皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第七十八回 一人

 ふと、目を覚ます。

 無理矢理に起こされた感覚はない。本当に、ふと。前触れなく、カチッと電源が入ったような。そんな目覚めだった。

 

 周囲を見渡す。一切記憶にない光景。というか、特筆すべきものが何もない原っぱら。

 なんでこんなところで寝ていたんだろう、いやまぁお昼寝したら気持ちよさそうな原っぱだけど、となるような。そんな場所である。

 

「いや、マジで」

 

 なんで。と言い切る前に、咳き込む。喋るのもつらいくらいには、喉がカラッカラだ。

 

 マジでなんで。記憶をたどる。

 辺り一面草原な空間で、寝るに至った記憶を。

 

 うん、無い。なんにも覚えてない。

 

「……はぁ」

 

 ため息はつけた。

 とりあえず、うん。飲み物とか、探そう。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

 カリカリ、と。爪で何度かこすり。

 あかないなと頭を掻いたところで、蓋を開けるための道具がある事に気付いた。刺して、てこの原理でくいっと。

 匂いは、大丈夫そう。ええいままよっ、腰に手を当て、ぐいっと。

 

「……大丈夫そう、かな」

 

 一瓶飲み干してから大丈夫もクソもないだろう、という話ではあるのだが。

 少なくとも腐ってはなさそうだったコーヒー牛乳を一気飲みし、一息つく。

 

「さて、これからどうするか……」

 

 もう一瓶手に取り、口にしながら独り言ちる。今度は一口ずつ、ゆっくりと。

 

 喉の渇きに耐えながら歩いた先には、銭湯があった。

 これ幸いと駆け込むも、誰もいない。

 喉の渇きに耐えられず、コーヒー牛乳を勝手に飲み、今に至る。

 

「鍵も扉も全開、電気もついてる、湯も張られてる。なのに客も店員もいない」

 

 現状把握、その1。

 

「ついでに、原っぱから銭湯(ここ)にくるまで、誰ともすれ違わなかった」

 

 より厳密には、人も動物も鳥も。虫までは分からないけど、何ともすれ違わなかった。

 現状把握、その2。

 

「けど、掃除は行き届いてる感じだし、飲み物も飲める……少なくとも腐ってはなさそう、と」

 

 現状把握、その3。

 

「何かあって避難中、とかか……?」

 

 暫定結論。

 

 少なくとも、直前とまでは言わずともそう遠くない時間までは、人がいたっぽい。

 にも拘らず誰一人いないのであれば、全員どこかへ移動した、という事になるのではなかろうか。

 

 野生動物がいないのは、本能的に逃げた、みたいな。

 俺が一人残されてたのは、寝ぼけて避難指示をガンスルーしてた、みたいな。

 

「どんだけ寝てんだよ、俺」

 

 まぁ、直前の記憶を飛ばすほどの深い睡眠だ。もしかすると、気絶だったのかもしれない。

 そんなレベルで意識を飛ばしていたのだから、避難指示を聞き逃すくらいしてもおかしくはない。うんうん。

 

「なら、どこかまで行けば誰かしらいるはずだよな」

 

 そうと決まれば、だ。

 誰かいるところを目指して、移動するっきゃない。普通に過ごせてはいるが、なんやかや記憶喪失患者である。

 

「確か、表に車止まってたはず。1台くらい鍵刺さってるだろ」

 

 なくても、銭湯の事務室?とか探せば車の鍵があるんじゃなかろうか。どれだけ移動することになるか分からないんだ、まずは足の確保から……

 

「っと、そうだ」

 

 料金箱に、小銭を放り込む。

 うん、これでよし。そんじゃま、車探しに行きますか。

 

 

 

 =●=

 

 

 

「対象、飲み物の代金を払う倫理観をみせる、と」

 

 起床からのざっくりした時間と一緒に、行動を記録する。

 モニター越しだから正確な金額は分からないが、そこは後で追記しよう。

 

「が、その後すぐ。迷うことなく、鞄の乗っている車の窓ガラスを破壊しにかかる、と」

 

 しかも、開かないならば荷物のみ持ち逃げする、と。

 直前の倫理観はどこへやら、な行動をしっかり記録する。

 

 誰もいねぇ!なら何でもやりたい放題だぜヒャッハー!という世紀末をみせることもなく。

 かと言って、常日頃と変わらない倫理観を発揮するでもなく。

 

「もしかして、自分一人しかいないんじゃないか」という恐怖感、不安感は。こうも簡単に、人間の倫理観をグラつかせてしまうらしい。

 

「さて、ここから時間経過でどうなっていくのか……」

 

 手元のストップウォッチを見る。

 試験体の覚醒から、まださしたる時間は経過していない。

 何時間の経過で、理性を失うのか。

 その際、倫理観が残るのか、失われるのか。

 

 今回の試験体は、どちらに転ぶのか。人間観測、スタート。

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