インフィニット・ストラトス IS IGLOO   作:とんこつラーメン

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技術屋に関するアンケートですが、少し前まではTS女の子派閥がリードしていたのに、ここに来て僅かではあるけど男の娘派閥が盛り返してきた~!

果たして、最終的に勝つのはどの派閥なのかっ!?

因みに、アンケートは原作開始と同時に終了する予定です。

つまり、まだもう少しだけ時間があるわけですね。






それぞれの絆

 6年生ともなれば、否が応でもその体に大なり小なりの変化が訪れてくる。

 少年は青年に近づき、少女は乙女に近づく。

 特に少女達はその変化が顕著に表れ、文字通り目に見えて現れてくる。

 体は丸みを帯びるようになり、腰が括れ、胸が出る。

 まだそこまで劇的な変化…は無いのが大半だが、もしかしたら数少ない者達は大きく変化しているかもしれない。

 そんな体の成長に伴う変化はこの齢の子供達には余程の事が無い限りは例外無く誰にでも訪れる。

 それは、前世では男であって、現在は見目麗しい美少女となってしまった元軍人である三人も決して例外ではない。

 

 体育の時間。

 今日の授業は体育館を使ってのドッヂボールなのだが、脚が動かせないソンネンはいつものようにチームには入らず、端の方で静かに座って見学をしていた。

 普段ならば車椅子に座っているのだが、今日は本人の気紛れで車椅子から降ろしてもらい、床に座ってボールの飛び交うコートを見つめていた。

 そこに、タオルで汗を拭きながら小休止をしに鈴がやって来た。

 

「おっす。さっきの試合、凄かったじゃねぇか」

「あんなの、別にどうってことないわよ」

「そうかぁ~? オレはそうは思わないけどな。あれは充分に誇ってもいいだろうよ」

「そ…そうかな……」

 

 余り真正面から褒められた経験が無いせいか、素直に言葉を受け止められずに照れくさそうに頬を掻きながらソンネンの隣に座った。

 

「そうだろ。鈴が最後の一人になっちまった時は万事休すかと思ったがよ、まさか、あそこから鈴一人で全員をKOしちまうなんて、誰が予想するよ?」

「意地になっただけよ。だって悔しいじゃない。一人になった途端に負け確定みたいなことを言われてさ。だったら『やってやろうじゃん!』って思っちゃったの」

「日本じゃそーゆーのを『火事場の馬鹿力』って言うらしいぜ」

「なによそれ。一夏から教えて貰ったの?」

「いや? 普通にこの前見たバラエティ番組で言ってた」

「なんじゃそりゃ」

 

 ここでふと思う。

 そういえば、こうしてソンネンと二人きりで話すのって、これが初めてじゃないかと。

 いつもは、デュバルやヴェルナー、一夏を初めとした皆が一緒にいるから、こんな機会は本当に貴重だ。

 

「……デメはさ、辛くは無いの?」

「何がだよ?」

「足が動かないせいで、皆と一緒に授業が出来なかったり、同じ遊びが出来なかったりすることよ」

「別に?」

「え?」

 

 かなりシリアスなトーンで話したのに、呆気なく返されてしまったので、逆に鈴の方が呆けた声を出してしまった。

 

「こんな体になっちまったのは今に始まった事じゃねぇからな。足が動かせない生活にも完全に慣れちまったし、いざって時は他の連中が助けてくれる。これ以上の事を求めるのは贅沢ってもんだろ」

「デメ……」

 

 鈴は純粋に心配をして言ったことなのだが、それは余計なお世話だったと思い知る。

 よくよく考えれば、まだ彼女と知り合ってから一年と少ししか経過していないのだ。

 たったそれだけの付き合いなのに、ソンネンのこれまでの頑張りを否定するようなことを言ってしまった。

 口調は荒くとも、根の部分は他者を想ってやれる優しい性格をしている鈴からすれば、それはとても許されないような気がした。

 

「……ごめん」

「急にどうした?」

「なんか……自分勝手に思い上がってたかも、あたし……」

「鈴……」

 

 いつになく真剣な顔をしている彼女に、ソンネンも思わず口を閉ざす。

 

「よし! 決めた!」

「何を?」

「今日から、あたしもデメの事を手伝う事にする!」

「また唐突に……」

「唐突じゃないわよ。いつも大変そうに着替えてるアンタを見てて、自分も手伝ってあげたいって何度も思ってたんだから」

「ふ~ん…。まぁ、こっちとしちゃ、有り難いけどよ」

「ま、このアタシにドーンと任せときなさいって!」

「へいへい」

 

 いつもの感じに戻った鈴を見て、ソンネンもホッと一息。

 だが、鈴の視線が自分の全身を舐めまわすようにしているのを見て、急に嫌な予感が走る。

 

「ねぇ……デメ……」

「な…なんだよ?」

「あんたさ……もしかして『大きくなった』?」

「大きく? あぁ~…確かに、この前の身体測定じゃ身長が2センチぐらい伸びてたっけかな」

「そっちじゃなくて!」

「じゃあ、どっちなんだよ……」

 

 何を言いたいのかが全く分からないソンネンは、完全にお手上げのポーズをする。

 

(明らかに去年よりも胸が大きくなってる…! それだけじゃなくて、この綺麗な生足とか普通に反則じゃないっ!? ほ…本当にデメってあたしと同じ小学6年生なのよね……? オレさま口調なのに、其処ら辺の女子よりも可愛くてスタイルもいいとか……)

 

 窓から見える青空を見て、そっと呟く。

 

「世の中って……不公平よね……」

「はぁ……」

 

 下手にツッコむのはやめた方がいいと判断したソンネンは、軽く返事をするだけに留めておいた。

 その頃、コートでは超人的な勘の良さでボールを回避しまくり、僅かな隙を狙ってから見事なカーブシュートで一夏にボールを当てていたヴェルナーがいた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 三人とすっかり仲良くなった鈴は、時折、一夏と一緒に孤児院に遊びに来るようにもなっていた。

 院長も子供達も大歓迎で、今ではすっかり顔馴染みとなっている。

 

 そんな今回は、五人で揃って勉強会をする事となっていた。

 別に中学受験があるわけではないが、それでも中学に上がってから勉強についてこれ無いような事態を少しでも避ける為にデュバルが提案し、鈴が賛成した形で実現した。

 ソンネンとヴェルナーも元軍人として、勉強の大切さはよく知っている為、反対はしなかった。

 唯一反対をしたのは、まだ遊び盛りの一夏だけ。

 だが、女子四人によるプレッシャーに勝てるほど、今の一夏の精神力は強くない。

 結果、流される形で勉強会に参加する羽目となったのだ。

 

 勉強会の舞台はデュバルの部屋なのだが、今は鈴と部屋の主であるデュバルしか室内にはいない。

 ソンネンとヴェルナーは休憩の為に人数分の茶を取りに行っていて、一夏はトイレへと向かった。

 

「にしても、まさか『勉強会』なんてするとは思ってなかったわ」

「そう言いながらも、真っ先に賛成をしたのはお前ではなかったか?」

「まぁね。中学に上がってから、勉強が出来なくて恥とか掻きたくないし」

「同感だ。いついかなる時も勉学は己の身を助ける最大の武器の一つと成り得る。我欲に身を任せてそれを怠った者達が、大人になってから自らを追い詰めていくことになるのだ」

「なんか、凄く実感が籠ってるわね。なんかあったの?」

「何もないさ。ただ、努力をしなかったせいで後悔をしたくないだけだ」

「あっそう……」

 

 普段から学級委員のようにクラスの皆を纏め上げているデュバルならば、このような真面目な考えをするのも当たり前かと思っている鈴だが、実際には違った。

 デュバルはもう、前世の時のような後悔だけは二度としたくないと思っていた。

 自分にもっと力があれば、知識があれば、技術があれば、ヅダが笑い者にされず、暴走事故による死者も出さずに済んだかもしれない。

 そう…あくまで『かもしれない』事だ。

 どれだけ後悔しても『IF』はあくまで『IF』に過ぎない。

 だからこそ、この二度目の生では前世と同じ過ちだけは絶対に繰り返させない。

 束が現在、開発を進めているという『ヅダ』を完璧に乗りこなせるだけの技量と体力を身に付け、同時に多種多様の知識を身に付け、いざという時に備える。

 自分も、仲間も、愛機も、戦場で死なせるような真似をさせない為ならば、デュバルはどこまでも『努力の鬼』になれるだろう。

 

「ジャンってさ……」

「ん?」

「真面目なのはいいけど、少しは肩の力を抜いたら?」

「十分に抜いているつもりなのだが?」

「それで? 冗談でしょ?」

「冗談じゃないんだが……」

 

 ちゃんと休憩をする時はしているし、遊びに誘われた時はちゃんと応じている。

 勉強や鍛錬ばかりをしていては、交友関係が疎かになる。

 自分を鍛えつつも、仲間との絆を育む事も大切だと理解しているからだ。

 

「確かに、ジャンって意外とあたし達が遊びに誘ったら、ちゃんと来てくれるし、今回みたいに分らないことがあれば親切に教えてくれる。だけどさ……」

「んっ!?」

 

 いきなり、鈴に眉間を指で揉まれた。

 突然の事に変な声が出てしまった。

 

「そんな風に眉間に皺を寄せたまま言われても、全く説得力がないっつーの」

「むぅ……」

 

 そう言われてから、自分の眉間に手を当ててみる。

 鈴の言う通り、そこには深い皺が出来ていた。

 

「ね? 別に頑張るのを止めろとは言わないけどさ、これからはもうちょい、気楽に行ったら?」

「気楽に……?」

「うん。この前、デメが言ってたのよ。『いざって時は他の連中が助けてくれる。これ以上の事を求めるのは贅沢ってもんだろ』って」

「ソンネンが、そんな事を……」

「ジャンも、自分一人だけで頑張ろうとせずに、誰かと一緒に頑張る事を覚えたら?」

「誰かと一緒に……か」

 

 そう指摘されて改めて気が付く。

 自分は今も昔も、誰かの事を一度でも心から信頼した事があっただろうか。

 いや、もしかしたら『信頼したつもり』だったのかもしれない。

 

「そうだな。私は少しばかり、急ぎ過ぎたのかもしれない」

「何があったのかは知らないけど、あたしも相談ぐらいは乗れるわよ?」

「あぁ。その時はよろしく頼もうか」

「そうそう。それでいいのよ」

 

 意外な形で絆を深めた鈴とデュバル。

 その様子を廊下から、少しだけ扉を開いてから見ている影が3つ。

 

「おいおい……こいつはまた……」

「面白くなってきたな~」

「鈴……デュバル……」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 鈴はヴェルナーが余り得意ではなかった。

 こっちの心を見透かしているかのような発言をしたかと思ったら、次の瞬間には飄々としながらのらりくらりと躱していく。

 まるで水のように、なんとも掴み所が無い少女。

 それが、鈴から見たヴェルナー・ホルバインという人間だった。

 

「なのに……」

「ん?」

「どうして、こうなってんのよ……」

 

 調理実習。

 誰もが一度はしたことがあるであろう授業。

 あろうことか、鈴はヴェルナーと一緒の班になってしまった。

 因みに、一夏はデュバルと一緒の班に、なんでかソンネンは先生と一緒に味見係をしていた。

 

「期待してるぜ。中華料理店の娘さんよ」

「こっちに頼りっきりにしないで、ちょっとはアンタも手伝うのよ~!」

「ひゃいひゃい」

 

 ヴェルナーの頬を抓りながら怒っている鈴。

 やる気が感じられない彼女に対し、こんな風にしか対応出来ないのだ。

 

「んで、ヴェルナーは何が出来んのよ? デメやジャンは孤児院でよく料理を手伝ってるって聞くけど」

「魚なら上手く捌ける自信があるぞ。よく爺さんとかに教えて貰ってたからな」

「それは純粋に凄いと思うけど、そこから何に派生するのよ?」

「刺身とか、海鮮丼とか? 実際に作ったことは無いけど」

「「「無いんだ……」」」

 

 同じ班の子達と一緒に呆れてしまう。

 まだ何もしてないのに、もう疲れてしまった。

 

「まぁまぁ。そう気を落とすなって。別に何もしないとは言ってないんだからよ。手伝えることがあれば何でもするぜ?」

「分かったわよ。んじゃ、まずは人参を洗って、細かく刻んで」

「了解だ」

 

 そこから、鈴の指示に従いながら調理を進めていく。

 意外とヴェルナーは手馴れていて、手際が良かった。

 

「あんた、意外とやるじゃない」

「漁師の孫だからな」

「「「それは関係ない」」」

 

 全員からの総ツッコミ。

 でも、ヴェルナーは全く変わらない。

 

「そういや、ヴェルナーってよく自分のおじいちゃんの話をするけど、もしかして、おじいちゃん大好きっ子?」

「自分が尊敬する人を好きなのは当たり前だろ?」

「……そこまで清々しく言えるのは素直に凄いと思うわ」

 

 ソンネンみたいに一応の答えを出しているわけでもない。

 デュバルみたいに何かを一人で背負っているわけでもない。

 ヴェルナーの目はどこまでも真っ直ぐで、澄んでいた。

 まるで、ここではないどこかを見ているかのように。

 

『俺は助けて貰わねぇと、生きていけない自信がある』

「はい?」

「オレの爺さんがよく言ってた言葉の一つだ。オレはオレだけじゃ何も出来ないし、それは他の連中も同じ筈だ。だからさ……」

 

 眩しい笑顔を浮かべ、皮むき途中のジャガイモを見せた。

 

「手伝ってくれよ。な?」

「はぁ~……分かったわよ。ほら、それ貸して」

 

 きっと、この子には一生敵わない。

 不思議とそう思わせる魅力を感じた鈴は、表面上は渋々といった風にしながらジャガイモの皮むきを手伝った。

 

 こうしたやり取りの末に完成したカレーは、味見役のソンネン曰く『小学生が作ったとは思えないぐらいに美味かった』らしい。

 

 

 

 




三人それぞれと鈴を絡ませられたので、此れにて小学生編は終了です。

次回はまた番外編を挟んでからの中学生編に突入しようと思います。

さて、次は誰が登場するのかな?

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