皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ……
「んぅ……うる、さい」
手探りに音の発生源を叩き、黙らせる。ヨシ、静かになった。これで再び夢の中に、
ピッピピピ、ピッピピピ、ピッピピピ……
「はや、い」
入った次の瞬間、再び鳴り響く。
乗せっぱなしだった指を動かし、沈黙。よし、これで今度こそ
ビー!ビー!ビー!ビー!
「はい、わかりました。今日も私の負けです」
とは出来ず。寝ぼけ眼をこすりながら、体を起こす。スマホを見ると、最初のアラームからざっくり1時間。
どうやら、一瞬などではなくしっかり意識を飛ばしていたらしい。疲れているのだろうか。
「とりあえず、ゴミ出し……」
すぐ隣で寝ている旦那を起こさないよう、そっと。布団を脱出し、玄関へ。回収の時間は近い、横着して寝巻に一枚羽織って、そのまま外へ。
「あ、木村さん」
「あ……おはようございます、鈴木さん」
知り合いに出くわしてしまった。寝巻姿で。
けどまぁ、うん。これがはじめてではないし……仕方ない仕方ない。
「あ、そうだ。最近カラスの荒らし方が酷いから、ネットはしっかり目にって大家さんが。今の時期なら、まだ大丈夫かもですけど」
「はーい、気を付けます」
ちょっとお茶らけて敬礼を返すと、苦笑いで部屋に戻られてしまった。うーん、自分の年を考えるべきだったろうか。反省。
なんて考えつつ、ゴミを出す。ネットを持ち上げ、ゴミ袋を入れてからかけ直す。前のよりちょっと丈夫そうだ。大家さん、奮発したのかな?
「っと、いけないいけない」
こんなことを考えてる時間はない。ただでさえ寝坊気味なのだ。
二人が起きてくる前に、朝ご飯の支度しなきゃ。
=〇=
「おはよ……」
ちょっと手抜きな朝ごはんの支度を終えたところで、ものすごく眠そうな声が聞こえてきた。
そちらに視線をやると、声にたがわず眠そうに眼をこする息子の姿が。
「おはよ~。また随分と眠そうね」
「ちょっと、宿題が間に合わなくて……」
「ため込むからでしょ。ほら、朝ご飯出来てるから、顔洗ってきなさい」
「はーい……」
扉を開けて促すと、若干ふらつきながらも洗面所へ向かう。まぁ、家の中だし転んだりはしないでしょう。
さて、戻ってくるまでに並べとかないと……
「おっ、みそ汁のいい匂い」
「ひゃっ」
背後から声。変な悲鳴が出た、何も持ってなくてホントによかったレベルで驚いた。
「もーちょっと物音というか、生活音をだしてはくれませんか?」
「いや、そんな忍者みたいなことをした記憶はないんだけど」
「少なくとも、扉を開ける音すらしませんでした」
そんなばかな、と大げさに肩をすくめられる。さっきまでぐ~すか寝ていたはずなのにこれである。息子と違って寝起き抜群、あの子の寝起きの悪さは私に似たんだろうなぁ。
「何の話?」
「わっひゃい!」
などと納得していると、再び背後から声。振り返ると、先ほどよりは幾分か目の覚めた顔をした息子がいた。
「おっ、おはよう。目の下、ちょっと隈になってないか?」
「ちょっと連日宿題が終わらなくて……」
「ま、学生なんてそんなもんだろ。提出さえ間に合えばセーフだセーフ」
どうやら、性格の方は旦那に似たようだ。それで体調崩してたら意味ないと思うんだけどなぁ。
「いただきます。……で?何の話だったの?」
「貴方のお父さんが、物音立てずに忍び足で奥さんを驚かせてきたの」
「え、父さんそんなことしたの?酷くね?」
「いやいやいや、してないから。してたとしてもわざとじゃないから」
全員で食卓を囲みつつ、先ほどの話を。っていうか……
「アンタもやったでしょうが、物音立てずに戻ってきて」
「は?んなことしてないけど。ってか、出来るわけないじゃん」
「やってたのよ、実際。だから驚いたんだもの」
えー?などと不満げな顔を返された。なぜそんな「俺何も知りません」って顔を出来るんだ、この状況で。
「じゃあ無意識かな……」
「なんなのよその無意識……うるさいのは勘弁だけど、無音も怖いからね?」
はーい、と気の抜けた返事が二つ。ホントに分かってるんだろうか、この親子は。
「あ、そうだ。話は変わるんだけど」
「うん?」
「朝のゴミ出し。カラスの被害が酷いからって、ネットがごつめになってた。雑にやると被ってないところ出るから、気を付けてね」
「ん、りょーかい」
「カラスが寄ってくるってことは、誰か生ゴミ多めに出してたりするのかな」
「そろそろ暑くなってくるし、勘弁して欲しいわよねぇ」
言いながら、みそ汁の中のキノコを摘まむ。一口、汁と出汁が染み出してくる。うん、今日も美味しい。
「ほら、もう時間ないんだから。学校やら会社やら、遅刻するよ」
時計を指さすと、二人そろって慌てだす。全然ご飯減ってないけど、お喋りに集中しすぎじゃないですか?
=〇=
先ほどの光景を思い出す。
この真冬に薄着の寝巻、ゴミ袋の中にはそれなりの量の生ゴミ。
ダメになった、こぼしちゃった、なんて量ではない。明らかに「〇人前」と言ってしまえる量が、常日頃から。
そして、極めつけは。
時折、誰もいない虚空を見つめて頷く、不審な行動。
一昨年の夏に交通事故で亡くなったご家族と会話しているかのような、一人芝居。
「どうするのがいいのかしらねぇ、これ」
早速荒らされているゴミ袋、そこから散乱した生ごみを掃除しながら、大家は一人愚痴る。
カラスもまるで手を付けていないキノコを、トングで回収しながら。