インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
「ったく……あのバカが…! 今日
歩道を歩きながら、織斑千冬は憤っていた。
親友である束が前々から何かをせっせと作っていて、何かを企んでいる節を見せていたのは知ってはいたが、最近になってからは無断で欠席をするようになっていった。
別に、それ自体は今に始まった事じゃないので慣れたものなのだが、その度にプリントを届けたり、授業内容が書かれたノートを見せるのが段々と億劫になってきた。
いい加減に、力づくでもいいから学校に来させるようにした方がいいのかもしれない。
千冬は密かにそんな事を考えていた。
「この怒りはどう晴らせばいいのやら……!」
怒りで動くのはよくないと頭では理解していても、晴らさなければどうにも収まりがつかない。
こんな時、一番いいのは何かに怒りをぶつける事なのだが、彼女が大切にしている弟は流石に論外。
ならば、一体誰に怒りをぶつければいいのか? その答えは明白だった。
「あのバカにぶつけるのが最高なんだろうが…どこにいるのか分らないしな……」
普通ならば真っ先に家へと向かうのが当たり前だが、束の場合はその『当たり前』が全く通用しない。
長い間、自分の部屋に籠っていたかと思えば、ある日突然に何処かへと消えていることがある。
そんな彼女の謎の行動力に、これまでに何度振り回されてきたことか。
「はぁ……こう…道を歩いていたら、そこらに落ちていたりしないもんか……」
落ちてるわけないだろ。
ストレスのあまり、意味不明なことを言い出した。
だが、その彼女の願いは別の形で叶うこととなった。
「びえぇぇぇぇぇぇぇ~んっ!!」
「む…? この無駄に高い声の泣き声は…まさか……!」
偶然にも千冬が近くを通りがかった時、完全に聞き慣れて耳にこびり付いている声が聞こえてきた。
猛烈に嫌な予感を感じつつも、彼女は公園の中へと入っていく。
すると、彼女が目撃したのは……。
「そうだよね~! 辛かったよね~! 分かるよ~! 束さんもよ~く分かるよ~!」
「「いい加減に離せ!!」」
二人の幼女に泣きながら抱き着いている親友の図だった。
叫んでいる内容は本気で意味不明。
判明していることは、抱き着かれている幼女達が迷惑そうにしている事だけ。
それだけ分っていれば、千冬が動くには十分過ぎる理由となった。
「た~ば~ね~! 貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ゲッ!? ち…ちーちゃんっ!?」
完全に怒りゲージがMAXになり、今にも怒髪天を突きそうな勢いの千冬。
それを見た束は本気で命の危機を悟り、身動きの取れないデュバルとソンネンは全く状況が理解出来ないまま、自分達の方に放たれる濃密な殺気に困惑していた。
「お…おい…! なんか知らねぇけど、あのねーちゃん…すげー殺気を放ってるぞ……」
「肌が焼付くようだ……! まだ女学生の身だというのに、なんという殺気を出せるのだ……」
前世ではお互いに軍人をやっていただけあって、幼女の身になっても戦いの気配には人並み以上に敏感になっていた。
「昔からお前は色々と周りに迷惑を掛けることはあっても、犯罪にだけには決して手を染めないと信じていたのに……! そんな私の期待を目の前で裏切りおって!!」
「ち…ちーちゃん? まずは落ち着いて、その手に持ってる竹刀を地面に置いてから、人間らしく話し合いでもしよ……」
「よりにもよって、こんなにも小さな幼女達に手を出そうとするとは……そこまで性根が腐ったか!! 束ぇぇぇぇっ!!」
「ちょっとぉっ!? 人の話を聞いてますっ!?」
「こんな姿をもしも箒が見たら泣くぞ! それでもいいのかっ!?」
「それだけは本気でご勘弁をっ!」
『箒』とは、束の妹の名前である。
実妹の名前が出た途端、束がすぐに二人から離れて地面に正座した。
「やっと……」
「離れやがったか……」
謎の女からの拘束から解放されたソンネンとデュバルは、肩や首を回しながら安堵していた。
それを見て、彼女達がかなりの力で捕まっていたと思った千冬は、急に申し訳なさで一杯になる。
「お前達……本っ当に申し訳ない!! この馬鹿が君たちにとんだ迷惑を掛けて……」
「お…おい……なんでお前さんが謝るんだよ……」
「頭を上げてください。私達は別に気にしてなどいませんから」
傍から見ると、二人が全く気にしてないように見えるが、本当は全く違った。
助けて貰ったとはいえ、名前も知らない(身体的な意味で)歳上の女性からいきなり謝られて、普通に困惑していた。
流石の二人も、助けてくれた相手から謝罪されたのは初めての事だった。
「うぅ…なんていい子達なんだ……」
「そーだよ、ちーちゃん? いきなり謝られたって、この子達が困るだけじゃん」
「お前が言うな!! というか、お前も謝れ!!」
「ご…ごめんなさい」
「もっと心を込めて!!」
「本当にすみませんでした!!」
遂には千冬によって頭を押さえつけられ、無理矢理に土下座をさせられた。
それを見た二人は、流石に可哀想になってきた。
「あ…あの…もうその辺で……」
「オレ達は気にしてねぇからよ……」
「…だ、そうだ。この子達の優しさに感謝しろよ」
「はい……」
この瞬間、完全にこの場でのヒエラルキーが決定した。
何が何やらさっぱり分らないまま、ソンネンとデュバルは顔を見合わせた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
公園にてのんびりと話していたら、まさかの展開が連続で起きたが、取り敢えず落ち着いた。
「なんで束さんがジュースを奢らないといけないのさ……」
「事の元凶がお前だからだろうが……!」
「ハイ…ソーデシタネ……」
ベンチに座っている束と千冬の手にはそれぞれに缶ジュースが握られていて、デュバルとソンネンの手にはジュースに加えてチョコパイも握られている。
これは、迷惑を掛けた詫びの品として千冬が束に買ってくるように言った物だ。
「なんだか悪ぃな」
「ありがとうございます」
「気にしないでくれ。悪いのは完全にコイツなんだからな」
「うぐ……」
立場が一番下になった束には何も言えない。
冷静になって、自分が悪いと自覚したから尚更だ。
「まずは自己紹介をしようか。私は織斑千冬だ。よろしく」
「私は、天才美少女科学者の篠ノ之束だよ~!」
「自分で『天才』なんて言ってら」
「自称なんだろう。そう言ってやるな」
「本当に私は天才なんですけど~っ!?」
自分の妹と同じぐらいの少女達に同情されて、会心の一撃を貰った束は本気で泣きそうになる。
「今度はこっちだな。オレはデメジエール・ソンネンだ。よろしくな」
「私はジャン・リュック・デュバルと言う」
「最初に見た時からもしやとは思っていたが…二人は外国人なのか?」
「まぁな。一応、オレらは揃ってイギリス出身だ」
「矢張りか……。それにしては、随分と日本語が上手なのだな。誰かに教わったのか?」
「「勉強した」」
「そ…そうか……」
見た目だけは自分の弟と同じぐらいなのに、その口調や雰囲気は全くそんな感じをさせない。
こいつらもまた束と同じ『天才』と呼ばれる人種なのではないか。
千冬はそう思わずにはいられなかった。
「デメジエール・ソンネン……ジャン・リュック・デュバル……」
「束?」
「じゃあ、ソーちゃんとデューちゃんだね!」
「ソーちゃんと……」
「デューちゃん?」
今の自分たちが少女なのは正しく理解しているから、『ちゃん』で呼ばれることは受け入れる用意は出来ていた。
だがしかし、まさか略称で呼ばれると全く予想していなかった。
「ほぅ……」
「なんでそこで感心する?」
「いやな。束は基本的に自分が認めた身内には渾名を付けることが多いのだが、まさかいきなりそうなるとは思わなくてな」
「ふ~ん……」
逆を言うと、自分が認めない人間には辛辣な態度をすることがあるということ。
前世における戦乱の世で様々な人間を見てきた二人は、その事について特に言及はしなかった。
「では、聞かせて貰おうか」
「何を?」
「なんでお前が彼女たちに抱き着いていたのかを…だ」
「話せば長いんだけどね~」
「短くしろ」
「そんな横暴なっ!? 仕方ないな~」
そこでようやく束は話し出す。
自分がイライラしている時に気晴らしに散歩をしていたら、公園の前を通りかかった時に偶然にも二人の話声が聞こえてきて、それがどうしても気になった束は、それを草むらから隠れてみていたのだが、途中で感極まってしまい、思わず二人に抱き着いてしまった…という内容だった。
「なんでイライラしていたかは敢えて聞かないが……」
「いや、聞いてよ」
「猛烈に嫌な予感がするから断る。やっぱり、お前が全部悪いんじゃないか」
「面目次第もございません……」
いつの間に自分の親友は小さな女児に興奮するような変態になってしまったのか。
千冬は頭が情けなさで頭が痛くなった。
それに比べて、デュバルとソンネンの対応には普通に好感が持てる。
弟と会わせたりしても面白いかもしれない。
場合によっては、将来的に二人の内のどっちかが自分の義妹に……?
「話を聞いてたって……どっからだ?」
「ソーちゃんが『ふざけんじゃねぇっ!』って叫んだところから」
「最初からじゃねぇか……」
思いっきり宇宙世紀の話をしてしまった。
誰もいない公園だったから、まさか背後から盗み聞きされていたとは予想してなかった。
「あの話を聞いてて、私は直感したね! 君達二人は間違いなく、私と同じ『天才』なんだって!」
「「はぁ?」」」
「だって、こんな小さな女の子たちが、あんな難しい話なんて出来るはずないもん! それが出来るのは、私と同じ『天才』だけだって!」
本当は、単純に前世の知識があるだけなのだが、それを言ってしまったらまた話が複雑になっていくのは確実だし、何よりも信じて貰えるとは思えない。
だから、ここは黙るしかなかった。
「そ…そういや、そろそろ門限じゃないのか?」
「む…もうそんな時間か?」
ワザとらしく、公園に設置されている時計を指差してデュバルと話を合わせる。
適当に言ってみただけなのだが、実際に門限の少し前の時間だった。
「そうなのか? ならば、私が二人の家まで送っていこう」
「いや、そこまでして貰う訳には……」
「気にするな。せめてもの詫びさ」
「そう言われると、何も反論出来んな……」
「特に…その…余り言いたくはないが、ソンネンの方は車椅子だろう? 大変じゃないか?」
「ヘヘ…もう慣れちまったよ」
慣れるということは、慣れてしまうほど前から車椅子に乗っていたことになる。
それを思うと、増々もって申し訳なくなってきてしまう。
「束さんも一緒に行く~!」
「お前はダメだ」
「なんでぇ~っ!?」
「確実に送り狼になるからだ。二人の事は私に任せて、お前はとっとと家に帰れ」
「ぶ~…分かったよ~…」
今回は完全に分が悪いと感じたのか、珍しく大人しく引き下がった。
だが、タダで引き下がる程、聞き分けがいい女でもなかった。
「今度、私の部屋に遊びにおいでよ! すっごく面白い物を見せてあげるから!」
「いや、オレらはアンタの家の場所とか知らねぇし……」
「そこは私が案内してあげるよ~! この公園で待ってればまた会えるでしょ?」
「まぁ…そうだな……」
実際、この公園はよく孤児院の子供達も遊びに来る憩いの場でもある。
故に、束の予想は強ち間違いではなかった。
「その時は私も同行させて貰う。二人だけを連れて行ったら、また何をしでかすか分らないからな」
「束さんの信用度ゼロっ!?」
「少なくとも、今回の事でゼロにはなったな」
「そんにゃ~っ!?」
「自業自得だ」
およよ……と束が落ち込んでいる間に、千冬はソンネンの車椅子の後ろに回っていつでも動き出せるようにする。
「ところで、二人の家はどこだ? この公園から遠いのか?」
「いや、そこまで遠くはねぇよ」
「私達は『ヨーツンヘイム孤児院』という場所に住んでいます」
「……っ!? あの孤児院か……」
孤児院に住んでいる。
それだけで、彼女達がどんな身の上なのか簡単に察することが出来た。
決して自分も他人事とは言えない為、千冬は二人の事が身内のように感じた。
「そうか……お前達も大変だったんだな……」
「「???」」
急に頭を撫でられ、嫌な気分はしないが驚きは隠せない。
ソンネンとデュバルは知らない。
千冬の中で、束と同様に自分達に対する好感度が上昇したことに。
「さぁ、行こうか」
ソンネンの車椅子を押しながら、千冬はこの二人ならば弟といい友達になってくれるかもしれないと思い始めていた。
そして、それは束も同じで、自分の最も大切な妹と会せたら、きっと仲良くなれると信じていた。
今日この時の出会いが、後に二人にとって人生の分岐点となるとは、どっちも全く想像もしていなかった。
まだまだ原作は遠い。