インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
今回はその事がよく分るお話です。
あと、ちょっとだけ箒に心の変化が……?
時間が過ぎるのは早いもんで、デュバル達は二年生となっていた。
すっかりランドセルを背負う姿も様になって、慣れた様子で学校までの道を登校していた。
「もう10月になろうってのに、まだまだ暑いよな~」
「暦の上ではとっくに秋なのだがな」
「南国で暮らしてきたオレからすれば、十分に涼しいけどな」
「「お前と一緒にするな」」
すっかり日焼けをして健康的な小麦色の肌になったヴェルナーに、二人が一斉にツッコむ。
学校でも孤児院でも、この光景がもうすっかり御馴染みとなっていた。
「けど、ソンネンはいいよな~。俺達みたいにランドセルを背負わなくてもいいし」
「しゃーねーだろ? 車椅子に乗った状態じゃ、背負いたくても背負えなねぇんだからよ」
そう。ソンネンは車椅子を使っている都合上、学校からランドセルとは別の通学鞄を使用していい許可を貰っていた。
実は裏では校長と知り合いだった院長が手を回しているのだが、その事を彼女達は全く知らない。
「しかも、いつの間にか車椅子まで変わってるしな」
「ま…まぁな……」
箒から車椅子の事を指摘されて、思わず目を逸らすソンネン。
というのも、実はソンネンの車椅子は、彼女達が小学校に入学をする際に束が『入学祝』と称して魔改造を施してしまったのだ。
まず、コントロール用のレバーを取り付けて、それを操作することで楽に車椅子を動かす事が出来るようになった。
更に、ISの技術の応用で、なんと、短時間だけならば低空飛行が可能なるようにもした。
これにより、学校の階段なども普通に登ったり降りたりすることが可能になった。
この束特性魔改造車椅子のお蔭で、ソンネンは他の皆と同じように通常クラスに編入することが出来たのだ。
「さて。少し早めに出たとはいえ、ここでのんびりとしてたら意味がない。早く学校に行くとしよう。話は教室についてからでも十分に出来るのだからな」
最後にデュバルが締めてから、一路、学校へと向かうことに。
勿論、遅刻なんてしなかった。
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もう分りきっている事とは思うが、授業の方は全く問題ない。
寧ろ、ここで躓いていたら、それはそれで別の問題が生まれてくる。
算数などは勿論だが、外国人である三人にとって最も難しいと思われた国語も難なく熟している。
これは、純粋に三人が元軍人として勉強をすることの大切さを身を持って学んでいるからに過ぎない。
手に入れた知識は決して無駄にはならない。生涯に渡っての財産になるのだ。
それとは逆に、箒や一夏は歳相応に悪戦苦闘をしていた。
元軍人である彼女達と一緒にいることで、二人にも『文武両道』の精神が芽生えることを祈ろう。
「はい。ではこの問題を……篠ノ之さん。分かるかしら?」
「えっ? えっと……」
算数の授業で早速当てられた箒は、教科書とノートを何度も見ながら混乱する。
流石に見ていられなかったのか、後ろの席にいたヴェルナーが小さな声で助け舟を出した。
「……答えは3だ」
それを聞いた箒は、後ろを見ないようにしつつも、彼女が教えてくれた答えを言う事に。
「さ…3です」
「正解よ。よく出来ました」
ホッと胸を撫で下ろしながら、箒は席に座る。
先生が問題の説明をしている隙に、少しだけ後ろを向いてからヴェルナーに礼を言った。
「ありがとう……助かったよ」
「いいってことよ。気にすんなよ」
まるで頼れる姉貴分のような感じがする三人の少女に、自然と一夏と箒は心を許していた。
だからだろうか。気付けばよく五人で一緒にいることが多くなっていった。
今回のように助けられた場面も一度や二度ではない。
(いつか、ちゃんとしたお礼がしたいな……)
この時の思いがなんなのか、箒はまだ知らない。
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「まさか、先生に呼び出しをくらっちまうとはな」
「その言い方はやめろ。別に悪い事をして呼ばれたわけではないのだからな」
「わーってるって。オレさまのこれから先の体育とかの授業に関しての話だったもんな」
車椅子という形で登校をしているが故に、教師側も色々と気を使うことが多くなるのは必然なのだが、そこは前世の記憶と知識がモロに残っている面々。
実に巧みな話術で会話を進めて、逆に先生が感謝をするほどの内容にすることが出来た。
「けどよ、別にお前らもついてくる必要は無かったんだぜ? いや、デュバルとヴェルナーは普通に助かったけどよ……」
「なんだよ? 俺が一緒じゃダメだったのか?」
「そうは言ってねぇよ。ただ、お前さんには難しい話で暇だったんじゃねぇかって話だ。別に箒と一緒に教室で待ってても良かったんだぜ?」
「それは……」
そんなことは無いと言いたかった。
けど、恥ずかしくて、そんな事は言えない。
なんでか、この三人と一緒にいると心が温かくなって落ち着く。
一夏の語彙力では、まだこの気持ちを上手く表現は出来なかった。
「や…やめろ!」
「うるせぇ! 男みたいな話し方をしやがって! 生意気なんだよ!」
四人が教室の前まで来た時、中から箒の叫び声が聞こえてきた。
急いで扉を開けると、窓際まで追い詰められている箒が三人の男子に囲まれていた。
そのうちの一人は、箒の髪を結んでいるリボンに手を掛けている。
「お前ら!! 何をやってやがる!!」
「げ! 織斑! それに、外人女共も!」
「だ~れが外人女共だ。ちゃんと名前で呼びやがれ。いや…無理か。お世辞にもテメェらはそこまで記憶力有りそうにないしな」
「お前っ!!」
ソンネンの挑発にまんまと乗って、箒から離れる男子三人。
その隙をついて、ヴェルナーが箒の元まで行ってから。手を引いて自分達の所まで来させた。
「大丈夫だったか?」
「もう大丈夫だ。私達がいる」
「ありがとう……ヴェルナー…デュバル…ソンネン……一夏も……」
袖で涙を拭いながら四人の後ろに隠れるようにする箒。
とても怯えている様子を見て、久し振りにキレてしまった三人がいた。
「……デュバル」
「承知している」
いきなりデュバルは一夏の手を握って歩き出す。
ちょっとだけドキっとなりながらも、突然の事に驚いてしまう。
「お…おい! どこに行くんだよっ!?」
「職員室に戻ってから先生を呼んでくる。この中では私とお前が一番足が速いからな。急ぐぞ」
「で…でも、箒たちが!」
「大丈夫だ。ここはソンネンとヴェルナーに任せておけ。あんなガキどもにどうこうされるような二人ではないさ」
「うぅ~……」
男としてのプライドが邪魔をするのか、この場から動くのを躊躇う一夏。
でも、最終的にはデュバルに説得されて職員室まで走る事にした。
「頼んだぞ」
「「任せとけ」」
それだけを言い残してから、二人は教室を後にする。
残されたのは、まだ泣いている箒と、それを庇うようにしているソンネンとヴェルナー。
それから、先程まで箒を苛めていた三人の男子だ。
「で? 一応の言い訳でも聞いてやろうか。なんで箒を苛めてた?」
「こいつの話し方が生意気だったからだ! お前らもだ! 外国人のクセに偉そうにしやがって!」
「「そうだそうだ!」」
「「はぁ……」」
なんとも子供らしい文句。
分っていたとはいえ、思わず溜息が漏れてしまう。
だが、二人は知っていた。
このような子供の何気ない悪意こそが最も誰かを傷つけるのだと。
だからこそ、二人はここでこの悪ガキ共に対して『教育的指導』をすることにした。
「まずはお前だ! この車椅子女!!」
リーダー格と思われる男子がソンネンに向かって殴りかかってくるが、それを彼女は難なく受け止める。
「なんだこりゃ? こんなヘナチョコパンチで誰を殴るつもりだ?」
「は…離せ……!」
細い見た目からは想像も出来ないような怪力で拳を掴まれて、身動き出来ない男子。
それもその筈。あの白騎士事件以降、ソンネンとデュバルは今の己達の無力さを痛感し、それから自主的に少しずつではあるが、改めて自らの体を鍛え始めたのだ。
無論、孤児院にトレーニング器具なんて存在しないから、水の入った2リットルのペットボトルをダンベル代わりにしたりして、色んな工夫をしながら無理のない範囲で筋肉を育てていった。
当然、ヴェルナーもそれに参加をして、同じように体をビルドアップしている。
今では、普通の小学生程度では絶対に歯が立たないレベルには確実になっていた。
「オレの爺さんが言っていた……」
「え……?」
「『水や食べ物を頭からぶっかけられても、大抵の事は笑って見過ごしてやれ。だがな…どんな理由があっても、自分の大切な友達を傷つける奴だけは絶対に許すな!』ってな!!」
「いいことを言う爺さんじゃねぇか…! 全くもって同感だぜ!!」
「「「ひぃぃぃぃぃっ!?」」」
歴戦の元ジオン軍人達の本気の殺気を真正面から受ければ、普通の小学生なんて一溜りもない。
二人から放たれた圧倒的なまでもプレッシャーを浴びて、全身を恐怖で震わせながら完全にぼろ泣きしていた。
「これ以上、オレ達のダチ公を苛めるようならな……」
掴んだ拳を突き放すようにしてから離して、尻餅を付いた男子を全力で睨み付ける。
「この、ジオン公国軍戦車教導団教官の『デメジエール・ソンネン少佐』と!!」
「ジオン公国軍海兵隊所属の『ヴェルナー・ホルバイン少尉』が!!」
「「いつでも相手になってやるから、どっからでも掛かって来い!!!」」
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」
三人は悲鳴を上げながら教室から逃げて行った。
そんな彼らを、ソンネンとヴェルナーはずっと睨み付けていた。
因みに、後ろにいた箒には二人のプレッシャーは届いていなかったようで、全く平気そうにしていた。
「それでも男かよ……けっ!」
「情けない連中だな。あんなんじゃ海では生きていけねぇよ」
自分と同じ歳の女の子とは思えない程に、二人の背中が大きく見えた。
とても頼もしく、誇らしく、そして……。
(二人が…凄くカッコよく見えた……)
自分の胸に手を当てる。
心臓がドキドキを通り越して、バクバクしていた。
涙はもう止まっているが、その代わりに顔が熱くてなって、恐怖とは別の意味で体が震える。
「待たせた!」
「つれて来たぞ!」
「篠ノ之さん! 大丈夫っ!?」
それから少ししてから、デュバルと一夏が担任の先生を連れて来てくれた…が、もう既に全ては終わった後だった。
「あれ? あいつらは?」
「逃げてった」
「「「はい?」」」
三人にさっきまでの出来事を説明し、後の事は先生に任せてから彼女達はようやく帰路につくことが出来た。
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帰る途中の一幕。
「一夏…ソンネン…デュバル…ヴェルナー……」
「「「「ん?」」」」
「ありがとう……」
この時の出来事を切っ掛けにして、箒の心の中で大きな変化が起きていた。
初めて『同性』に向ける本気の『好意』。
今はまだ燻っているが、これが本気で燃え上がるのは、もう少ししてからの話。
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その日の夜。束の部屋。
彼女の携帯に、一通のメールが届いた。
「おや? これは…デューちゃんから?」
メールを開き、その内容を読み進めていく。
それを見て、束の目が大きく見開かれるが、読み終えてからは安心したように微笑んだ。
「ありがとね……三人とも……あれ?」
よく見たら、メールには文章の他に何か、誰かの個人情報のようなものが添付されていた。
「これは……」
それを開いて見てから、束は怪しく笑った。
「成る程ね~……。デューちゃんも悪よのぅ……」
時代劇の悪代官の真似をしながら、束は目の前にある機器を操作し始めた。
「君が何を言いたいのか分かったよ。任せといて。『蛆虫』はちゃんと『駆除』してあげるから♡」
次の日、箒を苛めていた男子たちは学校を休み、その数日後には三人揃って遠くに転校していった。
その後の彼らと、彼らの家族の消息は不明である。
今回も提供してもらった名言を使わせて貰いました。
本当に使い勝手がいいですよね、名言。
ヴェルナーをとてもカッコよく描けます。
おや? 箒の様子が……。