インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
つまり、彼女との一先ずの別れイベントですね。
でもまぁ、すぐにまた再会するんですけどね。
それは、デュバル達が四年生になった、ある日の事だった。
「「「「重要人物保護プログラム?」」」」
「あぁ……」
昼休みに教室で話していると、箒が気まずそうに顔を俯かせながら話してきた。
単語だけを聞くと、なんとも仰々しい感じがするが、流石の元ジオン軍人な少女達にも、ソレが何なのかは検討が付かない。
「ふむ……字面だけで判断するならば、政府が重要人物だと認めた者達を保護するプログラムと聞こえるが……」
「それで、どうして箒達が該当すんのかが分らねぇな」
「そいつに関しては、帰った後にでも調べればいいとして…だ。この場でその話を持ち出すって事は、何かオレ達に話したいことがあるんじゃないのか?」
「相変わらず、ヴェルナーは鋭いな……」
近くにある席の椅子に座り、箒は溜息交じりに話し出す。
「そのプログラムとやらのせいでな……引っ越す事になりそうなんだ……」
「なんだって……?」
「そんな……」
デュバルは怪訝な顔をし、一夏は悲しそうな表情を見せる。
彼にとって、箒は大切な友達であり幼馴染でもある。
いつも一緒にいた存在がいなくなるということは、まだ人生経験が少ない一夏には想像も出来ないのだろう。
「しかも、姉さんは『自分のせいだ』と言いだして、家を出ると言い出す始末だし……」
「おいおい……マジかよ……」
「そいつは…ちーっと洒落になんねぇな……」
破天荒に見えて、その実、束はかなり責任感が強い。
もしかしたら、今回の事も己が悪いと思っているのかもしれない。
「束は今、確か……」
「高校を卒業したばっかだから、家を出る分には問題は無いだろうけどよ……」
「それとこれとは話が別だしな」
「束さん……」
自分達の知らないところで、かなり深刻な事態に発展していたことに後悔の念を隠せない三人。
一夏も、姉の親友であり、昔から仲良くしていた人物がいなくなることを悲しく思っていた。
「でもよ、流石に明日にでも…って訳じゃないんだろ?」
「あぁ……。色んな準備とかもあるから、まだ暫くはこっちにいる事になってる。先生にはもう話してあるけどな」
「「「「…………」」」」
もしも、三人が前世のような立場で大人だったのならば、すぐに方々に手を回してからどうにかしようと頑張るだろうが、今の彼女達は少し体を鍛えている事と前世にて軍人だったことを除けば、今は無力な小学生女子に過ぎない。
何か行動を起こしたくても、起こせないのが現実なのだ。
「……ままならねぇな」
「そうだな……」
「世知辛いもんだな……」
場の空気が重くなり、賑やかな周囲とはかけ離れた雰囲気になっていく。
結局、この後は黙ったままの状態で昼休みが過ぎていった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
孤児院に帰ってから、三人はすぐにスマホを使って調べてみることに。
「重要人物保護プログラム……出た!」
「どれだどれだ?」
「ここだ」
ロビーにあるソファに揃って座り、三人揃って覗き込むようにしてからスマホの画面を見ている。
傍から観察していると、完全に今時の小学生女子だ。
「ふむ……」
「成る程な……」
「よくもまぁ、こんなもんを考え付いたもんだ」
画面をタップした後に、食い入るように文章を読んでいく。
全てを読み終えると、そのままソファに体を預けた。
「つまり、ISに関わる人間達……操縦者や研究者、整備士や開発者の二等親以内の家族を、文字通り政府で保護する為のプログラムというわけか……」
「今や、世界の中心はISになっちまってるからな。大なり小なり、それに関わっちまってる人間はどいつもこいつもが重要人物って訳かよ」
「名目上は、そういった人物達の家族を保護することで、テロリストなどの犯罪者たちの手から守るの目的のようだけどよ……」
もう一度、スマホに表示されている文字を見る。
「これ、絶対にいいように利用するための人質にするつもりだろうが……」
「目的が見え見えすぎて、怒る気にもなれん……」
「こりゃ、束が自分から家を出るって言い出すのも納得だぜ」
お菓子にと用意したポテトチップスの袋を開けてから、一枚だけ口に放り込む。
「なんたって、束はISを生み出した張本人。日本政府からすりゃ、喉から手が出るほどに欲しいだろうぜ」
「だが、それは何も日本だけに限った話じゃない。必ずや、他の国々も彼女の頭脳を狙っている筈だ」
「だとすりゃ、間違いなく各国の束争奪戦に篠ノ之家の人間達が巻き込まれる。だから、奴さんは自分の方から出て行くことを決意した……か」
三人揃って麦茶をゴクリ。
大きく溜息を吐いてから、顔に手を当てる。
「こればっかりはよ……オレらじゃどうしようもねぇよな……」
「あの事件には私達も深く関わっている。他人事では済まされんしな……」
「今のオレ達に出来ることがあるとすれば、せめて転校までの間に少しでも一緒にいてやることだな。そんでもって、何かプレゼントでもやれれば完璧だな」
「「それだ!!」」
ヴェルナーが言った何気ない一言に対し、過剰に反応するソンネンとデュバル。
「幼い我が身であっても、思い出作りぐらいは出来る!」
「そうだな! でもよ……一体何を送ればいいんだ?」
「「「う~ん……」」」
今度は三人揃って考え込む。
『女三人寄れば姦しい』とはよく言ったものだが、まさかそれが彼女達にも該当するとは。
「……取り敢えず、一夏や千冬の姉さんと相談してみようぜ」
「それが良さそうだな。千冬さんも一夏経由で知らされているだろうし、何かいいアイデアを提供してくれるやもしれん」
「だったら、この話題はここで一先ずお開きだ。となれば、今のオレ達がするべきことは……」
鞄からプリントと筆箱を取り出してから、テーブルの上に並べる。
「「「宿題だな」」」
なんかかんだいって、ちゃんと小学生はやっている三人であった。
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・・・・
・・・
・・
・
日曜日。
元ジオン軍人三人娘は、織斑姉弟と一緒にとあるデパートまで来ていた。
「なんだか悪かったな、千冬さん。折角の日曜を潰すような真似をさせちまって」
「別に気にするな。お前達から誘われなかったら、こっちからお前達の事を誘っていたさ」
密かに聞いた話なのだが、実は千冬は『過去の経験』を活かし、今は正式なISの操縦者をしているらしい。
既にかなりの場所まで行っているらしく、下手なバイトなどよりも遥かにいい給料を貰っているとかなんとか。
その代償として、学生時代よりも家にいられる時間が大幅に減ったらしい。
因みに、三人娘も孤児院の手伝いなどをして小遣いは貰っている為、プレゼントを買う分には全く問題は無い。
普段から余り散財しない三人は、こんな時の為に貯金をしていたのだ。
「さて……と。問題は何を買うか、だが……」
「普通に悩むな……」
これまでの人生の中で、敵兵に銃弾をくれてやった事はあっても、友達にプレゼントなんてやった事は無い三人は、割とマジで何をやればいいのか悩んでいた。
「箒と言えば剣道をしているイメージが強いけどよ……」
「竹刀とか防具とかはないよな……」
「それ以前に高すぎて、オレ等の金じゃ絶対に買えない」
「「「だよなぁ……」」」
他に箒をイメージさせる物を必死に考えながら、デパート内をゆっくりとうろつく。
すると、一夏がある物を見つけた。
「なぁ……アレなんかどうだ?」
「「「アレ?」」」
一夏が指さした物を見てみると、一気に三人の表情が変わった。
「成る程……確かにこれはいいな」
「すっかり忘れてたな。これも立派に箒を強くイメージさせるもんだ」
「それに、コレなら種類別に買っても問題なさそうだ」
「ならば、それにするか?」
「「「あぁ!」」」
こうして、箒へのプレゼントが決定した。
え? 束へのプレゼント? なにそれ美味しいの?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そして、篠ノ之家の人々との一時の別れの時がやって来た。
篠ノ之家の前には、千冬と一夏だけでなく、三人娘を初めとした孤児院の人間達も一堂に集まっていた。
というのも、実は一夏や箒はよく孤児院に遊びに行っていて、その時に孤児院の子供達とも知り合いになっていたのだ。
既に篠ノ之夫妻は車に乗っていて、いつでも出発出来るようになっている。
(なぁ…千冬さんよ)
(どうした?)
(束からは何か連絡は来たか?)
(メールが一通だけな。『また会おうね!』だとさ……。そっちはどうなんだ?)
(私達も似たようなものです。『近いうちにまた会おうね』と)
(そうか……)
(多分、下手にこっちと会って別れなんかを告げたら、オレ達まで巻き込むと思ったんだろうな。あの人らしいよ)
(そうだな……)
子供達がそれぞれに箒と別れの挨拶をしている中、千冬と三人娘は小声で束について話していた。
束はこの場におらず、家族にも殆ど何も言わずに去っていったらしい。
箒も、その事は少なからずショックだったようで、かなり落ち込んでいた。
「お前の所の子供達は、皆がいい子達ばかりだな」
「えぇ。私の自慢の子供達だよ」
柳韻と院長が仲良さげに話している。
どうやら、以前にこの二人が昔なじみだったという話は本当だったようだ。
「次は姉ちゃんたちの番だぞ!」
「おう」
年下の男の子に言われて、一夏と三人娘が一緒に前に出る。
その手には、綺麗にラッピングされた箱が握られていた。
「なんだか、寂しくなるな……」
「けどまぁ、人生なんてこんなもんだ。出会いがあるから別れもある」
「向こうに行っても達者でな」
「あ…あぁ……」
泣くのを我慢しているのが丸分りで、服の裾を思いきり掴んで耐えていた。
だが、そんな彼女の涙腺を崩壊させる一撃を今から放つ。
「ほらよ。オレ達からお前さんへのプレゼントだ。ありがたく受取りな」
「プ…プレゼント……?」
一夏、ソンネン、デュバル、ヴェルナーからそれぞれ受け取って、まじまじとそれを見る。
試しに軽く振ってみるが、何も音は聞こえない。
「これはなんなんだ?」
「気になるのなら、この場で開けてみるといい」
「いいのか?」
「「「「勿論」」」」
包み紙を破らないように、慎重に包装を開けていき、ゆっくりと箱を開けてみると、そこには……。
「リボン……?」
「おう。よく髪を結ぶのにリボンを使ってるだろ? だから、四人でそれぞれ、色違いのリボンを送ろうって話になったんだ」
「因みに、リボンを送ることを最初に思いついたのは一夏だ」
「え……?」
「ま…まぁな……」
照れくさそうに頬を掻きながらそっぽを向く一夏。
まだまだ羞恥心が勝ってしまうお年頃なのだろう。
デュバルはヅダの色を意識したのか、水色のリボンを。
ソンネンも、自分の愛機を彷彿とさせる緑色のリボンを選んだ。
ヴェルナーは漁師の孫らしく、鮮やかな青に白い水玉模様のリボン。
一夏は箒のイメージで選んだのか、真っ赤なリボンだった。
「こんなにも……いっぱい……」
「その日の気分で好きなもんを着ければいいさ」
「何を選ぶかは君の自由だ」
「うん……」
四本のリボンを大事そうに両手で持ち、箒は同年代で最も仲が良かった四人を見つめる。
「だ…だが、勘違いするなよ! 別れは辛いけど、私は寂しくなんて……」
「箒」
強がろうとする箒の言葉を遮って、ヴェルナーが一歩前に出る。
「オレの爺さんが昔、こんな事を言っていた」
「な…なんだ?」
「『本当に寂しい時には『大丈夫』と言わないで、ちゃんと『寂しい』と言えるような人間になれ。寂しい時に寂しいと言えない人間は、人の痛みが分らない人間になってしまう』……ってな」
「ヴェルナー……私は……わたし…は……」
ここで遂に限界が来てしまったのか、箒が大粒の涙を零しながら四人に向かって抱き着こうとした。
実際には、中央にいたデュバルとヴェルナーの二人に抱き着いたのだが。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!! わたじだって……わだじだってほんどうはみんなど別れたくないよぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「私達も同じ気持ちだよ」
「大丈夫だ。どれだけ離れてても、オレ達の心は繋がってる」
「それでも寂しくなった時は、遠慮なく孤児院に電話でもしてこい。あそこにいる時はいつでも話し相手になってやるからよ」
「俺んちもいつでも電話は大丈夫だぞ! なっ!? 千冬姉!」
「あぁ。勿論だとも」
「デュバル……ヴェルナー…ソンネン…一夏…千冬さん……」
ひとしきり泣いてから、箒は名残惜しそうに離れていった。
「貴方から教わった事は決して忘れません。本当にありがとうございました」
「それはこちらのセリフだ。君と出逢えたお蔭で、私もまた色んなものが見えた気がする。それに、君達には娘達が世話になった。こちらこそ、本当にありがとう」
デュバルと柳韻も別れの挨拶をして、それから箒が車の後部座席に乗った。
「千冬くん。恐らく束のことだから、何らかの形で君達に接触してくるはずだ。その時はどうか、よろしく頼むよ」
「分っています。あれでも私の大事な親友ですから」
「君のような親友を持てて、束は幸せ者だな……」
エンジンが掛かり、車がゆっくりと走り出す。
箒が窓を開けてから顔を出し、また泣きながら手を振っていた。
「私達は決して『さよなら』なんて言わない。また会おう…箒!」
「うん…うん! またな! またな!!」
車が遠くまで行き、小さくなるまでずっとその場にいて手を振り続けた。
そして、車が完全に見えなくなったところでソンネンが小さく呟いた。
「体に引かれて精神までガキになっちまったのかな……。なんだか涙もろくなったみたいだぜ……」
「奇遇だな……私もだ……」
「泣きたけりゃ、いつでも好きなだけ泣けばいいさ。今度、いつまた泣けるか分らないんだからな……」
「あぁ……そうだな……」
三人は声を出さず、静かにその場で泣いた。
一夏はさっきからずっと泣いていた。
そんな四人を、千冬はそっと優しく後ろから抱きしめていた。
箒、一時離脱です。
そして、またもや名言を使わせていただきました。
実にベストな名言があったので『これだ!』と思って使いました。
次回から、あのチャイナガールが登場?
彼女は元ジオン兵三人娘とどう絡んでいくのでしょうか?