インフィニット・ストラトス IS IGLOO   作:とんこつラーメン

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今回は織斑姉弟のお話。

それと、なんか技術屋さんに関するアンケートなんですが、いつの間にか男の娘派よりも女の子派が大きくリードしてたんですよね。

ここでまさかの逆転劇の発生とは驚きました。

一応、私の中ではとっくの昔に彼の転生後の姿は出来上がってるんですが。

でもまだ分りませんからね~。

最終的にはどうなる事やら。







家族

 鈴から突然、家庭崩壊の危機と自身が中国に帰国するかもしれない話を聞かされた面々。

 余りにもいきなり過ぎて驚きを隠せなかったが、それでも三人娘と一夏は最後まで彼女の力となり、一緒に寄り添ってあげようと決意する。

 

 それからというもの、鈴は頻繁に孤児院に遊びに来るようになり、前回のように泊まっていくこともあった。

 多い時などは、一週間に3~4日は宿泊することもざらだった。

 

 そして、今日もまた鈴は孤児院に遊びに来ていた。

 

「あ……もうこんな時間なんだ」

 

 ロビーにある掛け時計が17時を指している。

 町内会の放送も、子供達に帰宅を促す旨を言っていた。

 

「今日はどうするんだ?」

「ん……今日は帰るわ」

「そっか」

 

 デュバルが今日のことを聞くと、鈴は僅かに表情を暗くしながら答えた。

 どうやら、まだ家に帰るのには抵抗があるようだ。

 

「今日ぐらいは帰らないとね……何を言われるか分からないし」

「鈴……」

 

 まだ彼女の両親の仲は険悪で、家ではよく暴言が飛び交っているらしい。

 家にいる時は、鈴はイヤホンを付けてから周囲の音を完全にシャットアウトして、自分の部屋から決して出ないようにしているらしく、食事も密かに自分が買い溜めしておいたインスタント食品を食べているとのこと。

 父も母も碌に家事をしなくなり、自室以外は荒れ放題になっていて、かなり汚れているようだ。

 唯一、綺麗な場所は鈴の部屋だけ。

 

「あのよ……こんな時になんつったらいいのかわかんねぇけどよ……」

「余り気にし過ぎるなよ。何かあればいつでも電話してこい。こんな私達でも、話を聞くことぐらいは出来るからな」

「うん……ありがと。ジャン…デメ……」

 

 作り笑いを浮かべながら、鈴は孤児院を後にして帰路についた。

 

「マジで大丈夫かな…あいつ……」

「自分の親が目の前で喧嘩してんだ。あいつには相当なストレスになってるだろうな……」

「だからこそ、一緒にいる時ぐらいは思い切り楽しませて、嫌な事を忘れさせてやるんだよ。悔しいけど、部外者であるオレ達に出来る事なんて、今はそれぐらいしかないさ……」

「何とも言えないな……」

 

 久し振りに感じる自分達の無力さ。

 だが、当事者ではない自分達にやれる事など微々たるものである以上、その微々たることを全力でするしかないのだ。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 風呂を終えてから夕食を食べ、その後はのんびりとした時間を過ごすのがいつもの日課……なのだが、今日は少し違った。

 

「はぁっ!!」

「うわぁっ!?」

 

 室内から漏れている明かりだけが光源となっている中庭では、ジャージ姿のデュバルと一夏が木刀で激しく打ち合っていたが、一瞬の隙を突かれて一夏の木刀が弾きあげられてから、彼が地面に尻餅を付き、その眼前に木刀が付きつけられた。

 

「はぁ…はぁ…これでまた私の勝ち越しだな」

「ちくしょー……今回も俺の負けか~……」

 

 実は、こうしたことは今に始まった事ではなく、一夏が孤児院で生活をするようになってからやっていた。

 最初はデュバルからの申し出だったのだが、今では一夏の方から積極的に挑むようになっている。

 箒がいなくなってからずっと剣の鍛錬を怠っていた事を気にしていたようで、最近では三人娘と一緒に体を鍛えるようになっている程。

 かといって、別に剣道部に入っているわけではななく、あくまで孤児院の事を優先はしているようだ。

 

「それなりにブランクは取り戻してきてると思ってるんだけどな~…。力は俺の方が上の筈なんだけど……」

「確かに、パワーだけならば一夏の方が上回っている。だが、それだけが全てではない。そちらが『力』でくるのなら、私は『技』で対抗するだけだ」

「技か~……」

 

 愚直なまでに突っ込む事しかできない一夏には、なんとも羨ましいスキル。

 勿論、彼だっていつまでもこのままではいけないと理解してはいるが、それでも性格と癖で、どうしてもしてしまう。

 

「ま~た負けてやんの。これでもう何戦何敗だ?」

「敗北回数が50を超えた辺りから数えるのを止めた」

 

 そして、それを皆で眺めつつ夜風に当たり涼むのが、この孤児院の夜に見られる光景の一つとなっていた。

 

「先程、風呂に入ったばかりだと言うのに、また汗を掻いてしまったな。少しだけ入ってくる。お湯はまだあった筈だな?」

「少しだけ継ぎ足さないといけないけどな」

「それぐらいならば問題は無い。一夏はどうする?」

「俺も入るよ。デュバルの後でいい」

「了解だ。ならば、お先に入らせて貰おう」

 

 タオルで汗を拭きながら、デュバルは着替えを取りに自分の部屋に戻っていった。

 

「……覗こうとか思うなよ?」

「思わねぇよ!!」

「一夏にーちゃん。覗くの~?」

「覗かねぇから!」

 

 これまでに何度もラッキースケベをしてきた男の言葉は、イマイチ信用に欠けているようだった。

 特に、女子達からの視線が異常に冷たかった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 デュバル、一夏の順で二度目の風呂に入り終えてから居間に戻った直後、いきなり一夏の携帯に着信が来た。

 

「こんな時間に誰だ? って、千冬姉?」

 

 これまでにも自分から連絡をすることはあっても、向こうからしてくることは一度も無かった。

 それは即ち、ドイツでの仕事がそれ程に忙しい事の証拠なのだが、だからこそ千冬からの電話には驚きを隠せなかった。

 

「早く出たらどうだ?」

「そ…そうだな」

「どうせなら、スピーカーにしたらどうだ。皆で話せるように」

「よしきた」

 

 まずは着信に出る事に。

 画面をタップして耳に当てると、そこから聞こえてきたのは久し振りに聞く姉の声。

 

『もしもし。一夏か?』

「千冬姉。そっちから掛けてくるなんて珍しいじゃないか」

『今日は早めに仕事を切り上げられたんでな。少しだけ余裕が出来たんだ』

「成る程。ちょっと待っててくれ。今、スピーカーにするから。皆も千冬姉と話したがってたから」

『分かった』

 

 軽く操作をしてから、通話状態のままで自分のスマホをテーブルに置く。

 

「よぉ、千冬の姉御。元気にしてたかい?」

『その声はソンネンだな。お蔭様で、それなりに元気にはやっているよ』

「慣れない地での生活は大変だと思いますが、体調などは大丈夫ですか?」

『デュバルか。ああ。確かに、初めての海外生活は苦労の連続だが、こっちの連中が色々とフォローをしてくれているから、なんとかなっている』

「あんまし無茶すんなよ? 一夏の奴が心配しちまうからな」

『ふっ……そうだな。だが、この程度で泣き言を吐くような軟な体の鍛え方はしていないから、その辺は心配無用だ。ヴェルナー』

 

 まずは三人娘から話し、それからそれぞれに子供達も千冬と一言ずつ話していく。

 そして、最後は院長が彼女と話す事に。

 

『お久し振りです。一夏はそちらにご迷惑など掛けてはいませんか?』

「久し振り。彼の事なら問題ないよ。それどころか、彼がいてくれるお蔭でとても助かっているよ」

『そうなのですか?』

「あぁ。今まではずっと、デメちゃんやジャンちゃん達に色んな事をまかせっきりになっていたけど、彼が来てくれたお蔭でぐっと負担が減っている。それに、とても院の中の雰囲気も明るくなったしね」

『私の愚弟にそこまで言ってもらえるとは、ありがとうございます』

「お礼を言いたいのはこちらの方だよ」

 

 さっきから一夏の事を褒めまくり。

 当の本人は羞恥心から顔を真っ赤にしてから明後日の方向を向いていた。

 

「照れてんのか?」

「わ…悪いかよ……」

「うんにゃ? お前にも初心な一面があったんだな~って思っただけ」

「なんだそりゃ……」

 

 顔を除くこむようにして話しかけてきたヴェルナーを直視できずに、また別の砲口を向く。

 今度は別の意味で直視出来なかった。

 

(ヴェルナーの奴…顔が近いんだよ……。あの日の事を思い出しちまうじゃねぇか……)

 

 因みに、彼が言う『あの日』とは、ラッキースケベによってヴェルナーにベットの中へと引きずり込まれた挙句、寝ぼけたままの状態で彼女に思い切り抱きしめられた時の事である。

 

「……千冬ちゃん」

『……? どうしました?』

「実はね、彼が…一夏君が来てくれた日からずっと考えていた事があるんだが、聞いてくれるかい?」

『なんでしょうか?』

 

 いきなり雰囲気が変わり、皆が自然と静かになった。

 いつもは穏やかな笑みを浮かべている院長が珍しく真剣な顔をしていたことに、三人娘は思わず唾を飲む。

 

「君達姉弟……本格的にここに住む気は無いかい?」

『「えっ?」』

 

 余りにもいきなり過ぎる提案。

 一夏も、電話の向こうにいる千冬も、思わず呆けた声を出してしまった。

 

『そ…それはどういうことでしょうか?』

「君達二人はずっと、姉弟だけで生きてきた。そのこと自体は私もずっと知っていたし、なんとかしてあげたいと思っていた。本当ならば、ずっと前にこのような提案をするべきだったんだが、私の中には不安もあったんだ」

『不安……?』

「君達がちゃんと、この孤児院に馴染めるのかどうか。これは自分の独善なんじゃないだろうか。正直、自分勝手な考えだと言われればそれまでだしね」

『……………』

「だけど、あの日…君から一夏君をここで預かってほしいと頼まれた時、私はいい機会だと思った。もしも、一夏君がここの皆と仲良く暮らすことが出来たのならば、その時は彼の姉である君の事も迎え入れてあげたいと……」

『院長さん……』

 

 自分勝手。独善。

 そんな言葉を使ってはいるが、ここにいる全員が分っていた。

 院長の言葉は、どこまでも純粋に織斑姉弟の事を心配して言っていることなのだと。

 

「勿論、無理強いをするつもりはないし、君達があの家に愛着があると言うのならば大人しく引くことにする。だけど、一考ぐらいはしてくれないかな?」

『はい……分りました。帰国する時までには結論を出します』

「君も忙しいのに、いきなりこんな事を言ってしまって申し訳ない。だが、私は君達の意見を尊重するよ。どんな結論を出しても、何も文句を言うつもりはない」

『はい……』

 

 ここで院長は一夏の肩をポンと叩いてから、全員の事を見渡した。

 

「一夏君。いきなり変な事を言ってしまって悪かったね」

「い…いえ。俺は別に……」

「出来れば、お姉さんとよく話し合ってほしい。皆、少し席をはずそうか」

 

 皆は無言で頷いてから、それぞれに部屋へと戻っていった。

 この場に残されたのは、一夏だけとなった。

 

『一夏……お前はどう思っているんだ?』

「さっき、院長さんが言ってたことか?」

『そうだ。正直、私はいきなり過ぎて混乱している。お前の率直な意見を聞きたい』

「俺は……」

 

 孤児院で過ごしたこれまでの日々を思い出す。

 大変な事、苦労したことも多いが、それ以上にとても楽しい日々。

 これ程までに充実した日々を送れたのは、本気で生まれて初めての事だった。

 

「俺は…ここで住んでもいいと思ってる」

『理由を聞いてもいいか?』

「余り、小難しい事は言えないんだけど、俺は…あの家は好きじゃなかった」

『そう…なのか?』

「うん。幾ら蒸発した両親が遺したものとはいえ、たった二人で住むには広すぎるし、それを実感する度に思ってたんだ。寂しいな…って」

『寂しい…か……』

「すげー単純だって思われるかもだけど、俺…ここに住むようになって初めて『おかえり』って言われてさ……とても嬉しかったんだ」

 

 昔から、一夏と千冬では、一夏の方が先に帰ってくることが大半だった。

 故に一夏は、これまでに一度も家族から『おかえり』と言われたことが無い。

 『ただいま』ならば、山ほど言ってきたのだが。

 

「家に帰って来て誰かが迎えてくれるって……こんなにもいい事だったんだな…」

『一夏……』

 

 千冬も、自分がこれまでにずっと一夏に寂しい思いをさせてきた自覚があった。

 姉弟一緒に生きていくためには、自分が頑張って働かなくてはいけないと言い聞かせ、弟を一人でいさせることが必然的に多くなってきていた。

 今回、孤児院に彼を預ける事を決めた時も、今までにない長い期間、家を空ける事で一夏に寂しい思いをさせたくないという想いからやった事。

 それにより、一夏は初めて知ることが出来た。

 本当の家族の温かさを。誰かと一緒の時間を過ごす事の楽しさと大切さを。

 

「千冬姉。俺はさっきの院長さんの話、受けてもいいと思う。院長さんは勿論、他の皆だって凄く優しいし、住み心地だっていい。それに、ここには……」

『ソンネン達がいるから…か?』

「あぁ……。あいつらの事は俺以上に千冬姉は知ってるだろ?」

『かなり長い付き合いになるからな……』

 

 あの三人とは、千冬を通じて知り合った。

 それからもう7年以上の仲になる。

 ここまでくればもう腐れ縁なんてレベルじゃない。

 少なくとも、一夏にとってはもう彼女達三人は家族も同然だと考えていた。

 

「千冬姉はさ……どう思ってるんだ?」

『正直な話…私もあの家にそこまで未練はない。お世辞にも良い思い出があるとも言い難いしな……』

「それじゃあ……」

『だが、それでもまだ迷っているよ。済まないな…優柔不断な姉で』

「気にしてないよ。寧ろ、それが普通だって思う」

『だが、帰国をするまでにはちゃんと結論を出そう。勿論、前に向きにな』

「もしも、千冬姉も一緒に住むって聞いたら、皆喜んでくれるよ」

『あいつ等に出迎えられる生活というのも、悪くは無いかもしれないな……』

 

 それから姉弟は、久し振りに色んな話で盛り上がり、一夏が今、三人娘達をどう思っているかなど、少し恋バナに近い話もしたりした。

 姉弟は、話のネタが尽きるまで、ずっと話し続けた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 そんな二人の会話を、物陰から聞いている者達がいた。

 我等が三人娘だった。

 

「千冬さんがここに住む……か」

「まさか、院長の旦那がそんな事を考えていたなんてな……」

「あの人はかなりのお人好しだからな。姉弟二人で頑張っているのを見て見ぬ振りなんて出来なかったんだろう」

 

 ここにまた一人、住人が増える可能性。

 部屋自体は沢山余っているので問題は無いが、それを向こうが受け入れるかはまた別問題だった。

 

「今は兎に角、あの二人の結論を静かに待とう。鈴の一件でも言ったが、今の私達はどこまでも『部外者』だ。話を聞くことは出来ても、そこに介入することは出来ない」

「……そうだな」

「どんな結果になろうとも、受け入れる覚悟は出来てるけどな」

 

 それは、本当の戦場を知っているが故に出る言葉。

 生も死も嫌でも受け入れなければいけない地獄を体験したからこそ、彼女達には一切の『迷い』が無い。

 

「さて……あの姉弟はどんな答えを出すのやら」

 

 廊下の小窓から夜空を見上げながら呟いたソンネンだった。

 

 

 

 




はい。織斑姉弟のお引越しフラグが立ちました。

それは同時に、原作での夏休みにヒロインズが孤児院に遊びに来るフラグが立ったことにもなります。

果たして……技術屋の性別はどうなるのかっ!?
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