コツ、コツ、コツリ。と、家が鳴る。今日は大雨だ。俺の住んでいる家は中々に古い。いつもなら家族の話し声等で雨音はあまり聞こえないが、今日は1人だ。父は出張で2日帰ってこない。らいはは友達の家にお泊まり。明日の昼頃に帰ってくるそうだ。
「よし」
俺はペンを置いた。最早日課になりつつある中野家五つ子の問題作りが終わった。時計は21:00を回っていた。
「ふぅ…」
今回は…というより今回も中々に良い物が出来た自信がある。これでアイツらも更にレベルアップするだろう…まぁしっかりと復習すればの話だが…最近のアイツらの勉強に対する姿勢には目を見張る物がある。これなら晴れて全員卒業も夢じゃない。
コツン、コツ、コツ、「コンコン」コツン、コツリ──────────
何か、雨音とは違う音が聞こえた。玄関のドアからだ。こんな時間に誰だろうか。借金取りか?まだ今月の納期は先のはずだが…
そっとドア穴を覗く。──────すると、そこにはずぶ濡れの三玖が立っていた。
「三玖!?どうした!?」
俺はすかさずドアを開け、三玖に話しかけた。
「フータロー…少し雨宿りさせて…」
「分かった。とりあえず入れ。」
「ありがとう…」
俺は三玖を家に招き入れた。
「ほら、これで拭けよ」
タオルを渡す。
「ありがとう」
三玖が体を拭いている。
「三玖。」
「?」
「なんでこんな雨の日にずぶ濡れで俺の家の前に立ってたんだ?」
「それは─────────」
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「お先に失礼します。」
「お疲れ様。三玖ちゃん。大雨だから気をつけて帰ってね。」
「はい。ありがとうございます。」
今日のバイトが終わった。ビニール傘をさしながらテクテクと帰る。
「喉、乾いたな…」
私は近くにあったコンビニに立ち寄ることにした。
「ふぅ…」
コンビニのイートインでかわいた喉を潤しながら一息つく。
「ん…?」
ふと、本のコーナーにあった料理のレシピ本に目がついた。
「これ…いいかも」
中をパラパラと見ると、分かりやすく様々な種類の料理があった。
「難しい料理出来たら、フータロー褒めてくれるかな…」
好きな人に褒めてもらえる妄想をしながらレジに持っていく。
「500円になります」
「あ、はい。」
「ありがとうございましたー」
コンビニから出ようとした。が、
「嘘…」
傘がない。盗られたのだ。
「どうしよう…」
本当にどうしようか。というか人の傘を盗る人はどういう神経をしているのか。
「家までまだ全然ある…」
自分の運動神経の無さは自負している。ここから全速力で走っても数十分はかかる。
「どうしよう…」
雨はまだ止みそうにない。
「あ、そうだ。」
ここからならフータローの家が近い。
「って、ムリムリ!!そんないきなり押しかけるなんて…」
…でも、もしかしたら…
──────────
『三玖…いいか…?』
『ダメだよ…フータロー…らいはちゃんも勇也さんも居るよ…?声、漏れちゃう…』
『ゴメン…無理だ。』
『あ♡フータロー…ん…』
『三玖、挿れるぞ…』
『フータロー…止めて…やっぱり止めないで…』
──────────
ハッ!!…危ない危ない。トリップしていた…
辺りをキョロキョロと見渡す。
「よかった…誰も居ない…」
私の妄想は声が漏れるそうだ。これを聞かれたらもう私は日の下を歩けなくなる。
頭を振り、煩悩を飛ばす。
「でも止みそうにないし…ダメ元で…」
行ってみる事にした。
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「なるほど…それは災難だったな…」
三玖の話を聞いて同情する。
「でもよかった…フータローが入れてくれて…」
「クシュン!!」
可愛らしいくしゃみをあげた。よく見ると身体が震えているようだった。
「三玖…風呂入るか?」
「ええ!?」
「…?寒いだろ?今日は気温も低い。そんなずぶ濡れじゃあ風邪ひいちまう。」
「え?あ…うん…」
「着替えは俺の服でいいか?」
「え?あ、悪いよ…!!そんな勝手に押しかけてお風呂まで頂くなんて…」
「この雨の中帰るのか?」
外はいっそう雨足が強くなっている。
「この雨の中帰ったら怪我するぞ。それもお前は運動できないんだから…」
「む〜…」
三玖が可愛らしく頬を膨らませる。
「あと、俺には遠慮なんてすんなよ。」
「…分かった…ありがとう。お言葉に甘させてもらうね。」
「ああ。存分に甘えろ。もう風呂は張ってある。」
「ありがとう…」
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「湯加減はどうだ。三玖。」
湯船に手を入れ、温度を確認する。
「うん。丁度いいよ。」
「そうか。よかった。」
私はフータローの家のお風呂に入っている…というよりこの状況…案外すごい状況なのでは…?というか、入れてくれたのはよかったけどまさかフータロー1人とは…更にはお風呂まで頂いて…風呂入るか?なんて言われた時はビックリしたけど…
感謝しかない。あのままでは凍死していた。
「すんすん…」
シャンプーの匂いを嗅ぐ…私は何をしているんだ!!こんなの完全に変態じゃないか!!
「止めなきゃ…でも勿体ない…」
取り敢えず頭を洗う。
「あ…」
フータローの匂いがする。水で流すのが少し勿体ない。
「ん…」
ボディーソープからもフータローの匂いがする。
「ふう…」
湯船に浸かる。いい感じに暖かい。
「三玖。」
「どうしたのフータロー」
「服、洗濯しちゃうな。」
「え?あ、ありがとう」
「全然大丈夫だ。」
…待って…服を洗濯するってことは…
「待ってフータロー!!」
すかさずタオルを巻き、お風呂のドアを開ける。
「「あ」」
丁度フータローが私の下着を持っていた。
「いや…その…三玖…これは不可抗力だ」
「…いいよ…ごめん。ありがとう。」
「いや…こちらこそ…悪い…デリカシーがなかった…」
スーッとお風呂に戻る。
「〜〜〜〜〜!!」
フータローに下着見られた!!こんな事ならもっといい下着履いておくんだった!!白色の安っぽいやつじゃなくてもっとイイヤツ!!
湯船に浸かりながら体を沈める。
…色気のない下着だとか思われたかな…
〜一方その頃風太郎は〜
「…三玖の下着を見てしまった…」
顔をうつ伏せにしながら茶の間で反省する。
「可愛い下着だったな…白か…」
自分に向かってビンタする。煩悩よ。消え去れ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お風呂に上がったらフータローのシャツとズボンがあった。
「ん…」
スンスンと匂いを嗅ぐと、フータローの匂いがした。
「えへへ…」
私は服を着た。
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「お風呂上がったよ。フータロー…」
「あ、ああ。お、俺も風呂に入るとするよ…」
「う、うん…分かった…」
「そ、それじゃあ…」
「う、うん…」
気まずい。取り敢えず風呂に入るとしよう。
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「フータロー」
「どうした?三玖。」
「台所借りるね。」
「ああ。なんでだ?」
「お礼にご飯作ろうと思って…」
「そうか…ありがとう。冷蔵庫の中の物は使ってくれて構わないからな。」
三玖の料理の腕前はどうなったのか。味は美味しいのだが、如何せん量と見た目がな…夕飯が楽しみだ。
────────────────────
「出来たよ。フータロー」
「お…美味そうだ…!!」
目の前に置かれたのはとても美味しそうなカレーだった。
「私だって成長したんだよ?」
「凄いぞ。三玖。」
「えへへ…」
「それじゃあ…「いただきます」」
「はい。フータロー…」
三玖が俺にカレーを乗せたスプーンを向けてきた。
「?」
「はい。あーん」
「!?あ、あーん」
俺は口を開ける。
「…!!美味い!!」
「ふふ…よかった…」
「はい、それじゃあ…あーん」
三玖が口を開けている。よく見ると耳まで真っ赤だ。恥ずかしいのならやるなよ… 乗ってやろうじゃないか。
「あーん」
「!」
三玖が少し驚いたような表情を見せる。
「まさかフータローがしてくれるなんて…」
「なんかこれ、恥ずかしいな…」
「うん…」
カレーを平らげた。量も丁度よかった。
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カレーを食べたあと、洗い物を2人でして、茶の間でくつろいでいた。
「三玖、何を読んでるんだ?」
「これ?これは大杉栄の自叙伝。フータローは?」
「これは辞書だ。」
「フータローらしい…」
トコトコと三玖が歩いてくる。
「なんだ?」
「近くにいたい。」
そう言うと三玖は俺の足の上に乗っかってきた。
「!?!?!?ちょ…三玖さん…?」
三玖が、俺の家で、あぐらをかいている俺の膝の上に乗っかっている…それも家には2人きり…三玖からは前の膝枕の時に嗅いだ甘い匂いではなく、俺の家のシャンプーの匂いがほんのりと香ってくる。
クソ…理性とか理性とかが色々と不味い…
「?どうしたの?フータロー…」
「この体勢はいろいろと…」
「…?」
そうだ。 こいつら5姉妹は貞操概念がちょっとおかしいんだ。
「ふふ…」
「ど、どうした?三玖?」
「なんか…幸せだなぁ…って」
「え?」
「お風呂に入って、一緒にご飯食べて、一緒にくつろいで…凄く幸せ…」
「そうか」
「うん。まるで…その…夫婦みたい…」
三玖が頬を一気に赤らめる。耳まで真っ赤だ。
────────でも、確かに幸せだ。
「三玖…」
「どうしたの?」
「お前は俺と夫婦だったら嬉しいか?」
「…!?────うん…すっごく嬉しい。」
「そうか…」
俺は何を聞いているのだろうか。
────────でも、この時間をもう少しだけ噛み締めていたい。出来ればこれからもずっと──────────
「…ていうか雨、さらに酷くなってないか?」
「うん…これ、家に帰れないかも…」
「今日…泊まっていくか?」
「うん…?…ふぇ…?」
「大丈夫だ。前にも泊めたことがある。」
「誰を?」
一気に空気が変わった。ミスった。
「あ…その、五月だ。前の家出の時に…らいはが聞かなくてな…父さんもいなかったし…」
「そう…何もしてないのね?」
「はい…」
「ならよし…それじゃあ泊まらせてもらうね?」
「ああ」
「皆には友達の家に泊まるって伝えたよ。」
「大丈夫か?」
「うん。だってフータローの家に泊まるなんて言ったらどうなるか…」
「たしかにな…」
「あ…でもフータロー…今日は2人っきりだよ?」
「…あ…」
はたして、このまま俺は煩悩に耐えることが出来るのだろうか…