インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
鈴の最後の登場って、どれぐらい前だったっけ…?
鈴がIS学園で迎える初めての朝。
寝慣れないの筈なのに、無駄に寝心地がいいベッドから目を擦りながら体を起こす。
「んんぅ~…?」
「お? 起きたか。おはようさん」
「!!??」
眠気眼だった鈴の意識は、目の前のアレクの姿を見て一発で覚醒した。
それ程までに衝撃的な光景だった。特に彼女にとっては。
「ん~? どうかしたか?」
「な…何をやってるんですかッ!?」
「何って言われても…ただのストレッチだろうが」
そう、確かにアレクがやっているのはストレッチだ。
彼女は毎朝、必ずベッドで凝り固まった体をほぐす為に、こうして全身を動かしている。
問題があるとすれば、それは彼女の格好だった。
動きやすいからという理由で、アレクは下着姿でやっていたのだ。
洒落たタイプのではなくてスポーティーな下着なので、普通ならばそこまでの色気は無い。
だが、女子高生とは思えない程のスタイルを誇るアレクが着れば、それは一瞬にして彼女の魅力を最大限まで引き出すアイテムと化す。
(これで本当に高校二年生なのッ!? どう考えても大学生かOLにしか見えないんだけどッ!?)
鈴と並べば、最悪の場合は親子に見られるかもしれない。
それ程までに、鈴から見たアレクは大人びていた。
「あ…あの~…一つ質問してもいいですか?」
「なんだ?」
「一体、何をどうすれば、そんな抜群のスタイルになれるんですか? やっぱり、適度な運動に最適な食事…とか?」
「知らねーよ、んなもん。こちとら、昔からずっとこうだったからな」
「む…昔からって言うと…具体的には?」
「13ぐらいの頃から?」
「んなっ……!?」
一瞬、本気で耳を疑った。
13歳と言えば、中学一年生。
その頃から、このスタイル? そんな馬鹿な。
自分なんて、中学一年生の時なんてちんちくりんで、私服で出歩けば普通に小学生に間違われていた。
「も…もしかして、よく大学生とかに間違われたり…とか…?」
「よく分かったな。そうなんだよ~…まだドイツにいた頃さ、よく仕事の関係で大学に行くことがあったんだけど、その時によくサークルに勧誘とかされてたんだよ。んで、こっちの年齢を言ったら目をでっかくして驚いてたっけ。あれはマジで笑ったなぁ~…」
「…………」
なんだ、その超羨まエピソードは。
実は陰で読者モデルとかやってますとか言われても違和感が無い。
というか、完全にやってるだろ、と鈴は思っている。
「これでよし…っと。んじゃ、顔を洗って、登校の準備をしたら朝飯を食いに行こうぜ。食堂までの道を案内してやるよ」
「あ……はい」
別の意味で気苦労が絶えなさそうな予感をヒシヒシと感じている鈴だった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
毎度御馴染みのメンバーで朝食を食べ終え、603メンバーと一夏達は揃って教室まで向かう事に。勿論、サクも一緒に。
その途中で楯無や簪とは別れているが、学年やクラスが別なので仕方がない。
「おはよーさん」
「おはよう」
「あ、ソンネンさんにデュバルさん。皆も一緒なんだ。おはよー」
彼女達に気が付いた生徒が挨拶をしてくるが、その様子はなんだか浮ついているように見えた。
「なんが妙に騒がしくないか? 何かあったのかよ?」
「そうなんだよ! 実は…隣のクラスに転入生が来るんだって!」
「「「転入生?」」」
こんな半端な時期に転入とは、これいかに?
元軍人である603メンバーは当然のように、一夏や箒、セシリアも同じように疑問を覚えた。
唯一、何にも考えていないのは本音だけだった。
「その転入生って、一体どんな子なの?」
「私も詳しく知ってる訳じゃないんだけど、噂じゃ中国の代表候補生らしいよ?」
「「「中国……」」」
モニクが何気なく聞き出してくれた。
普通ならばヒントにすらなっていない情報。
だが、ソンネンとデュバル、ヴェルナーの三人にとっては、たったそれだけで十分過ぎた。
「おい…それって…」
「まさか……」
「きっと、そうだぜ」
今から一年ほど前。再会の約束をした友人がいた。
彼女は中国人で、別れの際にIS学園を受験するとも言っていた。
可能性としては非常に低いかもしれないが、それでも信じるのが親友なのだ。
「というか、別にこのクラスに転入してくるわけでもないのに、どうしてこうも盛り上がっているんだ?」
「IS学園は外からの転入などが珍しいらしいからではないかしら?」
「そうなのか?」
「私も話で聞いたことがあるだけですので、なんとも。けれど、ただでさえ恐ろしく合格倍率が高いIS学園に転入ともなれば、その試験もかなりも難易度になると思われますわ」
同じ代表候補生という立場から、セシリアは冷静な意見を言ってのけた。
一夏や箒、他の詳しい事情を知らない生徒達は小さく拍手をしながら驚いている。
「そういや、私って二組に友達がいるんだけど、まだあっちはクラス代表が決まってないんだって。きっと、その転入生の子がなるんじゃない?」
「そうなると、一気にクラス対抗戦が激しくなりますわね……」
「四組には簪がいて、我が一組にはソンネンという優勝候補がいる。そこへ更にもう一人、代表候補生が加われば……」
「凄い事になるだろうね…。ソンネン少佐がそうそう負けるとは思わないけど、機体の相性次第じゃ苦戦するかもしれない……」
クラス対抗戦の事で二組の事を危険視するセシリアと箒。
それとは別に、オリヴァーは冷静に未知の相手について考えていた。
「ソンネンさんなら、きっと大丈夫だよ!」
「絶対に優勝できるって!」
「皆で応援してるから! 主に学食デザート半年フリーパス券の為に!」
「それが目的かよ……まぁ、いいけどさ」
別に甘いものが嫌いって訳じゃない。
食べる機会が少ないだけだ。
因みに、ソンネンは和菓子が、デュバルは洋菓子が好きだったりする。
ヴェルナーは基本的に雑食なので問題は無い。
「そう簡単には行かないわよ。このあたしがいる限りはね」
「「「あ……」」」
『~?』
教室の扉の方から聞こえてきた声にいち早く反応したのは三人娘。
次にサクだったが、彼(?)は何故か団扇に?マークを書いて掲げていた。
「「「鈴!」」」
「本当に久し振りね…ソンネン。デュバル。ヴェルナー。後ついでに一夏も」
「俺はついでかよっ!?」
一夏、まさかのついで扱い。
三人娘は思わず鈴の方へと向かっていく。
「まさか、本当にお前だったとはな! 驚いたぞ!」
「お前が転入生って事は、代表候補生になったのかよ!?」
「そうよ。本当に苦労したんだから。でも、あんた達にまた会う為に頑張ったわ」
「みたいだな。あの頃とは全く顔つきが変わってやがる。心身共に成長した人間の顔だ」
「ありがと、ヴェルナー。相変わらず深い言葉を言うわね~」
久し振りに再会で話が盛り上がる四人。
本当は一夏も話の輪に入りたいが、彼の近くで阿修羅面『怒り』になっている三人の少女達がそれを許してくれなかった。
「また私の知らない女の子が出てきた…!」
「随分とデュバル達と仲が良さそうじゃないか…!」
「この私の目の前でデメジエールさんと仲良くするなんて…いい度胸ですわね…!」
「痛い痛い痛い! お願いですから、俺の肩を全力で握り潰そうとしないで!?」
完全な嫉妬の炎をメラメラと燃やしながら、傍にいた一夏の両肩をギリギリと摑んでいた。
モニクは空手をやっていて、箒は言わずもがな、セシリアも代表候補生として体を鍛えているので握力は相当にある。
そんな三人に肩を潰されそうになっているのだから、かなりの激痛が走っている筈だ。
「ソンネン少佐達って、本当に顔が広いよな~」
「そうだね。まさか、中国人の友達までいたなんて驚きだよ」
「三人共、とっても嬉しそうだよね~。ね~? サクちゃん」
『ですね!』
しれっとソンネンの膝から降りて本音に抱えられていたサクは、ニッコリ笑顔で自分の主人を祝福している。
「おい、そこ」
「うぐ…! この気配は…!」
瞬間、鈴の背筋に悪寒が走る。
彼女はこの感じをよく知っていた。
忘れたくても忘れられない、これだけは。
恐る恐る、ゆっくりと後ろを振り向けば、そこには……。
「もうすぐ朝のSHRの時間が始まる。とっとと自分のクラスに戻れ」
「ち…千冬さん…?」
「あぁ?」
「ひぃっ!?」
幾ら代表候補生になっても、苦手なものは苦手だった。
「私の事は織斑先生と呼べ」
「は…はいぃ! 分かりましたぁっ! また後でね、三人共!」
怯えながらも、しっかりと後で会う約束を取り付ける辺り、鈴もちゃっかりしている。
「変わってるようで、変わってないな」
「いいんじゃないか。彼女らしくて」
「だな。オレ達も早く席に着こうぜ」
千冬が来たことで解散し、全員ばらばらに別れて着席することに。
これで一件落着…かと思ったが、そうではなかった。
(また怖い顔をしてしまった……)
千冬だけが地味に精神的ダメージを負っていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
授業中。
箒はついさっきの出来事が気になって集中出来ないでいた。
(一体どこのどいつなんだ…! 凄く仲が良さげだったが……)
IS学園に来て三人と再会できて嬉しかったのは自分も同じ。
だが、それと同じ感想を持った人物が突如として出現した。
普通に考えればなんてことは無いが、箒からすれば由々しき事態だった。
(別にデュバル達は何も悪くは無い。ここは落ち着いて考えようじゃないか私よ)
軽く目を瞑って呼吸を整える。
これでどうにか冷静になる事が出来た。
(あんなにも親しくしていたということは、かなりの間に渡って仲良くしていたという事だ。だが、私は全くアイツの事を知らない。となれば、考えうる可能性はたった一つだけ……)
ここで箒は、ある一つの結論に至った。
(小学生の時、私が転校して行ってから知り合ったという事だ。恐らくは、入れ替わるように転入してきたか、もしくは……)
一度でも考えてしまえば、それこそ無数の可能性が出てくる。
だが、今の箒には関係なかった。
(ふっ…それがどうしたというのだ。あいつは隣のクラスだが、私は同じクラスにいて、デュバルとはルームメイトにまでなっている。つまり、どれだけ仲が良かろうとも、私の方が圧倒的に有利なのだ! はっはっはっ!)
…と、そこまで脳内劇場を繰り広げた所で我に返った。
斜め上辺りから鋭い視線を感じる事で。
「…篠ノ之、もう一度聞くぞ。この問題の答えは何だ?」
「こ…答え?」
「そうだ。まさかとは思うが、聞いていなかったのではあるまいな?」
「そ…それは……」
全くもって聞いていませんでした。
冷や汗を掻きまくって目を逸らす箒を見て、そう結論付けた千冬は盛大な溜息を吐きながら足元にいる、胴体部に二つ目のモノアイを持っているダークグリーンのサクに頼んだ。
「サク・トレーナー。また同じことが無いように、篠ノ之の事を見張っていてくれ。頼んだぞ」
『了解しました! 織斑先生!』
「うむ。では代わりに…デュバル、答えてくれ」
「分かりました」
これ以上の好感度低下を恐れた千冬によって出席簿アタックだけは避けられたが、その代わりに見張りが付いてしまった。
ジー……。
(し…視線が痛い……)
窓際に座って自分の事をずっと見つめているサク・トレーナーの視線に晒されながら授業を受ける羽目になった箒だった。
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・・・・
・・・
・・
・
箒と同様に、セシリアもまた色々と考えに耽っていた。
(デメジエールさんの、あんな笑顔…始めて見ましたわ。あの笑顔を私にも向けてくれたら……)
正直、鈴に嫉妬をしてしまったが、それと同じぐらいにソンネンの浮かべた南面の笑みに惹かれていた。
元々からハイレベルな美少女であるソンネンが屈託のない笑顔を浮かべればどうなるか。
大抵の人間は、それだけでノックアウト確定だ。
男の場合に至っては、そこから一気に告白までして振られるまである。
(あの感じから察するに、彼女とは相当に仲がいいご様子…。一体、どんな関係なのかしら……)
生まれて初めての恋。
その相手と仲良くしている別の女の子。
ルームメイトとして、一人の少女として気になって仕方が無かった。
(…いえ、ここで悲観的になっても意味が無いですわ。無い物を嘆くのではなくて、自分にあるアドバンテージを最大に活かす事を考えなくては!)
伊達にこの歳で代表候補生をやっていない。
立ち直りはかなり早かった。
「私とデメジエールさんは同じ部屋で暮らすルームメイト……時間ならばたっぷりとあるのだから、ここは今まで以上にアピールをし、そこからデートにまで発展させて……」
思わず声に出してしまったのが運の尽き。
彼女の目の前に憤怒の表情で顔が影に隠れている千冬が腕を組んで立っていた。
「…………」
何も言わず、敢えて千冬は無言で足元にいるサク・キャノンに目配せをする。
サク・キャノンは力強く頷き、頭にくっつけている水鉄砲の標準をセシリアに向けて、迷わず発射。
「きゃあっ!?」
彼女がどうなったかのかはご想像にお任せする。
取り敢えず、サク・キャノンはドヤ顔をしていたとだけ言っておく。
余談だが、モニクだけはちゃんと授業に集中していて、千冬の餌食にはならなかった。
次回からも、鈴との絡みが沢山あります。
今までずっと出番が無かった分、多く出してやりたいですからね。