駄目兄妹を呆れながらも見守ってく親友の話 作:ClariSと苺の樹
反省はしていますが後悔はしていません。
気が向いたら続きを書いていくスタイルで行かせてもらおうと思います。
『都市伝説』
近代、現代に広く一般的な物と化した口承の一種。
例えばそれは東京都都市部の下水道には昔誰かが捨てたトカゲが成長し人を丸呑みするほど大きくなっているだとか。
例えばそれは○○公園で満月の綺麗な夜に口づけを交わすと一生その仲は違えないだとか。
例えばそれは何処其処の会社の化粧水には開発中の薬品が使われていて、実験として売りに出しているのだとか。
迷信や誤解から生まれたものから果ては誰も見たことのないような信じがたいものまで多種多様な言い伝えが存在する今日この頃。
ここで、聡明な貴方たちなら知っているであろう一つの『都市伝説』を紹介しよう。
世界中の人々の中枢地、インターネット上において少しでも自分のプレイヤーネームに誇りを持っているゲーマーたちなら一度は聞いたことのあるであろう『
——数多くあるオンラインゲームの、そのランキングの
——米国の最先端の科学者たちの英知の結晶である最高峰のAIを赤子の手をひねるが如く圧倒する
——ゲームアシスト、チートツールを用いたとしても負ける。それはもう完膚なきまでに。
等々、“噂”を上げればキリが無いほどに広く知れ渡っている『
『
……と言っても多くの
ので、こんなちょっとした真実は皆様にとってはあまり重要な驚くべきことではないのかもしれない。
余談だが『
一匹狼、孤高の戦士、コミュ障etc.
『
決して友人がいないことを言われてムキになっているとかではない。断じて。
例えばの話になるが、一度『
そして自分の中で『
何故なら今しがた自分は『伝説』と戦ったのだから、どんな相手なのかと期待するのもやぶさかではないのかもしれない。
さてここからが本題である。
実を言うと
やっぱり……と、納得するかもしれない。流石にそれはないだろう、と一蹴するかもしれない。
まあ、
もし彼が人であるとするならば、一体いつ食事をし、睡眠をとっているのか。彼らがどのように生を謳歌しているのか。
それは誰も知らない
——なーんて、俺は事細かに知っているのだけどな。
紹介が遅れた。
俺の名前は
職業は……まあ、
年がら年中ゲームしかせず、外に出ることもなく、碌に食事もしない
……わざわざ昨日の内から食材を買いだめておくために大量の食品を買いに行く俺の身を誰か案じてほしい。
たかがニートの二人と侮るなかれ。食わないときは修行僧かってくらい口に何も入れないが、食べるときは最後の晩餐かってくらいに食う。
まあ、いつもは軽食で済ましているんだが、そのことも頭の片隅にでも覚えておいてくれたら幸いだ。
〇 × △ □
雲一つない清々しい午前八時。その日、俺はいつものように一週間分の食材がパンパンに詰まったマイバッグを両手にぶら下げてとある一室のドアの前に立っていた。
バッグを足元に置き、インターホンを押す。勿論、返答は無し。
(まあ、返答がないのが
通常は家主に用があり、自分が訪ね来たことをアピールするインターホンだが、彼らにとっては意味合いが違う。
俺は右腕に身に着けた腕時計を確認しながら、再度インターホンを押した。
間隔はぴったり十二秒。
そしてさらにインターホンを途切れなく三回押す。今回は二回目から四秒半後である。
ガチャン
すると自動的にドアのかぎが開くという仕組みになっている。これは俺がこの部屋に通うという事が決まった際に、妹の方が珍しくゲーム以外の事に頭を回して作成した自前のドアである。因みに実働部隊は俺。
「じゃまするからなー」
そう言って中に入る。が、当たり前のように返事はない。廊下の奥からは何重にも重なったBGMが聞こえてくる。
恐らくはそこに何時もの様に屍の様にゲームに入り浸っているのだろう。だが俺は彼らを諫める気は毛頭ない。それはアイツと初めて会った日から一度も心変わったことはない。
真っすぐ冷蔵庫まで直行し、持ってきた食品を所狭しと詰め込む。そして今日の朝ごはん兼昼ご飯の作成に取り掛かる。まあサンドイッチでいいだろう。
十数分で出来上がったサンドイッチを持って部屋に入るとそこには八つのデスクトップを併用している二人が見えた。
ジーパンにTシャツといういかにもな恰好をしているのは兄の
そしてこのクタクタなセーラー服を着ているちっこい方は妹の
この二人が俺の雇い主であり、俺の数少ない友人であり、生ける都市伝説『
——要はただの
「……なんかすっげぇ不名誉なこと言われてる気がするが気のせいか?」
「……うん」
「気のせいに決まっているだろ。さ、お前ら飯だ。さっさと手止めて俺の作ったサンドイッチありがたく食いやがれ」
「パスで。今が離せないんでな、あと十五時間ほど後からもう一度言ってくれや。そん時になってまだ腹が減っていたら食わないこともやぶさかではないのかもしれないけどな」
「……いま、めんどいから……また今度、慎」
そう言ってこちらには目もむけずただひたすらとゲームに打ち込む
そんなことは分かり切っていたのでドシドシとハード機とカップラーメン、カロリーメイトの残骸であふれている床に足場を作りながら彼らの下へと向かう。
そして俺は容赦なく彼らの口にサンドイッチを詰め込んだ。何の躊躇いもなく。
「んがっ!」
「……っ!」
「ほーら、慎様のおいしいおいしいサンドイッチだ。沢山作ったから残さず食べろ、な?」
「もごごごぐぐぐぐぐががあがが!」
「——っ!」
バンバンバンバンッ! と思いきり机を叩く白と口に物を入れて何かしゃべろうとしている空。あーあー……、口からパンくずがぽろぽろと……。
「……ッっぷは! おま、毎日毎日無理やり口に食べもん突っ込むの本当にやめろ、マジで死ぬからな!?」
「栄養失調で死ぬくらいよかましだろ。それで、今日の調子はどうなんだ、『
「……ま、そんな感じだ。イベントも無事走り切ったし、今月のランクマも安泰だ。何も変わらない何時もの“世界”だよ」
「……ん、強いてあげるなら……にぃがいつもよりプレイングが拙い」
「おう、妹さんや、そのコメントは辛辣じゃないの? あそこで俺がタゲ取らなきゃ二人そろってオチてたじゃないすっか」
「……あれくらいなら、ひとりでもおゆー……」
「何ちっさいことで張り合ってんだお前らは……」
そんなことを言いながらも俺の作ったサンドイッチはきちんと食べて、再びゲームを始めたソラ達。それを見届けた俺は散らかりに散らかった部屋の掃除に着手し始めた。
結局は何時もの様に俺が甲斐甲斐しくこいつらの世話を焼き、こいつらも何時もの様に自分のやりたいことをやる。
昔の俺なら想像もできなかった平和的な
〇 × △ □
多分、普通に暮らしているならばこんな駄目兄妹と関わることなんざ、一生なかっただろう。
ならば何故、俺がこんなにまでこいつらの事を気にかけているのか。
何故、俺がこの『
——
社会不適合者、協調性のない奴、人と関係を持つことに何の価値も見いだせない者。それらはいつの時代になっても変わらず排他的に扱われる。それは俺も同じだった。
『
人間の手で神を生み出そうとした阿保らしい計画。その前段階として
お察しの通り、それが俺だ。
創られた存在。決まりきった
自由になってからというのも、人並みの生活が送れたわけではなかった。俺にはまず保険証などの身分を証明するものが何一つなかったし、頼れるのは自分だけだった。街に出て話をしようにも相手の思う事、考える事、感じる事、その総てが手に取るように分かった。そして俺は気が付いてしまったんだ。
どんな大人も俺を救おうとはしなかったこと。そして、誰も俺を救ってくれるような善人には値しないことに。
そんな時、独りぼっちの生活も板についてきた十三歳、肌寒くなってきたある秋の日に何時もの様に橋の下で一人暖を取っていた俺が目にしたのは、人形みたいな白い色をした女の子を連れた一人の少年だった。
一目惚れなんかじゃない。だけど、その時俺の眼に彼らが映った時から俺は全てを理解した。
『ああ、こいつらも一緒なんだな』って。
六歳になって小学校に通うこととなったが、その有能すぎる頭脳は誰にも理解されず孤立し始め、ただ黙っていただけにいじめがエスカレートしていき、登校一か月もしない内にいじめのの構図が確立してしまった妹。
十三歳になり新しい中学校という世界に足を踏み入れたはいいものの、テストで赤点を叩き出し先生からも親からも怒鳴られ、かといって相手の心意を汲み取れば周りからは心を見透かされているようだと疎まれていた兄。
決して俺と彼らの本質が似ていたとは今でも思わない。あいつ等は何時になってもダメ人間のままだし、あの橋の下で出会った時から何一つ変わっていない。
けれども俺は不思議と彼らの事を不憫だとは思わなかった。むしろ彼らのような生き方に憧れていたのだ——。
——誰かを信頼して生きていける世界を。
……全てが決まりきったこのくそったれた『
決して負けることのなく、ペナルティとは無縁の生活。
——出来過ぎた頭のせいで何もかもから興味は失せていった。
——完璧すぎる身体は自分に害のあるものを全く寄せ付けなかった。
人のエゴによって生み出された俺は、神に成り得ることもなく、ヒトとして出来過ぎた頭と身体で、何もかもが色褪せた世界で生きていき、終わることのない永遠の生を約束され——なにより。
こんな
だがもし、もし世界が面白くなるのならば。もしこの色褪せた世界が少しでも変わるのならば。
「なあ、そこのお前——」
それはきっとこいつ等だ。こいつ等ならばこの世界に色を付けてくれる。
「——俺を雇ってくれないか?」
この日、この橋の下で、俺はそう確信を持ったんだ。
「……はあ、何言ってんだお前?」
「……?」
あの時の空達の顔は一生忘れないだろう。そして俺の顔は……顔一杯に笑っていた。
益々怪訝な顔していたが、最終的には話を聞いてくれたのはうれしかったものだ。
こうして“普通じゃない”兄妹と“完璧すぎた”俺は出会った。
あの時ようやく、俺は『
……例え何者かに、世界に、神に、否定されようとも。
〇 × △ □
テロン♪
毎度聴き慣れたタブPCからメールを受信したと主張している。
「……慎、メール」
「あいよー……ってどこにあんだよタブPC」
「三時方向左から二番目の山の上から四番目のエロゲの下ッ! っていうか慎、お前暇なら手伝えや俺今一人で四画面四キャラ操作してんだぞ!」
「……そこは、にぃのがんばりどころ、ふぁいとーっ……」
「妹さんや眠いんなら眠るで行動したらどうっすかねってやっばいやばいヒールが追い付かねぇ!」
なんか人の所業とは思えないような動きしてる兄と四日目の徹夜明けで眠気のピークに達しようとしてなんかぽわぽわした物が体から発せられている妹は置いといて俺はエロゲーの中に埋もれていたタブPCを見つけ出した。
「ん、あったわ。んじゃメール確認しとくぞ」
「おうっ、いつも通り新しいゲームの広告以外はスルーで……あっ、足攣りそぉォッ!」
「……ん、よろ」
そう言ってメールを開いてみると——
「——【新着一件——件名:『 』達へ】?」
「……?」
俺と一緒に横から画面をのぞいた白も首をかしげる。
『
対戦依頼、取材依頼、挑発的な挑戦状——いくらでもあるのだが、これは。
「……なあ空」
「なんですか? 手が空いていて俺たち以上にゲームの上手いくせして全く手を貸さずに、俺に物理的な縛りプレイをさせた親愛なる友人よ」
「いや、これ……」
尋ねた空からは皮肉が返ってきたが、そんなことが全く気にならない程俺は困惑していた。
「うん? ——なんだこれ」
空もそのメールの特殊性に気が付いたのだろう。
「セーブよーし、ドロップ確認よーし」
間違いなくPCにデータが記録されたことを確認して、久方ぶりに画面を閉じた。
そしてPCからメーラーにアクセスし、訝しげに。
「……何で『
——確かに俺もネットで空白複数人説が議論されているのは見かけた。
だが問題は件名ではなく本文。そこには一言だけ書かれていて、他にはURLがはられていた。
【
「……なあ空、なんだこれ」
「……俺も知らねぇよ」
「……」
それは、少なくとも俺にとって、かなり不気味な文章だった。
俺は基本的にゲームをしない。それこそ『
だから『
文面に付属していたのは見たこともないURL。
その末尾に「.JP」などの国を表す文字列はなかった。
インターネットにおいてよくゲームへの直通アドレスなどで見かけるURLである。
「……どう、する?」
「十中八九『
何時もだったらソッコーで枕ダイブしている白だったが、彼女にもこの文面に対して何か思うことがあるのかもしれない。
俺と白は二人して隣で思考を走らせている空へと対応を促した。
空に判断を委ねる。俺も白もこういう事は空の領分だと判断したためだった、即ち——
「駆け引きのつもりか? まあ、ブラフだとしてもノッてみるのも一興か」
そう判断した空はウイルスなどを警戒して、セキュリティソフトを開きながらURLを開いた。
が、現れたのは……
「……チェスゲーム、か?」
「……ふぁふ……おやす、み……」
「ちょちょ、待てって。『
「……いまさら……チェスとか……」
「うん……いや、気持ちはわかるけどさ」
「んじゃ俺らは後ろから見といてやるから、まずは空がよろしく」
「りょーかい……」
こんなにやる気が出ていないのも分からなくもない。
つい先日、世界最高のチェス打ち——グランドマスターを下したゲームプログラミングに、
「はあ……、まあ『
「……うぅぅ、わかった……」
そうしてチェスを打ち始めた空。隣では少しだけ舟を漕いでいる白と後ろから部屋の掃除を進めている俺が盤上の確認をしていた。
一手、二手、三手……と少しずつ進んでいくゲーム。
だがただのゲームではなかった。五分もしない内に、何時夢の中へ旅立ってもおかしくなかった白の眼が、しっかりとPCの画面を凝視していた。
「……ん? あれ、こいつ」
「——にぃ、かわって」
一切の反論なく席を空け渡す空、そこに座るのは
隣に移った空もただ何もしていなかったわけでなく、プログラムなんかではなく相手が人間と見抜き、その上で相手の誘いや戦術を読み、的確に白のサポートをしていた。
(常人離れしたゲームスキルを持つ
そう思い俺は部屋の片づけにう専念することにした。
そして六時間の経過の末に——。
『チェックメイト』
——兄妹の勝ちで試合は決着した。
「「——————」」
長い沈黙の後。
「「はぁあああぁぁああ~~~~…………」」
大きく息を吐く二人。それほどまでに集中力を使った白熱した戦いだったという事だろう。
「お疲れさま。どうだった、戦ってみて?」
「……すごい、つかれた……こんな苦戦……ひさし、ぶり……」
「ああ、もしかしたら『
「そんなにか……。いや、まさかこんな逸材がまだ世界にいたなんてな」
「全くだ。誘いにノらなかった時の長考や仕掛けた罠が不発したときの僅かながらの動揺。間違いなく人間だとは思うが——そうじゃなきゃ
「……どんな、人だろ」
「案外グラマスだったりな。空の言った通り、あれはプログラムじゃ到底再現できないシロモノだ」
「そ、か……。なら……今度は、竜王とも……やってみ、たい……」
「竜王が誘いに乗ってくれるかどうかだが……。まあ今度、試してみるか!」
そうして三人でゲームの感想を言い合う。やはりというか、その顔はとても晴れ晴れとしていて、俺は二人にはそんな顔が似合うと改めて思った。
テロン♪
「今の対戦相手じゃねぇの? ほら、開けてみろよ」
「……うん、うん」
軽快な音を立ててPCタブにメールが届いた。恐らくは対戦相手だろう。
しかし——届いたメールには、こう書かれていた。
【おみごと。それほどまでの腕前、
その一言で部屋の空気が一転、氷点下まで下がった。
図星、だったのだろう。
『大きなお世話どうも。なにもんだ、テメェ』
そう打ち込む空の顔は少し余裕がないように見えた。隣の白も少し青ざめていて、無意識のうちにか空の上着の裾をギュっと握りしめている。
直ぐにメールは送り返されてきた。しかしながら、少なくともそれは空の質疑に対する返答なんかではなかった。
【君たちは、その世界をどう思う? 楽しいかい? 生きやすいかい?】
その質問に問いかけられている二人はさっきまでの神の如き戦いをしていた『
ただ
「ちっ——。胸くそ悪ィ」
そう言って白の頭を撫でる空。彼らは電脳世界においては無類の強さを誇るゲーマーなのかもしれない。だが、世間はそんな彼らを『要らないモノ』として扱ったのだ。
(そんなもの——生きにくいに決まっているだろう)
やがてイライラが溜まったのか、空が思いっきりPCの電源を押そうとしていた。
テロン♪ 、と。
メールが届いているのにもかかわらず動きを止めないその手を——
——白が止めた。
【もし“単純なゲームですべてが決まる世界”があったら——】
【目的も、ルールも明確な盤上の世界があったらどう思うかな?】
今になって思うと、その文面に白は何か期待している様にも見えた。
…………そして、再び動き出した空は自嘲気味に笑いながら、
『ああ、そんな世界があるのなら、
そう最初に届いたメールの文面になぞらえて、返信した。
——刹那。
PCに走るノイズ。バンッと音を立てて時計も、ゲーム機も、PCも、すべてが止まった部屋。そして唯一動くPCから——いや、PCのスピーカーなどではなく、間違いなく
『僕もそう思う。君達はまさしく、生まれる世界を間違えた』
周りを見渡しても、もはや画面以外の、部屋の全てが砂嵐に呑まれる中。
唐突に画面から白い手が生えてきた。
「なっ!?」
「っ!」
「……ひっ——」
伸びた手は俺と空、そして白の腕を掴み、あらがう間もなく
『ならば僕が生まれ直させてあげよう——君たちが生まれるべきだった世界にっ』
……——。
————。
真っ白な視界が少しずつ明けていく。
ゆっくりと目を開けるとそこには。
「な、なんだこれ……!?」
目線の高さには雲が広がっており。
要はここは上空で。
つまるところ俺たちは——
「あ、死ぬ」
少し離れたところでそんな間抜けな声が聞こえてきた。恐らくは空も現状を理解したのだろう。
そして、遠くに目を凝らすと見えるのは
地平線の向こうにある
視界の隅で羽ばたいているのはどう見ても
どう見ても眼前に広がるのはファンタジーの世界だった。
「ようこそ、僕の世界へッ!」
「ここが君達が夢見る理想郷【盤上の世界・ディスボード】ッ!
そう落下しながら『少年』は言った。
「……あ、あ、あなた——誰——っ」
白が精一杯の声を上げて彼の正体を訪ねる。
「僕? 僕はね〜、あそこに住んでる」
『少年』がそう言って指さしたのは、先ほども見たはるか遠くに位置する巨大なチェスの駒。
「そうだね、君達の世界風に言うなら——“
「神……だと……!?」
その『少年』は頬に指を当て、愛嬌を込めて自分の事を“
そんな可愛らしい笑顔を見たとき、俺はとても阿呆らしい顔をしていたことだろう。
何せ俺は、
自分に価値が見いだせなくなることを俺は恐れたのだ。
「——ん、慎、慎ッ!」
「——ッ!」
「大丈夫か!? さすがのお前もこの状況じゃ手の出しようがないってか!? ——ああどうすんだよコレッ! 地面が迫って——うぉおおおお、慎ッ! 白ぉッ!」
「……〜〜〜〜〜〜っ」
空は俺と白の下へ来ると、俺と手を繋ぎ、もう一方の手で白を抱きかかえると、意味があるかもわからないが自分の体を下にしていた。
困惑する俺、白の体を抱きしめる空、その胸の中で声にならない叫び声を上げている白。
そんな三人に神を名乗った少年は楽しげにこう告げた。
「また会えることを期待しているよ。きっと、そう遠くない内に、ね」
——そして俺の意識は暗転した。
—————————…………
「…………ん……」
まどろみの中で手を動かす。感じたのは久方ぶりに掴む土の感触。そして香るは草木。
呻きながらも起き上がった俺は、近くにいた二人をとりあえずは起こそうとした。
「おい、空、白! 起きろ!」
「ぅ……うーん……」
「おお空! 大丈夫か、怪我は無いか?」
「ああ、慎。特に問題はなさそうだ。……だがなんだったんだ、ありゃ……?」
体を起こした空は別段体に異常はなさそうだけど、まだ寝ぼけているようだった。というか、
「……うぅ……変な夢」
と、空に遅れて白も目を覚ました。
——だが、白、その一言だけは。
——俺も空も思ったが言わなかったことだけは。
——その“
しかしながら気づかぬふりをしたとしても、足に伝わる土の感触が嘘じゃないって俺に語り掛けている。
今までには見ることも無かった様な高い空。
そして──。
「う、うわぁあああああ!」
目の前に広がる崖に慌てて後ずさる空。
──そこにはありえない景色が広がっていた。
……いや、言い直そう。
空に浮かぶ島、悠々と空を飛ぶ龍。地平線の山々の向こうの巨大なチェスの駒。
これらは全て落ちくてくるときに見た景色で。
つまるところ夢なんかではなかった。
「なあ、慎」
「何」
「なあ、妹よ」
「……ん」
俺らは三人そろってこの光景を光の消えた目で見つめていた。
「“人生”なんて、無理ゲーだ、マゾゲーだと、何度となく思ったが」
「……うん……」
「……ああ」
三人、声をハモらせて言う。
「「「ついに“
そうして俺たちはもう一度、意識を暗転させるのだった。
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