インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
元ジオン軍兵士の三人は、どうなるのでしょうか?
「「「モンドグロッソ?」」」
ある日の昼休み。
珍しく興奮気味の一夏が、鼻息も荒く幼馴染である三人に話しかけていた。
「モンドグロッソと言えば……」
「世界各国のISの国家代表たちが一堂に集う大会。云わば、ISのオリンピックだな」
「最初はオリンピックの種目にISも組み込もうって話も出てたらしいが、途中でIS委員会の連中が『別の大会として分けた方が盛り上がる』とか、意味不明な事を言い出した結果、モンドグロッソが誕生したんだっけか」
「よ…よく知ってるな…ヴェルナー。俺も初めて知ったぞ」
普段の言動から忘れがちになるが、ヴェルナーだってかなり優秀な頭脳の持ち主なのだ。
元軍人を舐めてはいけない。
「で、そのモンドグロッソがどうかしたのかよ?」
「ほら、お前らももう知ってるとは思うけど、千冬姉って日本代表だろ?」
「そうだったな。いつの間にか世界レベルの有名人になっていて驚いた」
「テレビ…は流石に無いけど、よく雑誌とかには取り上げられてるよな。コンビニとかで見かけるぜ」
「金に余裕がある時は買ったりもしてるしな」
三人が言っている雑誌とは『インフィニット・ストライプス』と呼ばれる、ISの専門雑誌だ。
主に選手たちの事を記事に書いている雑誌なのだが、日本代表である千冬は、かなりの頻度で雑誌の表紙を飾っている。
「しかも、第一回のモンドグロッソでは優勝もしてるしな」
「それでよく、大会優勝者に与えられる称号である『ブリュンヒルデ』で呼ばれる事が多いって聞くな」
「この前、久し振りに会った時に愚痴ってた」
「それ、家でもよく俺に言ってるよ。しかも、酔っぱらないながら」
千冬が成人をして初めて判明した事実。
彼女は無類の酒好きだった。
かく言う三人も、酔った勢いで抱き着かれそうになった事なんて何度もある。
というか、ヴェルナーの場合は嬉々として抱き着かれているが。
「それは……」
「まぁ……」
「がんばりな。いつかきっといい事があるぜ」
「ありがとよ……じゃなくて!」
思いっきり話が逸れた所で、一夏が強引に話題を戻した。
「今度ドイツで開催される第二回モンドグロッソに、千冬姉も日本代表としてまた出場するんだよ!」
「まぁ、前大会優勝者だしな。出場するのは当たり前か」
「で? それがどうかしたのかよ? 確かにめでたい事だけどよ」
「そう! ここからが本題なんだ! 実は……」
「「「実は?」」」
「俺も一緒にドイツに行って、大会の観戦をすることになったんだ!」
「「「おぉ~」」」
国名だけならかなり有名だが、実際には行ったことなど無い。
特に、日本生まれ日本育ちである一夏からすれば、外国に行けるというだけで興奮ものなのだ。
「よかったじゃねぇか。土産を楽しみにしてるぜ」
「おう! 任せておいてくれ! ……でも、ドイツの土産って何がいいんだ?」
「少し検索してみればいいんじゃないか?」
「そうだな。えっと…ドイツ、土産で検索……っと。出たぞ」
デュバルが自分のスマホで調べてみると、色々なものが出てきた。
「オーデコロン」
「オレ達、そんなものをつけるような柄か?」
「この場に鈴がいたら、絶対にコレだと言いそうだがな」
因みに、鈴は今、職員室に出かけていて不在だ。
「グミ」
「悪くは無いけどよ……」
「これは寧ろ、私達というよりは、孤児院の子供達にあげた方が良さそうな気がするな」
「分かった。んじゃ、このグミは子供達に買ってくるよ」
「助かる。あいつらもきっと喜ぶ」
次の項目を調べてみる。
ここでようやく、三人の表情が動いた。
「チョコレート……」
「これが一番、無難そうな感じだな」
「あぁ。でも、念の為にもっと調べてみるか?」
そう言って、画面を下にスライドする。
「ビール……」
「「「論外」」」
「だろうな。これを喜ぶのは千冬姉ぐらいだ」
余談だが、院長は下戸で全く酒が飲めない人種である。
そこから、もっと調べてみることにした。
「コーヒー」
「これもまた、飲む人間が限定されるな。私達は普通に朝とかに飲むが」
「スープと粉末ドレッシング」
「粉末のドレッシングってなんだよ。全く想像出来ねぇぞ……」
「文房具」
「これは…コメントに困るな」
「フレーバーティー」
「チョコと並んで真面そうな土産だな。候補その2だ」
「クリスマスグッズ」
「使う時期が限定的過ぎるだろ……」
「ワイン」
「ビールと一緒。論外だ」
「オーガニックコスメ」
「……もういいわ」
かなりの数を検索したが、普通に良さそうなのは少ししかなかった。
「……チョコとフレーバーティーのどっちかにするわ」
「そうしてくれ……」
「文化の違いって凄いんだな……」
外国生まれながらも、もう完全に身も心も日本に染まってきているソンネン達は、改めて海外の凄さを知ったような気がした。
「しっかしよ、お前はドイツ語とか話せるのかよ?」
「その辺は、翻訳アプリとか使えば大丈夫なんじゃないか?」
「最近のアプリは便利だしな」
「迷子とかになるなよ?」
「ならねぇよ!」
その後、鈴が戻ってきてから盛り上がっている面々に混ざり、一切の躊躇も無くコスメ系の土産を三人に買ってくるように一夏へと要求したのだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そんな事があった日から次の日。
中庭にあるベンチでのんびりと日向ぼっこをしていた三人の元に、再び束から着信が来た。
「またかよ。あいつ、どんだけ寂しがり屋なんだ?」
「そう言うなソンネン。誰にだって、昔の知人と無性に会話をしたくなる時があるものだ」
「そんなもんか」
「それよりも、早く出てやったらどうだ? さっきからずっと鳴ってるぞ」
「おっと」
地味に忘れかけてしまったので、慌てて電話に出ることに。
「もしもし?」
『もしもし! ソーちゃん!?』
「おう束。……お前どうした? なんか今日は様子が変だぞ?」
『ちょっと大変なことが起きそうになってて! 近くにデューちゃんとナーちゃんはいるっ!?』
「私達ならここにいるぞ」
ソンネンは、二人も会話に参加出来るようにスピーカー状態にして耳から離した。
「マジでどうしたんだ? いつものアンタらしくない」
『ここじゃ言い難いんだよね……。もしかしたら、何者かに通信を傍受されている可能性もあるし……』
「傍受…だと。それはまた穏やかではないな」
『まぁね……。それでさ、近いうちに私達の所に会いに来て貰えないかな? 勿論、三人揃ってで』
「いや、会いに行くって言われてもな」
「私達は、現在そちらがどこにいるのかさえも全く把握していないのだぞ?」
「それで、どうやって会いに行けって言うんだ? そっちからは来られないのか?」
『そうしたいのは山々なんだけど、ほら…私が行ったらさ、孤児院の皆に迷惑を掛けちゃうし……』
束も束なりに、個人の事はかなり気に欠けていた。
というのも、実は彼女も過去に何回か孤児院に来たことがあり、その際に院長や小さな子供達と密かに仲良くなっていたのだ。
「……そっか。その気遣いを無下には出来んな。私達はどうしたらいい?」
『取り敢えず、こっちから迎えに行くよ。待ち合わせは……今週の日曜、私達が最初に会った公園でどうかな? そこなら分り易いでしょ?』
「了解した。何か持っていく物などはあるか?」
『それは大丈夫。また三人と会えるのを楽しみにしてるよ。紹介したい子もいるしね』
「アンタが紹介したい子…ね。それは興味があるぜ」
『きっと仲良くなれると思う。それじゃ、今日はこれで』
呆気なく会話を切り上げてから、束から通話を切った。
いつもならば、こちらが幾ら言っても切ろうとしないのに、だ。
「……本当に、何があったというのだ…」
「…あまりいい予感はしねぇな」
「オレの爺さんが言ってた。『良い予感ほど外れて、悪い予感ほどよく当たる』ってな……」
「それが現実にならないように信じるしかないな……」
何とも言えない気持ちを内包して、三人は静かに空を見上げていた。
今回は敢えて短め。
なんせ、本当の意味での『プロローグ』ですから。