インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
最初は色々と迷ったのですが、私的にはこれがいいと思ったので。
そして、次回からは千冬と大佐とのドイツでの話を描く『ドイツ編』のスタートです。
多分、そんなに長くはならないと思います。
毎度御馴染みの束の移動型研究室。
その機器の前に座っている束は、モニターを見ながら号泣していた。
「おおおおぉぉぉぉ~!! デューちゃん…ソーちゃん…ナーちゃん…ここでお別れになっても再会を信じて笑顔で送り出すなんて……束さんは猛烈に感動してるぞ~!!」
モニターに映っているのは、鈴の送別会の光景。
さっきから束はそれを見ながら、ずっとティッシュで鼻をかみまくっている。
お蔭で、すっかり彼女の鼻は真っ赤に腫れていた。
「束さま。まだ見ていらしたのですか?」
「だって……」
呆れ顔でクロエがやって来て、ティッシュで一杯になったゴミ箱の中身を捨てる為に持ち上げる。
「まるで花粉症にでもなったみたいに使いますね。完全に一箱使い切っちゃってるじゃないですか」
「それだけ感動したって証拠だよ!」
「まぁ…お気持ちは分かりますけど……」
クロエもまた同じようにモニターを見てみる。
もしも、あの場にいれば自分も貰い泣きをしていたかもしれない。
「『待っている』…ですか。普通は中々に言えませんよね」
「そうだね。本当にあの子達は強いよ……実力云々じゃなくて、その心がさ……」
「私もそう思います。例え、目の前にどんな困難が立ち塞がっても、仲間達と力を合わせて乗り越えていく。とても素晴らしいと思います」
「ちょっと…羨ましくもあるけどね……」
「束さま……?」
憂いを含んだ瞳でモニターを凝視する。
そこにいるのは他人に無関心な冷酷無比な科学者ではない。
友を思い、友を愛する一人の人間だった。
「そうだ! 折角だし、束さんからあの子達にプレゼントを贈ろう!」
「また唐突ですね。でも、何をお送りになるおつもりで?」
「三人は揃ってIS学園を受験しようと思っている。あの子達なら楽勝だろうけど、どうせなら万全の態勢で挑んでほしい。となると、もうプレゼントは一つしかないよね!」
「あぁ~…なんとなく察しました」
受験生が欲しがりそうな物。
少なくとも、束には一つしか思い浮かばなかった。
「ところで急に話は変わりますが束さま」
「なに?」
「……猫って可愛いですよね」
「え? う…うん。確かに可愛いけど……それがどうかしたの?」
「いえ。孤児院で飼ってらっしゃる猫たちを見ていたら、なんとも言えない気持ちになりまして……」
複数あるモニターの一つには、四匹の猫たちが小さなボールを使ってじゃれ合っている光景が映っている。
猫派の人間が見れば悶絶間違いなしだ。
「超分かる。これは冗談抜きで可愛過ぎ」
「ですよね」
「………動物がいても大丈夫なように、ちょっとまた改造しようか」
「大賛成です」
束、クロエ。共に猫派になる。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
それは、本当に突然だった。
日曜日だと言うのに珍しく誰も予定らしい予定が入っていない一日。
天気も非常によく、外に行くにはもってこいと言うべきなのだが……。
「し…しまった! ブレーキを掛けるタイミングをミスった!」
「やり~! 一夏にーちゃん、お先~!」
一夏は子供達とゲームに興じていて。
「ジャンーおねえちゃん、こっちの洗濯物、畳み終ったよ」
「よし。今度はこっちを頼む。私はこれを畳んでしまうから」
「「「は~い!」」」
デュバルは少女達と一緒に洗濯物を畳んでいて。
「ほれ。これはこっちに代入してだな……」
「そっか! じゃあ、こっちは……」
ソンネンは、小学生の子達に宿題を教えていて。
「ヴェルナーねーちゃん。これでいいの?」
「おう。そのまま優しくな。ほれオルガ。こっちだ」
「にゃ~」
ヴェルナーは子供達に手伝って貰いながら、猫たちのブラッシングをしていた。
予定が無い割には、それなりに充実した休日を満喫しているようだ。
因みに、院長は電話中らしくリビングにはいない。
そんな時、急に玄関のチャイムが鳴った。
「なんだ?」
「宅配便かな?」
「あ。俺が行くよ」
「頼むわ」
一夏が代表して玄関まで行き、その扉を開ける。
すると、そこにいたのは意外な人物だった。
「はいはい。どなた様ですか~……って?」
「ただいま。今、帰ったぞ」
「ち…ち…ち…ち…」
思わずたたらを踏んでから後ずさりをする。
「千冬姉~っ!?」
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・・・
・・
・
一夏の絶叫を聞きつけてやって来た面々も、また彼と同じように驚きの声を上げた。
その後、取り敢えずという事でリビングへと通した。
そこには電話が終わったと思われる院長もやって来ていた。
「はぁ……たった一年間だった筈なんだが、何故か物凄く懐かしく感じるな……」
「外国にいたせいじゃねぇか?」
「そうかもしれんな」
荷物を適当に置いてから、千冬は力を抜くように椅子に座った。
「まずは、おかえり。千冬ちゃん」
「ただいま帰りました」
誰よりも最初に院長に挨拶。
自分の弟がお世話になっていたのだから、当然と言えば当然だ。
「ちゃんと帰国する日を言ってくれれば、こっちから迎えに行ったのに」
「こっちもいきなりだったんでな。一年間と言う契約ではあったが、正確な日時までは指定されていなかったからな」
「なんとも曖昧だな」
意外とアバウトな契約に呆れる一夏。
だが、姉が帰って来てくれたことに対する喜びの方が大きいので、顔の方は笑っていた。
「帰って来て早速で悪いけど……例の話の答えは出たかな?」
「はい。あれからずっと考えて、帰りの飛行機の中でも熟考しました」
「そうか……」
少しだけ目を閉じてから、千冬は自分の『答え』を口にした。
「…そちらが宜しければ、これからお世話になります」
「君なら、きっとそう言ってくれると信じていたよ」
「千冬姉!」
千冬の出した答え。
それは、自分のこの孤児院に住む…という事だった。
「一夏とも話して思いました。きっと、私達姉弟にとって、あの家は『呪縛』なのだと」
「呪縛……」
「あそこに住み続ける限り、私達はこれからもずっと消えてしまった両親の面影と共に過ごす事になる。それは私としても嫌だし、一夏にも同じ思いはさせたくない」
「君らしいね……」
「それに、冷静に考えたら、私もまたあの家にはそこまで愛着は有りませんでした。寧ろ、あそこから離れるいい機会だとさえ思っています」
「……良い目だ。もう迷いはないようだね」
「はい。先ほども申し上げましたが、これからはここでお世話になります」
「ふふ……千冬ちゃんなら子供達も大歓迎だろう」
そう言って、院長が傍で話を聞いていた三人娘に視線を向ける。
そこには、満面の笑みを浮かべる少女達がいた。
「千冬さんが一緒に住んでくれるのなら、ここもより一層賑やかになりますね」
「まさか、本当にこんな日が来るなんてな」
「人と人の縁ってのは、どんな風に変わるか分からないもんだな……」
子供の頃からよく見知っている三人と、これからは一つ屋根の下で生活をしていく。
今までとは環境が完全に一辺するが、それはそれで悪くないと思えた。
「だが……実はな、帰国直前にまた一つ、問題が発生してな……」
「またって…なんだよ?」
「聞いて驚くなよ? 私も実際に電話越しに聞かされた時は本気で驚いた」
「勿体ぶるなよ……」
「……来年から、なんでかIS学園で教師をする羽目になった」
「「「「「え――――――――――――――――っ!!?」」」」」
驚きの余り、院長以外の全員の顎が本気で外れそうになった。
「なんでいきなり教師なんだよっ!? 本気で意味不明だぞっ!?」
「お前と全く同じセリフを私も言ったよ。なんでも、モンドグロッソ優勝者である私の事を過剰に評価しているようでな、今度は教壇に立って教鞭を振って欲しいのだと。全く…私の事をなんだと思っているんだ……!」
千冬、本気の愚痴である。
この瞬間に、千冬が夜に自棄酒をすることが確定した。
「きょ…教員免許の方はどうするんですか? 千冬さんはそんなものは持ってませんよね?」
「それも言った。そしたら『教師をしながら勉強すればいいだろう』だと。最終的には教員免許を発行をするつもりらしいが、それも完全にお飾りだろうな」
もう呆れてものも言えない。
普段は温厚な院長も、此れには本気で頭を抱えた。
「IS学園で教師をするって事は、向こうの寮に住むのか?」
「最初はそれを勧められたんだがな、そこはこっちの発言力を使って無理を押し通して、特別に家から通えるようにした」
「いや。それぐらいは許されるだろ」
「通勤は大変かもしれんが、また離れるよりはずっとマシだ。折角、日本に帰ってきたのだから、可能な限りは皆と一緒にいたいからな」
「千冬姉……」
千冬もまた寂しかったのかもしれない。
だからこそ、無理をしてまで家から通う事を選択したのだと。
そう思うと、これからはより一層、姉の支えになりたいと思う一夏だった。
「大丈夫。IS学園には私の知り合いがいるから、彼を通じて色々と便宜を図れるかもしれない」
「そ…そうなんですかっ!?」
「ああ。だから、安心しなさい。少なくとも、同じ孤児院の仲間を理不尽な目には絶対に遭わせないよ」
「ありがとうございます……」
もう本当に、院長には感謝しかない。
と思うと同時に、この人はどこまで顔が広いのだろうと疑問に感じてしまう。
「学園に通うのが来年からってなら、これからはどうするんだ?」
「かなり疲れたからな。暫くはゆっくりと休みながら、少しでも教員としての勉強をするよ。こっちへの引っ越しの手続きなどもあるしな」
「引っ越しに関しては私に任せておきなさい。知り合いの業者に話はしておいたし、向こうの家の売却も知り合いの不動産屋に話を通してあるから」
「「「すげー……」」」
この院長、どこまで先を見据えているのか全く予測できない。
もしかしたら、この世界で本当に最強なのは彼なのかもしれない。
「ま…まぁ、色々とあったけど、こうして無事に帰って来てくれてよかったよ」
「そこまで目立ったトラブルなどは無かったがな。はぁ~…緑茶が美味しい……」
両手で湯呑を持って渋いお茶を味わう千冬。
表情は完全に隠居している人間の顔だ。
「向こうじゃ『お茶』といえば大半がコーヒーだったからな。最初はそこまで気にもしていなかったが、半年を過ぎた辺りから無性に日本食が恋しくなった」
「ドイツに緑茶なんてあるわけないもんな」
「だから、今の私は猛烈にホカホカの白米が食べたい。出来れば納豆も欲しい。味噌汁を超飲みたい。焼きサバも……」
「じゃ…じゃあ、今日の夕飯は千冬姉のリクエスト通りにするか」
「本当かっ!?」
相当に日本食に飢えていたのか、急に疲れていた目がキラキラしだした。
彼女がこんな目をするのは目の前にキンキンに冷えたビールがある時ぐらいだ。
「あ…だが、今日はまず向こうに戻った方がいいのか……?」
「その必要はないだろう。千冬ちゃんも戻って来たばかりで疲れているだろうし、今日のところはここに泊まりなさい。ちゃんと、空き部屋は皆で掃除をして準備してあるから」
「では、お言葉に甘えさせて貰います」
正直な話、千冬もクタクタに疲れ果てていて、今から向こうの家に行く気力も体力も無かった。
だから、この申し出は本気で助かっていた。
「ドイツでの土産話を後で聞かせてくれよ」
「いいとも。そっちも、私がいなかった間の事を聞かせてくれ」
こうして、またこの孤児院に新たな仲間が加わったのであった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
夕食時。
食堂では千冬が至福の笑みを浮かべながら食事をしていた。
「千冬お姉ちゃん。すっごく美味しそうに食べてるね~」
「あぁ……すっごく美味しいぞ。一年ぶりに食べる白米がこんなにも美味しかったなんて……。日本に生まれて本当に良かった」
「そこまで言うんだ……」
納豆を食べて感動し、味噌汁を飲んで涙を流し、サバの塩焼きを食べて悶絶。
完全に千冬は日本食不足だったらしい。
「しかし、あの鈴が中国に帰ってしまっていたとはな……。もう少し早ければ、私も一緒に見送ったのだが……」
「そればかりは仕方がありませんよ。鈴の方も言っていましたよ。『千冬さんが帰ってきたら言っておいて。またきっと会いましょう』…と」
「ふっ……アイツらしいな」
ニヒルな笑みを浮かべているが、頬にご飯粒がついているから全く締まらない。
「そして、そこの床でご飯を食べている四匹の猫たちは、お前達が拾ったらしいな?」
「えぇ。因みに、名付け親はソンネンです」
「お前が?」
「直感で名付けた」
「お前達はそれでいいのか……?」
猫たちを憐れみながら見つめると、千冬の方を見てからミカが『にゃ~』と一鳴き。
それを見た途端、千冬の顔がまた緩んだ。
「猫……いいな……心が癒されていくようだ……」
「「「分かる」」」
女性陣は全員同意。
矢張り、可愛い動物に勝てる人間なんてそうそういないのだ。
「そう言えば、一夏から聞いたぞ? 三人共、揃ってIS学園を受験するそうだな?」
「まぁな。でも待てよ? そうなると、オレ達が合格したら千冬さんとは教師と生徒って間柄になるのか?」
「学園じゃ『織斑先生』って呼ばなくちゃな」
「まだ気が早いぞ。だが、もしもお前達が来た時はビシビシ鍛えてやる」
「「「望むところ」」」
この三人はその程度の言葉では怯まない。
寧ろ、逆にやる気を出させるだけだ。
「そろそろドイツでの話を聞かせてくれよ」
「いいだろう。まずは……」
久方振りの日本での食事を楽しみながら、千冬はゆっくりと語り始める。
彼女がドイツで過ごした一年間を。
次の日。
「あれ? なんかポストに入ってるぞ? なんだこりゃ?」
「何枚もの紙がファイルに入っているが、これは一体……」
「ん? まさかこいつは……」
「「「IS学園の受験の過去問っ!?」」」
「差出人は……『謎のお助け美女ラビットT』?」
「どー考えても、あのバカウサギだろ……」
「同感」
「普通に有り難くはあるけどよ」
「一応、後でお礼のメールでも送っておくか」