皆で小説を書こう配信 まとめ   作:二 貂理

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第六回 夏祭り

「先輩、遅い!」

「いや、まだ約束の時間10分前なんだけど」

 

 空とアスファルト双方から照り付ける灼熱の中。その体のどこに声を上げるだけのエネルギーが残っているのかと聞きたくなるほどに、耳へ直撃してきた。

 

「……えっ、うそ」

「嘘なもんか。ほれ、時間見てみろ」

 

 と、拍子抜けした様子の後輩へスマホの画面を突きつける。現在時刻、約束の時間の10分前なり。

 

「……私の時計、ずれてる」

「なるほど、人を待つくらいなら待たせるお前が先に来てるのはそういうことか」

「遅刻したことはない!」

 

 ギリギリに来ることは否定しない辺り、まあ自覚はあるようなので良しとしよう。実際問題、変に早く来るヤツが相手だとお互い気を使ってしまうので面倒ごとの方が多いのだ。

 お互いギリギリかせいぜい10分前に来るくらいが、人間関係上手くいくと思うのだ。

 

「あーっ、暑さこらえ損したぁ」

「また斬新な表現が飛び出したな」

「斬新にもなるでしょ。この格好だよ?」

 

 腕を広げて自らの服装を強調する。まぁ、うん。

 

「和服の類ってない方が整うって言うしな」

「センパイ、セクハラ」

 

 おっとしまった、つい本音が飛び出した。

 

「失礼しました。お詫びに何か奢るよ」

「十代の後輩女子へのセクハラをお金で解決しようとは、随分な言い草ですね」

「おっとなるほど、そう返してきたか」

 

 言われてみればなるほど、そういう構図だ。これはよろしくない。

 

「さて、そうなるとどうしたものか」

「何か手立てに心当たりでも?」

「いっそ責任をとるというのは」

「無いです」

 

 デスヨネー。まぁ、本気にとられても困るので問題ない。

 

「ではいっそ、クズを極めてみよう」

「ほうほう?聞くだけ聞いてあげましょう」

「本日はすべて奢らせていただきますので、何卒お許しいただけないでしょうか」

 

 全力で下手に出る。今打てる手はもう、これしか残されていないだろう。

 

「ふむ、なるほど。つまり今日一日先輩は私の召使ということに」

「はなりません」

「チッ」

 

 この後輩、可愛い顔で舌打ちしやがった。

 

「まぁ、いいでしょう。その心意気に免じて、屋台3ヶ所奢りで手を打ちましょう」

「ありがとうございます」

 

 と、ふと気になったので。

 

「ところでお前、どれくらい待ってたんだ?」

「そうですね……ざっと30分ほど」

「電話で呼べよ」

 

 このクッソ暑い中何で待ったんだ、こいつは。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「人、多くないですか」

「そりゃ、夏祭りだからな」

 

 早速体力切れを起こしたのか、人混みに対して不満を漏らしだした。どうしたんだこいつは、何かに当たっていないとやってられない心境なのか。

 

「いやおかしいでしょう、どこからこんなに人が集まったんですか。このクソ暑い中。バカなんですか?」

「言っておくが、俺たちもそのクソ暑い中集まったバカの一部になるんだからな」

 

 先ほどの約束、一つ目。入口そばにあったかき氷を揃って掬いつつ、そんな愚痴もどきを漏らす。

 

「例年の感じだと市外からも来るらしいし。こんなもんだろ」

「なんだってわざわざ市外からくるんですか。地元のお祭りに参加しててくださいよ」

「いや分からんではないが、イベント事には参加したくなるんだろ」

 

 暗くなってきたら花火も見えるし、それ目当ての客も多いだろう。つまりそれは、ここからさらに人が増えるというわけで。日が沈んで涼しくなるにしても限度ってもんがあるだろう。

 

「はぁ……あ、そうだ。いっそ定番ですし、はぐれないように手を繋いだりします?」

「かき氷どうやって食べる気だ」

「それもそうですね、聞かなかったことにしてください」

 

 迷うことなく食い気に走ってくれた。うんうん、それでこそこの後輩だ。

 

「あ、先輩。あれあれ」

「うん?」

「あそこにたこ焼きの屋台出てるじゃないですか」

「出てるな。それも、結構な行列の」

「私あっちの日陰で席とっておくので、買ってきてくださいよ」

「迷いなく先輩をパシリに使うんじゃねぇ」

 

 奢る約束はしたしまだ2件分有効だが、パシリになる約束をした覚えはない。

 

「ソース?醤油?」

「両方買ってシェアしましょう。先輩マヨは苦手でしたよね?」

「ああ。んじゃ、マヨ抜きで2種類1パックずつな」

 

 さて、どれくらいでこの列はけてくれるんだろ。

 

 

 

 =〇=

 

 

 

「うーん、ザ・屋台の味って感じでしたね」

「いい感じの言葉でごまかしてるけど、要はそれ味が濃くて暴力的だったってことだろ」

「はい、その通りです。だからこそ美味しいのです」

 

 言わんとすることは分かる。暴力的な濃さで味を付ければ、必然それは美味しくなるのだ。

 量を重ねればくどくなるが、そこはまぁ、食べる側が頑張って調整する部分なので除外する。

 

「さて、それじゃあ行きましょうか先輩」

「ん?もう一品何か食ってくもんだと思ったけど」

「可愛い後輩女子を食いしん坊キャラに仕立て上げないでください。十分満足しました」

「あの量で満足するならわざわざ座らなくても良かっただろ」

「そこはほら、この暑い中並んでる先輩の構図を見たかったので」

 

 よし、一発ぶん殴る。

 ……ではなく。

 

「ま、そういうことならそれでいいけど。んじゃ、行くぞ」

「はい、行きましょう。絶好の花火スポットまで」

「もう割と埋まってるだろうけどな」

「うっげ、マジですか。まだ日は高いですよ」

「大概のやつらは食いもん買い込んで居座るんだよ」

 

 

 より厳密には酒も買い込んで酒盛りしながら待ってる人が多いのだが、学生の身分には関係ないことである。

 

「じゃ、行くぞ」

「はい、行きましょう」

 

 ゴミをまとめて立ち上がる。歩き出すと、ゴミを持っていない方の腕にしがみついてきた。ゴミを捨て、そのまま暫く歩いて。

 

「んで?」

「はい?」

「右?左?」

「……左です」

 

 すぐに観念したので、許すことにした。

 

「ったく、痛いならすぐ言えよな……」

「いえいえ、こう、休んで楽にはなりましたし、先輩が並んでる間に絆創膏も貼ってましたし」

「そのためにわざわざ並ばせたのかよ」

 

 素直に言ってくれればあのクソ暑い中並ばずに済んだのではないだろうか。そう考えると腹立つな。

 

「それに、ほら」

「ん?」

「センパイ、気を使って『帰るぞ』とか言い出すじゃないですか」

 

 そんなに花火が見たいのか、この後輩は。

 

「分かった、じゃあいくらでも杖にしていいから、安静にしてろよ」

「了解しました。いっそのこと馬になってくれてもいいんですよ?」

「そこまでお望みなら、肩車で祭り会場行脚してやってもいいんだぞ」

「ごめんなさい調子に乗りました、でも帰りはおんぶくらいお願いするかもしれません」

「あたるもんもないし、いいぞ」

「セクハラ!」

 

 耳がキーンとなった。

 

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