インフィニット・ストラトス IS IGLOO   作:とんこつラーメン

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前回の予告通り、今回は『彼女』のご登場。

そして、もうすぐ小学生編も終わりを迎えます。

ここまではまだまだ序章にすぎません。

中学に上がってからが、ある意味で本番なのです。

なにせ、『超重要イベント』が待っていますからね。









新しい出会い

 箒が転校をしてから一年が経過した。

 あれから時間が経ったということもあり、元軍人娘たちは自分なりに立ち直り、いつも通りの毎日を送っていた。

 一夏の方も、三人や千冬に励まされながら徐々に立ち直っていき、今ではすっかり笑顔を見せるようにもなっていった。

 それと同時に、自然とデュバル達の事を目で追う回数も増えていっているが。

 

「……………」

「おい織斑。さっきから誰を見てるんだよ?」

「え? い…いや、なんでもねぇよ」

「お前……まさか……」

「なんだよ……」

「我がクラスの誇る美少女三巨頭に目を付けてるのではあるまいなっ!?」

「なんだよ…その『美少女三巨頭』って……」

「そんなの決まってるだろうが! ソンネンさんとデュバルさんとホルバインさんの三人の事だよ!」

「なんだそりゃ……」

 

 一夏から見ても、三人はかなり可愛い部類に入るとは思っているが、どうしてそんなにも騒いでいるのか全く理解出来ていなかった。

 

「清楚な金髪お嬢様系美少女のデュバルさん!!」

「和風系美少女に見せかけて、実は面倒見がいい姉御系美少女のソンネンさん!!」

「そして! 褐色の肌が眩しい健康美を誇る南国系美少女のホルバインさん!!」

「「「このクラスで本当に良かった……」」」

「アホか」

 

 あの三人が男女問わずに人気が高いのは知ってはいたが、ここまでとは思わなかった。

 仲のいい幼馴染が皆から好かれているのは良い事の筈なのに、何故か素直に喜べない自分がいた。

 

(なんなんだよ……このモヤモヤした気持ちは……)

 

 一年前、箒がいなくなってから、その気持ちは特に大きくなってきた。

 彼女達が誰かと話しているとムカつくのに、それとは逆に、自分があの三人と一緒にいると凄く落ち着く。

 なんでこんな事になっているのか、一夏はまだ全く分らないでいる。

 彼がこの気持ちに『色』を付けられるようになるのは、もう少し先の話。

 

 そんな少年の悩みなど全く知らない三人は、今日も今日とていつものように過ごしている。

 

「あ~…海鮮丼食べたい」

「また急だな」

「漁師の血が原因の突発的な発作か?」

「そんなもんだ。海鮮丼が無理なら、せめて船盛が食いたい」

「贅沢だなっ!? けどまぁ……刺身の美味さは理解出来るがな」

「オレも、日本に来るまでは生で魚を食うなんて想像もしてなかったぜ。でもよ……」

「あれは反則だ。ハッキリ言って美味過ぎる」

「完全に食わず嫌いだったよな。初めて刺身を食った時は、マジで人生の大半を損してる気分になったぜ……」

「「「また食べたいな~……」」」

 

 珍しく、小難しい話題じゃない三人。

 戦争経験者としては、食文化が豊かな現代日本は色々と衝撃的だったようだ。

 

(……美味い飯を作ったら、あいつらも喜んでくれるかな……)

 

 織斑一夏、少しだけ心境が変化する。

 これが彼にとって、吉と出るか凶と出るか。

 それは本人次第だろう。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 それは、余りにも突然の事だった。

 

 ある日の朝のHR。

 本来ならばいつものように担任の先生が出席簿片手に入ってきて、児童たちに対して出席を取るところなのだが、今日だけはなんだか様子が違った。

 担任が教室に入って来たかと思うと突然、黒板に向かって何かを書き始めた。

 

「なんだ?」

「さぁ……」

 

 教室にいる全員が訝しんでいる中、何かを書き終えた先生が改めて正面を向く。

 黒板には【凰 鈴音】と書かれてあった。

 

「まさか……転校生か?」

「おうりんね……? いや、すずねって呼ぶのか?」

「ちょい待ち。まさかとは思うけどよ、もしかしてあれは……」

 

 先生にバレないレベルで小声で話す三人。

 元軍人の彼女達からすれば、この程度は容易に出来る。

 

「いきなりであれだけど、今日からこのクラスに転校生が来ます。それじゃあ、(ファン)さん。入ってきていいわよ」

「わ…分りました」

 

 緊張をした面持ちで入ってきたのは、黒く長い髪をツインテールに纏めた一人の少女で、少し釣り目なところがどことなく中華風な雰囲気を漂わせる。

 

「では、自己紹介をお願いできるかしら?」

「は…はい」

 

 教壇の前に立ってから、全員に注目されながら少女はゆっくりと自己紹介を始めた。

 

「え…えっと……中国から来ました…『(ファン) 鈴音(リンイン)』と言います。よろしくお願いします」

 

 まさかの中国人の転校生に、全員が驚いて無言になる。

 決して彼女の事を変な目で見ているわけではなく、純粋に驚いていた。

 

「凰さんはご両親の都合で日本へと引っ越してきました。まだ色々と戸惑う部分もあるとは思うけど、仲良くしてあげてね」

 

 全員が無言で頷く。

 どんな反応をすればいいのか、普通に分らない。

 

「そんな訳だから……ソンネンさん。デュバルさん。ホルバインさん」

「「「はい?」」」

「暫くの間、彼女の事をよろしく頼むわね」

「「「そんな事だろうと思った」」」

 

 自分達もまた日本の人間ではない。

 故に、彼女の世話役を押し付けられるであろうことは、薄々と感づいていた。

 

「あ…あの……?」

「大丈夫。見たら分かると思うけど、あの子達も凰さんと同じ海外から来た子達なの。でも、今ではすっかり日本に馴染んでる。だから、必ずあなたの力になってくれるわ」

 

 別に、彼女と仲良くなりたくない訳ではない。

 寧ろ、親友が増えるのは純粋に大歓迎…ではあるのだが、これは余りにも無理矢理感が過ぎるのではなかろうか?

 

「これもう絶対に断れない雰囲気を出してるな……」

「周りから固めてきやがったか……」

「こうなったらもう、潔く諦めるしかないな」

 

 そんなわけで、三人が彼女の世話係に任命されました。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 転校生の少女の紹介が終わり、そのまま一時間目の授業に入るのだが、転校してきたばかりの彼女はまだ教科書を持っていない。

 となれば、誰かに見せて貰わなくてはいけなくなるのだが……。

 

「む……そうか。君はまだ……承知した。私と一緒に見ようではないか」

「え……いい…の?」

「勿論だとも。困った時はお互い様だ」

 

 偶然にもデュバルの隣の席が空いていたので、必然的に彼女はそこに座ることとなる。

 となれば、当然のようにデュバルが自分の教科書を見せなくてはいけなくなる。

 このように書けば語弊があるかもしれないが、デュバルは決して面倒くさいなどとは思っていない。

 この手の割り切りは昔から得意だった。

 

(こうしていると、ヅダのテストパイロットをしていた頃、新兵に色々とレクチャーをしていたのを思い出すな……)

 

 少佐と言う立場上、デュバルにも少なからず部下はいた。

 だから、誰かの世話を焼くこと自体は全く苦とは思っていない。

 

(よしよし。早速、仲良くやってるみたいね。私の予想通りね!)

 

 内心でガッツポーズをしている担任(女性 29歳独身 絶賛彼氏募集中)。

 だが、そんな短時間で仲良くなんて慣れる筈もなく、これは単純にデュバルの親切心が成した結果に過ぎない。

 だが、これが後々の彼女達の関係の切っ掛けになったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 昼休みになり、改めて三人は鈴音と話をすることに。

 

「まぁ…なんだ。一応は私達も自己紹介をしておこう。他の皆に関しては、おいおい名前などを憶えていけばいい」

「う…うん」

 

 まだ緊張が取れないのか、声が硬くたどたどしい。

 流石に敬語はもう取れてはいるが。

 

「私はジャン・リュック・デュバルだ。よろしく」

「デメジエール・ソンネン。名前は長くて呼び難いだろうから、ソンネンでいいぜ」

「ヴェルナー・ホルバイン。ま、こうして同じクラスになったのも何かの縁だ。仲良くしようや」

「ど…どうも……よろしく…です」

 

 彼女からしても、初めて見る西洋系の少女達。

 仮に鈴音でなくても緊張はしてしまうだろう。

 

「あ…あの……」

「なにかな?」

「三人も外国から来たって先生が言ってたけど……」

「おう。オレさまとデュバルはイギリスから。こっちのヴェルナーはフランスから来てるらしいぜ」

「つっても、正確にはオレが生まれる前に両親が日本に来て、こっちで生まれてるから、フランスの血が流れてるなんて自覚は全くないんだけどな」

「そ…そうなんだ……」

「その点に関しては私達もだな。もう日本に来てから随分と経つ。すっかりこちらの文化にも馴染んでしまっている」

「箸とかも、もう普通に使えるしな」

 

 その光景は、実際に先程の給食の際に見させてもらっていた。

 まるで人形のような美しさを持つ彼女達が器用に箸を使う光景は、かなり驚いたようだ。

 

「す…凄いんだね……」

「単純に慣れただけだ。凰さんも、こっちで過ごしていけば私達と同様に、自然と慣れていくだろう」

「鈴……」

「「「ん?」」」

「あたしの事は『(リン)』でいい…よ。お父さんやお母さんからもそう呼ばれてるし」

「了解した。これから君の事は『鈴』と呼ぶようにしよう」

「愛称ってやつか。いいじゃねぇか。一気に仲良くなれた気がするな」

「これが第一歩ってやつなんだろうな」

 

 元々があんまり人見知りなどしない性格の三人なだけあって、ほんの少しではあるが、鈴の心を解き解す事には成功したようだ。

 何気に人心掌握術も優れているのかもしれない。

 

「ところで……」

「「「ん?」」」

「さっきからこっちを見てる男の子は誰なのかな……?」

「「「あぁ~……」」」

 

 鈴が指さした方には、羨ましそうにこちらを見つめている一夏の姿が。

 傍には他の男子もいて、同じように見てはいるが、全く別の意図があって見ているようだった。

 

「あいつは『織斑一夏』と言ってだな……う~ん……」

「ほら、アレじゃねぇのか?」

「アレとは?」

「幼馴染……か?」

「そうソレだ! オレ達と一夏の関係性を表すには、それが一番しっくりとくるんじゃねぇか?」

「ふむ……言われてみればそうかもしれないな。今にして思えば、一夏とは小学校に入る前からの仲だ」

「幼馴染としての定義は充分に満たしてるんじゃないのか?」

「それ以前に、幼馴染の定義自体を私は知らないのだが……まぁいい」

「幼馴染……」

 

 生まれた国が違う四人が幼馴染同士になれる。

 普通なら信じられないようなことが実際に目の前で起きていることに、鈴は少しだけ期待をしていた。

 

(あたしも……この子達みたいな『幼馴染』になれるのかな……?)

 

 凰鈴音。ほんの僅かではあるが一歩前進。

 全てはここからだ。

 

 因みに、そんな少女達を離れた場所から見ていた男子たちは……?

 

「いや~…中華系美少女もいいですな~。国籍が違う四人の美少女が集まって仲良く話に花を咲かせる。控えめに言っても最高だな」

「これはアレだな。『三巨頭』から『四天王』に変えないといけないな」

「まだ言ってんのかよ、それ……」

 

 男子たちの会話を呆れながら聞き流しつつ、一夏はずっと彼女達の事だけを見つめていた。

 

(さっきから何の話をしてんのかな……? 本当は今すぐにでもアッチに行きたいけど、こいつらが許してくれないだろうな~……)

 

 男子たちの憧れの的である美少女達と仲がいい一夏は、別の意味で注目されている。

 主に嫉妬の対象として。

 

 こうして、彼女達の日常に新たな風が吹いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




まずは大人しい鈴ちゃんから。

次回からはすっかりいつもの感じになった彼女をお送りできるかと。

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