インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
早く涼しい気候になって欲しいです。
放課後のトレーニングが終了し、ソンネン達は着替える為に更衣室へと向かっていた。
未だに周り全員が女子と言う環境に慣れないのか、それともISスーツという格好をした少女達に何か思うところがあるのか、少しだけ一夏の顔が赤くなっている。
「俺もヴェルナーの専用機を見てみたかったなー」
「学園にいる以上、いつか必ず見る機会はあるだろうさ」
彼が戻って来る直前にゼーゴックを収納したので、一夏は見られず仕舞いになっているのだ。
だが、ヴェルナーの言う通り必ずいつかは見る事になるだろう。
ドイツの地で一度戦った蜘蛛の力を宿す彼女の宿敵がいる限りは。
「どうやら、ナイスタイミングだったみたいね?」
「うん」
「やっほー」
『『『お疲れ様でしたー』』』
話をしながらも更衣室へと到着すると、廊下側の出入り口から鈴と簪、本音の三人と一緒に何故か黒い三連星専用サク達と一緒に入ってきた。
サクたちの手にはスポーツドリンクとタオルが入っているバスケットが握られている。
「鈴に簪に本音か。三人揃ってどうしたんだ?」
「疲れてるだろうと思って差し入れを持ってきたのよ」
「ありがとうございます。…で、そのサクたちは…?」
キョトンとした顔で皆にタオルやらスポドリやらを配っているサクたちを指差すオリヴァー。
ついさっきまで食堂にいた筈なのに、いつの間に鈴と合流したのだろうか?
「ここに来る途中で偶然にも会っちゃって。で、あたしは別にいいって言ったんだけど、どうしても手伝いたいって言ってくるもんだから、仕方なく荷物を持って貰ったのよ」
「そうだったんだ……」
「なんか知らないけど、妙に懐かれちゃったみたい。なんでだろ?」
黒いサクたちとは転入初日に出会ってはいるが、それ以降はそこまで積極的に会ってはいない。
にも拘らず、黒いサクたちからの鈴に対する懐き度はかなり高いようだ。
「喉が潤うな~」
「やっぱ、体を動かした後はスポドリに限るよな」
「良い温度ね。これ、あなたがしてくれたの?」
「まぁね。変に冷たすぎても体に悪いし、かといって温すぎてもダメ。人肌程度が丁度いいって教わったから」
「代表候補生って色んな事を勉強してんだな……」
気が利く鈴に感謝しつつも、全員が水分補給をしつつ汗を拭っていく。
そんな中、鈴は久方振りに再会した幼馴染達の体をまじまじと見ていた。
「ん? どうしたんだ?」
「いや…こうして見てると、本当にあんた達三人揃って成長してるんだな~って思って」
「うんうん。全く持ってその通りだ」
鈴の言う『成長』が何を意味するのか分からないまま、同じ幼馴染の箒が頷きながら同調していく。
「デメもまぁ、なんとも女らしくなっちゃって。なんか制服も着物風に改造してたし、毎朝着替えるの大変じゃない?」
「そうでもないぞ? 着物自体は普段から着慣れてるし、学園に入ってからはセシリアが手伝ってくれるようになったしな」
「え? あんた達ってルームメイトなの?」
「そうですわ! デメジエールさんとは毎日のように色々と……」
今がチャンスだと言わんばかりに自分とソンネンとの仲をアピールしようとしたセシリアだったが、いきなり鈴に顔を近づかれたことでストップした。
「アンタ…一緒の部屋であるのをいい事に、デメに変な事をしてないでしょうね?」
「し…しししししししてませんわよ?」
「めっちゃ目を逸らしてるし…」
運動直後の汗とはまた別の種類の汗が出まくり、物凄く焦るセシリア。
(い…言えませんわ…! デメジエールさんがいない時を見計らって、ベッドの上の残り香をクンカクンカしたり、デメジエールさんが寝ている時にこっそりと近づいて可愛らしい寝顔を観察して写真に収めているだなんて!)
因みに、セシリアの携帯の待ち受けはソンネンの寝顔である。
そして、モニクの携帯の待ち受けはソンネンの笑顔である。
「まぁ…いいけど。気持ちは分かるし……」
「え?」
なんせ、小学生時代からずっと三人娘と一緒にいたのだ。
友情が別の感情に変化するには十分すぎる時間だ。
「ってことは、ジャンは一体誰と一緒なの?」
「私だ」
「箒と一緒か……」
二人揃って真面目そうなイメージがあるので、これはこれでいいのかもしれない。
箒が変な事をしている想像も湧かないし。
だが、現実は非情である。
(言えるわけないよな…。デュバルがいない時にこいつのベットの上で寝転がっていたり、密かに脱いだ服の匂いを嗅いでいただなんて……)
篠ノ之箒。
別の意味で着実に姉と同じ場所へと向かっていた。
そこからの流れで、モニクと簪が一緒で、ワシヤと本音が一緒に住んでいる事も話す事に。
この二組に関しては、そこまで驚かれなかったが。
「ってことは、消去法で一夏と一緒に住んでるのは……」
「ボクです」
「そうなるわよねー」
ラッキースケベの権化とも言うべき一夏と、(鈴から見て)正統派金髪美少女が一緒に部屋にいる。
これは同じ女として余り看過できない事だった。
「一夏…あんた、この子に何か変な事とかしてないでしょうね?」
「へ…変って何だよ……」
「うっかりとか言って着替えを覗いたり、シャワーから出たばかりの彼女を押し倒したり、こけた拍子に胸を触ったり……」
「し…してない! してない! んなこと全くしてないッつーの! っていうか、そんな事が起きてたら、箒やキャデラックさんが黙ってないって!」
「んー…それもそうね」
鈴が例を言っている間、箒とモニクから強烈なまでの指向性の殺気が一夏に向かって放たれ、背筋に氷柱を突っ込まれたかのような感覚に陥った。
「オリヴァー・マイ…だったわよね?」
「は…はい」
「この馬鹿に何かされたら、アタシにも遠慮なく相談していいからね。いつでも力になるわ」
「あ…ありがとう?」
(また保護者が増えた……)
着実にオリヴァーの守りが固められていく。
それだけ一夏と一緒の生活は色んな意味で危険が一杯という事か。
「そういや、お昼に聞きそびれた事があるんだけど…あの子達は元気にしてる?」
「「「「「「「あの子?」」」」」」
いきなりの質問に何も知らない者達は小首を傾げ、一緒の孤児院に住んでいる者達はすぐに何のことか察した。
「アイツらな。元気にやってるぞ。今でも定期的に写真が送られてくるんだ。ほら」
ヴェルナーが自分のスマホの画面を見せると、そこには仲良く丸くなって寝ながら日向ぼっこをしている四匹の猫たちの姿があった。
「おぉ~! 相変わらず可愛いわね~! ミカにオルガに昭弘にシノ~! また会いたいなぁ~…」
鈴が久し振りに見る猫たちの姿に笑顔を浮かべていると、いつの間にか他の面々も画面を覗き見るように集まっていた。
「にゃんこだ~! 可愛いね~!」
「ね…猫ちゃん……これ…いい…♡」
「猫なんていつの間に……まぁ…その…可愛い…な…うん」
「動物に好かれる人は心が清らかだと聞きますわ。デメジエールさん達ならば納得ですわね」
「良い顔をしてんじゃ~ん! いいな~…」
「まさか、少佐達がペットを飼うだなんてね……」
「写真越しに見ても凄くリラックスしているのが分かります。きっと、少佐達に凄く懐いている証拠ですね」
全員が各々に感想を述べていくが、本音と簪と箒の三人は純粋に猫たちの可愛さに魅了されていた。
「休みの日にでも見に来るか? オレ達も一度帰ろうかって話してたし」
「「「行くっ!!」」」
「お…おう…そっか…」
猫たちに会いたい箒達の迫力に圧され、思わず引いてしまったソンネン。
歴戦の戦車兵である彼女でさえも気圧されるとは、可愛いものの力は恐ろしい。
「なんなら、サクたちも何体か連れていくか? ガキ共が喜びそうだ」
『行きたいですー!』
『行く行く~!』
『わ~い! お出かけだ~!』
ヴェルナーのまさかの提案に、黒い三連星サクは揃って喜びの舞を披露。
こうして、早くも先の予定が決まったのであった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「…てなことがあったんですよー」
「マジか。あいつら、猫なんて飼ってやがったのか…」
夜になり、寮の自室にて今日あった出来事を楽しそうに話す鈴に、アレクは笑顔で応えていた。
先輩の余裕…というよりは、大人の余裕なのかもしれない。
「ペットねぇ~…ウチじゃ飼えないから、少しばっかし羨ましいかもな」
「飼えない? 先輩のご実家って何をしてるんですか?」
「町工場だ。そこまで大きくは無いんだが、それでも腕だけは確かでな。よく軍とかからも依頼が来たりするんだぜ?」
「軍から依頼って……」
それは相当に凄い事なのでは?
思わずそう言いかけたが、話を遮るのもあれなので黙っておいた。
「小さな頃からよく親父たちの手伝いをしてたから、そっち方面に詳しくなった。整備班じゃねぇけど、アイツ等と同じぐらいにはやれる自信はあるぜ?」
「というか、確実に実力は上なんじゃ…?」
幼い頃から工場の手伝いをしていたという事は、ここで勉強し始めた者達よりも遥かに経験値は多いということ。
生徒会長たちに信頼されているのも納得できた。
「そう言えば、先輩ってデメ達と知り合いなんですよね?」
「ん~…まぁな」
生前に会った事は一度も無いが、ソンネンやデュバルの名前は良く聞いていた。
特にソンネンは戦車教導団の教官という肩書を持っていたせいか、全く部署が違うアレクにも色んな噂が届いていた。
「ってことは、もしかして先輩も専用機を持っていたり…?」
「一応な。つっても、普通の試合には絶対に出せないような代物だが」
「やっぱりそうなんだ……」
鈴は知らない事だが、常識的に考えてもヨルムンガンドは試合に出していい機体ではない。
攻撃力が余りにも高すぎるし、発射までの隙も大きい。
隙自体はアレクの卓越した技量で幾らでもカバーは可能だが、それでも学園側が許さないだろう。
「しっかし、思ったよりも元気そうで安心したよ」
「あたしがですか?」
「あぁ。普通よ、転入したての頃って色々と不安が有ったりするもんだろ? 新しい環境に馴染めるかとか、ちゃんとダチ公が出来るのかって思ったりしてさ」
「確かもそうかもですね」
鈴としては、これが人生最初の転入ではないので、アレクが言いたい事がよく分かった。
言われてみれば、小学生の頃にはそんな事を考えていたかもしれない。
「実はあたし、日本に来るのはこれが初めてって訳じゃないんですよ」
「そうなのか?」
「はい。小学生の頃に一度、親の都合で日本に来てて、その時にデメやジャン、ヴェルナー達と出会ったんです」
「成る程な。ガキの頃の友達がいたから、すぐに馴染む事が出来たって訳か」
「そうなりますね」
友達のお蔭…なんて言ってはいるが、アレクにはなんとなく分かっていた。
鈴の性格ならば、例え彼女達がいなくてもすぐに学園やクラスには馴染んで見せただろうと。
ただ、それが早いか遅いかの違いだけだ。
「仲間の存在ってのはデカいよな…確かに。それはオレにも分かるわ」
アレクの場合は、IS学園に来た時は同学年に知り合いなんて一人もいなかった。
文字通り、最初からのスタートになったわけだが、先に入学していたカスペンと再会する事で徐々に馴染んでいき、その間に楯無とも出逢って友達になった経緯があるのだ。
「取り敢えず、転入デビューが上手く言ったようでなによりだ。でも、まだまだ油断は禁物だからな? 何か困ったことがあったりしたら、いつでも相談していいぞ。先輩として、同じ部屋に住む者として力になるからよ」
「ありがとうございます。その時は遠慮なく頼らせて貰いますね」
最初は上級生との相部屋と聞いて緊張したが、今はアレクと一緒の部屋で正解だったと思った。
言葉では上手く言い表せない不思議な安心感と言うか、抱擁感が彼女にはあった。
「なんなら、今晩は一緒に寝るか? なんちって」
「いいんですか?」
「……え?」
アレクは冗談のつもりで言ったのだが、まさか本気で受け取られるとは思わなかった。
なんか『冗談でした』と言い出せる空気では無いので、本当に一緒に寝る事になった。
(誰かと一緒のベッドに入るってのも不思議な感じだな……)
(こうして近くで見ると、やっぱり先輩の胸って大きい…。少しでも御利益がありますよーに!)
こうして、なし崩し的に一緒に寝る事になったアレクと鈴だったが、寝静まった頃には二人で抱き合うような寝相になっていて、まるで本当の姉妹のように仲睦まじい雰囲気を出していた。
朝起きて、アレクに抱きしめられているような状態になっているのに気が付いて、鈴が顔を真っ赤にしながら心臓バクバク状態になったのは言うまでもない。
まさかの鈴×アレクのフラグが…?
次回辺りから例のイベントの話が出てくる頃ですね。