構わない。

 ただただ、脚を動かす。それだけを意識して、それだけを心のよりどころに。一歩、また一歩。ただそれだけを繰り返し、

 

「あれは……」

 

 洞窟を、見つけた。

 考える。このまま雪と風にさらされ続けるよりは、よっぽどいいだろう。きっと、いいはずだ。

 一歩ずつ、歩みを進める。逸る気持ちを抑え、牛歩のようなペースで、確実に。

 

 たどり着き、荷物を下ろす。

 座り込みたくなる気持ちを抑え、荷物を漁る。意識があるうちに、暖をとる準備をしないと。

 何か、なんでもいい。服でもなんでもいいから、燃やせるものとか……

 

「……うん?」

 

 と。

 火をつけられそうな物、火種になりそうな物をひたすらにあさっていたら。ふと、何かの気配を感じた。

 俺と同じように雪籠りしてる動物でもいるのか?いや、そもそもここが動物の巣だった?まさか熊の巣ってことはないよな……

 

 後手に回るのは怖い。荷物から視線を外し、洞窟の奥を見る。

 別段、何かいる様子はない。気のせいだったか、と気を抜いた瞬間……ユラリ、と。

 何か、光源がうごいた。

 

「……は?」

 

 雪山の洞窟で、光源が、ユラリと動いた。

 普通じゃない。とうとう狂って幻覚でも見てるんだろうか。

 

「—――あ、どうもこんばんは……」

 

 人が、現れた。

 白い和服の女性。ユラリと動いていた光源は、その手に持つ蝋燭だったのだろう。

 

「っていや、そうじゃなくて……えっと、なんでこんなところに?」

 

 雪山の洞窟に、和服姿の女性。

 異常事態である。やっぱり、幻覚を見ているのかもしれない。

 

「あの、もしもーし?」

 

 それでも。一縷の望みにかけて、声をかけ続ける。どうせ幻覚を見てしまっているのなら手遅れなんだ、生き残れる可能性にかけた方がいい。

 

「その、自分遭難しちゃって」

「……」

「途中で変な道に入ったのか、全然元の道に戻れないままこんな時間になっちゃって」

「……」

「もしよろしければ、ここがどこなのかとか、暖が取れる場所とか、教えてもらえませんか?」

「……」

「えっと、我がままを言うようなんですが、欲を言えば食べ物と飲み物も分けていただけたりとか……」

「……」

「……いい天気ですね!」

 

 すべて無視された。

 やっぱり幻覚か、さもなくば夢ても見ているんだろうか。

 遺書とか残さないとかなぁ、と絶望していると。ふと、女性が手招きをした……ように見えた。

 しかも、そのまま背を向けて洞窟の奥へと向かっている。

 

「……どうせ、このままここにいてもしぬだけか」

 

 覚悟を決める。

 少なくとも、このままだとしぬんだ。荷物の入ったカバンを持ち上げ、女性の後を追う。

 幸いにも、女性はちょっと行った先で足を止めていた。

 

「えっと、こっちに何か」

 

 あるんですか、と続くはずだった。

 が。目の前に無言で突き出された皿に、全ての意識を奪われた。

 

 ホッカホカの肉まんに、全ての意識を奪われた。

 

「……えっと、これは俺に?」

 

 懇願するように、問う。

 彼女は、こくりと頷いてくれた。

 

 カバンを放りだし、鷲掴みにして喰らいつく。

 いくらか指の隙間や口からこぼれた気がしたが、そんなこと気にせず貪った。

 

「あ、ごめんなさい。つい……」

 

 あまりにも失礼だったな、とキッチリ完食してから返そうとする。

 差し出されていた。ホッカホカの、おでんの大根が。出汁と共に。

 

 気付いた時には、出汁すら残ってなかった。

 

 再び、女性の方を向く。

 湯気すら立てるまっしろなご飯に、カレールーがかけられていた。

 

 受け取り、かっこむ。

 足りない。それでも、まだ足りない。

 

 乞食のような、卑しい感情になっている自覚はある。それでも、今は縋ることしかできない。

 三度、顔を上げる。そこにはやはり、湯気を立てるほどに温かい食べ物が差し出されていた。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 翌日。

 晴れるのを待って出動した捜索隊は、洞窟内で、雪を口に詰め亡くなっている男性を、発見した。

 

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