インフィニット・ストラトス IS IGLOO   作:とんこつラーメン

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前世からの続く因縁のラウンド1。

原作前に決着をつけるような、そんな勿体無い真似だけはしませんとも。






ソンネンVSフェデリコ

 そこは、完全に廃墟と化していた。

 少し前まではまだ小奇麗な廃工場だったのに、今では見事に破壊され尽くしている。

 何も知らない人間がこの光景を見れば、この場所で戦争でも起きたのかと錯覚するだろう。

 いや、ある意味では『戦争』なのかもしれない。

 前世でも、今世でも、互いに決して相容れぬ存在である元軍人の二人の少女にとって、まだあの時の戦争は微塵も終わってなどいないのだから。

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」

 

 工場内を疾走しながらも、倒すべき敵からは絶対に目を離さない。

 ヒルドルブの鋼鉄の巨体は、進路を妨げる障害物なんて知った事ではないと言わんばかりに、コンクリートの柱も残されたガラクタ等も全て薙ぎ倒しながら、両手に握ったマシンガンを連射し続けている。

 

 一方のフェデリコも、巧みに相手の射撃を回避しつつ、両手で握ったマシンガンのトリガーを押しっぱなしにしている。

 残弾数の事なんて知るか。

 こいつとの戦いでは、どれだけ弾丸を消費してもし足りない。

 何故なら、ソンネンの強さを誰よりもよく知っているのは、前世において壮絶な死闘と繰り広げたことのある自分だけだからだ。

 

「「ちっ!」」

 

 ほぼ同じタイミングでマシンガンの弾が切れる。

 たが、そこは歴戦の勇士である二人。

 お互いに相手の隙を伺いながら、あっという間にリロードを完了させた。

 

(野郎……! 悔しいが、一度戦った相手に二度も同じような戦法は通用しないか……!)

(あいつめ……! 女になってから、逆に射撃の精度が上がってないか? これは……長期戦は不利かもしれないな……)

 

 ここはもう、完全に二人だけの戦場。

 ソンネンにはフェデリコが。

 フェデリコにはソンネンしか見えていない。

 腕、目、体。果ては指の一本に至るまで全ての動きを見逃さないように観察する。

 真の強者同士の戦いでは、僅かな隙が文字通りの命取りになりかねない。

 

「「……………」」

 

 先程までの銃撃戦が嘘のように静まり返る。

 工場内は電気が通っていないので、昼なのに仄暗い。

 唯一の光源は割れた窓や壊れた壁から差し込む太陽光だけだ。

 

「スモーク散布!!」

 

 先に動いたのはソンネンだった。

 ヒルドルブに搭載されたスモーク・ディスチャージャー4基を一斉に稼働させ、狭い工場内を煙で充たした。

 逃げ場の少ないこの場所では、外で使用するよりも遥かに視界が悪くなる。

 

(幾らISがハイパーセンサーを持ってるからって、物理的な遮蔽物を透視は出来ない。どれだけ優れた機能を持っていても、最後は結局、乗っている人間頼みって事か……)

 

 ISに対する愚痴を心の中で零しながら、フェデリコはこの視界を遮られた状況でどうするか考える。

 

(この戦法は前にも見た。あの時は煙に紛れて二度目の強襲を許したばかりか、焼夷弾までお見舞いされたな。だが、ここで焼夷弾なんて使えば自分も巻き添えになるのは、あいつだって理解している筈。ならば……)

 

 フェデリコが思案している中、ソンネンも同じようにこの煙幕をどうやって最大活用するか考えていた。

 

(ここだと、どうしても使える弾種は限られる。精々、通常弾や徹甲弾とかだな。対戦車榴弾や対空用榴散弾は効果が薄い。基本的にマシンガンで牽制しつつ、隙を見て主砲をぶちかますしかねぇか……)

 

 ヒルドルブの分厚い装甲ならば、多少の障害物なんて蹴散らしながら走行できるが、それと攻撃出来るかは全くの別問題。

 狭い室内では、どうしても攻撃手段が限定されてしまう。

 

(いや……他の奴との戦いならばいざ知らず、あの盗人野郎との戦いじゃ下手な読み合いは意味がない……)

(……やめよう。オレが望んでいるのは、こんな思考の読み合いの戦いじゃねぇ……)

 

 煙越しに、二人は見えない何かで繋がっているかのように互いの目を睨み付けた。

 

((闘争本能の赴くままに、相手を全力でぶっ殺す! ただ、それだけだ!!))

 

 まだ煙が晴れない状態で、ソンネンは煙幕の中へと突っ込んでいく。

 周囲を警戒しつつ、マシンガンを乱射する。

 

「オラオラァッ!! とっとと出てきて大人しくオレにぶっ倒されろ! それとも、ビビッて逃げちまったかっ!?」

「そんな訳……」

 

 背後から反応!

 ソンネンは急いでヒルドルブを急旋回させようとするが、僅かに遅く、そこにはフェデリコがヒート・ホークを構えた状態で飛びかかってきた!

 

「ねぇだろうが!! 舐めてんじゃねぇぞ!!」

「ちっ!!」

 

 ヒルドルブの死角である背後を完全に取られ、伸し掛かられた。

 このままヒート・ホークでの攻撃を許してしまえば、そこから一気にイニシアチブを取られる。

 互角の相手との戦いで、それだけは絶対に避けねばらない事だ。

 

「コイツで終わりだ!!」

「させるかよ!!」

 

 ここでソンネンは咄嗟の思いつきで、ヒルドルブを見事に操り、その場で高速回転させてフェデリコを振り落とそうとした。

 

「悪足掻きを!!」

「うるせぇ!!」

 

 回転の勢いに負けて、思うようにヒート・ホークを振り下ろせない。

 まさかの策にフェデリコは少しだけ焦り、開いている左手でヒルドルブを掴んでから自分の体を固定する。

 

「これでっ!! な…なにぃっ!?」

 

 攻撃の瞬間、しっかりと摑んでいたヒート・ホークが何かにぶつかって弾かれ、どこかに飛んでいってしまった。

 それを見て、フェデリコは自分の勘違いに気が付いた。

 

(攻撃する事だけに気を取られて、全く気が付かなかった! こいつが機体を高速回転させたのは、オレを振り落とす為じゃない! コイツの本当の目的……それは……!)

 

 次の瞬間、フェデリコの目の前にコンクリートの壁が迫ってきていた。

 

(オレを自分と壁の間に挟んで圧殺すること!)

 

 この状況では下手に逃げる事も敵わず、そのままの勢いでフェデリコは壁とヒルドルブの間でサンドイッチになってしまった。

 

「ぶっ潰れろ!!」

「クソがぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 粉々に砕かれた壁と共に工場の外へと強制的に弾き出されたフェデリコは、不思議と冷静な頭で考えていた。

 

(あの煙幕の本当の目的は…オレに対してワザと反撃のチャンスを与える事(・・・・・・・・・・・・・・・)。あいつは最初から、戦車最大の武器である『圧倒的質量』を使ってオレを攻撃するつもりだった。その為に、あいつは自分の背中を敢えて晒す事で『弱点』すらも利用した! 更に、煙幕によって周囲の状況が分らないから、回転しながら移動している事も分り難くくなる……)

 

 壊れた壁の穴から見えるヒルドルブが中へと引き換えしているのが見え、無意識の内に舌打ちをしていた。

 

(ちっ…くしょうが……! 奴の方が一枚上手だったって事かよ……! だがな! このオレがこのまま終わると思うなよ! まだSEはたっぷりと残ってるんだからな!)

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 渾身の回転体当たりで、なんとか危機を脱したソンネンは、砲身に装弾筒型翼安定徹甲弾を装填し、いつでも発射出来るように備えた。

 

「あいつがこれぐらいでくたばるとは到底思えない。片足潰した程度じゃビクともしなかった野郎だからな……」

 

 どこから来る?

 全神経を張り巡らせて、張り付くような静寂に支配された廃工場内を全力で警戒する。

 

(窓から飛び込んでくるか…? それとも、壁を破壊してからの強襲…? いや、高火力の兵装を使っての、外から一気に工場ごとこっちをぶっ潰す算段かも知れない……)

 

 考えうる全ての状況を頭の中で即座にシミュレートし、いつでも動けるように準備をする。

 その時だった。天井からヒルドルブに非常に僅かではあるが、埃が落ちてきた。

 

「なんだ……?」

 

 それは、僅かな違和感。

 通常ならば何も考えずに見逃してしまう違和感。

 だが! ソンネンはその『違和感』の正体を決して見逃さなかった!

 

「ま…まさか!? アイツは!!」

 

 己の勘を信じ、ソンネンは急いでヒルドルブをバックさせる!

 すると、彼女が先程までいた場所の天井が木端微塵に消し飛び、そこから陽の光と共にフェデリコがその右腕に鈍く光る武器を装備して落下してきた!

 

「パイルバンカーだとっ!? んな物まで!!」

「『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』だ! 当たれば一発でお陀仏だったのによ!!」

 

 別名『盾殺し(シールド・ピアーズ)』とも呼ばれるその武器は、数あるISの武器の中でも特に異彩を放つ一品で、その命中率の低さと引き換えに、非常に強大な攻撃力を獲得することに成功した、第二世代では最強の威力を持つ武器である。

 例えヒルドルブと言えど、直撃を受ければ唯では済まない。

 

「やってくれるじゃねぇか……クソッタレが!!」

 

 負けじと、ソンネンも即座に落下してきたフェデリコに標準を合わせて、ついさっき装填したAPFSDS弾を発射した!

 

「おっと!」

 

 フェデリコはすぐに腕部装甲に装着していたバンカーをパージし、その場から退避する。

 その結果、砲弾は空中にあったパイルバンカーに命中し、巨大な破裂音と共に爆散した。

 

「クソッ!」

「へっへっへ……」

 

 完全に振り出しに戻る。

 SEは先程よりは確実に減ってはいるが、戦況自体は殆ど変わっていない。

 

「さて…と。仕切り直しと行くか!!」

「望むところだ!!」

 

 再び二人が飛び出そうとした……その瞬間。

 いきなりフェデリコの機体にプライベートチャンネルが入った。

 

「これは…スコールか。いいところだってのに水を差しやがって……!」

 

 忌々しく思いながらも、通信に出ない訳もいかず、いつでも攻撃出来るようにマシンガンを再びコールしながら通信をすることに。

 

『やっと繋がった! ツァリアーノ大佐! 聞こえてるっ!?』

『ちゃんと聞こえてるよ。なんだ一体?』

『作戦は中止よ! 今すぐ撤退を開始して頂戴!』

『あぁっ!? ふざけんじゃねぇぞ! なんでここまで来て……』

『予想だにしなかったイレギュラーが発生したのよ! 完全に戦力はズタボロ! 私とオータムも手痛くやられたわ……』

『お前らが……?』

 

 フェデリコは自分の耳を疑った。

 スコールもオータムも、かなりの実力者であることは彼女自身がよく知っていたから。

 

『ドイツ軍に手練れの奴が一人だけいると聞いてはいるが…そいつか?』

『ドイツ軍も後からやって来たけど、それとこれとは完全に別! 私達は見知らぬ女の子達にやられたのよ!』

『見知らぬ女の子……』

 

 それを聞いて、ふとソンネンの方を見る。

 この場において、イレギュラーと言えば彼女以外に有り得ない。

 それが示す事はつまり……。

 

『やっぱり、他にも仲間がいやがったのか……』

『どうしたの?』

『いや…なんでもない。で、撤退するんだろ? 合流地点は例の場所でいいのか?』

『えぇ。問題ないわ。詳しい話はあとでするから。じゃあ、待ってるわよ』

 

 通信が切れると同時に、フェデリコは武器を納めた。

 

「お前…何のつもりだ?」

「なに。事情が変わったんだよ」

「なんだと?」

「どうやら、テメェのお仲間がこっちの仲間をやってくれたみたいでな。兼ねてから計画していた作戦が全部パーになっちまったんだと」

「あいつら……」

 

 彼女達ならば必ずやってくれると信じていた。

 だからこそ、自分はここでフェデリコを抑える役に徹することが出来たのだ。

 

「でもまぁ…もう正直言って、作戦の成否なんざどうでもいい。今は大人しく撤退するしかねぇが、此れだけは言っておくぞ」

 

 ソンネンに向かってビシッと指を刺してから宣言する。

 

「お前はオレだけの獲物だ。絶対に逃がさねぇし、オレ以外に奴に殺される事も許さねぇ」

「それはこっちのセリフだ。盗人野郎」

「……フェデリコ・ツァリアーノだ」

「あ?」

「オレの名前だ。名前も知らない相手に殺されるのも哀れだと思ってな」

 

 初めて知った宿敵の名前。

 それを言われたら、こちらも黙っているわけにはいかない。

 

「デメジエール・ソンネン。お前を殺す人間の名前だ。その耳によく刻んでおきな」

「そっちこそな」

「今度、ヒルドルブの駆動音が聞こえた時がお前の最後だ」

「その台詞もそのまま返すぜ。じゃあな」

 

 フェデリコは窓ガラスを破壊しながら、そのまま空の彼方へと消え去っていった。

 流石に今のヒルドルブには飛行機能は搭載されていないので、追撃は不可能だった。

 それ以前に、ソンネンの気力と体力がそれを許してはくれないだろう。

 

「一先ずは……守り抜いたな……」

 

 安心して体の力を抜きつつ、ヒルドルブを待機形態である車椅子へと戻す。

 そのタイミングでソンネンにもデュバルから通信が入ってきた。

 

『ソンネンか! 廃工場で戦闘をしていると聞いたが、大丈夫だったかっ!?』

「当たり前だ。オレ様を誰だと思ってやがる」

『そうか…そうだよな。それよりも、なんとか一夏は守り抜いたぞ!』

「聞いてるよ。……やったな」

『あぁ……。ヴェルナーももうすぐこっちに合流する予定だ。彼女と一緒にそっちに向かう』

「頼むぜ」

『それと、意外な人物と再会することが出来たぞ。きっとお前も驚く』

「誰だよ?」

『それは会ってからのお楽しみだ。では、また後でな』

「おう」

 

 通信を切り、ようやく肩を下すソンネン。

 窓から除く青空を眺めながら、一言だけ呟いた。

 

「……疲れた」

 

 陽の光を浴びながら、ソンネンはデュバル達がやってくるまでの間、少しだけ眠ることにした。

 その寝顔は、先程まで命を懸けた死闘を繰り広げていたとは思えない程に穏やかだった。

 

 

 

 

 




まずはお互いに痛み分け。

決着は次の戦い以降に持ち越しです。

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