皆で小説を書こう配信 まとめ 作:二 貂理
ふと、目を覚ます。
無理矢理に起こされた感覚はない。本当に、ふと。前触れなく、カチッと電源が入ったような。そんな目覚めだった。
周囲を見渡す。一切記憶にない光景。というか、特筆すべきものが何もない原っぱら。
なんでこんなところで寝ていたんだろう、いやまぁお昼寝したら気持ちよさそうな原っぱだけど、となるような。そんな場所である。
「いや、マジで」
なんで。と言い切る前に、咳き込む。喋るのもつらいくらいには、喉がカラッカラだ。
マジでなんで。記憶をたどる。
辺り一面草原な空間で、寝るに至った記憶を。
うん、無い。なんにも覚えてない。
「……はぁ」
ため息はつけた。
とりあえず、うん。飲み物とか、探そう。
=〇=
カリカリ、と。爪で何度かこすり。
あかないなと頭を掻いたところで、蓋を開けるための道具がある事に気付いた。刺して、てこの原理でくいっと。
匂いは、大丈夫そう。ええいままよっ、腰に手を当て、ぐいっと。
「……大丈夫そう、かな」
一瓶飲み干してから大丈夫もクソもないだろう、という話ではあるのだが。
少なくとも腐ってはなさそうだったコーヒー牛乳を一気飲みし、一息つく。
「さて、これからどうするか……」
もう一瓶手に取り、口にしながら独り言ちる。今度は一口ずつ、ゆっくりと。
喉の渇きに耐えながら歩いた先には、銭湯があった。
これ幸いと駆け込むも、誰もいない。
喉の渇きに耐えられず、コーヒー牛乳を勝手に飲み、今に至る。
「鍵も扉も全開、電気もついてる、湯も張られてる。なのに客も店員もいない」
現状把握、その1。
「ついでに、原っぱから
より厳密には、人も動物も鳥も。虫までは分からないけど、何ともすれ違わなかった。
現状把握、その2。
「けど、掃除は行き届いてる感じだし、飲み物も飲める……少なくとも腐ってはなさそう、と」
現状把握、その3。
「何かあって避難中、とかか……?」
暫定結論。
少なくとも、直前とまでは言わずともそう遠くない時間までは、人がいたっぽい。
にも拘らず誰一人いないのであれば、全員どこかへ移動した、という事になるのではなかろうか。
野生動物がいないのは、本能的に逃げた、みたいな。
俺が一人残されてたのは、寝ぼけて避難指示をガンスルーしてた、みたいな。
「どんだけ寝てんだよ、俺」
まぁ、直前の記憶を飛ばすほどの深い睡眠だ。もしかすると、気絶だったのかもしれない。
そんなレベルで意識を飛ばしていたのだから、避難指示を聞き逃すくらいしてもおかしくはない。うんうん。
「なら、どこかまで行けば誰かしらいるはずだよな」
そうと決まれば、だ。
誰かいるところを目指して、移動するっきゃない。普通に過ごせてはいるが、なんやかや記憶喪失患者である。
「確か、表に車止まってたはず。1台くらい鍵刺さってるだろ」
なくても、銭湯の事務室?とか探せば車の鍵があるんじゃなかろうか。どれだけ移動することになるか分からないんだ、まずは足の確保から……
「っと、そうだ」
料金箱に、小銭を放り込む。
うん、これでよし。そんじゃま、車探しに行きますか。
=●=
「対象、飲み物の代金を払う倫理観をみせる、と」
起床からのざっくりした時間と一緒に、行動を記録する。
モニター越しだから正確な金額は分からないが、そこは後で追記しよう。
「が、その後すぐ。迷うことなく、鞄の乗っている車の窓ガラスを破壊しにかかる、と」
しかも、開かないならば荷物のみ持ち逃げする、と。
直前の倫理観はどこへやら、な行動をしっかり記録する。
誰もいねぇ!なら何でもやりたい放題だぜヒャッハー!という世紀末をみせることもなく。
かと言って、常日頃と変わらない倫理観を発揮するでもなく。
「もしかして、自分一人しかいないんじゃないか」という恐怖感、不安感は。こうも簡単に、人間の倫理観をグラつかせてしまうらしい。
「さて、ここから時間経過でどうなっていくのか……」
手元のストップウォッチを見る。
試験体の覚醒から、まださしたる時間は経過していない。
何時間の経過で、理性を失うのか。
その際、倫理観が残るのか、失われるのか。
今回の試験体は、どちらに転ぶのか。人間観測、スタート。