駄目兄妹を呆れながらも見守ってく親友の話   作:ClariSと苺の樹

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お待たせしてしまい申し訳ありません。誰も見てないかもしれませんが久しぶりに気が向いて筆が進んだので投下します。

2022/5/19 日間ランキング12位に入りました。ありがとうございます!


素人(アンピーダブル)【Ⅰ】

 ──昔々の、更に大昔。

 

 原初の男ヒト、アダムはアドナイ・エロヒムよりエデンの園を耕し守るために、その身体を彼の息吹と土をもってして創造された。

 

 彼はアドナイから『園にある全ての木から生る実を食べてもよい。ただし善と悪の知識の実は食べてはならない』と命じられていた。

 

 しかし、蛇に唆された妻、イブとともにアダムはその実を食べてしまうのであった。

 

 結果として土から生まれたアダムは呪われてしまい、額に汗して働かなければ食料を得ることが出来ない程に、地の実りが減少してしまう。その後、イブとともにアダムは園を追放されることとなったのだ。

 

 

 さて、ここで一つ疑問を問いかけたい。

 

 善と悪の知識の実を食べたアダムは愚かであるといえるのだろうか。

 

 確かに主であるアドナイからの命に背き、唆された妻に流された彼を立派であるとは言い難いであろう。

 

 だが、彼は永遠の()を捨て、労働をすることに重要性を与えたのではないか。

 

 

 俺は彼の行動が決して不必要、無駄であったとは到底思えない。

 

 彼は人間としての大切な物、個人、集団、社会、そして世界を廻していくうえで必要不可欠なコトを生み出したのではないだろうか。

 

 愚者(安寧を捨てた者)ではなく英雄(ヒトで在ろうとした者)であったと、俺にはそう見えてならない。

 

『神類生産計画プロジェクト・アダム』

 

 この計画におけるアダムとは『(アダム)』であり、『踏み出す一歩(アダム)』である。

 

 人間ヒトは自分の場所に満足すると、そこから更に進むことはしなくなる。その地位に胡坐をかいて踏ん反りかえってしまう。

 

 そうなってしまったらどうなる? いや、聞かなくても容易に想像できるだろう。意欲のない人間など畜生以下、無機物と何ら変わらない。

 

 人類種(イマニティ)を捨てたのと同義である。

 

 

 だからこそ人間は新しい一歩を歩みださねばならない。

 ──―たとえ如何なる犠牲を生み出すことになろうと。

 

 だからこそ人間はその手で人造の神を生み出さなければならない。

 ──―いつか人類の進歩が限界に届く前に。

 

 

 

 だからこそ俺は……立ち止まることは許されていない。

 

 ──―それが俺だからだ(そう在るべきだからだ)

 

 

 

 〇 × △ □

 

 

 

 ルーシア大陸、エルキア王国──―首都 エルキア

 

 はるか昔はこの大陸の半分を領土としていた国だったが、今となっては大陸最西端の小さな国。

 

 人類種(イマニティ)が保有する唯一の都市。文字通り最後の砦でである。

 

 

 その都市の中枢部から少し離れた郊外。

 異世界特有というかなんというか、宿屋と酒屋が一緒くたになった()()()()()()()においてそれは行われていた。

 

「……ねぇ、早くしてくれない?」

 

「や、やかましいですわね。今考えてるんですのよっ」

 

 否、この酒場だけではない。ここにくるまでの道中、人あるところでこういった勝負(ギャンブル)が行われていた。

 

 ポーカー、ブラックジャック、賽子……。彼ら彼女らは手持ちの金貨をかけ一心不乱に遊んでいた(戦っていた)

 

 この酒場も例にもれず、昼間っから呑んだくれている観衆たちが彼女らの遊戯(ゲーム)を囃し立てている。

 

 その喧噪に黒髪の葬式のような黒いベールとケープに身を包んだ少女はつまらなそうに、対する仕草や服装など要所要所から気品が窺える赤髪の少女はその整った顔を苦悶に歪めている。

 

 その様子に酒場はまた一層盛り上がっていた。

 

 

 ……──―。

 

(……ありゃ負けるな)

 

 もちろん赤髪の子が、だ。

 

 そんな騒がしい様子を酒場の外から俺たちは眺めていたテラス席のテーブルに座り、窓から中を覗き込むフード姿の幼い少女(シロ)が言う。

 

「……もり、あがってる……なに?」

 

「あ? 知らないのか、あんたら異国人──って、人間の異国なんてもうねぇか」

 

 窓を覗き込む少女の隣には、同じくテーブルを挟んでゲームをしている一組がいた。

 幼い少女と同じフードを被った青年(ソラ)と、髭を生やしてビールっ腹の中年の男(カモ)

 

(こっちもすぐに終わりそうだな)

 

 青年が答える。

 

「あー。ちと田舎から出て来たとこでな、都会の事情に詳しくないんだわ」

 

 奇しくもやっているゲームは中と同じ……『ポーカー』。

 ──違うのは使用しているのが金貨なのかビンのキャップなのか、という点だった。

 

 青年の言葉に、訝しげに中年の男性は答える。

 

人類種(イマニティ)に残されている田舎って……そりゃもう世捨て人じゃねぇのか」

 

「はは、そうだな。で、こりゃ何の騒ぎ?」

 

 適当にはぐらかすように言う青年に、ヒゲの男は言う。

 

「今、エルキアでは『次期国王選出』の大ギャンブル大会が行われてんだよ」

 

 酒場の様子を眺めながら、フードの少女が更に問う。

 

「……次期国王……選出?」

 

「おうよ。前国王崩御の際の遺言でな」

 

 

『次期国王は余の血縁からではなく〝()()()()()()()()()()()〟に戴冠させよ』

 

 

(……それはなんともまあ)

 

()()()()()()()()()()()

 

 俺と近しいことを思ったのだろう。なおもヒゲの男はビンのキャップを上乗せしながらいう。

 

「国盗りギャンブルで人類種(イマニティ)は負けが込んで、いまやこのエルキア、しかもその首都を残すだけだからな──なりふり構わなくもなるものさぁなぁ」

 

「ふーん、『国盗りギャンブル』ねぇ……面白そうなことやってんな、こっち」

 

 そう答えたのはフードの青年。少女に倣い酒場の中を確認している。

 

「──んじゃ、何、あの子達も次期国王候補?」

 

「んー? 『候補』ってのは違うかもな、参加資格は人類種(イマニティ)なら誰にでもあるからな」

 

 ただ──

 

「あの赤毛のほう、〝ステファニー・ドーラ〟──前国王の血族だ。遺言の通り、王族の血筋じゃない奴が国王になったら何もかも失うから自分が次の国王に、って狙いさな」

 

「……ふぅ、ん……」

 

「ふむ……『国盗りギャンブル』──()()()()()()()()()()()()、か」

 

(成程、そしてあれがここまで人類を追い詰めた者の血族、か……)

 

 ここまでのフードの男女(『  』)とヒゲの中年の話を()()()()()()()()()()()()()()聞いていた俺は酒場の中へ足を運んだ。

 

 酒場の中ではゲームは彼女らしか行っていないようで、周りの客は酒を片手にゲームの行方をツマミにしている。赤髪の子が前国王の血族であるということがより一層拍車をかけて彼らの酒を進めているようだ。

 

(状況は赤髪が劣勢、というより黒髪の方は……)

 

()()()()()()()()()──。黒のベールの奥でそんな表情を隠していた。

 

 確かに赤髪は自分が何のゲームをしてるのかわかってないかのように、『むぅ……』なんて表情を動かしている(ポーカーフェイスって知ってる?)。更に思考が自分の手札や相手の手元を意識しすぎて回りに気を配れていない。あれじゃイカサマしてください、なんていてるようなもんだ。しかし……

 

()()()()()()()()()()()()か……末恐ろしいものだな)

 

 明らかに黒髪の手札は作為的であった。まるでほしいカードに意思が宿っているかのように欲しいときに欲しいカードが手元に来ている。

 

(ただのイカサマなら何ら警戒に値しない。しかしこれは()()()()()()()()だ。断言できる。つまり──)

 

 この異世界特有の魔法ないし何か超常的現象がこの場に渦巻いていることを意味していた。

 

(何よりこの黒髪が必ず勝っているような理不尽で明らかに可笑しいこの出来レースをこの場にいる酔っ払いのみならず、酒場の外から覗いてる群衆(野次馬)すら気づいていない)

 

 おそらく運に関係する()()()だけでなく精神や心に作用する()()まで働いているのだろう。

 

(恐らくこの違和感に気付けるのは俺や空、白といった突出してる奴だけだろうな。ゲームの本筋を本当の意味で理解しているような──)

 

 ──そんな化け物(キ〇ガイ)だけがこの黒髪と対峙できるのだろう。

 

(……まあ行っても()()()()止まりだろうな。この子を視る限り俺や『  (空白)』には勝てない)

 

 このまま俺らが不干渉を決め込んだらこの人類種(雛鳥)は終わりだな──、なんて先のことを考えながら黒髪を視ている(格付けをしている)と──。

 

 

「ロ、()()()()()()()()()()()()()()だぁ──ッ!?」

 

 

 外からさっきの中年の吠えた声が聞こえてきた。どうやらこっちより先にあっちの方が片付いたようだ。

 

 こちらから椅子から立ち上がり悠々とこちらに歩いてくるフードの青年(ソラ)と律儀に相手にお辞儀をしてから青年の後ろを追いかけるフードの少女(シロ)が見える。

 

「ここにいたか、慎」

 

「先に入らせてもらっていたよ。それより、成果は?」

 

「上々だ、とりあえず数日は暮らせるくらいは確保した(毟り取った)ぜ」

 

「……でも、にぃ、こっちのお金、分かる……?」

 

「大丈夫、こういうのは俺の領分だからな。お兄ちゃんに任せとけって。最悪何かあっても慎がいるしな」

 

「……本当に手の打ちようのないときだけだからな。三秒だけ力を貸すわ」

 

「何その強キャラ感」

 

 そうやって軽口を交わしながら俺たち三人は店の奥へ足を進めた。

 

 

 そうだな、未来のことを考えるよりもまずは目先のことだ。

 

 

 〇 × △ □

 

 

 なおも盛り上がってるゲームを横目に俺たちはカウンターに向かった。

 

 どさっとカウンター上に置いたのはさっきの中年から手に入れた金貨の入った袋。

 

「なあ。これで二人一部屋、ベッドは一つでいい。何泊出来るよ?」

 

 マスターらしき人物にそう問う空。

 

 彼は此方を一目見て、一瞬の逡巡のあと。

 

「……一泊食事つきだな」

 

 あ、と思ったが時すでに遅し。

 

 その答えを聞いた空はヘラヘラと──()()()()()()()()()

 

(まだ素直に白状していたなら空も熱くはならないだろうが……)

 

 嘘をつかれた、その大義名分でコイツは人をどこまでも追い込める。

 

 実際ものの数分の交渉だったが、終始空のペースで話が進んでいき、恐らくは相場のいくらか安いであろう四泊で三食つきという待遇を勝ち取った。

 

「んじゃ、お先に休んでるぞ」

 

 宿屋……ではなく酒場のマスターから部屋のカギを受け取って手のひらでくるくる回している空が声をかけてきた。

 

「ん、少し待ってくれ、俺も部屋を借りる」

 

「……そういやそうだ。あんた、この二人の連れなんだろ。どうする? もう一部屋を同じ待遇でとるなら多少はまけておくが」

 

「いや、そこまでしなくていい。何より──」

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()

 

パンッ!! 

 

 そう言った俺はマスターの目の前に立ち、鼻の先へ思い切り手を打ち合わせた。

 

「ッ!?」

 

 俺のとっさの行動に身を強張らせたマスターの耳元に顔を近づける。そして……。

 

「────────────……」

 

 小声で俺はマスターに()()をかけ始めた。

 

「うわぁ、相変わらずえげつないことしてんな……」

 

 催眠。聞くだけならえっちぃ(CERO Z)ことをしているようにとらえられるかもしれないが、これは別に俺がホモに目覚めたとかそういった話ではなく。

 

「ぁ………………」

 

 先ほどの猫騙し。あれによって思考に空白が生まれたその隙に潜在的に意識を刷り込んでいるのである。こうやって俺の声をマスターの深層意識に刷り込むことで……。

 

「……ってことで、タダで借りてもいいですか? マスター」

 

「……ぁ、ああ、分かった。お前の分は俺が出しておくよ」

 

 まあ、端的に言うと、()()()()()()()()()()()()のである。

 

 一歩間違えたらモラルも何もあったもんじゃなくなるような、そんな技術。あまり使うのはよろしくないが……。

 

「まあ緊急事態だしな。これが『()()()()()()()に触れるかってのも確認したかったし」

 

 そう言ってカギを受け取って空の近くまで歩いていった。

 

「……もしかして、慎、なんか怒ってる?」

 

「……初対面でカモろうとした奴に与える慈悲も何もないだろ。目に見えて疲れてたお前らを普通カモろうなんて思うか? それなら俺くらいの宿代くらい出してもらってもバチは当たんないだろ」

 

「まあ、な」

 

 そんなことを空と話していると、白が空の袖を引っ張った。

 

「……あのひと──負ける」

 

「そりゃそうだろ。それがどうした?」

 

 そう言って白が見つめていたのは盛況の中心にいる片割れ、赤髪の子(ステファニー・ドーラ)だった。

 

 白に話を振られ彼女らのゲームを見ていた空だったが。

 

「──あ」

 

 コイツも白の言葉の真意に気づいたようだ。

 

「うわ、そういうことか……こえぇ……」

 

「二人とも気づいたか? まあ、ここが異世界だって改めて実感させられたな」

 

「ああ、さっすが……()()()()()()()()()はすげぇな。相手にしたくねぇ……」

 

「……にぃ、慎、顔負け……」

 

 その白の言葉にむっときたのか、すぐに反論する空。

 

「ぬ、馬鹿言うな。イカサマはどんだけ凄いかじゃなく、どう使うかだ」

 

「空の言う通り。何よりイカサマは芸術、美しくもなきゃな」

 

「それ昔から言ってるよな。そういう割には慎はイカサマなんて使う機会ないだろうが」

 

「俺は使うんじゃなくて見る専だからな。特に空のイカサマは一級品だから見てて飽きない」

 

「へいへい、ありがとよ」

 

 

「…………にぃは、アレに、勝てる?」

 

「──しっかし慎の言った通りやっぱここ本当にファンタジー世界なんだなぁ……実感湧かないどころか妙にしっくり来るのはなんだろな……やっぱゲームのやりすぎか?」

 

 少し心配そうな白の質問にはあえて答えず、そう言って階段に向かって歩き出す空に。

 

「……愚問、だった」

 

 と、白が謝り空についていく。

 

 

 ────ああ、そうだ、『  (くうはく)』に()()はあり得ない。

 

 

 白の言葉を聞いた俺も彼らの後に従って酒場の奥へ進んでいく。

 

 と……途中すれ違いざまに。

 

 

「……おたく、イカサマされてるよ?」

 

「────へ?」

 

 たぶん空のことだ。何の意味もない気まぐれだったのだろう。

 

 そう空に言われて赤髪とは対比的な青い瞳を丸くしているステファニー・ドーラを横目に。

 

 言うだけ言って俺たちは彼女の呆然と見送る視線を感じながら……だが誰もあえてそれ以上何も言わず、振り返らずそれぞれの部屋へ向かっていった──。

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