インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
こんな時こそ、気持ちだけでも明るくいかないと!
なんて言いつつ、私も不安だらけなんですけどね。
それと今回、三人娘の精神が少しだけ肉体に寄ってきている描写があります。
不快な人はブラウザバック推奨です。
「そんな訳で、暫くの間、ソンネン達が住んでる孤児院に世話になる事になった」
「ぬわぁんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」
昼休み。一夏がいつものメンバーと一緒に教室で昼食を食べながら発した一言により、弾が絶叫し、鈴は呆然とし、教室にいる全ての男子は一夏に対して嫉妬の視線を飛ばした。
「なんで……なんでお前ばがり……!」
「事情は今さっき話したばかりだろうが。つーか、なんで血涙を流す? 普通に気持ち悪いぞ」
悔しさの余り、鮮血の涙を流しながら昼飯のサンドイッチを頬張る弾。
その形相は、まるでどこぞの世紀末覇者のようだ。
「にしても、まさか千冬さんがドイツにねぇ~」
「千冬姉の話だと、ちょっとしたスカウトに近いらしい」
「それも、相当に柔らかい表現をしてるけどな」
日本政府の人間達の事を考えながら、半ば呆れている表情を見せるソンネン。
そんな彼女の今日の昼食はサクサク揚げたてのカツサンドである。
「どういうことよ?」
「第二回モンドグロッソで優勝した千冬さんは、今や日本を代表する有名人の一人になってる。そんな人物がドイツに教官として赴けばどうなるか」
「どうなるんだ?」
まだまだ政治の事に詳しくない一夏と鈴は、『教えて』と言わんばかりにデュバルに詰め寄る。
「まず、世界から日本の評価が良くなるのは確実だ。それに加え、いざって時に備えてドイツに恩を売る事も出来るしな」
「表向きは『日独の友好関係をより深める為』とか言ってるんだろうがな」
「これだから政治家って人種は好きになれねぇ。どうもあいつらは人間を『駒』とか見ていない風があるからな」
かなり皮肉っているが、それは偏に彼女達が元軍人だからである。
三人がジオン軍に所属していた時も、よく自国の政治に振り回されてきたから。
「一年間…か。長いような短いようなって感じよね」
「今から一年って事は、来年の今頃までになるのか……ちぐじょう……!」
「また血涙かい」
弾の血涙は一向に収まる気配が無い。
こうなったもう、彼は放置しておくのが賢明だろう。
「これからは、ジャンたちと一緒の場所で過ごすのよね……」
「そうなるな。それがどうかしたのか?」
「いや、純粋に心配なだけよ。孤児院には他の子供達や院長さんもいるとはいえ、同年代の女の子三人と一つ屋根の下で一年間も暮らす事になるのよ? その意味、ちゃんと分かってる?」
「分かってるって。孤児院には迷惑を掛けないように頑張るつもりだし……」
「はぁ……」
一応、双方の事を思って心配しているのに、肝心の一夏が全く理解していない。
いつものことながら、一夏の鈍感具合に大きな溜息と同時に頭を抱えてしまう鈴だった。
「あんた…本当に分かってるの?」
「何をだよ?」
「…一夏ってさ、この三人とは幼馴染なのよね?」
「おう。それがどうかしたのかよ?」
「今までは少し離れた位置にいた幼馴染の女の子三人が、急に自分と同じ場所で暮らすようになる。普通に考えても、これってかなりの急展開よ?」
「まるで恋愛ゲーム、恋愛マンガ、恋愛小説の主人公のような環境……なんて羨ましい……!」
完全に盛り上がっている鈴の話に割り込む勇気など無い三人娘は、今は黙って聞き手に徹することに。
こんな時に変に介入すれば、大抵は碌な事にならないと今までの事で学んでいるのだ。
「想像してみなさいよ。朝起きれば普通にジャンがいる生活を。デメと一緒に同じテーブルに座って食事をする生活を。夜にヴェルナーに『おやすみ』って言って寝る生活を」
「………………」
鈴に言われるがままに想像してみる。
まずは朝、デュバルに起こして貰うシーン。
『もう朝だぞ一夏。そろそろ起きろ』
『あと五分……』
『ダ・メ・だ。このままだと遅刻してしまうぞ。それに……』
『ん?』
『私がせっかく作った朝食が冷めてしまうじゃないか……。一夏の為に作ったのに……』
『デュバル……?』
『それとも、一夏は私の作ったご飯は嫌いか……?』
ここで我に返る。
「そんな事はねぇよ!!」
「「「わっ!?」」」
いきなり叫んだ一夏に本気で驚く。
更にそこから、急にデュバルの手を掴んで顔を近づけてきた。
「俺、デュバルの作ったご飯、すっごい楽しみだからな!」
「そ…そうなのか? というか、顔が近い……」
普通に考えれば、完全にワザとであると思われるだろうが、織斑一夏という少年は、これを素でしてしまう近年稀に見る逸材なのだ。
デュバルの方も、元同性であるとはいえ、今は立派な女であるため、今のように異性に顔を近づかれれば、嫌でも女らしい反応をしてしまう。
要は、照れて顔を赤くして目を背けてしまうのだ。
自分達のアイドルに目の前でそんな事をされれば、クラスの男子達が黙っている筈も無く……。
「畜生……織斑の奴……!」
「俺達のアイドルに何て事をしやがる……!」
「この恨み…晴らさずにおくべきか……!」
このように、嫉妬の黒い炎で身を焦がす事となる。
そりゃもうメラメラに燃えるのだ。
「あ~らら。一夏の天然がまた炸裂だわ」
「今、夜に外を出歩いたら、まず間違いなく一夏は後ろから刺されるな」
その光景が用意に想像出来てしまうのが、なんとも悲しい事である。
「…いい加減に手を放してくれないか?」
「あ…ごめん」
本人達に自覚は無いだろうが、やってることは完全にラブコメである。
次に一夏は、ソンネンと一緒に食事をする光景を思い浮かべた。
『えっと……醤油、醤油……っと』
『『あ……』』
『ご…ごめん。先に使ってもいいぞ』
『そ…そっか? 悪いな』
『『……………』』
『あの…さ。一夏が作ってくれた料理…美味しいな』
『そりゃまぁ…その……ソンネンに食べて欲しいって思いながら作ったからな……』
『こんな美味い料理なら、毎日でも食べたいな……』
『え……?』
はい。そこでストップ。
一夏はボーっとソンネンの顔ばかりを見つめ続けていた。
「な…なんだよ?」
「いや……ソンネンって綺麗だなって思って……」
「はぁっ!? い…いきなり何言ってやがんだお前はっ!?」
これはもう明らかな反応。
顔を真っ赤にしながら狼狽えるソンネンは、完全にラブコメのメインヒロインだ。
当然、こんなものを見せられれば、男子達の怒りはヒートアップする訳で。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……!」
「デメたんは俺の嫁……!」
「私のソンネンさんに手を出すとは…命が惜しくないようね……!」
約一名、女子生徒が混じっていたような気もしたが、気にしてはいけない。
「全く……もきゅもきゅもきゅ……」
照れていることを誤魔化すように、急いでカツサンドを食べるソンネン。
元男だとか元軍人だとか、そんなのは関係無しに可愛い姿は、見慣れている二人を除いた全ての人間の心臓を撃ち抜いた。
(デメ……ちょっとマジで胸キュンしちゃったんだけど……)
(あ~…くっそ~! 本気で可愛過ぎるだろ~が!)
(あ…あれ? なんで俺、こんなにも胸がドキドキしてるんだ?)
上から順に、鈴と弾と一夏の心の声である。
その他の生徒達も似たような感想を心の中で抱いていた。
「今度はヴェルナーか……」
「ん? オレがどうかしたのかい?」
今回三度目の妄想世界に突入。
『もうこんな時間か。そろそろ寝るか』
『そうだな。それじゃあ、おやすm……』
『一夏』
『な…なんだ? 急に袖を引っ張ったりして』
『今夜は少し冷えるからさ、よかったら一緒に寝てくれないか?』
『えぇっ!?』
『ダメか?』
『俺は……俺は……!』
はい。お目覚めの時間ですよー。
「いい……」
「何が?」
「ヴェルナーと一緒なら……寝てもいい……」
「ふ~ん。一夏なら、抱き枕として丁度いいかもな」
「うをっ!?」
ここでまさかのカウンター。
他の二人とは違い、ヴェルナーの攻略難易度は相当に高いようだ。
「ホルバインさんに抱き枕にされる…南国系美少女の抱き枕……」
「最高のご褒美です。ありがとうございました」
「我が人生に……一片の悔いなし……!」
今度は歓喜の余り泣き出すクラスメイト達。
彼らが何を考えているのか誰にも分らない。
「なんか、このままだと一夏ってラブコメ系主人公の典型的なお約束とかしそうよね」
「あぁ~…なんかそれ分かる」
「な…なんだよ。その『お約束』って」
ジト目になりながら、鈴と弾が言い聞かせるように語り出す。
「着替えている最中にノックもせずに勝手に部屋に入ってきて、下着姿を見てしまったり」
「風呂上りに相手がいる事に全く気が付かずに裸を見てしまったり」
「床に滑ってコケて、そのまま相手を巻き込むように倒れ込んで、その勢いで思わず胸を触ってしまったり」
「んな事しねぇよ!!」
「……って、絶対に言い切れるのか?」
「それは………」
ここで『無い』と言い切れないのが、男の悲しき性である。
「一夏。一応、あたしからも忠告しておくわよ」
「何をだよ……」
「もしも、ジャンやデメやヴェルナー達にエッチな事をしたら……」
「したら……?」
ズイっと思い切り顔を近づけてドスの利いた声で一言。
「引き千切るわよ……?」
「りょ…了解……」
この時の鈴について、後に一夏はこう語っている。
『鈴の背後に金剛仁王像が見えた』と。
「ともかく、絶対に迷惑を掛けるんじゃないわよ」
「当たり前だろ。孤児院の皆に迷惑なんて……」
「誰が孤児院に、なんて言った?」
「へ? じゃあ……」
「ジャン達に迷惑を掛けるんじゃないって言ってるのよ。さっきまでの話、ちゃんと聞いてたの?」
「そ…そうだよな。うん。ちゃんと分かってるぞ?」
「そこで疑問形になる辺り、どうも信用に欠けるのよね……」
「俺って皆からどんな風に思われてるんだよ……」
それに関しては、知らない方が身の為である。
「で、具体的にいつから一夏は孤児院に移ることになるんだ?」
「千冬姉がドイツに行く日と一緒になってる。院長さんに挨拶をしてから、その後に空港に行くんだと」
「そっか。割とマジな話、お前も大変だな」
「まぁな。でも、一人で家にいるよりかはずっとマシだしな」
ここで明るく笑えるのが、織斑一夏の強さなのかもしれない。
そんな彼が、自分の中にある感情に気が付くのはいつの日か。
転生してからもう10年以上が経過しているせいか、三人娘の精神も少しだけ女性寄りになっている様子。
女になった以上、いつかは必ずぶつかる問題にどうやって向かい合うのか?