インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
果たして、彼女はちゃんと日本とクラスに馴染めたのでしょうか?
そして今回、ちょっとしたフラグが立つ?
人間とは、10日も経てばどんな環境にも適応すると言われている。
流石に『どんな環境』は言い過ぎかもしれないが、それでも、10日もあれば大抵の事には慣れてしまうだろう。
それは、故国から他の国へと家族と一緒にやって来た『彼女』も例外ではなかった。
「ほら、じっとしてて」
「あ…あぁ……」
鈴が転校して来てから、早くも1ヶ月が経過した。
最初は周囲に対して恐る恐る接していた彼女であったが、元ジオン軍人3人娘が中間に立つことで徐々に馴染んでいった。
担任の目論見通りになったのは些か気に食わないところもあるようだが、自分達のプライドなどよりも、まずは鈴がクラスに馴染めるようになるのが最優先だと判断したのか、全く文句などは言わなかった。
「ジャンの髪って本当にサラサラしてるわよね~。何か使ってるの?」
「いや。別にこれといったことはしてはいないが……」
「じゃあ、これって天然? 何よそれ……」
結果、鈴は見事にクラスに馴染んでみせた。
それはいい。本当にいい事なのだが……。
彼女の場合は、余りにも馴染み過ぎた。
気が付けば、あの大人しかった鈴はすっかり姿を消し、彼女の本来の性格が露わとなった。
鈴はとても社交的で活発な性格で、一度でも打ち解ければ誰とでも仲良くなれる人物だった。
その性格が上手に作用したのか、あっという間にクラスの内外に多くの友を獲得していた。
その筆頭が、この物語の主役たちなのだが。
「……なんで私は鈴に櫛で髪を梳かれているのかな?」
「あたしがジャンの髪に触りたくなったから」
「……そうか」
この通り。
他の人間には呼び易さを重視してファミリーネームで呼ばせているのだが、何故か彼女の場合は3人の事を一貫してファーストネームで呼んでいる。
別にダメではないのだが、余り呼ばれ慣れていないので、なんともむず痒い思いをしている。
「以前の物静かだったお前はどこに行ってしまったのかな……」
「何度も言ってるでしょ? あれは単純に初めての場所で緊張してただけだって。今のあたしこそが本当のあたしなのよ」
「そうなのか……」
前世でも、こんな性格の人間は周囲にはいない……ことは無かった。
今思い出せば、一人だけこんな性格の人物がいた気がする。
ヅダの2番機に搭乗していたり、ゼーゴックにサブパイロットとして搭乗していたりとかしていた人物が。
「デメも。ジャンが終わったら梳いてあげるから」
「げ。なんでオレ様まで巻き込まれるんだよ」
「あんたが全く手入れとかしてないからでしょうが! こんなにも綺麗な黒髪なんだから、せめて櫛で整えるぐらいはしないと勿体無いじゃない!」
「オレの髪をどうしようが、そんなのオレの勝手だろうがよ……」
「なんか言った?」
「い…いや、なんでもない……」
「ならよし」
すっかり4人+αで一緒にいることが多くなったが、何故か鈴が完全にイニシアチブを握っていた。
「勿論、そこで笑ってるヴェルナーもちゃんとするんだからね?」
「やっぱりか……」
「当たり前じゃない。どんだけ腕白でも、立派な女の子なんだから。ここでちゃんとしとかないと、後で後悔するのは自分なのよ?」
「そんなもんかね……」
「そんなもんなの。分ったら、昨日みたいに逃げようとするんじゃないわよ」
「へいへい。了解だよ」
グイグイくる鈴の姿勢に観念したのか、両手を上げて降参のポーズをするヴェルナー。
少し前から、鈴は少しでも3人を女の子らしくしようと奮闘している。
一体何が彼女をそこまで突き動かすのかは謎だが、『親友』の折角の好意を無下にも出来ない為、色々と言いながらも結局は彼女に付き合う形となっている。
「そんな訳だから一夏。二人が逃げないようにちゃんと見張ってるのよ?」
「俺かよ……。と…ところでさ鈴……」
「なによ?」
「デュバルの髪って、そんなにも肌触りがいいのか?」
「もち。すっごいサラサラしてて、まるで高級な絹糸みたい。高級な絹糸なんて見たことも触った事も無いけど。もしかして、触ってみたいの?」
「い…いいのか?」
「ダメに決まってるじゃん」
「なんでっ!?」
「あんたの事だから、触られる相手の事なんて全く考えずに乱暴にするでしょうが! 折角、ここまで梳いたのに台無しになったらどうすんのよ!」
「んなことしないって!」
「どうだか」
「なんで俺の信用度だけ、そんなにも低いんだよ~!?」
「男の子と同じ感覚で女の子と接しようとするからでしょ?」
「それの何がいけないんだよ?」
「別に、男女平等の精神を否定はしないけど、それでもやっぱり力とか体つきとかで違いは出るんだから、其処ら辺をちゃんと考慮しなさいって言ってるの。やんちゃなヴェルナーとかはまだいいけど、ジャンやデメとかにそんな事をしたら……」
「したら?」
そこで、鈴は他のクラスメイト達の方を向いて指をさす。
「確実に、学年中の男子と女子の全員を敵に回すわよ」
「げ」
「一夏は知らないかもだけど、この3人って凄い人気者なのよ? この意味…分かるわよね?」
「お…おう……」
「だったら、少しは自重することを覚えなさい」
傍で自分達に関してのとんでもない発言が飛び出し、3人は微妙な顔をしていた。
「それを聞かされて、私達はどう反応すればいいのだ……」
「こっちに聞かれても困るっつーの……」
「人気者は大変だな」
「「お前もだよ」」
「マジか」
一段と賑やかになっても、平常運転な3人なのだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その日の夜。
孤児院にあるソンネンの部屋にて3人集まって駄弁っていた。
「なんというか……」
「相変わらず、見事に戦車一色だな。お前の部屋は……」
「オレの生き甲斐みたいなもんだしな」
棚の上には戦車の模型、壁には戦車のポスター。
他にも、実際の戦車のパーツや写真などが数多く飾られている。
生まれ変わっても、好きなものは好きなのだからしょうがないのだ。
「そういうヴェルナーの部屋だって、海系一色じゃねぇか」
「まぁな」
船の模型に釣竿、ルアーに魚拓のコピー。
更には実物の銛に魚の人形なんかもあったりする。
良くも悪くも、ヴェルナーの趣味が爆発していた。
「一番まともなのは私だけか……」
デュバルの部屋は至って普通……と思いきや、実は彼女の部屋には機械工学に関する本がギッシリと敷き詰められていて、実は密かに買い集めている機械のパーツが沢山あったりする。
つまり、3人が3人共、人の事は全く言えないのである。
「「「ん?」」」
その時、デュバルのスマホに電話が掛かってきた。
こんな時間に誰なのだろうと思ってディスプレイを見てみると、そこには『篠ノ之束』の文字が。
「束……? また久し振りだな」
「取り敢えず、出てみたらどうだ?」
「それもそうだな」
ソンネンに言われるがまま、まずは通話に出てみることに。
念の為、スピーカーモードにしてから、皆で話が出来るようにテーブルの上に置いた。
「もしもし?」
『もひもひひねもす~? 皆のアイドルの束さんだよ~♪』
「まずは久し振りだと言っておこうか」
『うんうん。本当にお久だね~。皆は元気にしてるかな~?』
「言われなくても元気だぜ」
「同じくな。健康そのものだ」
『おっ!? その声はソーちゃんとナーちゃん! 二人も元気だね!』
「そちらもな。で、いきなり電話なんてどうした? まさか、また私達の声が聞きたくなったのか?」
実は、束はこれまでに何度か『皆と急にお話ししたくなったよ~』なんて理由で電話を掛けてきたことがあるのだ。
別に話すこと自体は構わないので、そんな事があった時は3人揃って普通に会話を楽しんでいる。
因みに、同じことを千冬にすれば、即座に通話を切られる。
『それもあるんだけど、今回は3人に重要なお話があるんだよ』
「「「重要な話?」」」
あの束が自分から『重要』と言う事とは一体何なのか。
それなりに付き合いが長い彼女達でも全く分らなかった。
『実は~……』
「実は?」
『3人の為の『専用機』を現在、開発中なので~す! ドンドンパフパフ~!』
「「「はぁっ!?」」」
突然の爆弾発言に、流石の3人も声を出さずにはいられなかった。
孤児院の部屋は防音加工されているから、他の部屋には聞こえてはいないが。
「わ…私達の専用機…だと……?」
『その通り! 詳しくは……』
ここでソンネンのスマホに何かが送られてきた。
『たった今、ソーちゃんのスマホに送ったデータを見てね~』
「用意周到だな……」
言われるがまま、ソンネンのスマホに送信されてきたファイルを開いてみると、そこにはISの設計図と思われるものが表示されていた。
「これは……」
「嘘だろオイ……」
「これはまた……」
色んな拡大したりしながら、隅から隅までじっくりと見ていく。
気が付けば、3人共が夢中になって画面に注目している。
『まだまだ完成には程遠いんだけど、なんとかデューちゃんの『ヅダ』とソーちゃんの『ヒルドルブ』は形になって来たんだよね』
「その2つの名前が出るって事は、まさかゼーゴックも……」
『まぁね。でも、あの機体は根本からして通常のISとは設計思想が違うから、この束さんでも開発が難航しているのですよ~』
「具体的には?」
『3種類の兵装に関しては大丈夫なんだけど、問題は制御ユニットとなる部分なんだよね。流石にあのままの状態でISとして運用するのは難しいからね……』
「確かにな……」
実際に操縦したから束の言っている事も理解出来る。
あのズゴックのボディをそのまま流用するのは非常に困難だろう。
『だから、各国が開発中の適当な量産機がつかえないかな~って思案中。実は、ナーちゃんの故郷であるフランスでとある大きな会社が次世代の量産機を開発中らしいから、まずはそれから試してみようかな~って』
「その『大きな会社』ってのは、どんな会社なんだ?」
『詳しい事は今から調べる感じ。確か名前は……『デュノア社』…だったかな?』
「聞き覚えは?」
「デュノア…デュノア……聞いたことがあるような、無いような……」
「これは、あんまし期待しない方が良さそうだな」
そもそも、ヴェルナー自身は日本で生まれている為、フランスにある企業の事を知らないのは当然なのだが。
それでも、一応は念の為に聞いておくのがデュバルなのだ。
『ヅダとヒルドルブは、機体性能はそのままで、ISと同等の大きさまでサイズダウンさせることは出来そうなんだけどね~』
「それが出来るだけでも十分に凄すぎるぞ……」
「暫く見ない間に、その天才っぷりに磨きが掛かってないか……?」
『二人に言われると、なんだか照れるにゃ~♡』
「にゃ~って……」
お前はもう何歳だ。
そう言いたかった3人だが、それは人として言ってはいけない事だったので、そのまま飲み込んだという。
『勿論、ヅダの方はエンジンとか装甲素材の欠点を私流に見直してから改良を加えるつもりだけどね。その辺りは本気で妥協しないよ』
「それは知っているさ。君の科学者としてのプライドの高さは、私達がよく知っているからな」
口調はお世辞にも真面目とは言えないが、その中にある高潔さは誰よりも分っていた。
束の目は、嘗ての自分達と同じ目をしていたから。
『あ! それとね、ちーちゃんには内緒にしておいてね。ちーちゃんって3人の事を凄く大切に思ってるみたいだから、もしも3人に専用機を作ってるってバレたら、何をされるか本気で分からないから……』
「『何を言われるか分らないから』じゃないんだな……」
「実際、あの人なら口より先に手が出そうだろうけどな……」
千冬とももう長い付き合いとなる為、それなりに性格を把握している3人。
時折、一夏の苦労を心配していたりする。
『それじゃあ、完成を楽しみに待っててね~! お休み~!』
そう言い残してから、束は通話を切った。
「まさか……本当に我らの愛機をISにしようとしていたとはな……」
「ずっと前に言ってたことが現実になっちまったな」
「因果なもんだな……」
嬉しいのか、それとも虚しいのか。
矢張り、自分達と戦場とは切っても切れない運命なのか。
そう思わずにはいられない3人だった。
無事に鈴ちゃんは原作通りの性格(?)に。
これからも、彼女の手によって3人がコーディネイトされていく?
そして、遂に専用機取得フラグが……。
でも、この段階で機体が手に入る可能性が生まれたということは……?