塩宇治抹茶   作:PINQ

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さて、フータロー。問題です。

「ねぇ、フータロー」

「どうした?三玖。」

 

ある休日の昼下がり。三玖と2人、リビングでくつろいでいた所、三玖が声をかけてきた。

 

「あのさ…」

「おう」

「私のお気に入りの場所って分かる?」

「……?」

 

急にそんなことを聞いてきたので、思わず疑問符で返してしまった。

 

「答えて」

「え……うーん……」

 

三玖のお気に入りの場所……なんだろうか……もう同棲を初めて2年ほど経つが……そんな話したっけっか?

 

「布団の中、とかか?」

「んーん、違うよ」

「コタツの中か?」

「それも違う」

 

…寒いのが苦手な三玖が好きそうな所を適当に言ってみたが違かったようだ。

 

「バイト先のパン屋とか?」

「確かに好きだけど違うよ」

「お前の実家?」

「みんなと会えるから好きだけどそれでもないよ

「……うーん…」

 

……恥ずかしいことに正直わからない。結構長い間、と言ってもたった2年ちょい。高校時代も含めれば4年程しか一緒に過ごしてないが……

 

「…答えを教えてくれ」

「…フータローには当てて欲しい」

「……そうか……」

 

そう言われると正解せざるおえない。やってやろうじゃないか。

 

「お前の通っている大学!!」

「違う」

「…俺たちが住んでいる家!!」

「確かに大好きだけど違う」

「……テレビの前!!」

「んーん」

「くッ……ヒント!!せめてヒントくれ!!」

「うーん……」

 

三玖が少し考え込む仕草をする。

 

「いいよ」

「サンキュな。」

「ん……それじゃあヒント1、案外いろんな所にあるし、移動もする。」

「ふむ……」

「ヒント2、今私の近くにある。」

「…ふむ……?」

「ヒント3、今は座った方がいい。」

「……うん……?」

「以上」

「……さっぱり分かんねぇ……」

「今のヒントをよく考えてみて。」

「……おう。 」

 

まずヒント1。"案外色んな所にある"これは様々な捉え方ができる。そのため一旦保留する。"移動もする"という事はペットなどの動物や車等の交通し手段の類か?

……しかしそうするとヒント2の"三玖の近くにある"というのが通らなくなる。今俺らは車を持ってないし、ペットも飼っていない。

……そもそもヒント3の"今は座った方がいい"ってのが解せない。今座っているもの……?今この部屋で座っている生物は三玖と俺……だけ……

 

「!!」

「分かった?」

「……おう……」

 

……そういう事…か……?

いや……外したら消えてなくなりたいくらい恥ずかしいのだが……ここで言わなきゃ男が廃る。……ような気がする。

 

「答えるぞ……」

「うん」

「正解は………」

「俺の隣……か……?」

 

なんだコレ。クッッッソ恥ずかしいぞ。

 

「……勿論そこは1番大好きだけど……違うよ」

「………え?」

 

嗚呼。消えてなくなりたい。穴があったら入りたい。俺はとてつもない勘違いをした。三玖のお気に入りの場所が俺の隣とか……そんなキザなセリフ……クソ……死ぬほど恥ずかしい……

 

俺は恥ずかしさのあまり、思わず体の体制を体育座りのような形に変え、項垂れた。

 

「ふふふ……」

 

三玖が笑う。

 

「フータローでもそういうこと言うんだね……」

 

三玖は『あっ』と思い出したように口を開き、

「自意識過剰くん……かな?」

 

懐かしいセリフを出した。

 

「…ッ……!!おま……!!」

「…ふふ…ゴメンね……」

「……それ聞いたの修学旅行の時以来だぞ」

「覚えてたんだ」

「ああ。嫌でもな。」

「なんで?」

「そりゃ……今みたいな勘違いをしたと勘違いしたからな。あの時は一瞬、恥ずかしさで死ぬところだったぞ」

「今は?」

「今も消えてなくなりたいぞ」

「そっか……ゴメンね?」

「ああ……全然大丈夫だ……」

 

こんなに恥ずかしい思いをしたのはいつぶりだろうか。なんて考えていても仕方がない。

 

「三玖……降参だ。そろそろ答えを出してくれ。」

「……いいよ。フータローが普段言わないようなセリフ聞けたしね。」

「それは忘れてくれ。」

「心の奥底に閉まっておく」

「出来れば燃やして欲しいんだが……」

「検討しとくね」

「……おう……」

 

出来れば一生日の目なんて見ずに誰にも知られずひっそりと燃え尽きて欲しい記憶だが、今は問題の答えが気になる。

 

「で、答えは?」

「…正解はね……」

 

そう言って三玖はカラーボックスとタンスの間に向かって歩き、すっぽりと可愛らしく挟まった。

 

「……こういう隙間」

「……そんなの分かるわけねぇだろ……」

「この機会に知れたってことで」

「……そうだな……」

 

これで問題はひと段落着いた……

 

「では問題です。」

「……は?」

「私が今したい事はなんでしょうか。」

「……は?」

 

もう一度問題が出された。

 

「では、お答えください」

 

三玖がクイズ番組の司会者のような口調でコールをかける。

今回は前回より難問だ。三玖に何度も『デリカシーがない』と言われたことか。

その汚名を今、返上するのだ。

 

「……パンを焼くとか?」

「違います」

「……ゆっくり寝たいとか?」

「それも違います」

「……買い物に出掛けたいとか?」

「全然違います。」

 

全く当たらない。どうなってるんだ。……いや、どうなってんのは俺の頭か…?何とかして当てたい。しかしこのままじゃ一向に埒が明かない。

 

「…ヒントくれ」

「私のお気に入りの場所と1番好きな場所を合わせたことです。」

「……なるほど……」

 

1度整理しよう。三玖のお気に入りの場所は"何かの隙間"これは確定だ。そしてさっきの会話から、三玖の1番好きな場所は"俺の隣"……改めて考えるとやっぱり恥ずかしい。

この2つを合わせると……俺の隙間……?いや……だが俺は2人居な…………待てよ……?

 

今の俺の姿勢を考えてみろ。体育座り、三角座りとも言うだろうか。この座り方は両脚の側面を合わせ、足全体で3角型を作る座り方だ。が、今の俺は両脚の間が空いている。項垂れていたからだ。

……って事は……

 

「……分かったかもしれねぇ」

「言ってみて」

「だが…な……まぁ…外すと…な……」

「大丈夫。言ってみて。」

「……ああ……」

 

三玖が真剣な表情をしてそう言う。

俺は深呼吸し、心を落ち着かせる。ここで外したら恥ずかしさで死んでしまう。しかし、三玖がこんなにも真剣な表情をしているのだ。答えなければ人として、コイツの恋人として廃ってしまう。

 

「……正解は……」

 

「………俺の脚の隙間に挟まりたい。……だ。」

「……ふふ……」

 

……この感じ……もしかして……不正……

 

「当たり」

 

三玖はそう言って俺の所にトテトテと駆け寄ってきた。

 

「……マジか……」

「うん。マジだよ。」

 

……何とか当たってよかった。恥ずかしさで死ぬところだった。

 

「……それじゃ……さ……」

「ん?」

 

三玖が両手の指と指を合わせ、頬を赤らめている。

 

「……やって…いいかな……?」

 

「…何をだ?」

 

分かっている。けれど少しだけ虐めたくなってしまった。

 

「フータローのイジワル……」

 

三玖が可愛らしく頬を膨らませる。

 

「ほら、何をして欲しいかは口で言わないと伝わらねぇぞ。」

「うー……」

 

フフフ……俺の気持ちがわかったか。この恥ずかしさ。

 

「……その…」

「おう」

 

三玖の頬の赤色がどんどんと濃くなっていき、耳まで真っ赤に染まる。顔は少し俯き、細長い両指は全て合わさっている。

 

「…フータローの……その……脚の……間に…挟まらせて………ください……」

「……いいぞ」

 

一瞬、もっと虐めたくなってしまったが、これ以上は可哀想なのでやめておいた。

 

「……やった…」

 

そう言って三玖は俺の脚と脚の間にもぞりと挟まった。

 

「……えへへ……」

「そんないいものか?」

 

幸福そうな三玖の表情を見て、質問をする。

 

「……うん。なんかとっても暖かくて、安心する。気持ちいいよ。」

「……そうか」

 

…ふわりと香る三玖の髪の匂い。同じシャンプーを使っている筈なのに、不思議なことになぜかその匂いは甘く、どこか安心できる匂いがする。

 

「…ねぇ、フータロー」

「…どうした?三玖。」

「……今、幸せ?」

「ああ。とってもな。」

「そっか」

「お前は?」

「…私も幸せだよ。」

「そうか」

「うん……ひゃっ!!フ、フータロー?」

 

三玖の頭の上に顎を乗せた。

 

「どうした?三玖。嫌だったか?」

「その…嫌じゃないけど……ビックリしただけ。」

「そうか……」

「うん……ふふ……」

「……はは……」

 

何故か笑いが込み上げてくる。別に特別面白いわけでもないのに、だ。

 

「……ねぇ、フータロー。」

「どうした?三玖。」

「幸せだね。」

「ああ。」

「なんか……眠くなってきちゃった」

「奇遇だな。俺もだ。」

 

意識がうつらうつらとしていく。

 

「……このまま寝ちゃおっか。」

「……そうだな……今日は暖かいし」

「…それじゃ、フータロー……おやすみ。」

「ああ。おやすみ。三玖。」

 

嗚呼。この幸福な時間が、永遠に続けばいいのに。

 

そう思いながら、俺達の意識は夢の中へと落ちていった。

 


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