インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
昨日、ずっと積んでいたHGUCケンプファーを組み上げたのが原因なのか?
ケンプファー……いつ見ても痺れるカッコよさです……。
フェデリコとの壮絶な死闘を演じ、戦闘後に戦場となった廃工場にて一人、寝てしまったソンネンは、なにやら体が揺さぶられる感覚で目が覚めた。
「んぁ……なんだぁ…?」
「お? 眠り姫の御起床みたいだぞ」
「やっとか……」
目が覚めて一番最初に見えたのは、澄みきったドイツの青空だった。
そして、最初に聞こえてきたのはヴェルナーとデュバルの声。
「おはようさん。呑気に寝てたって事は、そっちも無事に乗り切ったって事でいいんだよな?」
「一応な……。それを聞くって事はお前達もか?」
「あぁ。私とヴェルナーは、どうやらそれぞれに幹部と目される連中と戦ったらしい」
「ふわぁ~……。なんで幹部だって分かるんだ?」
「部隊を率いていたからだ。少なくとも、それなりの地位にいる人間ではないと、部隊なんて預けて貰えないだろう?」
「そりゃそうだ」
ソンネンとデュバルも、前世では部下を持っていた経験がある。
だからこそ言える言葉だった。
「……あれ?」
「どうした?」
急に何かに気が付いたかのように周りを気にしだす。
今いる場所は会場周辺にある市街地。
まだ大会開催中な事もあり、人通りはいつも以上に多い。
「あのよ……ちょっと聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「今、オレはこの車椅子を動かしてない。そして、お前らはオレの隣で普通に歩いている。って事はよ、この車椅子を動かしてんのは誰なんだ?」
「ようやく、その事に気が付いたのか? どうやら、少佐は寝ぼけていたらしい」
「あ?」
なにやら、綺麗な声が自分の後ろから聞こえてくる。
それを確かめようとすると、急に車椅子が止まり、後ろから誰かが回り込んでソンネンの顔を覗き込んできた。
「この姿では初めましてだな。デメジエール・ソンネン少佐」
「んあ? なんだぁ? この妙に黒い軍服を着たガキンチョは……」
「ソ…ソンネン! お前は大佐に向かってなんてことを!」
「はっはっはっ! 気にする必要はないさ、デュバル少佐。開口一番でこれなんて、ソンネン少佐らしいじゃないか」
「ソンネンって性格に似合わず真面目な印象だったけど、意外とそうでもないんだな」
「そりゃどういう意味だ! って……大佐?」
聞き逃せない単語が聞こえてきて、ソンネンは子首を傾げる。
自分が知っている大佐と呼ばれる人間は非常に限られる。
自分とデュバルが揃って『大佐』と呼ぶ人間ならば更に。
「久し振りだな。ヘルベルト・フォン・カスペンだ。簡単な事情はソンネン少佐から伺っている」
「へ……? こいつが…あのカスペン大佐……?」
「私も君達と同様に、死んでから生まれ変わったのさ。こうして性別が変わってな」
「え……っと……?」
余りにもいきなり過ぎる事態に、ソンネンの脳が上手く情報を処理出来ないでいる。
数秒の沈黙の後、ようやくソンネンの脳が再起動した。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
一行は、カスペンが取ってくれた安ホテルの部屋へとやって来ていた。
安ホテルと言っても、小柄な少女達が四人で入るには十分すぎる程の広さを誇っている。
「よく部屋が取れたな。この時期はどんな所も予約で一杯になってると思ってたぜ」
「ここは私の密かに行きつけにしているホテルでな。外での用事が長引いた時などは、頻繁に使わせて貰っている」
「だから、ロビーにいた店の人間も普通に対応してたのか」
「ブラックカードを出したときはかなり驚いたがな……」
四人はそれぞれに好きな場所へと移動をした。
ソンネンは車椅子から降ろしてもらい、ベットの上で伸び伸びと身体を伸ばしている。
ヴェルナーは部屋に備え付けのソファーに寝転がり、デュバルはテーブル越しにカスペンと向き合うように椅子に座っていた。
「しかし、貴官達三人がこのドイツの地に来ていると知った時は驚いたぞ」
「それはこちらのセリフです。まさか、カスペン大佐までもが我々と同じ現象に見舞われていたとは、流石に予想すらしてませんでした」
「そうか? 私は『もしかしたら』とは思ってはいたがな」
「なんでですかい?」
「宇宙世紀の世界から生まれ変わって、この世界に来ている人間は他にもいるということだ」
「「「!!!」」」
カスペンの口から言われた驚愕の事実。
それには、普段は大抵の事は受け流すヴェルナーすらも驚きを隠せない。
「それは……一体……」
「君達も私もよく知っている人物達だ」
「まさか……!」
ホテルに来る前に購入した缶コーヒーを飲みながら、カスペンが静かに答えた。
「ヒデト・ワシヤ中尉」
「二番機に乗っていた彼か…!」
「モニク・キャデラック特務大尉」
「そうか……あいつも……」
「そして……オリヴァー・マイ技術中尉」
「……矢張り…か」
本当に懐かしい名前を聞かされて、思わず三人揃って笑みが零れる。
彼女達三人にとっては、忘れたくても忘れられない人物達だから。
「それと、もう一人だけ第603試験技術隊から生まれ変わった人物が存在している」
「それは?」
「アレクサンドロ・ヘンメ大尉。嘗てはヨーツンヘイムにて砲術長を務めていた事もある」
「ヘンメ大尉……聞いたことがあるぜ。確か、オレが赴任する前に戦死したっていう奴が、そんな名前だったような気が……」
「ソンネン少佐の言う通りだ。彼は、君がヨーツンヘイムに乗艦する少し前にルウム宙域での開戦で戦死したらしい」
「あの戦いでか……」
ここにいる誰もが決して忘れない、宇宙世紀の歴史における最大の戦争の火蓋が切って落とされた歴史的な戦い。
彼女達だけではなく、宇宙世紀に生きる全ての人々の脳裏に深く刻まれた一日でもある。
「そのように話すということは、大佐はもう彼らに会っているのですか?」
「一応な。といっても、そう頻繁にじゃない。暇を見つけてプライベートで会っているだけだ。軍人としてではなく、一人の友人としてな」
そう話すカスペンの顔には、昔の凛々しさは無く、一人の少女としての顔になっていた。
「しっかしよ、生まれ変わっても大佐は軍人をやってるのかよ?」
「やっているというよりは、必然的にそうなったと言った方が正しいな」
「というと?」
「こちらでの私もまた、向こうと同じように代々に渡って優秀な軍人を数多く輩出してきた家系だったのさ。無論、私の両親も現役で軍人をしている」
「こりゃまたなんとも」
「私自身も将来的には絶対にドイツ軍に入る気満々でいたのだが、そこで私に非常に高いIS適正がある事が発覚してしまうのだ」
「だから、その歳で入隊する羽目になった…と」
「その歳と言うがな、今の私は少なくとも君達よりは年上だぞ?」
「年上って……そのナリで?」
「……人が気にしていることをズバっと言うな。毎日、ちゃんと牛乳を飲んだりして努力はしている」
「そ…そうッスか」
デュバル、ソンネン、ヴェルナーは歳相応の成長をしているが、カスペンの姿はどう見ても小学校低学年の女子にしか見えない。
三人と並べば猶の事、そう見えるだろう。
「因みに、今年で何歳になるのですか?」
「今は14歳。今度の誕生日で15歳になる」
「「「……マジで?」」」
「素のリアクションはやめろ。普通に傷つく」
今の自分達よりも2歳も年上。
体の成長の度合いは人それぞれだと、改めて思い知ったのだった。
「そう言えば、私の元に駆け付けてくれた時は『隊長』と呼ばれていましたが、あれは……」
「おっと。その事もちゃんと話しておかないとな」
すっかり温くなってしまった缶コーヒーを一気に飲み干し、それをポイッと投げてからゴミ箱へと入れた。
「今の私はドイツ軍特殊IS部隊『シュバルツェ・ハーゼ隊』に所属し、隊長を務めている。といっても、就任したのは去年の話なのだがな」
「って事は、大佐の前の隊長さんは、戦死でもしちまったのか?」
「表向きはMIAとなっているが、実際には自らの意志で軍を抜け出し、そのまま何処かへと行方を暗ましたらしい」
他人事なのか、カスペンの口調は淡々としている。
前の隊長に関しては余り興味はなさそうだ。
「つーか、階級まで一緒ってどんだけだよ……」
「これは完全に宣伝目的で与えられた階級だ。前世での経験を最大限に生かしてしまった結果、部隊長とはまた別の立場に立たされているからな」
「なんだそりゃ?」
椅子から降りて、ソンネンが寝ているベットの隣のベットに腰掛け、溜息交じりに呟いた。
「ドイツ国家代表IS操縦者。この大会が終わってからだがな」
「「「はい?」」」
「言われるがままに試合をこなしていたら、いつの間にか代表候補生にされていて、気が付けばとんとん拍子に国家代表だ。昔のプライドが邪魔をして、下手に全戦全勝完全勝利なんてしたのが拙かったのか……」
「……大佐の相手となった少女達が哀れですよ」
伊達に前世ではジオン軍にて『カスペン大隊』なんてものを創り上げてはおらず、その実力は平和な世で生きる少女達とは比較対象にするのも烏滸がましいだろう。
「道理で、道行く連中が揃いも揃ってこっちを見ていたわけだ」
「次代の国家代表ともなれば、国中の有名人だ。そりゃ、注目もされるわな」
「今の国家代表はどうなるんだ?」
「普通に引退するらしい。なんでも、大会が開催される少し前に結婚をしたらしく、大会終了後に引退をしてから私に国家代表の任を引き継ぎ、その後は専業主婦として生きていくんだとか」
「主婦ねぇ~……」
何やら意味深に言いながら、ソンネンが天井の方を向く。
「こうして女になった以上、オレらもいつか、男と結婚をして子供を産むのかねぇ……」
「まだ想像も出来ないな」
「その時になってから考えればいいさ」
「ホルバイン少尉の言う通りだ。我々はまだ子供、遠い未来の事は考えない方がいい」
「……だぁな」
大きく欠伸をしてから、軽く背中を伸ばす。
戦闘直後からここに来ているせいか、眠気に襲われているようだ。
「では、今度はそっちの事を話して貰おうか?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「成る程な。貴官達は軍とは無縁の場所で育ったのだな」
「はい。そこに至るまでの過程は散々でしたが、一人の子供として何気ない日常を
送れるのはとても新鮮で貴重な体験でした」
「だろうな……。誰だって荒事塗れの人生なんて送りたくはないもんだ」
「そうですね。だからこそ、改めて『守る強さ』を認識もしましたが」
「……そうか」
満足そうに頷くカスペン。
彼女は三人を見て確信していた。
この三人は以前よりも遥かに強くなっている。
体ではなくて心が。
「しかし、よもや少佐たちがあの『白騎士事件』にまで関わっていたとは驚きだ」
「あの時は誰もが必死でしたから」
「あん時の事は一生忘れねぇよ……」
己の無力さを身を持って実感した日だから。
故に求めた。誰かを守れる『強さ』を。
自分の信念を貫ける『強さ』を。
「ならば、君達が嘗ての愛機を模したISを手にし、こうしてドイツに来れたのも、あの篠ノ之束博士の助力があったからと見るべきなのか?」
「そうです。先ほども話しましたが、束とは幼い頃から個人的に親交があったので」
「成る程な。どうやら、こちらの想像以上に大きな友人を持ったようだな」
「そうですね……当時はそんな事は全く思っていませんでしたが、今思うと凄い人物でしたね」
「だろうな。一つのカテゴリーをこの世に産み出した人物なのだから。そのような偉業は並大抵の人間には出来ないだろう」
カスペンもまた、未だに会ってすらいない束の事を純粋に評価していた。
これこそ、宇宙世紀に生きた人間達と、西暦の世を生きる人間達との価値観の差なのかもしれない。
「で、ドイツにはなんで来たのだ? あの『亡霊共』と戦闘をしていたということは、奴らの事を予め把握していたと思われるが……」
「それは……」
デュバルは三人を代表し、今回の事に至るまでの経緯を事細かに説明した。
「そうか……偶然とはいえ、連中の通信を傍受して……」
「一夏の誘拐計画の事を知ったのです」
「よもや、我々のいる前で民間人を誘拐し、人質にしようなどと……随分と舐められたものだな……!」
怒りで感情が高ぶったのか、手袋を着けた左手がギシギチと鳴る。
「だがしかし、それも貴官達のお蔭で事前に防ぐことが出来た。軍を代表して感謝するよ。ありがとう」
「いえ。我々は一人の友人を救いたいと思った、ただそれだけですから」
「その立派な精神こそが、最も褒められるべき事だと思うがね」
「そ…そうでしょうか……」
照れくさそうに頬を掻き、なんでか頭のアホ毛が激しく左右に揺れている。
どうやら、彼女の感情に合わせて動いているようだ。
「連中の部下達はどうなったんだ?」
「それならば心配無用だ。全員、私の部下達が捕縛した。例の少年も含め、民間人には一切被害は無いようだ」
「それは良かったぜ」
「だが、念の為に残った部下達を観客席の警備に当たらせよう。特に、例の少年がいるブロックはな」
「お願いします」
言うが早いが、カスペンはすぐに自分のスマホで自分の副官であるクラリッサにメールを送った。
「これでよし。送り先は私が最も信用してる副官だ。これならば大丈夫だろう」
「なぁ……ちょっといいか?」
妙に真剣な顔をして話し出すソンネン。
明らかに様子がおかしい彼女を見て、全員が黙って話を聞くことに。
「いつ話し出そうかタイミングを伺ってたけどよ、今なら大丈夫だろ」
「何を話す気だ?」
「さっきの生まれ変わり云々の話だよ」
ゴロンと体勢を変えて、俯せになるソンネン。
楽な姿勢になったところで話を再開した。
「第603技術試験隊の関係者以外にも、宇宙世紀から生まれ変わった奴がいるぞ」
「なんだとっ!? それは誰だっ!?」
「そいつの名は『フェデリコ・ツァリアーノ』。地球連邦軍の士官であり、オレのヒルドルブと戦った相手で……相打ちになった奴だ」
「お前のヒルドルブと相打ちって事は……」
「そいつが例の『盗人野郎』か。ジオンのザクを鹵獲して好き放題に使ってたっていう……」
「あぁ。そいつが会場にいて、一夏の事を狙ってやがってた。恐らく、亡霊の一味になってるんだろうな」
「それじゃあ、お前があの廃工場で戦ったのは……」
「フェデリコだ。野郎…間違いなく、あの頃よりも強くなってやがった……!」
「お前にそこまで言わせるとは……」
三人が話す中、カスペンだけが大きく目を見開たまま固まっていた。
「大佐? どうしました?」
「……ソンネン少佐。貴官が戦った相手は確かに『フェデリコ・ツァリアーノ』と名乗ったのだな?」
「間違いないぜ」
「それがどうかしたのかい?」
「フェデリコ・ツァリアーノ……そいつは……」
「私の前にシュヴァルツェ・ハーゼ隊の隊長をしていた女だ……」
今回は話してばかり。
でも、懐かしの相手と再会すれば、昔話に花が咲くのは当然ですよね。