インフィニット・ストラトス IS IGLOO   作:とんこつラーメン

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前回の続き。

残念ですが、砲術長の登場はあと少し先です。

可能な限り早く出したいとは思ってるんですけどね。







隊長と教官

 廊下で待っていた千冬と合流し、改めて基地内の案内が始まった。

 小柄なカスペンに大人の千冬が後ろから着いて行く光景は、なんともアンバランスな感じだった。

 

「ここが食堂です。見た目は無骨ですが、品数も味も保証しますよ」

「かなり広いんだな」

「ここにいる全員が使いますからね。広くなるのは必然です」

「成る程な」

 

 これから一年間、ここで食事をすることとなる。

 だが、千冬はドイツの食事に全く詳しくない。

 日本食に染まっている自分の舌がこの国に合うのか、それが地味に心配だった。

 

「ドリンクバーもあるから、食事の際は好きな飲み物を飲めますよ」

「完全にファミレスだな……」

「否定はしません。恐らく、ここが他の基地と比べて特殊なせいでしょうね」

「IS操縦者が使う事を前提としているが故…か」

「はい。要は、女性向けになってるんですよ」

「……納得だ」

 

 男女の比率が違うので、嫌でもこのような構造にせざる負えない。

 だが、だからこそ、この基地にいる者達は快適に過ごせている。

 

「もうご承知でしょうが、この基地はISを配備することを前提とし、私達のようなIS操縦者を運用することが目的となっています」

「だが、アラスカ条約でISの軍事運用は禁止されている筈だ」

「その通り。ここが本当にISを軍事運用しているのならば、すぐにその事が全席に知れ渡り、ドイツは非難されるでしょう。ですが、実際にはそのような事にはなっていない。それは何故か」

 

 食堂から出て、次の場所へ向かう為に廊下に出て歩き出す。

 

「本国…と言うか、上層部はこの基地を…私達『シュヴァルツェ・ハーゼ隊』を自軍の戦力としてカウントしていない」

「なんだと? それはどういうことだ?」

 

 同じ軍の部隊なのに、どうして戦力として数えられないのか。

 軍の事に詳しくない千冬には全く分らなかった。

 

「言葉通りの意味ですよ。この基地と私達は『ハリボテ』。日本で言うところの『張子の虎』なのです。表向きはドイツ軍所属となっていますが、実際には国内外に対するISの運用をアピールする集団なのです」

「つまり、日本でいうところの『訓練所』に該当する場所なのか」

「御理解が早くて助かります。けれど、ここの他にも別の街などにISの訓練所は存在します。ここだけが少々特殊なだけです」

「色々と複雑なんだな……」

 

 他の国の事情には余り詳しくない千冬だったが、そんな彼女でもここがかなり例外的で、だからこそ自分が呼ばれたのだと分かる。

 

「えっと……そうだ。後はトレーニングルームや整備室かな。そして、訓練場も案内しないと」

「訓練場?」

「えぇ。今は他の隊員達が私が課した訓練の真っ最中でしょう」

「ふむ……」

 

 この基地で教官をする以上、最も使用する回数が多い場所だ。

 少しでも早く場所を把握しておかなければ。

 自分にとって、それこそが一番最初の仕事だろう。

 

「最後に貴女が寝泊まりをする宿舎を案内します。荷物の方は既に部屋に運び入れてあるはずです。念の為、部屋に着いたら中身の確認をお願いします」

「分かった。しかし、宿舎か……」

「何か懸念することが?」

「いやな。そのような施設に宿泊したことが無いのでな。どのような場所かと思って……」

「あぁ。そういうことですか。それなら大丈夫ですよ。私達も使用してますが、意外と快適に過ごせています。先程も言ったでしょう? ここは『女性向きの基地』だと」

「そうだったな」

 

 それならば、なんとか大丈夫か。

 後は、一刻も早く自分がこの環境に慣れる事だけ。

 

「では、参りましょうか」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 外にある広大な訓練場。

 そこでは、ハーゼ隊の女性隊員達が汗だくになって訓練に明け暮れていた。

 

「ここが訓練場です」

「これはまた……」

 

 ISの訓練場は基本的に室内で行う事が多い。

 このように屋外の訓練場はかなり珍しかった。

 これは偏に、ここが表向きでも『軍事基地』だからだろう。

 

「総員、注目!!」

 

 カスペンの一声で訓練をしていた全員の視線が一点に集まる。

 彼女が来たことにも驚いていたが、それ以上に隣に千冬が立っている事に驚愕していた。

 

「日本から訓練教官として来て下さった織斑千冬教官だ。以前から話していた通り、彼女が明日からお前達の訓練教官となる。では、織斑教官。一言お願いします」

「ああ」

 

 なんか流れで何かいう事になったが、全く考えてなかった。

 こんな事なら、飛行機の中で色々と考えてればよかったと、今更ながらに後悔し始めた。

 

「あ~…私が織斑千冬だ。着任は今日からだが、実際に教官としての仕事をするのは明日からとなっている。教官と言っても、このような仕事をするのは私自身も初めての試みだ。故に、私の方も諸君から学ぶ事があると思う。これからよろしく頼む」

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 

 全員が一糸乱れぬ動きで敬礼をして応えた。

 ちょっぴりだけ、その迫力に気圧された。

 

「では、訓練に戻れ!」

「「「「「了解!!」」」」」

 

 全員が散らばってから、千冬は大きく息を吐きながら肩の力を抜いた。

 

「地味に緊張したぞ……」

「これから嫌でも、似たような事の繰り返しですよ」

「慣れないとダメだな……」

「心中お察しします」

「ありがとう……」

 

 慣れるまでは胃薬の世話になるかもしれない。

 早くも湯鬱になりかけた千冬だった。

 

「ん……?」

 

 ここで、千冬がある事に気が付く。

 カスペンが左手だけに手袋が着けられている事に。

 

「この左手は……」

「これですか?」

 

 何も気にする様子も無くカスペンは自分の手袋を取る。

 そこから現れたのは、金属で出来た義手だった。

 

「名誉の負傷というやつです」

「……済まない」

 

 自分の勝手な好奇心で、少女の踏み込んではいけない部分を土足で荒らしてしまった。

 途端に千冬の心が罪悪感で覆われていく。

 

「気にしないでください。もうすっかり慣れてますし、義手だからこそ良かったと思う場面も多々ありますから」

「そ…そうなのか?」

「はい。例えば、沸騰したヤカンを握る時とか」

「ぷっ……ははは……そうか…沸騰したヤカンか……」

 

 同じ年頃の少女ならば、普通は可能な限り隠しておきたいと思うはず。

 それなのに、カスペンは自らその義手を晒したばかりではなく、それで冗談すらも言ってみせた。

 彼女は自分が思っている以上に心が強い少女なのだと思い知らされる。

 下手な同情や心配などは、逆に彼女に対する侮辱になるのだと。

 

「そう言えば、大佐の部下は全員が揃って眼帯をしているな」

「やっぱり気付かれましたか」

「まぁな」

「彼女達にも色々と事情があるのです。云わばあれは、この部隊員たちの『絆の証』…のようなものと今は認識して頂ければよいかと」

「絆の証……か」

 

 カスペンはここが『ISの運用をするから特別』と言っていたが、どうやら他にも事情がありそうだ。

 だが、この場でそれを問うのは躊躇われたため、敢えて黙っていることにした。

 

「いずれ、お話しする機会があったらご説明しましょう。それまではどうか……」

「言われずとも承知している。私だってそこまで無粋な人間じゃない」

 

 成る程。あの三人が懐くのも頷ける。

 この織斑千冬という人物は、軍人としては全く向かないが、教官のような『誰かに何かを教える立場』には高い適性があるのかもしれない。

 

「それでは最後に、宿舎に案内しましょう」

「頼む」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 連れてこられた宿舎は、千冬の予想の遥か上を行っていた。

 彼女の中では、コンテナのような物が横に並んでいるのを想像していたのだが、実際には社員寮、もしくはホテルのような建物だった。

 デザイン自体はコンクリート剥き出しの無骨なものだったが、それでも十分過ぎた。

 

「どうですか?」

「これは……驚いた……」

「でしょう? 軍人が寝泊まりをする場所にしては、かなり優遇されていますよ。それと……はい」

 

 カスペンがポケットから取り出したのは『305』と書かれた部屋の鍵。

 それを千冬に手渡した。

 

「これが貴女の住む部屋となっています。シンプルな構造になっていますから、中で迷う事は無いと思います」

「それはよかった」

 

 一応、中には地図もありはするのだが、誰一人として使ったことが無い。

 あくまでも『念の為』なのだ。

 

「それから、起床時間は早朝6時。就寝時間は22時となっています」

「随分と緩いんだな。てっきり、朝は5時起き、夜は9時には寝ていると思っていた」

「他ではそれぐらいが当たり前です。何度も言ったでしょう? ここだけが『例外』なのです」

「そうだったな……」

 

 何から何まで優遇されている部隊。

 ここまでして、他の部隊などからクレームが来たりはしないのだろうかと心配になってくる。

 

「基本的に食事は先程案内した食堂で食べますが、休暇の際にはよく外食をする者達も多いです」

「大佐はどうなんだ?」

「私の場合は、休暇の時はよく実家に帰ってますから。そこで食べる事が大半ですね」

「実家?」

「『フォン』のミドルネームが示す通り、我が『カスペン家』は数多くの優秀な軍人を輩出した家系で、私の両親も現役の軍人をしています」

「御両親が軍人だから、娘である大佐も軍人になったのか?」

「そうです。でも、私は別に両親に言われたから軍人になったのではなく、自らの意志でこの場所に立っています。寧ろ、最初は両親から反対をされたぐらいです」

「それが親として普通の反応なのだろうな……」

 

 両親のいない千冬にはよく分らないが。

 それと、『フォン』の意味なんて当然のように知らない。

 

「本当はちゃんとハイスクールを卒業してから軍に入ろうと思っていたのですが、10歳の頃に受けた簡易IS適性検査によってA+という値を出してしまい、それで……」

「軍にスカウトされた…というわけか」

「幼い頃から軍に属する人間が決していない訳ではないですが、私の場合は単純に高い適性を持つ人間を手元に置いておきたいが故の事なのでしょう」

「そう…か……」

 

 自分達の産み出した歪みがこんな所にまで影響している。

 改めて千冬は、ISが世界に及ぼした変化を噛み締めた。

 

「もう気にしてはいませんけどね。勉学の方は家庭教師のお蔭で既に大学卒業レベルまでは修学済みですし、ここだからこそ学べることも多い」

「そのようだな」

 

 千冬から見たカスペンは、どこまでも真っ直ぐで信念を感じられた。

 この歳で軍人としての誇りに満ちていて、同時にどこまでも友を、仲間達を大切に想っている。

 だからこそ、彼女はこの歳で大佐なんて地位に立ち、この部隊の隊長に就任出来たのだ。

 

「そうだ。これも言っておかないと」

「なんだ?」

「ゴミ出しは毎週月曜と木曜日。燃えないゴミは各月の最後の金曜日。そして、洗濯物は基地内にあるランドリーにて洗って下さい」

「せ…洗濯か……」

「どうしました?」

 

 洗濯の話をされて、急に千冬の顔が青くなる。

 一人で暮らす以上、絶対に直面する問題。

 食事の方は食堂で何とかなるが、こればかりは自分でどうにかするしかない。

 

「その……だな……余り大声じゃ言えないのだが……」

「はぁ……」

 

 カスペンの耳元にそっと口を寄せてから呟いた。

 

「今までずっと家事の類は弟に任せきりでな……お世辞にも得意とは言い難いんだ……」

「はい?」

 

 カスペン。まさかの発言に思わず人生初めてのマスケな声を出す。

 

「だからだな…その…出来ればだが…私に洗濯の仕方を教えてくれると非常に助かるのだが……」

「プッ……アハハ……」

 

 今度はカスペンが笑う番だった。

 まるで抜き身の刀のような人物の口から『洗濯の仕方を教えてくれ』と言われたのだから、彼女が噴き出してしまうのも無理はなかった。

 

「わ…笑うな!」

「いえ…すみません…ハハ……。別に侮辱をしているわけじゃなくてですね…」

「ならばなんだと言うんだ……」

「あの『ブリュンヒルデ』に意外な弱点があったことにビックリしてしまってつい……」

「私だって人間だ。欠点の一つや二つぐらいちゃんとある。世間が噂をしているような完璧超人じゃないんだよ」

「それぐらいは私だって承知していますよ。けど、まさか家事が苦手って……ハハハ……!」

 

 腹を抱え、涙を浮かべながら笑うカスペン。

 前世、今世も合わせて、ここまで笑ったのは本気で初めてかもしれない。

 それ程までに彼女は笑っていた。

 

(くそ……彼女の笑顔が可愛過ぎて、怒るに怒れない……!)

 

 かなりツボにハマったのか、それから数分間に渡ってずっとカスペンはその場で爆笑していた。

 前途多難な現実に溜息を吐きつつ、これからの生活をどうしようか真剣に考える千冬なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書きたいことは書けたと思います。

次回は大佐のお仕事の話をして、その次くらいに砲術長を出そうと予定しています。

現段階ではまだラウラは他のモブキャラと同格の扱いで、本格的に大佐や千冬と絡んでくるのは砲術長の登場と同時になるでしょう。

それと、アンケートの件ですが、またもや男の娘派が徐々に追い上げてきましたね。
でもまだ女の子派との差は開いています。
原作突入まで完全にカウントダウンが開始された今、完全にデッドヒート状態です。
果たして、勝利の女神はどっちに微笑むのか?






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