インフィニット・ストラトス IS IGLOO   作:とんこつラーメン

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今回は少し飯テロ描写があるかもしれません。

もしもお腹が空いた時は、自己責任で何かを作って食べてください。







レッツパーリー!

「……で、これは一体何なんだ?」

 

 今いる場所は寮の食堂で、時間帯的には夕食後の自由時間。

 今回の主役であるソンネンは、いきなり呼び出されて本気で困惑していた。

 

「あれだよ、あれ」

「あぁ~……」

 

 一夏が後ろにある壁を指差すと、そこにはでかでかと『ソンネンさんクラス代表就任パーティー』と書かれた紙がくっつけてあった。

 

「そんなわけで…ソンネンさん! クラス代表就任おめでと~!」

「「「「おめでと~!」」」」

 

 幾つものクラッカーが鳴りまくり、紙吹雪がソンネンの頭に降り注がれる。

 だが、ソンネン自身はなんてリアクションをしたらいいのか分らないでいた。

 

「いや、確かにオレはクラス代表をする事にはなったけど、ここまでする必要ってあるか?」

「何言ってんの!」

「あれだけの激闘を見せてくれたソンネンさんに敬意を表するのは当然じゃない!」

 

 全員が揃ったように頷く。

 別にソンネンからすれば、そこまで特別な事をした覚えはない。

 自分なりに全力で戦い、その上で勝利をしたに過ぎないのだから。

 

 因みに、この場には一組の生徒の殆どが集結していて、中には二組の生徒もちらほらと伺える。

 

「うふふ…デメジエールさんの魅力を考えれば、これぐらいの事をするのは当然ですわね」

「そうかぁ~?」

「本当なら、本国から一流シェフを呼び寄せて、デメジエールさんに御馳走をしたかったのですけど……」

「流石にそこまでしなくていいから」

 

 ソンネンの隣でソファに座っているセシリアが嬉しそうに微笑んでいる。

 そんな事をされてしまったら、いつもは強気のソンネンも恐縮してしまう。

 そうじゃなくても、彼女は元々からパーティー慣れしていないのだから。

 ジオン軍戦車兵だった頃から、余り大人数で騒いだ覚えがない。

 良くも悪くも現場主義だったせいもあるが、常日頃から油と土と汗に塗れた人生だったから。

 

「しっかし、随分とたくさん料理を作ったもんだな。食堂のおばちゃん達に頼んだのか?」

「最初はそうしようと思ったんだけどな。けど、仕事も終わったのに料理を作って貰うのもなんか申し訳ないだろ? だから、調理室だけ借りてから俺達で作ったんだ」

「達ってことは……」

 

 もしかしてと思って振り向くと、ヴェルナーとデュバルが親指を立てていた。

 

「…だと思ったわ」

 

 孤児院にいた時から、三人娘は良く料理を作っていた。

 その腕前は日に日に上達していき、特にヴェルナーの実力は凄い事になっていた。

 

「私も少しだけ調理光景を見させて貰ったが…本当に凄かった。まさか、暫く見ない間に、あそこまでヴェルナーの女子力がアップしていたとは……」

「全ての要素が一流ホテルのシェフにも匹敵するような鮮やかさ…本当に感服いたしましたわ」

 

 セシリアは純粋に感動しているが、箒は昔のヴェルナーを知っているからこそ落ち込んでいた。

 明らかに自分よりも料理が上手になっていたから。

 同じ女子として、何とも言えない悲しさがあった。

 

「このお刺身もホルバインさんが切ったんだよね……」

「綺麗な切り口だよね~…。本物の板前さんみたい」

「この海鮮丼も最高!」

 

 食べ盛りの少女達からすれば、目の前にある御馳走に抗うという選択肢は最初からなかった。

 例え、この後で測るであろう体重計にて悲鳴を上げるとしても。

 

「やっべ……ホルバイン少尉が作った、このシーフードカレー…めっちゃ美味いんだけど! なぁ、本音ちゃん!」

「うん! ホルホルのカレー、ちょ~ちょ~ちょ~美味しいよ~♡」

 

 コトコトと煮込まれて、数多くの魚介類がふんだんに盛り込まれたカレーは、その匂いだけで皆の食欲をそそる。

 当然、少女達は迷わず皿を取ってからカレーを食べた。

 

「お…美味しい~♡」

「プリップリの海老と…」

「分厚いホタテ……」

「このイカも最高~!」

「こんなにも美味しいシーフードカレー…食べたの初めてかも……」

「まだまだ、お替りならあるぞ~」

「「「「いただきます!」」」」

 

 カレールゥが入っている鍋をかき混ぜながらヴェルナーがお替りを促すと、あっという間に行列が出来上がる。

 完全に女子達の胃袋を掴んでしまったヴェルナーだった。

 

「けどさ、これでクラス対抗戦は絶対に盛り上がるよね~」

「だね。ギャップ萌えの塊みたいなソンネンさんが出るんだもん。間違いないでしょ」

「ギャップ萌えって何だ。ギャップ萌えって」

 

 初めて言われた言葉に疑問を呈する。

 何がどうギャップがあるのか小一時間ぐらい問い質したい。

 

「清楚な和風系美少女かと思ったら…」

「まさかのオレっ娘な上に…」

「専用機が超ワイルドな戦車系!」

「「「これをギャップ萌えと言わずしてなんとする!」」」

「お…おう…?」

 

 堂々と力説されてもソンネンの方が困る。

 セシリアはうんうんと何度も頷いているが。

 

「人気者ですね、少佐」

「そうかぁ? 単にテンションが上がってるだけじゃねぇのか?」

「はぁ……」

「なんで、そこで溜息なんだよ」

「御自分の立派に育った胸にでも聞いてください」

「意味分らん」

 

 モニクの呆れたような顔に小首を傾げるソンネン。

 女子として生きてきて十数年。

 未だに女心を完全には理解しきれてはいなかった。

 

「そういや、サクの奴はどうした?」

「ここにいますよ」

 

 オリヴァーが指さした方を見ると、サクが御盆を持って女子達にお茶を注いで回っていた。

 首(?)には真っ赤な蝶ネクタイがくっついている。

 

「…いつの間にあいつは執事みたいなポジになってんだよ」

「もしかして、誰かのお世話とかが好きなんですかね?」

「かねって…お前らが作ったんだろうがよ…」

「あの子達って基本的に自由気ままなもんで」

「それでいいのか製作者……」

 

 プライベートになった途端に天然になるオリヴァー。

 ソンネンが知らないだけで、実は昔からこうだったのかもしれない。

 

「はいは~い! 突然だけど失礼しま~す! こちら、IS学園新聞部で~す! この間、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんと激闘を演じた末に見事な勝利を飾ったデメジエール・ソンネンちゃんにインタビューしに来ました~!」

「「「「お~!」」」」

「また厄介そうなのが……」

 

 新聞部と聞いて中学時代の事を思い出す三人娘。

 正直、それ系の部には碌な思い出が無い。

 学校中の有名人であった三人娘に、毎日のようにインタビューをしに来ていたから。

 

「私は二年生の黛薫子。新聞部の副部長をしてるの。君達の事は、アレクちゃんやたっちゃんによく聞いてるよ。よろしくね」

「大尉はともかく、たっちゃんって誰だ?」

「楯無ちゃんの事。私はたっちゃんって呼んでるの」

「成る程な」

 

 あの二人と仲がいいのであれば、一応は大丈夫なのか?

 そう思っていた時期が彼女達にもありました。

 

「試合の前から君の事は生徒会長からも聞かされていたけど、いや~…本当に凄かったね! あの機体の性能も相当にぶっ飛んでたけど、それを自由自在に操ってみせた君の実力に感動したよ! この気持ち、正しく愛だ!!」

「アホか。つーか、大佐とも知り合いなのかよ」

「まぁね。意外と新聞部と生徒会って密接に関係してるんだよ?」

「知らなかった……」

 

 けど、納得は出来た。

 これまた中学の時の話なのだが、よく生徒会のメンバーが三人娘を生徒会に勧誘しようと三人の行く先に先回りをしていることが多かった。

 あれは新聞部が独自の情報網で自分達の事をリークしていたからだと思い知った。

 

「ん? あんたの足元に見覚えのないサクがいやがるな……」

「この子? この子は我が新聞部、期待のホープである『サク・フリッパー』ちゃんだよ」

「強行偵察型を更に改造した奴か…」

 

 グレーに塗装されたボディに、複数のカメラアイを搭載している特殊な姿のサク。

 だが、やっぱりサクはサクなのか、早くもソンネンお付きのサクと仲良くなって遊んでいた。

 

「~♪」

「!」

 

 パシャ!

 

「~☆」

「~♡」

 

 パシャ!

 

「何やってんだ…」

「あら可愛い。もうお友達が出来たんだ」

 

 サク・フリッパーにはカメラが内蔵されていて、それを使って色んなポーズをとるサクの事を写真に撮っていた。

 勿論、そんな可愛らしい光景を見逃す筈のない女子達は、優しい笑みを浮かべながら心をポカポカさせていた。

 

「サクちゃん達が遊んでる…」

「これ…癒されるわね~…」

 

 どんな時もマスコットの魅力は偉大なようだ。

 やっぱり可愛いは正義なのかもしれない。

 

「お役に立っているようでなによりです、黛先輩」

「こっちこそ。オリヴァーちゃん発案のサクちゃん達は、色んな所で大活躍してるわよ? 本当に大助かりしてるんだから」

 

 薫子もサクの事を気に入っているのか、そっとフリッパーの頭を撫でた。

 それを嬉しそうに受け入れて、隣にいたサクも撫でて欲しそうに見つめていた。

 

「って、話が逸れちゃったわね。えっと…ソンネンちゃんにはまず、クラス代表になった感想でも聞こうかしら」

「感想って言われてもな…。殆ど成り行きだったしな」

「そうだったの?」

「まぁな。かといって、今更やめようとは思ってねぇけど」

「ほほ~?」

「経緯はどうあれ、決まっちまった以上は自分の役割をキッチリとこなすさ。こんなにも皆から期待されてんだ。ここでやらなきゃ、おと…じゃなくて、女が廃るってもんだぜ」

「いいね~! こっちの予想以上に最高の言葉を頂きました~! うんうん、会長が言ってた通りの子だったわね!」

「な…なんて言ってたんだ?」

 

 ソンネンが言った言葉を一字一句漏らさずにメモしていく薫子に、恐る恐る聞いてみる。

 あの大佐が自分の事を何て評していたのか気になった。

 

「ん~? 口は悪いけど、凄く真面目で責任感が強い頼れる女の子だって言ってたわよ?」

「そ…そっか……なんか照れるな……」

 

 パシャ!

 

「ん?」

「~♪」

 

 頬を少し赤くして指で掻いていると、いつの間にか足元にサク・フリッパーが立っていた。

 そのボディからポラロイドカメラみたいに撮った写真が現像されて出てきた。

 

「ナイスよフリッパーちゃん! 最高のシャッターチャンスを見逃さずにゲットするなんて…もう私が教える事は何も無いわね……」

「~♡」

 

 いつの間にお前はサク・フリッパーの師匠になっていたのか。

 

「はぁ…好きにしやがれ」

 

 なんか、何を言っても無駄なような気がしてきた。

 やっぱし新聞部なんて碌なもんじゃない。

 

「ついでだからセシリアちゃんにもコメントを…と思ったけど、なんか話し出すと小一時間ぐらい続けそうだから止めておこうっと」

「なんでですのっ!?」

 

 ある意味、当然の結果である。

 

「そうだ。ヴェルナー・ホルバインちゃんって、どの子?」

「オレだけど…どうかしたかい?」

 

 今度はヴェルナーに話題が振られる。

 これで解放されたかと思い、ソンネンはほっと胸を撫で下ろした。

 

「ここに並んでいる料理の内、海鮮系は全部君が作ったってのは本当?」

「マジだぞ」

「この、超絶美味しいシーフードピザも?」

「うん」

 

 いつの間にか手にしていたシーフードピザをパクリと一口。

 チーズがビヨーンと伸び、口の中一杯に新鮮な魚介類の風味が漂う。

 

「いや、これ間違いなく市販品よりも美味しいから。寧ろ、プロが作ったって言われても違和感ないんだけど。こーゆーのって、どうやって作れるようになったの?」

「近所の魚屋のおっさんや、食堂を営んでる知り合いに頼んで教えて貰ってた」

「プロ直伝か……めっちゃ納得するわ。それと同じぐらいにヴェルナーちゃんの才能が凄いって事なんだろうけど……うん。本当に美味しすぎ。同じ女子として完全敗北してるわ」

 

 ここでふと、他の女子達はある考えに至った。

 元気一杯で、社交的で、誰にも優しくて、頭もよくて、スタイルもいい。

 しかも、美少女で料理が上手で人気者。

 この子…女としてほぼ完璧じゃね?

 寧ろ、誰もが夢見る理想の嫁じゃね?

 

「「「「「ホルバインさん結婚して!!!」」」」」

「あっはっはー! 無茶言うな~」

 

 ヴェルナー。一気に女子達の人気者になる。

 

「皆がそう言いたくなる気持ち…分かるわ~。そこでホルバインさん。ちょっと相談があるんだけど」

「なんだい?」

「よかったら、うちらが作ってる新聞にミニコーナーとして協力してくれない?」

「ミニコーナー?」

「そう! その名も『ヴェルナーちゃんの今日の一品』! 君がちょっとした料理のレシピを教えてくれて、それを新聞に掲載するの! どうかな?」

「それぐらいならお安い御用だよ」

「決まりね! んじゃ、早速何か一つ教えてくれる?」

「いいぞ。それじゃあ、そこで本音達が食べてるオレ特製のシーフードカレーなんてどうだ?」

「いいねそれ! 私も後で絶対に食べよ! 匂いだけでも美味しそうなのが伝わってくるもん!」

 

 薫子がヴェルナーからメニューを教えて貰っている中、サクがソンネンの服の袖を引っ張って何かを伝えようとしていた。

 

「ん? どうした?」

『フリッパーが集合写真を撮ろうって言ってます。どうしますか?』

「マジか」

 

 集合写真。

 昔はよく撮っていたが、最近は写真自体を撮る機会が無かった。

 さっきは不意を突かれて恥ずかしい所を撮られたが、それぐらいならいいかもしれない。

 

「別にいいんじゃねぇか? 他の皆もいいって言ってくれるんならな」

 

 チラッと目配せをしてみると、皆揃って親指を立てていた。

 どうやら、聞くまでも無かったようだ。

 

「え? なんか面白そうなことになってるっ!? じゃあ、私がフリッパーちゃんを抱えるから、それで撮影しましょ!」

「なんだなんだ? 何が始まるんだ?」

 

 ヴェルナーから話を聞き終えた薫子が、急いでフリッパーを抱えて少し離れた場所に移動する。

 そこでフリッパーの三つあるカメラアイが切り替わってモードチェンジする。

 それに合わせるようにして、ヴェルナーも他の皆と一緒に並んだ。

 

「掛け声はどうする? 流石に『ハイチーズ』じゃ普通過ぎるし……ソンネンちゃん、何か無い?」

「オレに言われてもな……」

 

 う~ん…と顎に手を当てて考えた後、ふと顔を上げる。

 

「ジ…ジーク・ジオン…とか?」

「いや、この場でそれは……」

「いいわねそれ! 意味は分からないけど、語感がいいから良いから気に入ったわ!」

 

 少ないアイデアを振り絞って出したものに対してデュバルが意見を言おうとした瞬間、まさかの採用決定。

 これは流石のソンネンも想像していなかった。

 

「それじゃあ、いくわよ~! せ~の……」

「「「「「ジーク・ジオン!!」」」」」

 

 パシャ!

 

「………へ?」

 

 フリッパーが撮った瞬間、セシリアがソンネンの腕に抱き着き、箒はデュバルの腕に抱き着いていた。

 本音もワシヤとイチャイチャしていて、それを見てモニクが呆れ顔をして、ヴェルナーはいつものニコニコ笑顔。

 オリヴァーはサクの事を抱きかかえて、一夏は真ん中付近で完全にボッチになっていた。

 

「なんか、いい写真が撮れたわね~! すっごく個性的って言うか」

「それだけは否定できないな……」

「だな……」

「「うふふ…♡」」

 

 満足そうにしているセシリアと箒を余所に、ソンネンとデュバルは乾いた笑いを浮かべていた。

 

「この写真は、後で焼き増ししてあげるね~」

 

 フリッパーと一緒に手を振りながら、薫子は去って行った。

 その後もパーティーは続き、終わったのは夜の十時頃になったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はやっと鈴とソンネン達との再会。

書いてて私もお腹が空いてきました……。

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