インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
ここは本当に原作前では最も重要で濃密な話になる予定です。
キーワードは『因縁』です。
嵐の前の日常
小学校を無事に卒業したソンネン、デュバル、ヴェルナーの三人は、近くにある中学へと進学する予定でいる。
勿論、同じ学校にいた鈴や一夏なども一緒だ。
そんな彼女らは、春休みの間に届いた中学の制服をサイズ合わせも兼ねて、袖を通していた。
「スカートかよ……」
「なんだ? スカートは嫌いか?」
「嫌いっていうか…苦手なんだよなぁ…。このヒラヒラしてるのとかよ。妙に落ち着かねぇ」
「そうだろうか? 慣れればどうということは無いが……」
「お前は私服にもスカートがあるからな……。よく抵抗感とかないよな」
「言っただろう? 慣れだよ。それに……」
「それに?」
「折角、こうして女性の身になったんだ。男の時には着ることが出来なかった服を着たいと思うのは普通じゃないか?」
「いや…普通じゃないだろ……」
ロビーにある姿見の前で制服を着た自分達の体を眺める。
体つきはもう完全に女性寄りになり、何処から見ても自分達は男には見えない。
「ヴェルナーを見てみろ。慣れるどころかはしゃいでるぞ」
「あれは例外だろ……」
初めて着るセーラー服に、スカートの端を摘まみながらその場をくるくると回り続けている。
「へぇ~…中々にいいもんじゃねぇか。うん、悪くない」
「ヴェルナー姉ちゃん、ぐるぐる回ってる~!」
「バレリーナみた~い!」
「おっと。この場合はバレリーナじゃなくて人魚って呼びな」
「「人魚みた~い!」」
子供達に囲まれながら、笑顔を振りまいている。
ある意味で、この孤児院の日常風景だ。
この三人がいなければ。
「へぇ~。思ってるよりもサマになってるじゃない。三人共、可愛いわよ」
「「「鈴」」」
奥から鈴が三人と同じ制服を着た状態でやって来た。
流石にスカートの類でどうこう言ってはいないので、三人のように興奮したり苦手意識を持ったりはしていない。
「鈴もよく似合ってるぞ。なぁ?」
「あぁ。少しだけ大人びて見えるぜ」
「服を変えるだけで、人間の印象ってのは思ってるよりも大きく変わるもんだな」
「ちょ…褒め過ぎだって……」
三人からの言葉のジェットストリームアタックを受けて、鈴はスカートを掴みながら顔を真っ赤に染めた。
そんなやり取りをしている間に、いつの間にか一夏も男子の制服を着てロビーに来ていた。
「なんでここで制服を着てるんだよ…俺は……」
「折角の誘いに、そんな事を言うものではないぞ」
「分ってるけどさ……」
疲れたように眉を顰めている一夏を少しだけ叱責するように言う千冬。
そう、今回は鈴と一夏と千冬の三人も孤児院に来ていたのだ。
「お。一夏も来たのか」
「ははは……一夏は制服を着ても一夏だな」
「それってどういう意味だよ」
「制服を着てるんじゃなくて、制服に着られてるって事さ」
「その差がよく分らんし」
「ヴェルナーの言葉の意味が理解出来ないなんて、まだまだ子供よね~」
「三人だって子供だろうが!」
「年齢的にはね」
「ま、あんま気にすんなよ。暫くすれば、嫌でも似合うようになるさ」
「そうかよ」
不貞腐れるように言いながらも、一夏の目はしっかりと三人の事を見ていた。
何故か、一緒にいる鈴のことは眼中にない模様。
(ソンネンもデュバルもヴェルナーも…制服着ただけで変わりすぎだろ……。クソ……悔しいけど、三人の事を可愛いって思ってる自分がいる……。なんなんだよ…この胸のドキドキは……!)
今まで見たことが無い少女達の新たな一面。
それを目の前で見たことで、一夏の心は増々、三人の事で一杯になりつつあった。
そして、それを傍で見守りながら千冬が心の中でニヤける。
(そうか…あの一夏がなぁ……。成る程なぁ……。一夏とあの三人は、昔からの付き合いになるからな。あいつがそんな気持ちになるのも無理はないか。このままいけば、三人のうちの誰かが将来的に私の義妹になるやもしれんな……。それも悪くない……)
一体どこまで話が飛躍してるんですか千冬さん。
「おや。皆揃っているね」
「「「院長さん」」」
「お邪魔しています」
階段の上から、いかにもな好々爺な院長が降りてきた。
その手にはデジカメがしっかりと握られている。
「こうして三人の制服姿を見ると、とても感慨深いものがあるね。あの小さな子供だった三人が、こんなにも大きくなって……」
「それもこれも全て、貴方のお蔭です」
「つっても、まだまだこれからだけどな」
「中学を卒業すれば高校。もしかしたら、そこから更に大学まで行くかもしれない」
「そうだね……これら先も、皆の成長を実感できる機会は沢山あるか。なら、今はこれぐらいにして、感動はもっと先に取っておこうか」
目尻に浮かんだ涙を拭い、院長は微笑みながらカメラを掲げる。
「折角、こうして皆が集まったんだ。よければ写真でも撮らないかい?」
「写真…ですか」
「いいんじゃねぇか?」
「オレもいいと思うぜ。二人はどうだ?」
「あたしも写真撮って欲しいかな?」
「俺は、皆がいいならいいよ」
「全員一致ね」
一人ぐらいは反対意見が出そうだったが、意外と全員が乗り気だった。
一夏だけは少し流された感があるが、実は普通に賛成というのが恥ずかしかっただけで、心の中じゃ写真自体は大賛成で、後で院長に焼き増しをお願いしようと企み中だったりする。
「では、私が撮りましょう」
「いやいや。私が撮るから、千冬ちゃんは皆と一緒に写真に入るといいよ」
「ですが、それでは院長さんが……」
このままでは話が進みそうにないので、デュバルが助け舟を出す事に。
「タイマーセットをすれば、二人共入れるのでは?」
「「あ」」
完全に失念していたという顔。
人間、誰しも意外な事を忘れがちになるものだ。
結局、三脚を持って来てからのタイマー式にした。
真ん中に車椅子のソンネンを配置し、その周りに皆が立つようにした。
入ったのは千冬や院長だけでなく、孤児院に今いる他の子供たち全員もだった。
「なんか…無駄に緊張してきやがった……」
「私もだ……」
「お。来るぞ」
パシャ
写真は見事に綺麗に取れて、後で全員分プリントしたという。
この時の写真は、此れより後ずっと、この孤児院に飾られる事となったらしい。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
無事に中学に入学し、何の奇跡か偶然か、元軍人三人娘と鈴、一夏の五人は見事に一緒のクラスになれた。
小学校の時と同様に、最初はソンネンの事が懸念されていたが、目の前で束特製の万能車椅子の性能をまざまざと見せつけられ、大人しく引き下がるしかなかった。
同じ小学校から繰り上がる形で一緒に来た生徒達も多く、友達作り自体は全く問題無かった。
特に、一夏や鈴は元からかなりコミュ力が高いので、他から来た者達ともすぐに仲良くなり、あっという間に新しい友達を作っていった。
その中でも特に一夏と仲良くなった、一人の男性生徒がいた。
「な…なぁ…一夏」
「どうしたんだよ弾。急に声なんて潜めてさ」
彼の名前は『五反田弾』といって、赤い髪が特徴的な少年だ。
近所にあるという『五反田食堂』という店が実家のようで、何気に一夏に負けず劣らずの調理スキルを持っていたりする、少しお調子者の男性生徒。
「お前ってさ、あそこにいる四人と同じ学校だったんだよな?」
「あそこにいる四人って…あぁ、ソンネンとデュバルとヴェルナーと鈴のことか?」
「そうだ。お前…あんな美少女達に囲まれて過ごしてたのかよ……」
「美少女て」
弾に言われてから、改めて四人の事を見る。
確かに、全員揃って美少女言っても過言じゃない容姿をしている。
「呼び捨てで呼べるぐらいに仲がいいのか……」
「鈴はともかく、他の三人とは小学一年生の時からの付き合いになるしな」
「マジかよ……」
「ソンネンとデュバルに限って言えば、もっと昔からになるかな。初めて会ったのは確か…お互いに5歳だった頃だ」
「5歳!? それってもう完全に幼馴染って奴じゃねぇか!」
「そうなるな。っていうか、教室で叫ぶな」
一夏の注意を無視して、弾は汗を流しながら戦慄する。
「あ…あんな美少女達と幼馴染って……ギャルゲーの主人公かよ……」
「俺は普通の男子中学生だ」
「わーっとるわい! ちくしょう……なんでこいつばっかり……」
「何で泣く?」
今度は歯を食いしばりながらの男泣き。
なんとも感情豊かな少年である。
「おい。なんかあそこでバカどもが騒いでるぞ」
「弾ってば、なんか泣いてない?」
「何をやっているんだか」
「ははは! 随分と面白い奴だな!」
流石にあれだけ騒いでいれば、少女達にも当然気付かれる。
呆れた目で見られているが、彼らからすれば、自分達の事を見てくれただけでも普通に嬉しかったりする。
「あ。今、デュバルさんが俺の事を見た?」
「気のせいじゃないのか?」
(あれは絶対に俺の事を見たに決まってる!)
言葉には出さないが、対抗心燃やしまくりだった。
「あの子達ってさ…彼氏とかいるのかな……」
「いや、いないだろ。だって、まだ俺達中学一年生だぞ? ついこの間まで小学生だったのに、彼氏とか有り得ないだろ」
そう言いながらも、本当は自分に言い聞かせている言葉だったりする。
(いない…よな? いない筈だよな? そんな事は少しも話してなかったし、万が一にでもそんな事があれば、すぐに噂になるに決まってるし……)
言葉では否定しながらも、実は自分自身が一番、心配していたりする。
こんなところが、一夏が未だに前に踏み出せないでいる最大の要因なのだ。
「そっか…そうだよな! まだチャンスとかあるよな!」
「チャンス? 何の?」
「んなの決まってるだろ!」
一夏の胸倉をグイッと掴んでから顔を思い切り近寄らせる。
それを見て、クラスの婦女子たちが興奮している。
「彼女を作るチャンスだよ……!」
「まさか…あいつらの中からか?」
「当然! 鈍感なお前は知らないかもだけどな、ライバルは想像以上に多いんだぞ……!」
「ラ…ライバル?」
「あぁ。まだ入学して数カ月しかなって無いにも関わらず、もう既に四人の事は学年中は愚か、学校中に広がってるんだぞ」
「おいおい……」
情報広まるの早すぎだろ。
一夏は久し振りに本気で引いた。
「二年や三年の先輩たちも、あの子達を狙ってるって話だ」
「それが真実だったら、割とマジで軽蔑するな。その先輩達って」
さっきも言ったが、中学一年生と言っても、少し前までは小学生だったのだ。
それを本気で恋愛対象と見るのは、流石に気持ちが悪い。
少なくとも、一夏はそう思った。
「一夏……」
「なんだよ?」
「恋愛にはな……年齢なんて関係ないんだよ……」
「それ。完全に犯罪者のセリフだからな」
折角できた親友が、早くも犯罪染みた発言をしてきた。
これは由々しき事態である。
だが、そんな事なんて露とも知らない少女達は、またもや様々な反応をしていた。
「またなんかやってるぜ」
「オレ知ってるぞ。この間、クラスの女子達が言ってた。BLってやつだろ?」
「ヴェルナー…アンタってば、どこでそんな知識を吸収してくんのよ……」
「愛とは…様々な形があるのだな……」
約一名だけ激しい勘違いをしているが、気にしない方がいいだろう。
「はぁ~…もっとお近づきになりたいなぁ~…」
「同じクラスなんだから普通になれるだろ」
「まぁ、鈴とは仲良くなったけどよ。それはあいつの雰囲気のお蔭なんだよな」
「他の三人は違うってのか?」
「なんつーかさ……眩しすぎて近寄りがたいんだよな…」
「眩しい?」
「ほら。デュバルさんは見るからに『お嬢様~』って感じだし、ソンネンさんは姉御肌で、ホルバインさんは……あの独特のテンションについていける自信が無い」
「ヴェルナーに関してだけは分かる気がする」
未だに一夏にも、ヴェルナーが何を考えているのかはよく分らないでいる。
それは常に一緒にいるソンネンやデュバルも一緒なのだが、それは黙っておこう。
「まぁ…頑張ればいいんじゃねぇか?」
「言われなくても、そうするつもりだっての!」
適当に誤魔化したが、自分の中の感情をまだ上手に表現できない一夏は、素直に親友の恋路を応援できないでいた。
この感情に気がついた時、一夏と弾は恋のライバルとなるかもしれない。
今回は珍しく男子達に焦点を当てました。
じゃないと、割とマジで一夏の影が薄くなりそうですし。