インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
『後は…コムサイ……!』
目が霞む。意識が朦朧とする。手足が思うように動かない。
だが、まだ俺は生きている。息がある。
モニターの向こうでは、破損した右足を引きずりながらコムサイへと向かっているザクがいた。
あのザクの思わぬ一撃を食らい、俺も相棒も満身創痍だ。
けど、まだ全てを諦めるには何もかもが早すぎる。
必死に手を動かし、砲身に最後の
(へへ……。連邦の盗人野郎……さっきお前が言ってた言葉……そのまんま返してやるぜ……!)
手が痙攣し、思うように動いてくれない。
それでも何とか動かし、主砲の標準を油断して無防備になったザクの背中に合わせる。
(テメェなんざ……テメェなんざ……!)
文字通り、最後の力を振り絞って最大の一撃を発射する。
凄まじい轟音と共に発射されたソレは、見事に敵機のコクピットに直撃し、相手は悲鳴を上げる暇も無く粉々に消し飛んだ。
それを確認した俺は、もう必要なくなった『ドロップ』の入った容器を投げ捨てて、シートに体を預けた。
「はぁ……はぁ……はぁ……一発あれば…十分だ……」
もう体を動かす気力も体力も残されていない。
自分の命の灯が尽きようとしているのが、手に取るように感じ取れた。
「ヒルドルブは……俺は……まだ…戦えるんだ……」
全身が完全に動かなくなり、俺は自分とヒルドルブの死を悟った。
やっぱり、こいつと俺は一心同体だったんだ。
(後は……任せたぜ……技術屋……モニカ……)
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「で、ここが食堂だ」
「いい場所だ。ここならば子供達でも十分に寛ぎながら食事が出来る」
「いや、今のオレ達も立派な子供なんだけどな」
車椅子に乗るオレの隣で、オレと同様に『生まれ変わった』元男のジャン・リュック・デュバルが満足そうに頷いている。
こいつの事は前に写真で見たことがあったが、なんともまぁ…変われば変わるもんだ。
いや、それに関してはオレも人の事は言えないか。
「にしてもよ、お前…思ってる以上に落ち着いてるんだな」
「それはどういう意味かな?」
「いや、だってよ……オレ達は揃いも揃って性別がガラリと変わっちまってんだぞ? 少しは動揺とかしねぇのかな…ってな」
「……私だって、最初は自分が自分でなくなっている事実を知った時は、みっともなく驚いたものだよ」
「じゃあ、今は?」
「…仮にも私とてジオン軍の人間だ。どんな状況、環境であろうとも適応してみせるさ」
「要は『慣れた』ってことだろ? 回り諄い言い方をすんじゃねぇよ」
「む……」
まるでガキみたいに顔を赤くしてムキになってやがる。
いや、『みたい』じゃなくて、今はオレもコイツも正真正銘のガキだったか。
「そういう君はどうなのだ? 見たところ、今の私と同年代と見たが?」
「まぁな。オレも慣れちまったんだよ。色々とな」
「その足も……か?」
「あぁ」
流石に1年以上も車椅子生活を続けていれば、嫌でも体が馴染んじまうよ。
「……聞かないのか?」
「何をだ?」
「オレの足の事だよ。さっきからずっと気になってますって顔してるぜ」
「……私は、ズケズケと他人のプライベートを詮索するような悪趣味な人間ではない」
「オレは別に話しても構わないんだけどな。このご時世では割と有り触れてる理由だしな」
食堂を後にして、今度は中庭へと向かう。
その道中でオレは第二の人生における自分の過去を話した。
「この足な、実は生まれつき動かなかったって訳じゃないんだ」
「……怪我か、もしくは病の類か……?」
「そう急かすなって。今から話してやるからよ」
大した不幸自慢にはならないが、世間一般的に見れば、オレは可哀想な部類に入るのだろう。
オレを生んだ両親はちょっとした町工場を経営していたのだが、オレが物心つくような歳の頃には既に倒産寸前で、多額の借金を抱えていた。
その事はオレも知っていたし、仮にもオレをここまで育ててくれた養育費代わりになんとかしてやりたいという思いもあった。
だが、いかんせんオレは子供だった。
どれだけ中身が大人でも、出来る事には限界がある。
そんな時だった。
ある日、オレは母親に『おつかいに行ってきて』と頼まれた。
この時のオレはその事に対して何の疑問も抱いてはいなかった。
長い間の温い生活で勘が鈍ってしまったのか、オレは迷うことなく買い物へと出かけた。
それが、オレの運命を分けることになるとも知らずに。
「……何が起きた?」
「オレには多額の保険金が掛けられていた…って言えば分かるか?」
「……実の娘に対して保険金殺人か……! 腐っているな……!」
歩道に出たオレは、父親の運転する車にド派手に跳ねられて、そのまま血だまりに沈んだ。
オレの第二の人生もこれで終わりか、なんて柄にもないことを思ってたら……。
「偶然にも近くにいたここの院長が救急車を呼んでくれてな。辛うじてオレは一命を取り留めたって訳だ。ま、それで全てが終わったわけじゃないんだけどな」
「その足は……その時の事故が原因で……」
「その通り。車に引かれた時に背中から落下しちまったみたいでな、そのせいで脊髄が損傷しちまったとかで、両足が完全に麻痺した状態になった」
「治せないのか?」
「現代の医術じゃ難しい上に、手術にも莫大な金が掛かる。それだったら、このままでも別にいいかなと思ってな。オレはまだこうして生きている。それだけでも儲けもんだろ?」
「ふっ……君という奴は……」
話している間に中庭へと到着。
デュバルはベンチに座り、オレはその横に並ぶように移動した。
「その後、オレはここの院長に引き取られて、向こうからコッチに渡って来たって訳だ」
「君の両親はどうなった?」
「勿論、問答無用で逮捕さ。後で聞いた話だと、終身刑になったらしい」
「当然の報いだな」
まるで自分の事のように怒っているこいつも、基本的には院長と同じお人好しなんだろう。嫌いじゃねぇけどな。
「そういや、お前さんは随分とこっちの言葉を流暢に話せてるな。一応、ここはオレにとってもお前さんにとっても外国だぜ?」
「普通に勉強をした。それだけだ。そっちこそどうなんだ?」
「オレも似たようなもんだ。昔から、その手の事は得意だったんでな」
「戦車教導団の教官は伊達ではない…ということか」
それは別に関係ないだろ。
「……日本か。あの頃の私には縁も所縁も無い国だったな」
「オレもさ。いい国だって話は聞いてたけどな」
気候もいいし治安も悪くない。
何より、飯が美味い。
それだけでオレ的には大満足だ。
「ジオン軍には日系の者もいたと聞いたことがあるな」
「確か、どっかの特殊な部署に『アマクサ』とかいう奴がいたような気が……」
昔の事だからよく覚えてねぇな。
割とマジでどうでもいい事だったし。
「なぁ……」
「ん? どうした?」
「実に今更なことを言うけどよ……」
「なんだ?」
「オレらの会話って、どう考えても『5歳児』のするもんじゃないよな……」
「仕方あるまい。どれだけ体が子供でも、中身は立派な成人男性なのだから」
「それはオレだって分ってるけどよ……」
時と場合によっては、子供らしい姿を見せなきゃいけない時もあるんじゃねぇか?
例えば、子供であることを武器にする時とかな。
「唯でさえ、オレ達みたいな外国人の子供は日本じゃ珍しいってのによ……」
「日本は多数の国から様々な人が訪れている、非常に国際的な国ではなかったか?」
「観光客とかはいるが、こっちで本格的に暮らそうとしてる輩は、全体的に見ればそう多い方じゃねぇよ」
「そうなのか?」
「そっち方面は勉強してねぇのかよ……」
コイツ、まさかの天然キャラか?
専門的なこと以外はヘッポコだったり?
「国ことで思い出したけどよ、今のお前ってどこ出身なんだ?」
「イギリスのロンドンだ」
「え」
…………マジで?
「オレもイギリス出身なんだけど……」
「なんと」
「因みに、オックスフォード出身だ……」
これもまた偶然なのかよ……。
それとも、ジオン公国出身者は生まれ変わると全員がイギリス人になるって法則でもあるのか?
「「はぁ……」」
なんか、急にどっと疲れた……。
いつも以上に口を動かしたからか?
「……なぁ、デュバル」
「なんだ?」
「今度、お前に見せたい物がある。多分、お前は絶対に見なければいけない物だ」
「見なければいけない物?」
「そうだ。楽しみに待ってな」
「……了解だ」
その後、デュバルの部屋に荷物を置いてきたと思われる院長がオレ達を探しにやってきて、そのまま部屋へと案内されていった。
なんだか微笑ましい目でこっちを見てたが、なんだったんだ……?
そんなわけで、今の二人はイギリス出身の5歳児幼女でした。
院長さんは男性で、普通にいい人です。
名前を付けるかどうかは考え中。
次回から原作キャラと絡めていく予定です。