インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
割とシリアスかもなので、どうかご了承を。
一夏が孤児院で暮らすようになってから、早くも約半年が経過した。
一年生だったソンネン達や一夏達も二年生となり、また少しだけ大人になる。
デュバル達はともかく、一夏達はまだまだ中身が子供ある事には違いないわけで、帰りに何処かに寄るなんてことも日常茶飯事だ。
そんな今日も、彼らはある場所へと寄り道していた。
「ちょ……それは反則だろっ!?」
「フッ…狭い画面の中では卑怯も反則も関係ないのさ……」
今いる場所は五反田家の二階にある弾の部屋。
一夏と弾が3Dロボットアクションシューティングゲームで遊んでいた。
「ちくしょー……一夏め…かなりやり込んでやがるな……!」
「当然だ。こっちには怖~い鬼教官がいるからな」
「誰だそれ?」
「ソンネンの事だよ。こいつ、このゲームがめっちゃ強いんだよ」
「マジでぇっ!?」
「大マジ」
この部屋にいるのは男二人だけではない。
ちゃんと、女子四人も一緒にいる。
「ソンネンさんって、本当に髪が綺麗ですよね~。何か特別な事とかしてるんですか?」
「別にんな事は何もしてねぇよ。普通に洗ってるだけだ」
「ってことは、この髪の艶は天然っ!? 流石はソンネンさん……凄いわ…」
先程からソンネン達の傍にいる赤毛の少女は、弾の一つ下の妹の『五反田蘭』。
年頃の女の子らしく、イケメンである一夏に対して片思いをしている……訳ではなく、割と普通に『兄と仲がいい友達』ぐらいにしか見ていない。
寧ろ、彼女が最も懐いているのはソンネン達三人娘の方だった。
「デュバルさんもいつ見ても綺麗ですよね~……。美人で羨ましいな~…」
「そ…そんな事は無いと思うが……」
「そんな事ありますって! デュバルさんみたいな美少女、世の男子達が絶対に放っておかないですよ!」
「大げさだな……」
ソンネンもデュバルもヴェルナーも、同性である蘭から見ても相当な美少女らしく、同じ女として心から尊敬している。
弾を通じて初めて知り合った時は、弾が見知らぬ女の子達を連れてきたことに本気で驚き、蘭は鬼の形相になって兄に詰め寄った。
別に自分の兄が女を連れてきたことに対する嫉妬などではなく、単純に無理やり連れてきたのではないかと危惧しての事だったとか。
その後、三人の言葉で普通に誤解が解け知り合いになって今に至る。
「そうだ! ウチのおじいちゃんが、ヴェルナーさんにまた新しい魚料理を教えてやるって言ってましたよ!」
「それは助かるよ。またレパートリーを増やしたいと思ってたところなんだ」
「ヴェルナーさんの作る魚料理ってどれもこれもが絶品だから、私も大好物なんですよ~」
「へへ…嬉しい事を言ってくれるじゃねぇか」
完全に妹を取られている形となっているが、弾は全く気にしない。
割といつもの光景だから。
そんな事など関係なくなる程に、彼の心はドキドクバクバクになっていた。
(学校で人気の美少女達が俺の部屋に遊びに来てるんだよな……。いや、これまでにも何回かあったけどさ、それでもやっぱり気になっちまうよ……)
可愛らしい美少女達が自分のむさ苦しい部屋で会話に花を咲かせている。
この時、弾は確かに自分が勝ち組であると実感した。
「ソンネン。弾にもお前のテクを見せてやってくれよ」
「いいぜ。どれ、貸してみな」
一夏からコントローラーを受け取って機体選択画面に移る。
慣れた手付きで何にしようかカーソルをウロウロとさせていた。
「やっぱ、オレといったら『コレ』しかねぇよな」
選んだのは、陸戦に特化した戦車のような見た目をした機体で、脚部の代わりにキャタピラがついている。
「それは上級者向けの機体じゃ……」
「こいつとの相性が一番いいんだよ。ほれ、始めるぞ」
「う…うっす」
対戦開始。
ソンネンの機体は通常では考えられないような軌道を描きながらフィールド上を縦横無尽に駆け抜けて、僅かな隙を狙って確実にダメージを与えていく。
「ちょ…ちょっとタンマ! 全く反撃が出来ないんですけどっ!?」
「戦場にタンマなんてもんはねぇっ!」
「キャ~! さっすがソンネンさん! お兄なんてやっちゃえ~!」
「嘘でもいいから、お前は少しは兄の事を応援しようとしろよなっ!?」
結局、そのまま押し切られて、ソンネンの完全勝利。
弾は成す術も無く負けてしまった。
「つ…強すぎる……」
「ま。ざっとこんなもんだな」
「素敵~! ソンネンさん最高~!」
『戦場の狼』は伊達じゃない。
弾はそれを身を持って思い知ったのであった。
「ん……?」
「はぁ……」
そんな風に騒いでいる中、一言も口を開かない少女が存在した。
横目で彼女を見て、ヴェルナーは何かを感じていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
孤児院への帰り道。
ここでも鈴は、意気消沈している様子で俯いたままの状態で黙っていた。
「なぁ……今日の鈴はなんかおかしくねぇか?」
「そうだな。学校でもずっと元気が無かったし……」
「弾の家でも同じ感じだった」
「何か悩みでもあるのか……?」
困っていることがあれば相談に乗ってやりたい。
彼女の明るさにはこれまでに何度となく助けられてきた。
今度は自分達が鈴の助けになる番だ。
「鈴」
「ヴェルナー……」
「何かあったのか?」
「……それは……」
ここで『別に』と言わないという事は、隠したいと思ってはいても、同時に話さなくてはいけないと思っているという事。
少なくとも、今いるような人が往来するような場所で話す事は躊躇われた。
「……
「……うん」
他の三人に目配せをして了承を得てから、鈴を孤児院まで連れて行くことにした。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
孤児院まで帰ってきた五人は、偶然にもロビーにいた院長に事情を話してから、鈴をソンネンの部屋まで通す事に。
子供達がいる中では話しにくいと思っての配慮だった。
「ここでなら大丈夫だろ。で、一体何があったんだ?」
「別にこれは強制じゃない。話したくないのならば、無理に話さなくてもいいぞ」
「ううん……どうせ、いつかは言わなくちゃいけない事だし、今ここで言うわ」
目尻に浮かんだ涙を袖で拭ってから、鈴はゆっくりと語り出す。
「実は……ね。少し前からウチの両親の仲が険悪になってきててさ……」
「おじさんとおばさんが……?」
一夏から見ても、とても仲のいい夫婦だっただけに、鈴の言葉は衝撃的だった。
「理由は分かってるのか?」
「多分……ちょい前からある『女尊男卑』が原因だと思う。それっぽい話をしてるのを聞いたから……」
「そう…か……」
「「…………」」
女尊男卑。
それは、ISがこの世に誕生してから生まれた概念で、要は『ISを動かせる女は男よりも強くて偉い』という考えの事を指している。
勿論、そんな性差別的な発言が世間に認められる筈も無く、すぐに鎮静化していった……表向きは。
裏ではまだまだその手の考えは消滅しておらず、それどころか『女性権利団体』なる者達の台頭まで許してしまう始末。
女尊男卑の思想を持つ人間はそれなりに多く、中には政治家などといった一部の権力者達までその愚かな思想に染まっている。
白騎士事件に大きく関わっているデュバルとソンネンは、自分達がそのバカげた思想を生み出した一端である事を認識している為、鈴の口からソレを聞かされた時、何とも言えない気持ちになった。
「もしかしたら…このまま離婚するかもしれないんだ……。離婚届がどうのって話してたから……」
「そいつは……洒落にならねぇな……」
「けど、あたしが一番嫌なのはその後なの」
「その後……?」
一度は引っ込んだ涙がまた出てきて、それを隠す為に目の前にいたヴェルナーに抱き着くが、その拍子に涙が零れてしまった。
「ウチの両親が離婚したら…あたし…中国に帰らなくちゃいけない……」
「「「「なっ……!?」」」」
絶句。
この時の四人の表情は、まさにそうとしか表現出来ない顔だった。
「お父さんとお母さんのどっちに着いて行くかはあたしに決めさせるみたいだけど……どっちにしても中国には戻るつもりでいるって……」
「「「「……………」」」」
「イヤだよ……折角…友達も沢山出来て……大切な思い出もいっぱいあって……それなのに……なんでなのよぉ……!」
「鈴……」
ヴェルナーは鈴の体に腕を回して、彼女の事をそっと抱きしめながら頭を撫でる。
その顔はとても辛そうで、他の三人も同じような顔をしていた。
「皆と別れるなんて……絶対にイヤ……ここから離れたくなんかないっ! あたし…あたし……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」
室内には、鈴の泣き声だけが響き渡り、四人は黙って彼女が泣き止むのを待った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「……ゴメン。なんか、あたしらしくなかった……」
暫くしてから、思い切り泣いたら少しだけスッキリしたのか、バツが悪そうに顔を赤くしながらヴェルナーから離れた。
「気にすんなよ。オレのじいさんが言っていた。『人間は皆、泣きながら生まれてくる。これだけは誰にも変えられない。だがな、最後に泣くか笑うかはそいつが決める事だ』ってな」
「出た。ヴェルナーお得意の『おじいちゃん語録』」
「なんだそりゃ」
「知らないの? 学校の皆がそう言ってるわよ?」
「初めて知った……」
自分としては、尊敬する祖父の言葉を引用しているだけなのだが、まさかそんな事になっているとは思わなかった。
「でも、なんか元気出てきた。ありがとね」
「「「「うん」」」」
やっと、いつもの鈴らしい笑顔を見せてくれた。
そうでなくては張り合いが無い。
「けど、今日は家に帰りたくないな……」
「それならよ、ここに泊まったらどうだ?」
「えっ!? い…いいのっ!?」
「オレ達は一向に構わない。院長さんも、事情を話せば快くOKしてくれる筈だ。な?」
ヴェルナーが目配せをすると、三人が同時に頷いた。
「皆……」
またもや涙が零れてくる。
自分は最高の友人たちを持つことが出来た。
鈴は、そう思わずにはいられなかった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
それから、院長に事情を話すと、予想通りに彼は笑顔で鈴が止まる事を了承してくれた。
それどころか、彼女の両親に電話をして外泊の了解まで得てくれたのだ。
もう本気で鈴は院長に対して頭が上がらなくなっていた。
無理を言って泊めてくれたのだからと、今日の夕飯は彼女特製の中華料理になった。
特に子供達にはかなり好評で、皆がこぞってお替りをしていた程。
風呂にも一緒に入り、そこで改めて自分の幼馴染の少女達の体の成長を実感して愕然としたり、ソンネンとヴェルナーの寝間着姿に顔を真っ赤にしたりと、さっきまでの泣き顔が嘘のように、鈴はずっと笑顔を浮かべていた。
そして、夜になって……。
「なんか悪いわね。こんな事になっちゃって」
「なに。偶には悪くないさ」
鈴は、デュバルの部屋にて彼女のパジャマを借りてから、一緒のベッドに入っていた。
「てっきり、ソンネンかヴェルナー辺りの部屋に行くと思っていたが……」
「あたしには、あの二人の格好は刺激が強すぎるわ……」
「確かにな……」
デュバルから見ても、二人の格好はどうかと思うのだが、今更な事なので何も言わなくなっていた。
慣れとは本当に恐ろしい。
「そういえば、ジャンが髪を下したのを見るのって久し振りね」
「外では、学校のプールの時間などしか下さないからな」
「本当に、どこかのお嬢様って感じ」
「それを言うなら、鈴だって髪を下すと途端に清楚な感じがするぞ」
「なによそれ。普段のあたしは清楚じゃないって言いたいわけ?」
「お前は自分が清楚系のキャラだと思っていたのか?」
「全然?」
「ぷっ……」
「「ははははは……」」
ベッドの中で声を殺して笑い合う二人。
一応、他の部屋にいる皆に対する配慮のつもりなのだが、デュバルのその姿はもう完全に年頃の少女そのものだった。
「初めて会った時は、まさかジャンとこうして笑い合える関係になるなんて思ってなかった」
「私もだよ。けど……私は今の関係を気に入っているよ」
「奇遇ね。あたしもよ」
それから寝入るまで二人はくだらない話などで盛り上がり、気が付けば『おやすみ』と言う間も無く、いつの間にか二人は眠りについていた。
無意識の内にデュバルと鈴はお互いに抱き合うような体勢になっていて、相手の体の温もりにてすやすやと熟睡が出来た。
この日以降、鈴がデュバルの事を意識し始めるのは言うまでもなかった。
デュバル×鈴フラグが立った?
少なくとも、一夏にとって強力なライバルが誕生したことになりますね。
次回は織斑姉弟の話。
こっちもこれからの展開上、必要な話になります。
きっと、かなりの原作改変になるかと。