インフィニット・ストラトス IS IGLOO   作:とんこつラーメン

51 / 110
段々とではありますが、またもや男の娘派が追い上げてきましたね~。

これは本気で結果が分らなくなってきました。












大佐の誘い

「取り敢えずは着いてきな」

 

 工場の中から出てきた少女…アレクサンドロ・ヘンメの後ろから着いて行く形で、三人は中へと入っていった。

 

「「おぉ~……」」

 

 そこには様々な機器が並んでいて、ガタイのいい男達が汗水流して働いている。

 汗と油が混ざり合ったような匂いが辺りに漂うが、不思議と不快ではない。

 どうやら、ここは機械関係ならばなんでも取り扱っているようで、大型車が分解された状態で修理されていると思いきや、少し離れた場所では冷蔵庫を直している。

 その中でも千冬とラウラの目についたのは、矢張り『アレ』だった。

 

「ISの部品…か?」

「そのように見えますが……」

 

 本当にピンからキリまで何でもやる。

 小規模であっても、その技術力は本物だと理解した。

 

「何見てんだ? こっちだよ」

「あ…あぁ……」

 

 ヘンメに言われて、すぐに視線を元に戻してから追いつく。

 そうして連れてこられたのは、工員たちが普段、休憩をするスペース。

 灰皿などがある事から、ここは休憩所であると同時に喫煙所でもあるようだ。

 

「ここで待っててくれ。すぐに親父を連れてくる」

 

 そう言って、ヘンメは部屋から出て行く。

 残されたのは、カスペン達だけ。

 

「外からは分からないぐらいに凄かったでしょう?」

「そうだな……普段は見慣れない現場を見たような気分だ」

「ここは昔から『あの基地』や『カスペン家』が世話になっている工場でしてね。特に基地で扱っている戦車やISの予備パーツや、それに関わる様々な機器はここで発注をしているんです」

「そ…そうだったのですかっ!?」

 

 思わず立ち上がるほどに驚くラウラ。

 自分達がドイツ軍でも精鋭中の精鋭であると信じて疑っていない彼女からすれば、こんな小さな工場が自分達を裏から支えていた事は俄かには信じられなかった。

 

「他の基地などはこのような町工場を過小評価して見下しているが、私からすれば愚かとしか言えない。寧ろ、このような場所にこそ優れた才能や技術が眠っていると言うのに……」

「全く持ってその通りだ。相変わらず、いい事を言うじゃねぇか。大佐さんよ」

 

 話に割り込みながら部屋に来たのは、ヘンメが先程呼びに行った工場長。

 他の工員なんて比較にすらならない程に体が鍛え上げられていて、何も知らない人間が見ればボディービルダーと勘違いをしてしまうだろう。

 顔の下半分を覆っている口髭が更にその迫力を増幅していてはいるが、なんでか安心する佇まいだった。

 

「お久し振りです。工場長」

「おう。久し振りだな。で? 今日もまたうちのバカ娘に会いに来たのか?」

「おいこら親父。誰がバカ娘だって?」

「お前以外にいるか。アホ」

 

 最初から親子喧嘩モードだが、いつもの事なのでカスペンは何も言わない。

 逆に、いきなり何事だと思った千冬とラウラは普通に焦っていた。

 

「だ…大丈夫なのか?」

「心配無用です。これがこの親子なりのコミュニケーションですから」

「そう…なのですか?」

 

 暫くして文句の言い合いが終わり、改めてこっちを向いた。

 

「おっと、悪かったな。なんか無視するような事をしちまって」

「お気になさらず。慣れましたから」

「嬢ちゃんも強かだねぇ……」

 

 見た目は子供でも、中身は歴戦の軍人なのだ。

 この程度では狼狽えたりはしない。

 

「そこの二人はお前さんの知り合いか?」

「はい。こちらの女性は織斑千冬さんとおっしゃって、今は日本からいらっしゃっていて、ハーゼ隊の基地にて訓練教官をしているのです」

「初めまして。織斑千冬です」

「おう! 俺はここの工場の頭張ってる『ベルナルド・ヘンメ』だ。で、こいつが俺の娘の……」

「アレクサンドロ・ヘンメだ。長くて呼び難いだろうから、オレの事は気軽に『アレク』でいいぜ。ここの皆もそう呼んでる」

 

 この『アレク』という愛称。

 実は生まれ変わってから初めてつけられたもので、こんな事は前世では一度も無かったためか、かなりこの愛称を気に入っていたりする。

 だから、色んな人に呼んでほしいと思っている。

 

(先程、大佐は彼女の事を『大尉』と呼んでいた。では、この少女は元は軍人だったのか? だが、なんでかそれは深く聞いてはいけないような気がする……)

 

 一瞬だけ好奇心が勝りそうになったが、ラウラはグッっと堪えた。

 これもまたラウラが少しだけ成長している証拠かもしれない。

 

「そして、この子が私の部下の一人であるハーゼ隊の隊員の……」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ少尉であります!」

「あっはっはっ! 大人しそうな顔をして、元気なお嬢ちゃんじゃねぇか!」

 

 力任せにベルナンドがラウラの頭を撫でるが、不思議と落ち着いた。

 それは、彼女が生まれてこの方『父性』というものを知らなかったからだろう。

 

(彼は私の名前を聞いても何の反応もしなかった。もしや、モンドグロッソの事を何も知らないのか? それとも、知っていて敢えて何も聞かなかったのか? いや……別にどっちでもいいか。少なくとも、ここでは私の事を『ブリュンヒルデ』として見る人間はいない……それでいいじゃないか)

 

 自分の事を『一人の人間』として見てくれる。

 たったそれだけで、千冬にはここがとても居心地が良かった。

 

「今日は完全にプライベートで来たのですが…ついでにコレも持ってきました」

「こいつは……?」

「次に発注する部品のリストです」

「プライベートのついでに仕事をするって……」

 

 カスペンがバッグから取り出したのは一枚の紙。

 それは表になっている発注書だった。

 

「まぁいいじゃねぇか。いつでも仕事熱心なのは嫌いじゃない。確かに受け取った。近日中には確実に届けさせる」

「いつも、ありがとうございます。そちらの迅速な仕事のお蔭で、本当に皆が助かっています」

「そいつはお互い様だ。こっちも、ハーゼ隊って言う『お得意様』がいてくれるお蔭で仕事には困らないで済んでるんだ。持ちつ持たれずってやつだ」

 

 ゴツゴツした手で、カスペンと握手を交わす。

 強面の中年男性と金髪美幼女が握手をしている姿は、かなりの違和感があった。

 

「それで、本当はウチのアレクと話しに来たんだろ? 丁度、今から休憩をしようと思ってたところだ。好きなだけ話していってくれ」

「分りました。ところで、一つお願いしたいことがあるのですが……」

「なんだ?」

「私がアレクと話している間、織斑教官とボーデヴィッヒ少尉にこの工場を見学させてくれませんか?」

「別に構いやしねぇが……なんでまた? こんな場所、見たって何も面白くはねぇだろうよ」

「そうとも限りません。日本から来た織斑教官には、この国で見る物全てが真新しく見える筈です。それはウチの部下も同様。少しでも色んな事を見聞きして後学に活かしてほしいのです」

「隊長さんも大変だな……いいぜ。お二人さん、着いてきな」

「「は…はい!」」

「危ないから、機械に触るんじゃねぇぞ」

 

 ベルナンドが二人を連れて行くのを見送ってから、アレクは大きく溜息を吐いた。

 

「これで心置きなく話せるってか?」

「まぁな」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「これはだな……」

「「おぉ~……」」

 

 二人がベルナンドを初めとする工員たちに色んな説明を受けているのを見ながら、カスペンとアレクは端の方で壁に体を預けて立っていた。

 

「ほらよ」

「ありがとう」

 

 アレクがカスペンに缶コーヒーを手渡し、同時に蓋を開ける。

 

「あのよ。いい加減にオレの事を階級で呼ぶのを止めろよな。人前で言われた時は本気でヒヤっとしたぞ」

「ははは……悪かったよ。どうも、昔のイメージが抜けなくてね」

「あのなぁ……」

 

 笑って誤魔化してはいるが、言われた方は溜まったもんじゃない。

 

「にしても、まさかお前さんが他にも客を連れて来るとは思わなかったぜ」

「単なる気紛れだよ。深い意味は無い」

「そうかよ。織斑千冬っていやぁ、元日本代表でブリュンヒルデだろ? 文字通り、世界一の有名人じゃねぇか。なんでそんな女がお前の所にいるんだよ」

「ドイツと日本のお偉いさんが外交目的で彼女を利用したのさ。表向きはな」

「本当は?」

「あわよくば、自国に引きずり込もうという魂胆だろう。そのような事は私が絶対に許さんがな。彼女には彼女の故郷があり、帰るべき場所がある。それを奪うような事だけは絶対にしてはいけない」

 

 チビチビとコーヒーを飲みつつも、何も持っていない『左手』がギシギシと音を立てる。

 

「そういや聞いたぞ。お前も国家代表になったんだって? おめっとさん」

「完全にプロバガンダ目的だろうがな。代表になってからずっと、写真撮影やらインタビューやらの仕事ばかりだ」

「国家代表なんてそんなもんだろ?」

「私がモンドグロッソに出場するのと、私の胃に穴が開くの…どっちが先かな……」

「その歳で悲しい事を言うなよ……」

 

 肉体年齢弱冠14歳の少女がストレスによる自分の胃の事を心配する。

 かなりシュールな絵図だった。

 

「今日は愚痴を言いに来たのか?」

「それも目的の一つだ」

「マジかよ……」

 

 片道一時間以上掛けて愚痴を言いに来るとは。

 それだけストレスが溜まっている証拠なのか。

 

「……少し前、私達の部隊が第二回モンドグロッソの会場警備をしていたのは知っているな?」

「お前が教えてくれたからな。それがどうかしたのか?」

「……そこで、私たち以外に生まれ変わっている第603技術試験隊のメンバーに会った」

「はぁっ!?」

 

 今回、初めてアレクが本気で驚いた。

 一つしかない目を大きく広げ、思わず壁から体を離したほどに。

 

「デメジエール・ソンネン少佐。ジャン・リュック・デュバル少佐。そして、ヴェルナー・ホルバイン少尉。この三人もまた、私達と同様に女性となって生まれ変わっていた」

「ソンネン少佐って言えば、あの戦車教導団の鬼教官だろ? 単なる大砲屋だったオレでも知ってるぐらいの有名人じゃねぇか」

「実際には部下思いの優しい人物だったがな」

「デュバル少佐は確か…ツィマッド社から出向してるテストパイロットじゃなかったか? なんとかっていうMSの開発に携わっていたとか……」

「ヅダな。皮肉にも、この世界に来てから真の意味で完成を迎えた悲運の機体でもあるがな……」

「最後の奴は知らねぇな。誰だ」

「ホルバイン少尉は海兵隊の所属だ。知らないのも無理はない」

「成る程な。オレとは微塵も縁の無い部隊の出身者ってか」

 

 ここまで話し、アレクはある事に気が付く。

 

「ちょっと待て。なんでお前はそいつらだって分かったんだ? 三人は女になってたんだろ? オレやお前みたいに見た目は完全に変わっている筈だ」

「三人それぞれに専用機に乗っていたからさ。彼ら…いや、彼女達にしか乗りこなせない機体にな……」

 

 あの時の感動は今でも鮮明に思い出せる。

 なにせ、カスペンが本気で泣いた日でもあるから。

 

「彼女達は自分達の友人をテロリストの魔の手から守る為に、日本からドイツまでやって来ていた。篠ノ之博士の手引きでな」

「これまた凄い奴の名前が出てきたな……。よりにもよって、そいつらはISの開発者と繋がってるのかよ」

「一応、私も彼女とは少し話したよ」

「どうだった?」

「世間一般で言われているような冷徹な女性じゃなかった。ちゃんと話せば分かってくれる人物だと私は思った」

「大衆の意見ほど、当てにしちゃいけないからな……」

 

 缶コーヒーを全て飲み終えたアレクは、近くにあるゴミ箱へと空き缶を投げて、見事にシュートイン。

 

「お見事。腕は衰えていないな」

「これぐらい、誰だって出来るッつーの」

 

 手持無沙汰になったのか、空いた手をポケットに入れた。

 

「今回来た主目的は、オレに他にもお仲間がコッチに来ている事を教える為だったのか?」

「それもある」

「その言い方……本命は別にあるって事か」

 

 ここでカスペンは目を閉じ、一息置いてから口を開けた。

 

世界蛇(ヨルムンガンド)

「!!!」

「貴官の『魂』とも呼べるアレが少し前に完成した。勿論、開発計画自体は極秘中の極秘だが、君だけはそれを知る権利がある…というか、これは元々、貴官の為に開発されたと言っても過言じゃない」

 

 アレクが渋い顔をして俯く。

 ヨルムンガンド。それは自分にとっての掛け替えのない無二の相棒であり、己の魂、体の一部と言っても差し支えない。

 

「……お前はオレに何を望んでいるんだ」

「私の…私達の同志になって欲しい」

「前にも言ったが、オレはもう軍に関わるつもりは……」

「誰もハーゼ隊に入れとは一言も言っちゃいない。話は最後まで聞いてくれ」

「わ…悪りぃ……」

 

 軽く咳払いをしてから話を再開する。

 

「さっき、例の三人がテロリストと戦っていたと言ったな?」

「おう。それがどうかしたのか?」

「奴等の名は『亡国機業(ファントム・タスク)』。第二次世界大戦時から世界の裏で暗躍し続けていると言われている秘密結社だ」

「秘密結社……」

 

 平常時ならば一笑に伏す単語だが、カスペンが出す雰囲気がそれを許さない。

 

「そいつらがああも堂々と表舞台に姿を現したという事は……」

「近い内…少なくとも後数年の内に本格的な攻勢に出る可能性がある…か?」

「私はそう睨んでいる。その時に、少しでも多くの実力者が必要になる」

「オレみたいな『宇宙世紀を生きた軍人』が必要って訳か」

「上の連中は奴らを軽視しているようだが、私はそうじゃない。連中との戦いは間違いなく『戦争』に発展すると私は睨んでいる」

「戦争……ね」

「その時、本当の意味で戦力になるのは私や君のような『戦争経験者』だけだ」

「戦場で銃もまともに撃てない奴は足手纏い以下ってか……」

「厳しい言い方かもしれんがな。平和な世界で生きている少女達に、血の匂いや味は覚えて欲しくは無い」

「そうだな……」

 

 もしもカスペンの言ったことが本当に起きたら、間違いなくISが主戦力として戦場に駆り出される。

 だが、この平和な世界に生きる少女達に果たして『人殺し』が出来るだろうか。

 答えは否。断じて否である。

 

「平和の犠牲はオレ達だけでいい……か」

「……済まない」

「気にすんなよ。いつかはこんな日が来るんじゃないかって予想はしてた」

「アレク……」

「どれだけこっちが『平穏』を望んでも、『戦争』の方からやって来ちゃ意味ねぇな……」

「全くだ……」

 

 徐にカスペンがバッグの中から、ある物を出してアレクに渡した。

 

「なんだこりゃ?」

「ウチの基地に入る為の許可証だ。今の君は軍人じゃないからな。基地に入るにはこれが必要不可欠だ」

「御尤も」

 

 受け取った許可証をポケットに入れてから、まだ見学中の二人に目を向ける。

 

「そっちの都合がつく日で構わないから、一度こっちに来てくれると助かる」

「わーったよ。その時はオレから連絡する」

「助かる。その場でまた君に話したいことや、して欲しい事があるから、来る時は時間に余裕を持って来てほしい」

「りょーかいだよ。大佐殿」

 

 それからは難しい話ではなく、年頃の少女らしい何気ない会話で盛り上がった。

 カスペンとアレクの顔にも、先程までは無かった笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「「「ありがとうございました」」」

 

 帰る時間になり、三人は工場の前でベルナンドやアレクに礼を言う。

 特に千冬とラウラはかなり満足したようで終始、笑顔だった。

 

「またいつでも来てくれて構わんぜ。少しはここも華やかになるってもんだ」

「いや、オレも(今は)立派な女なんだけど……」

「テメェみたいなガサツな女に華なんてあるわけねぇだろうが! ちっとは大佐の嬢ちゃんを見習って女らしさを勉強しやがれ!!」

「なんだとぉ~っ!?」

 

 結局、最後まで喧嘩ばかりしていたヘンメ親子だった。

 千冬とラウラがそれを少しだけ羨ましいと思ったのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回以降から砲術長の出番が一気に増える予定です。

そして、当然のように神出鬼没な兎さんとも……?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。