インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
けどまぁ、この作品の実質的な主役は技術隊の皆ですからね。
ハーゼ隊の所属する基地の格納庫の一番奥。
そこでは、カスペン監督の元、とあるISの最終調整が行われていた。
「どんな感じだ?」
「『本体』の方は何の問題もありません。ですが……」
「どうした?」
「専門家ではない我々では、『砲身』の細かい調整は難しいですね」
「その点なら問題は無い」
「と仰いますと?」
「お前の言う『専門家』のアテがあるからだ。『彼女』ならば、完全完璧に仕上げてくれるに違いない」
「流石は大佐殿……お顔が広いのですね」
「そうでもないさ。単純に『彼女』が私の知己だっただけの話だ」
整備員の若者と話していると、いきなり小さな人影が傍までやって来た。
「お話し中失礼します!」
「ボーデヴィッヒ少尉? 今は訓練中ではなかったか?」
「そうなのですが、織斑教官から『客人』を大佐の元まで案内しろとの命を受けましたので」
「客人? もしや……」
ラウラの言葉を聞いて、徐に彼女の後ろに視線を向けると、ゆっくりとした足取りで『彼女』がやって来た。
「よっ。お望み通り、来てやったぜ」
「砲術長!」
黒いTシャツに黒いミニスカート。黒いニーソックスと、見事に全身真っ黒なファッションでやって来たアレクだった。
彼女の顔は先日までの悩んでいる表情とは打って変わって、本来の明るいものに戻っていた。
「案内サンキューな。ラウラ」
「い…いえ。礼には及びません大尉殿。これも任務ですので。では、ボーデヴィッヒ少尉、訓練に戻ります」
まだアレクには慣れてないのか、そそくさと敬礼をして戻っていってしまった。
かなり慌てていたようで、整備している機体は視界に入っていなかったようだ。
「た…大佐? この女の子は一体……」
「前に言っていただろう? 私の知己にこの機体のテストパイロットをさせると。彼女がその『知己』だ」
「マジっすかっ!?」
ここで整備員の彼が驚くのは当然である。
着未知の塊とも言えるISのテストパイロットを、身元不明の民間人の少女やらせるなんて、普通に考えれば正気の沙汰じゃない。
「大マジだ。彼女は我々が普段から世話になっている『ヘンメ工場』の工場長の一人娘だぞ? その時点で信用に値するとは思わんか?」
「あのおやっさんに、こんな可愛い娘さんがいたんっすかっ!?」
可愛いと言われて、普通ならば照れるとか恥ずかしがるとか、なんらかのリアクションをするものだが、アレクの場合はどの反応もしなかった。
実は彼女、その手の褒め言葉は昔から何度となく言われ続けていて、完全に冗談の類だと思っているのだ。
だから、容姿に関する褒め事では、アレクを攻略することは出来ない。
「可愛いだって。褒められちった」
無表情でのテヘペロ。
この少女、何気に男のツボを分かっている。
「それで……『コイツ』が前にお前が言ってたヤツ…なのか?」
「その通り」
少し後ろに下がりつつ、目の前にあるISの全貌を眺めていく。
機体の基本的な形状自体は、カスペンの現在の専用機である『シュヴァルツェア・レーゲン』と酷似しているが、細かな部分が違っていた。
まず、左側にある
レーゲンでは肩部と腰部に装着してあるワイヤーブレードは、全て腰部に集中していて、しかも正確にはワイヤーブレードではなくて姿勢制御用のチェーンアンカーに変更してある。
脚部装甲は大型化し、チェーンアンカーと同じように姿勢制御目的で増設された伸縮可能なスパイクアンカーもある。
そして、この機体の最大の特徴が、右肩部に可動式のアームで固定されている超巨大な砲身だった。
「冗談だろ……。よりにもよって、ISに『コイツ』を合体させるとか、どんだけだよ……」
「そうか? 私は自分でも最高のアイデアだと思っているんだが……」
人のセンスは人それぞれである。
「型式番号S-y.03。機体名『
「黒い蛇って、普通に化物だな。けど……悪くねぇ」
犬歯を剥き出しにして笑うアレク。
その顔からは少女らしさが消え、完全に戦場を知る歴戦の軍人のものになった。
「本来ならば存在しない『シュヴァルツェア・シリーズ』の三号機で、私やクラリッサの機体の予備パーツなどを用いて組み上げられた」
「それは見れば分かる。伊達に整備工場の一人娘をしてねーっつーの」
「ならば、他の説明は不要かな?」
「いや、一応頼むわ。オレの予想と合っているか確かめたいし」
「了解だ」
カスペンは整備士から端末を受け取り、軽く操作してからアレクに手渡した。
「この機体の全ては、あの『超高出力試作決戦砲【ヨルムンガンド】』を発射する為に存在している」
「らしいな。これを見る限りじゃ、他の余計な武装は一切積んでないようだしな」
「念の為、腕部装甲に小型の予備バッテリーを積んで、他のシュヴァルツェア・シリーズと共通の『プラズマ手刀』は搭載しているが、あくまでも最低限の防衛用だから、攻撃力は余り期待しない方がいい」
「最初からしてねーよ。近づかれた時を想定するよりは、近づかれる前にぶっ飛ばす方が性に合ってる」
「貴官ならばそう言うと思っていたよ」
そもそも、アレクは『大砲屋』なのだ。
近接戦闘なんて頼まれても絶対にしたくない。
「射程距離はどうなっている?」
「有効射程距離は300㎞。最大射程距離は2000㎞」
「アシストインクジェーターは?」
「搭載済みだ」
「冷却材」
「万全だ」
「主動力は?」
「機体とは別に、もう一個のISコアを砲身内に搭載している」
「……は?」
一瞬、聞き間違いかと思って変な声が出てしまった。
ISコアの希少性はアレクもよく知っていたから。
「実はな、とある『お節介やきのウサギさん』からプレゼントが届けられてな。ソレのお蔭で我々は難航していた、この機体を驚くべきスピードで完成させられた」
「お節介やきのウサギさん……ねぇ……」
それを聞いて、一発でそれが誰なのか特定できた。
「その『ウサギさん』がISコアをくれたってか?」
「それだけじゃない。ヨルムンガンドを小型化する際の改良案を提示してくれた。しかも、我々の技術力で十分に再現可能なレベルで」
「みたいだな……」
端末には、アレクもよく知っているヨルムンガンドのオリジナルの設計データと一緒に、それを自分なりに考えた改良案が記載されていた。
彼女から見ても見事なもので、此れならば確かにオリジナルとほぼ同じ出力を実現しながらも、大幅な小型化が可能となる。
「あいつ……本当に凄かったんだな」
本気で感心するアレク。
確実にこの光景を見ているであろう『ウサギさん』は、モニターの向こうで顔を真っ赤にしながら悶絶していることだろう。
「本来の主動力は熱核融合炉だが、流石にISの武装にそんな物騒な代物を搭載は出来ないからな」
「かといって、別の物で代用しようとすれば否が応でも攻撃力が低下する上に砲身自体が大型化してしまう。その両方の問題を一気に解決したのが……」
「砲身自体にもう一つのISコアを搭載するという方法だった。完全に目から鱗だった。一体のISにはコアは一つだけと言う常識を、開発者自らが打ち破ったのだからな。本物の天才とは、我らとは別の視点を持っているのだと実感させられたよ」
苦笑いを浮かべながら自分の不甲斐なさを話すカスペンだったが、心から残念がっているわけではないと分かる。
「発射するのは勿論……」
「コアから供給させるエネルギーを凝縮させたプラズマビームだ。試射などはまだだが、理論上はオリジナルと遜色がない威力を発揮出来る筈だ」
「それって地味に拙くねぇか? こいつは元々、戦艦に向けて撃つもんだぞ?」
「分かっているとも。だから、この機体は公式の試合じゃ使えない」
「だろうな。寧ろ、出られたら普通にビビるわ」
「この機体はあくまで『来たるべき決戦』に備えてのものだ。そこを十分に理解してほしい」
「あぁ。こっちだって、最初からそのつもりで来たからな」
腰に手を当て、笑顔を浮かべながら自分の愛機を見つめる。
それは、十数年ぶりの再会。
永遠に叶わないと思っていた夢。
「……しかし、今日のお前は随分とスッキリしているように見える。何があったんだ?」
「ちょっとな。背中を押されちまったのさ。『お節介やきのウサギさん』にな」
「……君も会ったのか」
「まぁ…な」
着実に束の交友関係が増えていくが、逆にそれは間違いなく千冬の逆鱗に触れるだろう。
再会したら即座に全力全開のアイアンクローが炸裂する程に。
「さて。説明はこれぐらいにして『
「おう。まずはコイツに触れればいいんだよな? ……本当に触ってもいいんだよね?」
「心配するな。最初から言っているだろう? この機体はアレクの為だけに存在していると」
「いや…それは分かってるんだけどな? こう…いざとなると緊張するっていうか……」
「大丈夫だって。ほら」
「うわぁっ!?」
初めてのISに渋っているアレクを見るに見かねて、カスペンが後ろからドンと押す。
突然の衝撃に思わず両手を前に出して、そのままハンガー内に入ってしまい、そのまま装甲に手を着くことに。
その瞬間、アレクの意識が遠くに飛んだ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そこにいたのは、大きな体に紫の髪を持つ、黄金の翼を携えた蛇のような女性。
自然と見上げてしまう程に背が高く、首が痛くなってしまいそうだ。
「馬鹿者。一体どれだけ我を待たせれば気が済むのだ」
「悪かった。けど、待っててくれたんだな」
「我の力を十全に扱えるのは、後にも先にも貴様だけ。ならば、我が貴様を待っているのは当然であろう」
「そうか……」
「嘗て、我らは愚か者共によって闇に葬られた。真の実力も価値も見出せなかった連中によって、貴様は見殺しにされたも同然だった」
「いや。あの時のオレの死因は、連邦の艦隊の砲撃を受けての負傷だったんだけど……」
「それは最終的な結果にすぎん。実際には味方に裏切られたようなものではないか」
「うぅ……ぐぅの音も出ない……」
「なればこそ」
彼女の手が優しく頬を撫でる。
「この『新しき世界』にて、今度こそ我らの真の力を見せつけてやろうぞ」
「言っとくが、オレは別に鬱憤を晴らす為に戦う訳じゃないぞ」
「知っている。お前は家族を、仲間を守る為に戦う気なのだと。我と貴様は一心同体。貴様の戦いに、我も力を貸してやる」
「ありがとな」
「礼はいらぬ」
「素直じゃない奴」
「主に似たのであろうよ」
「うっせ」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「……ク! アレク!」
「え?」
意識が浮上する。
目の前には黒い装甲があった。
「大丈夫か?」
「あ……うん。なんでもない」
あれはなんだったのだろうか。
夢にしてはリアル過ぎて、現実と言うには荒唐無稽すぎる。
「あれ?」
ふと頭を触る。
ついさっきまで知りもしなかった知識が、いつの間にか頭の中に叩き込まれている。
けど、それは決して不快な感じではない。
まるで、十数年来の友人から親切丁寧に教えて貰ったかのような、懐かしい気持ちになったから。
「ISって……凄いんだな……」
「最新技術の結晶だからな。いきなりどうした?」
「いや……ちょっとな」
頭を振ってから意識を切り替える。
「今から各種設定などをした後に、実際に搭乗してから試射まで行おうと思っているのだが、どうだろうか?」
「こっちは全く問題ないぜ。そうなることを見越して、今日一日休みって事にして貰ってるからな」
「……近い内、君のお父上にも事情を話さないといけないな」
「あのオヤジの事だから、軽く流しそうな気がするけどな」
技術屋とは良くも悪くも興味の有無がハッキリとしている。
それは娘であるアレクも同じなのだが。
「そう言えば、ISスーツは持って来てるか?」
「お前に言われて、ずっと前に買わされたからな。ここに来る時にはISスーツを持参してくれってメールを貰わなきゃ、普通に家に置いてきてたわ」
「そこの奥に物置同然になっている部屋がある。そこで着替えるといい」
「へーへー」
実は所持していたリュックを片手に、扉の中へと消えていった。
だが、入ってすぐに中から叫び声が聞こえてきた。
「カ…カスペン! どうしよう!?」
「ど…どうしたっ!?」
何事かとドアの前まで駆けつけるが、流石にこのまま入室することは躊躇われた。
「なんでか胸が入らないんだよ! これを買った時には普通に入ってたのに! これじゃあスーツが着れねぇ!」
「成長期か……」
「ゴクリ……」
自分の胸を見てから溜息を吐くカスペンとは対照的に、興奮した様子で唾を飲む整備員。
扉一つ挟んだ向こう側で美少女が、自分の胸の事で叫んでいるのだから、健康な男としては当然の反応だった。
「仕方がない。今からココにあるワンサイズ大きい予備のISスーツを持ってくるから、少しだけ待っててくれ」
「済まないな。頼んだぜ!」
トボトボと歩き出すカスペンが、小さくぼそっと呟いた。
「……別に悔しくなんかないもん」
もう完全に砲術長が主人公やってますね。
次回、大蛇が動きます。