インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
そして、次回は……?
束との約束の日。
ソンネン達三人は、院長に一言言ってから孤児院を出掛け、そのまま真っ直ぐに約束をした公園に向かった。
「お?」
「む?」
「あ?」
三人が公園に到着すると、其処には既に束の姿があった。
少し背は伸びているようだが、それ以外は全く変わっていないようだった。
「ソーちゃ~ん! デューちゃ~ん! ナーちゃ~ん!」
大きく手を振りながら三人を呼ぶ束。
休日だからなのか、公園には人影が疎らだったからよかったものの、これが子供達で賑わっていたりしたら、かなり恥ずかしかっただろう。
「久し振り! 元気だった?」
「当たり前だ。そっちこそ、相変わらず元気そうじゃねぇか」
「天才だからね!」
「それは関係ないだろう……」
健康である事と天才であることがどう繋がるのか。
それが分かるのは言った本人だけだろう。
「にしても……」
すっかり女性らしく成長した三人の体をマジマジと観察する。
それを見て、ソンネンとデュバルは嫌な顔をし、ヴェルナーは全くの無反応。
「いや~…見事に美幼女から美少女に進化したね~♡ これは、あと数年後が本当に楽しみだにゃ~♡」
「「どこを見てるんだよ!?」」
「胸とかじゃないか?」
「「分ってるよ!」」
自分の胸を両手で隠しながら、ワーキャーと叫びだすソンネンとデュバルに対し、ヴェルナーはなんとも淡泊な反応。
どれだけ年月が過ぎても、全く変わっていない三人の関係を見て、束は優しく微笑んだ。
「どれだけ時間が経っても、三人は本当に変わらないね……」
「そりゃそうだろ」
「時間と共に体は成長しても、心まではそう簡単には変わらないものだ」
「そうだね」
この子達なら大丈夫。
根拠などは無いが、何故か不思議とそう思った。
「それじゃ、ここでずっと話してるのもなんだし、早速行こうか?」
「行くって……」
「どこに?」
「私の移動式研究室だよ♡」
「「「は?」」」
「ほらほら! 私についてきて!」
「ちょ…おいっ!?」
「強引だな……」
「ははは! 本当に全く変わってないな!」
ソンネンの車椅子を押していこうとし、それを急いで追いかけるデュバルとヴェルナー。
彼女達は束に案内されるがままに公園近くの路地裏まで連れてこられた。
「流石に研究室をここに持っては来れなかったからね。私のお手製小型ロケットでここまで来たんだ」
「いや…それはいいんだけどよ……」
「デザインが……」
「ニンジンだな」
そう。ニンジンだった。
かなり大きくて、鋼鉄製でバーニアがあって、ど真ん中に入り口と思われるものがあるのを除けば、形だけはとても立派なニンジンだった。
「可愛いでしょ?」
「頼むから…私達が本気で反応に困る代物を作らないでくれ……」
「えぇ~っ!?」
仮にデュバル達でなくても、誰もが反応に困るだろう。
千冬辺りは頭を抱えてしまうかもしれない。
「これで、お前さんの『移動式研究室』とやらに向かうのか?」
「そのとーり! ささ、行くよ~!」
そのまま、車椅子に乗っているが故に抵抗が出来ないソンネンがニンジンロケットの中へを運ばれて、それについていく形でデュバルとヴェルナーもロケットに乗った。
後に三人は口を揃えてこう語っている。
「意外と乗り心地は良かった」と。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
時間にして30分程度か。
ロケットに揺られながら到着したのは、三人もよく知っている、嘗て篠ノ之家にあった束の部屋を忠実に再現した彼女の研究室。
「着いたよ~!」
ニンジンロケットのハッチを開けて、来た時と同じようにソンネンの車椅子を押し、その後からデュバルとヴェルナーが着いていく。
「研究室って言うもんだから、てっきり凄い場所かと思ってたがよ……」
「まるっきり、あの部屋の再現だな」
「だな。お蔭で、懐かしい気持ちにすらなりやがる」
「でしょでしょ~? これには流石の束さんも苦労したんだよ~うんうん」
などと話しながら進んでいくと、前方に銀色の長い髪を持つ少女が立っていた。
「お帰りなさいませ、束さま」
「ただいま~クーちゃん」
「はい。それで、その方たちが……」
「そう! 前に何度も話したソーちゃんとデューちゃんとナーちゃんだよ!」
基本的に千冬や家族、自分たち以外に心を開かない束が、謎の少女と仲良さげに話している事実に、ソンネンとデュバルは本気で驚く。
ヴェルナーはなんとも思っていないようだが。
「初めまして、ソーちゃんさま。デューちゃんさま。ナーちゃんさま。私は束様の助手をしております『クロエ・クロニクル』と申します」
「お…おう。よろしくな。オレはデメジエール・ソンネンだ」
「ジャン・リュック・デュバル。よろしく」
「ヴェルナー・ホルバインだ」
自分達と同い年か、少しだけ幼い少女。
銀色の髪という珍しい髪色なのに、三人は全く気にしてはいなかった。
「予想通り。クーちゃんと三人はすぐに仲良くなれそうだね」
「束。もしかして、電話で話してた『会わせたい奴』ってのはコイツのことか?」
「そうだよ。クーちゃんとは少し前に会ってね。まぁ…色々あって、普通の子のようにするのは少し難しくてね……。安易に外には出せない以上、何とかして同年代の子のお友達を作ってあげたいと思っててさ……」
普段ならば決して見れない、束の『人間』としての顔。
それを見せられて、黙っているような三人ではない。
「なんだよ。それならそうと早く言いやがれ」
「私達ならば、いつでも歓迎するぞ」
「え…? ほ…ほんと?」
「こんな事で嘘なんかつくかよ」
「皆さん……」
呆気なく友達になる事を了承した三人を見て、この子達を選んだのは絶対に間違いじゃなかったと確信した。
もしかしたら、こんな子達こそが、本当の意味で世界を変えてくれるのかもしれないと。
「よろしくな、クロエ」
「よかったら、いつでも私達の孤児院に遊びに来るといい」
「いつでも歓迎するぜ。きっと、今以上に友達が増えるだろうし」
「は…はい! その時はよろしくお願いします!」
ここに新たな絆が生まれた。
こうした『繋がり』が、いつの日か彼女達にとって最強の武器になる日が来るかもしれない。
「さて…と。新しいダチ公も出来た所で、今日呼ばれた一番の理由を聞かせて貰おうか?」
「うん…そうだね。分かったよ。クーちゃん、今から例の話をするから、三人にお茶を淹れてきてくれるかな?」
「分りました、束さま」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
クロエが奥にあるキッチンに向かって、それを見計らって束が三人をテーブルに着かせる。
「まずは、これを聞いてくれるかな?」
束が傍にある機器を操作すると、若干のノイズと共に複数の人の声らしきものが聞こえてきた。
『それは本当なのか?』
『間違いない。今度のモンドグロッソに、ブリュンヒルデは自分の弟を連れていくつもりらしい』
『その情報が本当なら、今度の任務の難易度がかなり変わるな』
『そうね。ブリュンヒルデの優勝阻止……その弟君を誘拐でもすれば、あのお優しい戦乙女さんなら迷わず試合を放棄して駆けつけようとするでしょうね』
『別に奴と戦う必要はない。素人のガキ一人を誘拐すれば、それで任務達成なんざ、かなり楽だぜ』
『けど、大会会場にはドイツ軍が警備として配備されている。人員とISは出来る限り多い方がいいわね』
『了解だ。その方向で準備を進める』
ここで音声は終わった。
三人は少女としての顔を消し、完全に軍人としての表情を出していた。
「これは?」
「ちーちゃんがISの操縦者になる道を選んでから、私は密かにちーちゃんの周辺を見守っててた。それが、私なりの責任だと思って」
束の言葉に、三人は黙って耳を傾けていた。
「そんなある日。その日も私はちーちゃんの周りを観察ししていたんだけど、その時に偶然にもこの会話を傍受したんだよ。恐らく、何らかの形でどこかの通信に繋がってしまったんだと思う。かなり奇跡的な確率だけどね」
「お前さんなら、自力でも出来そうだけどな」
「やろうと思えばね。で、聞いてしまった。いっくんの誘拐を企む連中の会話が。そんな事を聞かされたら、黙っているわけにはいかなかったから、まずはこの連中の事を徹底的に調べた」
「で、分かったのか?」
「一応ね。声だけで特定するのは難しいから、この通信電波を傍受した場所から探っていった。それでもかなり苦労したけどね」
テーブルの上に自分の両肘を乗せて、束はいつも以上に真剣な顔になる。
「『
「組織…なのか?」
「第二次世界大戦時から存在している組織らしいけど、詳細は完全に不明。私でも探れなかった」
「お前が?」
「資料自体が全くないんだよ。まるで『亡霊』のように…ね」
「亡霊……か」
「御大層な名前をしてるけど、やってることはテロリストなんだけどね」
「結局はそれかよ……」
元軍人として、テロに対しては色々と思うところがあるのか、三人は複雑な顔をする。
「名目上は『今の世界を壊して、新た世界を創造する』らしいけどね」
「分かった。要はバカとアホとマヌケと中二病の集団ってことだな」
「身も蓋もないな……」
「けど、強ちソーちゃんの言ってることも間違いじゃないよ。一番の問題は、そんな危ない思想を持つ連中が、ISを初めとする武装を実際に保持している点」
「ISもあるのか……」
「独自開発をしているってよりは、色んな国や企業を襲撃をして強奪してるみたい」
「それじゃあ、テロリストってよりは、ただの盗人野郎じゃないか」
盗人野郎。
ヴェルナーのその一言を聞いて、ソンネンはある人物の事を思いだす。
(今までずっと考えないようにしてたけど、オレ達がこうして別の世界に生まれ変わってるって事は、まさか…あの時の『連邦の盗人野郎』も同じように生まれ変わって……。いや、まさかな…。こんな偶然、三度も四度もあってたまるかよ。オレ達と同じように、あの艦に乗ってた人間ならともかく、敵対してた奴がそんな……)
そこまで考えて、いつの間にか手に滲んでいた汗を自分の服で拭いた。
「一夏を誘拐して、千冬さんの優勝を阻止する……か」
「なんでまた、そんな回り諄い事をする? こう言ってはなんだが、大会そのものを妨害するのではダメなのか?」
「これはあくまで私の予想なんだけど、あいつらは今までもずっと歴史の陰に潜んで活動をしてきた集団だから、何をするにしても派手な事は出来ないんじゃないかって思う」
「ISの強奪はしてるのにか?」
「それに関しても、ムカつくぐらいに手口が鮮やかなんだよね。証拠は完全に消して、目撃者は全て消している」
「向こうさんも徹底的だな……」
「そうなの。だからこそ、こっちも同じような手で行くしかない」
ここで、クロエがトレーに五人分の茶を乗せて戻ってきた。
「お持ちしました」
「あ。ありがとね」
「サンキューな」
「頂こう」
「うん。美味い」
クロエも四人と同じようにテーブルに着き、話に参加することに。
「本当ならよ、こんな事は自衛隊とかに任せるのが一番懸命なんだろうが……」
「この音声データだけじゃ動けないだろうな。自衛隊の人間自体は良識ある人間達が多いだろうが……」
「その上にいる政治家達が絶対に動かない。最悪の場合、誘拐を黙認して、それすらも自分達の利益を生むための道具にしかねない」
「君達の言ってる通りだよ。だからこそ、ソーちゃん達をここに呼んだんだ」
束からすれば、本当に藁にも縋るような思いだったのだろう。
立場上、束は公には動けない。
故に、彼女に代わって現場で動いてくれる存在が必要になる。
本当は彼女達を巻き込みたくなんてない。
だけど、この状況で一番頼れるのが彼女達なのも、また変えようのない事実なのだ。
「アンタに頼られるのは嫌じゃない。けど、オレ達に何をさせる気なんだ? こう言っちゃなんだが、今のオレ達に出来る事なんてマジで限られるぞ?」
「それなら大丈夫ですよ」
「前に、三人の専用機を作ってるって話を覚えてるかな?」
「え? あ…あぁ…そういえば、そんな事を言っていたな……まさかっ!?」
「そう! 当日、三人には専用機に乗って現場に行ってもらって、あいつ等を撃退して、いっくんの誘拐を阻止して欲しいんだ!」
「本気かよ……」
余りにも大胆な事を言い出した束に、ソンネンは車椅子からずれ落ちそうになった。
だが、束の目がどこまでも本気である事を告げている。
「取り敢えず、まずは現物を見せるよ。クーちゃん」
「はい。ソンネンさんは私が押していきます」
「さ。行こ?」
次回、遂に『あの三機』が登場!
座して待て!