インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
少しは進展することが出来るのでしょうか?
学生である以上、『ソレ』は確実にやってくる。
小学生の時はそうでもなかったが、中学辺りからイベントのように定期的に行われる、数多くの生徒達を絶望の淵に叩き落とす儀式。
人はそれを『テスト』と言う。
「さっきの数学の小テスト、どうだった?」
「「この通り……」」
「うわぁ……」
なんてことない、いつもの昼休み。
教室でぞれぞれに昼食を食べながら、四時間目の数学の授業にて行われた小テストの結果を見せ合っているいつもの面々。
鈴に向けて見せた一夏と弾の結果は、実に散々だった。
「一夏は56点で、弾に至っては31点って……」
「こんなんじゃ、戻って来た時にほぼ確実に千冬姉の雷が落ちるな……」
「お前はまだいいじゃねぇか! 俺なんて赤点ギリギリだぞっ!? 雷なんてレベルじゃねぇ! こちとら、爺ちゃんの破壊光線が飛んでくるわ!!」
ここで弾が言っている『爺ちゃん』とは、彼の祖父にして実家である『五反田食堂』の店主でもある『五反田厳』の事を指している。
もうすぐ80代に突入しようとしている年齢であるにも関わらず、その肉体はまるで巌のように鍛え上げられ、全く衰えを感じさせない。
一夏や鈴は勿論の事、ソンネンとデュバルとヴェルナーの三人もかなり気に入られていて、時折、孤児院の子供達と一緒に食事をしに行くことがある。
なんでも、院長と弾の祖父もまた昔馴染みらしく、食堂に行くといつも昔話に花を咲かせている。
「ははは! 遊んでばっかじゃねぇで、もうちょっと勉強しろって事だな!」
「んなっ……! そ…そこまで言うんなら、三人は高得点なんだろうなっ!?」
「「「100点です」」」
「そげな馬鹿なぁっ!?」
見事に満点を取った答案を堂々と見せつける三人。
特に、デュバルに至っては公式までちゃんと書いていて、先生からお褒めの言葉が書かれていた。
「アンタってば知らなかったの? ジャンは当然の事、デメもヴェルナーもめっちゃ頭いいわよ? 小学生の時からそうだったけど、テストで95点以下を取ったところを見た事無いもの」
「嘘だろっ!?」
前世で軍の士官をやっていたのだから、三人娘にとってこれぐらいは余裕で解くことが出来る。
見た目に騙されてはいけない。彼女達の中身は紛れも無く『エリート』と呼ばれる存在なのだから。
「そういや、三人共小さな頃からすっごい頭良かったよな……」
「冗談だろ……。デュバルさんやソンネンさんはともかく、まさかホルバインさんまで優等生だったなんて……」
「む? もしかして、オレの事を馬鹿にしてるのか?」
「い…いやいやいや? 全然全くそんな事は有りませんよ?」
「声が上ずってる時点でバレバレだっつーの」
意図してない失言に、慌てて好感度を下げないように取り繕う弾だが、一度でも出した言葉は二度と引っ込められないのだ。
残念だが、この時点で弾のヴェルナー攻略ルートは絶たれてしまった。
「そんなに疑うんなら、試しにヴェルナーに問題でも出してみる?」
「オレは全然いいぞ」
フィッシュサンドをパクリと食べながら応えるヴェルナーに、鈴が適当に考えた問題を出題することに。
「それじゃあ問題。Why is the number 9 like a peacock?」
「Because it is nothing without its tali,」
「正解。次の問題ね。パリ万博に出品された日本の壺と言えば?」
「薩摩焼」
「『日本資本主義の父』とまで呼ばれ、後に多くの企業や銀行を設立した……」
「渋沢栄一」
「次の問題……」
「もういい! もう十分に分かったから! 弾のHPはもうゼロだ!」
全ての問題を完膚なきまでに完全正解してみせたヴェルナーの凄さに、弾のメンタルはドボドボになっていた。
ついでに、男としてのプライドもドボドボになっている。
「もうじわげありまぜんでじだ……(泣)」
「「分かればよろしい」」
鈴としては、小学生時代からの大切な友人を小馬鹿にされたような感じだったので、非常に心がスッキリとしていた。
一方のヴェルナーは、別にそんな事は気にしてはおらず、これもまた子供同士のコミュニケーションだと思っている。
「だが、このままだとお前達二人は今度ある中間テストは危なくないか?」
「「そうなんだよなぁ~…」」
一夏の方はやれば出来る人間なので、後は本人の頑張り次第なのだが、問題は弾の方だった。
彼は昔から勉強などが長続きせず、気がついた時にはゲームなどで遊んでいる事はしょっちゅうなのだ。
本人も、このままではいけないと自覚はしているのだが、自覚しているだけでどうにかなれば誰も苦労はしない。
「仕方があるまい。こうなったら、久々に『アレ』をするしかないだろう」
「『アレ』…ね。前にやったのは小学五年生の時だったわね」
「お…おい? 『アレ』ってなんだよ……?」
なにやら不穏な空気が漂ってきたので、思わず聞き返す弾。
それが彼にとっての地獄と天国の狭間への扉を開くとも知らずに。
「「勉強会」」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「遂に……遂に来ちまったんだな……」
日曜日。
鈴とデュバルによって開催された勉強会は、前回と同様に孤児院にて行われる運びとなった。
理由は、デュバル達に加え、今回は一夏も孤児院側にいるから。
ならば、鈴と弾がやって来た方が早いのだ。
「何を緊張してんのよ。とっとと入るわよ。皆、待ってるんだし」
「ちょ…ちょっと待ってくれよ! まだ心の準備が……」
「んなもん知らんわ!」
慣れた足取りで孤児院の扉を開けて中に入ると、ロビーにて既に四人が待っていた。
「お待たせ。弾が変に渋るから大変だったわ」
「そりゃそうなるだろ! あの三人が住んでる場所にお呼ばれされてんだぞっ!? あの学校の男子生徒なら、誰だって緊張するわ!」
「意味分んないし……」
「いや、今は俺もここにいるんだけど……」
何気に存在を無視された一夏は、涙を流しながらのアピール。
「おい弾。ちゃんと勉強道具は持ってきたんだろうな?」
「も…勿論だ! 幾ら俺だって、そんな事だけはしないって!」
「ふ~ん……」
「あれぇっ!? ソンネンさんからの俺に対する信頼度ってゼロっ!?」
「いや、普通にマイナスだけど」
「もっと酷かった!」
二人が漫才を繰り広げていると、ソンネンの膝の上にいた四匹の子猫たちが可愛らしく『みゃ~』と鳴いた。
「きゃ~! 久し振り~! ミカ~! 昭弘~! シノ~! オルガ~! 今日もアンタ達は可愛いわね~!」
「うお……ここ、猫なんて飼ってたのかよ」
「そうよ。もうメッチャ可愛いんだから!」
今日も子猫たちにメロメロな鈴は、ひょいっとシノの事を優しく抱き上げた。
「ふわふわで肉球プニプニ……超癒されるわ……」
「鈴は本当にこいつらに好かれてるな」
「こいつらも、鈴に会えると嬉しそうにしてるんだよな」
「一応、全員が『オス』だしな」
慣れた手つきでミカを撫でるソンネンに、同じように抱き上げてられてからデュバルとヴェルナーの胸にしがみ付くようにしているオルガと昭弘。
その光景を見て、後に弾はこう語っている。
『生まれて初めて、本気で猫に嫉妬しました』と。
「そんじゃ、早速始めようぜ」
「それはいいけど、何処でするの?」
「オレの部屋でするか?」
「ヴェルナーの部屋か。いいんじゃないか?」
「ホ…ホルバインさんの部屋……女の子の部屋……ゴクリ……!」
今までの人生の中で、女性の部屋と言えば母と妹の部屋しか入った事のない弾にとって、同年代の女子の部屋というのは、未知の場所であると同時に夢の空間でもあった。
「こんな事を言うのはあれだけどさ、あんまし期待しない方がいいぞ?」
「うっせー! どんな形であれ、美少女の部屋に入れるなんて一生に一度、あるか無いかなんだぞ! お前と一緒にするな!」
「なんでそこで俺が責められるんだ?」
男二人が騒いでいる間に、女子四人はそそくさと先に進んでいっていた。
「そんな所で駄弁ってないで、早く来なさいよね~」
「「お…おう!」」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「魚拓に釣竿にリール……ルアーまである……。見事に釣りグッズばかりだ……」
「だから言ったろ? ヴェルナーのお爺さんは漁師をやってたらしくて、そのせいか、こいつもそっち系の事にしか興味を示さないんだよ」
一夏や鈴はもう既に何度も入った事のあるヴェルナーの部屋。
小学生の時よりも遥かに物は増えていて、ちょっとした博物館と化していた。
「し…知らなかった。でも……」
「でも?」
「釣りが好きな美少女ってのも、絵になるよな……」
「アンタもぶれないわねぇ……」
現実を見せられても全く怯まない弾に、完全に呆れる鈴。
ここまでくれば、逆に凄いとすら思ってしまう。
「さて。時間はたっぷりとあるとはいえ、有限であることには違いない。早くしよう」
「そうね。ところでさ、子供達と院長さんはどうしたの?」
「『勉強の邪魔になるかもしれない』つって、皆で遊びに出かけてるよ。流石にコイツら連れてはいけなかったけどな」
ソンネンが優しく全身を撫でると、小さく『みゃ~』と鳴くミカ。
どうやら、外に行くよりは彼女達と一緒にいる方が好きなようだ。
「猫たちも一緒で大丈夫なのかよ?」
「心配はいらないさ。意外と大人しい子達だぞ? な?」
「みゃう」
「ん~…いい子だな~」
「あのデュバルさんが猫撫で声を出してる……」
優等生美少女の意外な素顔に、弾は本気で見惚れた。
「ほれ、とっととやるぞ~」
ヴェルナーの鶴の一声で、グダグダになりかけた勉強会が開始された。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
勉強会が始まってから10分。
早くも男子二人は行き詰まっていた。
「ま…全く分らねぇ……!」
「これは何の呪文だ……?」
ウンウンと唸る二人とは違い、女子達はスムーズに問題を解いていった。
「ここは…こうだから……」
「ふむ……つまり……」
「あ。そっか」
「……………」
普通ならば、ここで何とかして頑張って女の子達にいいところを見せようとするのだろうが、弾は全く違った。
(いや…逆に考えるんだ。ここは問題が分らない事を利用して、女の子達とスキンシップをするチャンスなのでは?)
この状況でもめげない弾のメンタルには敬意を表したい。
どうして、その発想力を別の事に活かせないのだろうか。
しかし、その作戦には一つだけ、致命的な盲点があった。
「あのさ…ヴェルナー。ここの問題がどうしても分からないんだけど……」
「どこだ? 見せてみろよ」
弾の目の前で、一夏がヴェルナーに教えを請いていた。
二人は物理的な意味で急接近して、いつの間にか顔まで近づいている。
「ここはこうして……」
「あ……成る程。じゃあ、こっちは……」
「そうそう。なんだ、やれば出来るじゃねぇか」
「ま…まぁな」
ここで一夏は、自分の目の前にヴェルナーの顔がある事に気が付く。
一瞬で彼の顔は赤くなり、思わず目を逸らしたが、すぐに視線だけがまたヴェルナーの方を向く。
「どうした?」
「な…なんでもない……」
(うわ…これが女の子の匂いか……凄く良い香りがするな……。ひ…日焼け後が見えた……。そういや、元から小麦色の肌じゃなくて、これは日焼けしたせいだったんだよな……。ふ…服の下から除く真っ白な日焼け後がエロい……。なっ…! 今…少しだけ下着が見えたような……!)
それからもヴェルナーに色々と教えて貰いながらも、その目は完全に彼女の体に釘づけになっていた。
その様子は、弾からは明らかにイチャイチャしているようにしか見えない。
(い…一夏の野郎……! なんて羨まし……)
「さっきからどうした? なんか分んない問題でもあんのか?」
「ソ…ソンネンさん」
「どれ。見せてみろ。どこが分らないんだ?」
「こ…ここっス」
ソンネンが自分に接近して勉強を教えてくれている。
神様は自分の事を見捨ててはいなかった。
少なくとも、弾はそう思った。
そんな事をしている間も、一夏とヴェルナーはずっと一緒に勉強をしている。
まるで、本当の恋人同士のように。
「「あ」」
ふとした拍子に、二人の手が重なる。
思わず一夏は手を離すが、そんな事なんてお構いなしにヴェルナーは彼の手を掴んでからペンを握らせる。
「ほれ。今度は離すなよ」
「お…おう」
(ヴェルナーの手ってこんなにスベスベしてたのか……。ずっと触ってたいって気持ちになる……)
リア充爆発しろ。
クラスの男子達がこの場にいたら、間違いなくこの言葉を言っていただろう。
「リア充爆発しろ」
「何言ってんだ?」
おっと。ここにも一人いましたね。
そして、こんな空気の中で彼等、彼女らを見ている二人は勉強している手を止めてジト目になっていた。
((何をやってんだか……))
「にゃふ」
先程まで大人しくしていた子猫たちのリーダー格であるオルガが、徐に弾の方に近づいていき、慰めるようにその肉球を押し付けた。
余談だが、後に行われた中間テストにて一夏と弾は揃って平均点を越える点数を取ることが出来たらしい。
なんか、一夏よりも弾のほうが目立ってたような気が……。
本当はそんなつもりじゃなかったんだけどな~。