インフィニット・ストラトス IS IGLOO   作:とんこつラーメン

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今回、やっとヨルムンガンドが動きます。

ついでに、砲術長がなんで眼帯を付けているのか、その理由の一部が明らかになります。








大砲屋の生き様

 千冬の指導でハーゼ隊の隊員達が毎日、訓練に明け暮れている基地内にある訓練場。

 それは今日も変わらず行われ、隊員達は全員が午前から汗だくになりながら必死に体を動かしていた。

 

「織斑教官。少しよろしいですか?」

「む?」

 

 そこにやって来た小さな人影。

 仕事などの都合上、未だに訓練には参加できずにいたハーゼ隊の隊長であるカスペンだ。

 

「急で申し訳ないのですが、午後からの予定を少し変更しては貰えませんでしょうか?」

「それは別に構わないが……何をする気なんだ?」

「いえね。偶には彼女達に『本当のプロ』というものを見せてやろうと思いまして」

「本当のプロ……?」

「はい。その前段階としてまず、小休止も兼ねて全員を此処に集めてもいいですか?」

「いいだろう。私も、そろそろ少し休ませようと思っていたところだ」

「では……総員! 駆け足で集合せよ!!

「「「「「りょ…了解!!」」」」」

 

 訓練中にいきなり聞こえてきた隊長の声に、隊員達は半ば反射的に反応して、彼女の姿を一瞬で確認した後にカスペンと千冬がいる場所までダッシュで集合し、すぐに整列をした。

 

「まずは毎日の訓練、ご苦労様。本当ならば私も諸君と一緒に訓練に参加したいのだが、どうもスケジュールの都合上…な。その点は本当に済まないと思っている」

「いえ! お気になさらないでください隊長! 私達も隊長の写真集を見て心の癒しを得ているので問題ありません!!」

「成る程。どうも最近になってお前達の元気が無駄に有り余っていると思っていたが、それが理由だったのだな。ハルフォーフ大尉、貴重な情報提供に感謝する。教官、明日から訓練はもっと厳しくして貰って構いません」

「承知した。任せておけ」

「「「「副隊長っ!!?」」」」

「し…しまったっ!? これがジャパンの諺の『口は災いの元』というやつかっ!?」

 

 珍しくクラリッサが正しい日本知識を披露した。

 明日は雪でも降るかもしれない。

 

「さて、話はここまでにして本題に入ろう」

 

 カスペンが両腕を後ろに回し、真剣な顔になる。

 それを見て他の隊員達も気を引き締め直し、同じ体勢になった。

 

「午後からの訓練は中止にして、この基地で組み上げられた新型IS…シュヴァルツェア・シリーズの三番機の起動実験及び主武装の試射を行う。行う場所はこの基地から少し離れた場所にある外部実験場だ」

「た…隊長。少しよろしいですか?」

「なんだ? ハルフォーフ大尉」

 

 先程までとは違い、困惑の色を見せながらクラリッサが手を挙げた。

 

「シュバルツェア・シリーズに三番目の機体があるとは聞かされておりません。私の記憶が正しければ、隊長の機体である一番機の『シュヴァルツェア・レーゲン』と、私の機体である二番機の『シュヴァルツェア・ツヴァイク』の二機だけだった筈では?」

「貴官の記憶は正しいよ。三番機はごく最近になって生み出された代物だからな。皆が知らないのも無理はない。存在自体が完成するまで極秘事項で、知っている者は私を除けば、カーティス司令を含む上層部の一部の人間しか知らない。それをここで話すという事は……」

「秘密にしておく必要が無くなった。つまり、存在を公にする…という事ですね?」

「その通りだ。完成に伴って正式に登録され、名実共にシュヴァルツェア・シリーズの三番機となった。因みに、ここまで早く完成出来たのは、一番機と二番機の予備パーツを流用し、その上で『とある人物』の協力があったからだ」

 

 『とある人物』と聞いて、千冬の脳裏には一瞬だけ『アイツ』の事が思い浮かんだが、彼女が見知らぬ人間達に手を貸すとは思えなかったため、すぐに可能性を排除した。

 

「隊長。その『三番機』のパイロットは誰がするのですか? 矢張り隊長が?」

「いや。パイロットならば軍と私の方からの要望で既に手配している。この世で最も相応しい人間をな。諸君にも今から紹介しよう。大尉、来てくれ!」

「やっとかよ。このままずっと待たされ続けると思っちまったぜ」

 

 格納庫から歩いてきたのは、ハーゼ隊の隊員達が持っているISスーツと同じ物を着ている、自分達と同じように眼帯を付けいる一人の少女だった。

 そのままカスペン達の隣に並ぶように立ち、目の前にいる隊員達を眺めた。

 

「ふ~ん…悪くない面構えじゃねぇか」

「お前は……」

「ども。昨日振りっすね」

 

 千冬に簡単な挨拶をしてから、カスペンが彼女に目配せをする。

 彼女は一歩だけ前に出て、ニヒルな笑みを浮かべながら腰に手を当てた。

 

「彼女こそがシュヴァルツェア・シリーズ三番機である【シュヴァルツェア・ヨルムンガンド】の専属パイロットである『アレクサンドロ・ヘンメ』大尉だ」

「アレクサンドロ・ヘンメだ。階級に関しては渾名みたいなもんだと思ってくれ。今のオレは軍人じゃないからな。呼ぶなら『砲術長』の方が好きだ」

「むぅ……私は『大尉』の方がいいのだがな……」

 

 幼児のようにふて腐るカスペンの可愛さに心の中で悶絶しながらも、ラウラ以外の全員がアレクのある部分に注目していた。

 

(((((デ…デカい……)))))

 

 彼女達から見ても、アレクのスタイルは一線を画しているようだ。

 というか、アレクの体つきはどう考えても13歳じゃない。

 誰もが最初は彼女の事を大学生ぐらいに見るだろう。

 

「ま、これから暫くの間、ここに通う事になるかもだから、よろしく頼むわ」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 時間が過ぎるのは早く、あっという間に午後になった。

 専用の車両に乗って実験場まで行き、カスペン達は遠く離れた場所で待機をしつつ、実験場の真ん中に立っているアレクの事を見ていて、傍には観測用に機器がズラリと並んでいる。

 千冬も皆と一緒にいて、その様子を静かに伺っていた。

 

「まさか、あの彼女がISを操縦するとはな……」

「意外ですか?」

「まぁ…な。因みに、ヘンメ大尉のIS適性はどれぐらいなんだ?」

「前に調べたところ、『A+』という結果が出ました」

「それは…大佐と同じ……」

「えぇ。限りなく『S』に近い値です。彼女が採用された理由はそれだけじゃないのですけどね」

 

 そうして二人が話している傍で、、ラウラが複雑な顔をして立っていた。

 

「どうしたボーデヴィッヒ少尉。具合でも悪いのか?」

「い…いえ、体調ならば万全であります」

「……ヘンメ大尉の事か?」

「は…はい」

 

 カスペンに呆気なくバレて、少し恥ずかしそうになる。

 矢張り、この人だけには隠し事は出来ないと。

 

「『餅は餅屋』という諺を知っているか?」

「いえ……」

「古い知己から教えて貰った日本の諺なのだが、『物事は何でも専門家に任せた方が確実』という意味らしい」

「専門家?」

「そうだ。他の機体ならばともかく、あのIS…『シュヴァルツェア・ヨルムンガンド』に関しては、ヘンメ大尉以上に適役はいないし、思いつかない。司令達も私と同じ意見に至ったのがその証拠だ」

「それ程…なのですか……」

「少尉も、実際に機体を見ればわかるよ。他の皆もな」

 

 ラウラに静かに笑いかけてから、カスペンはプライベートチャンネルを使ってアレクに通信を送った。

 

「こちらの準備はいいぞ! 大尉、君の好きなタイミングで始めてくれ!」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「専用機となるISには『待機形態』ってのがあるってのは聞いてたが…まさか、お前の待機形態がヘビのペンダントとはねぇ……」

 

 元来『ヨルムンガンド』とは、北欧神話に登場する巨大な蛇を模した魔物である『ミドガルズオルム』の別名である。

 よく絵画などでは『自分の尾を噛んで輪となっている姿』で表現されていて、アレクの専用機となったヨルムンガンドの待機形態もその例に漏れず『自分の尾を噛んで輪となっている蛇』の形を模したペンダントとなっている。

 

「これじゃあ、ヨルムンガンドってよりは『ウロボロス』の方が正しいような気がするぜ」

『こちらの準備はいいぞ! 大尉、君の好きなタイミングで始めてくれ!』

「おっと。カスペンからの合図か。了解だ! これより、シュヴァルツェア・ヨルムンガンドの起動実験及び、主砲『ヨルムンガンド』の発射実験を開始する!」

 

 自分の胸の谷間にスッポリとはまっているペンダントを軽く握りしめ、目を閉じて精神を集中させる。

 

「さぁ……やろうぜ。相棒」

(任せておけ)

 

 誰かの声が聞こえたと思った瞬間、アレクの体が光り輝き、刹那の煌めきの間に全身に渡って装甲が装着されていく。

 それは、どこまでも只管に『大砲を撃つ』事だけに極限特化した機体。

 ただ、その為だけに存在する機体。

 

「展開完了…ってか?」

 

 光が消えると、そこにはヨルムンガンドを装着したアレクの姿があった。

 だが、主砲にして唯一の武装である『超高出力試作決戦砲』は三分割された状態で背部に折り畳まれていた。

 

「確かに、オリジナルのヨルムンガンドは複数ブロックに分割した状態で運んで、現地で組み上げて、最後に砲座を連結する形で使用可能になるけどよ……まさか、ISになっても同じように分割できるって誰が想像するよ」

 

 この分割機能は、偏にいざという時の緊急離脱と、砲身が損傷した時に部分パージが可能になるようにした上で、単純に少しでも運び易くする為に存在している。

 

「本体の方は……うん。問題無いな」

 

 装甲に包まれた手を何回か動かして具合を確かめる。

 投影型コンソールを表示し、機体の最終チェックを始めた。

 

「プラズマ手刀……よし。アシストインクジェーター…よし。冷却材…よし。チェーンアンカー…よし。スパイクアンカー…よし」

 

 各種チェックが凄まじい速度で完了していく。

 その視線は目まぐるしく動き、十数秒後には全ての作業は終わっていた。

 

「主砲……問題無し。ふぅ……」

 

 最後のチェックが終わると、大きく息を吐く。

 

「じゃあ……始めるか。ヨルムンガンド、起動開始」

 

 アレクの呟きと共に、背部に回っていたヨルムンガンドが動きだし、右肩部まで移動しながらドッキングをし、本体の数倍の巨体を誇る主砲となった。

 

『大尉。その左側にあるのは……』

「分かってるよ。コイツに初めて触れた時に、全てのデータを教えて貰ったからな」

『……そうか』

 

 左肩部にある巨大なカメラセンサーからバイザーが出てきて、顔面まで近づいてきた。

 

「このデカいのが丸々、超高感度ハイパーセンサーだとはな。ま、このじゃじゃ馬を使いこなすには、これぐらいの代物でもないと難しいものな。そんじゃ、久々に『コイツ』の出番だな」

 

 徐に左目に着けている眼帯を取ると、そこから現れたのは肉眼ではなくて、完全無機物のロボットのようなカメラアイだった。

 複数のレンズから構成されていて、アレクの意志で自由自在に動かすことが出来る。

 

「よしよし、ちゃんと動くぞ…っと。なら、この『アイセンサー』にバイザーを装着して……っと」

 

 両目を覆うようにバイザーを着けて、各種センサーがちゃんと稼働していることを確認する。

 

「おーおー。こいつはスゲーや。あの頃は他の連中に各種確認や観測なんかをして貰って初めて発射出来てたのに、今は一人で全ての準備と観測が出来るようになるとは。ISってのは本当に便利なもんだな」

 

 アイセンサーを通じて脳内に直接、観測データが送信されてくる。

 こんな事が出来る時点で、彼女の体が『普通ではない』事は一目瞭然だ。

 ほぼ間違いなく、眼だけではなく脳の方も何らかの施術がされている。

 

「ヨルムンガンド、発射準備開始」

 

 砲身の装甲の一部が展開し、その奥にある発射トリガーに合わせて腕部装甲をすべり込ませ、トリガーに指が添えられたことが確認されたことで装甲が閉じ、右腕部と砲身が完全に一体化となる。

 同時に、サブグリップが出てきて、それを左手でしっかりと握りしめる。

 その際に豊満な胸が潰されて、見事な谷間が形成されたのはご愛嬌。

 

「しっかし、おまえさんも贅沢な機体だよな。ただでさえ超激レアなISコアを二基も搭載してるだけじゃなく、あの『PIC』すらも本体と砲身の両方に取り付けてるんだからな」

 

 PIC。正式名称『パッシブ・イナーシャル・キャンセラー』

 様々な慣性を制御する装置で、ISはこれを搭載することで空中浮遊などが可能となっているのだ。

 カスペンの機体には、この技術を応用した特殊な防御装置が搭載されている。

 

「本体の方のPICは通常通り、空中浮遊などの機能の為に。そして、砲身の方に搭載されているPICは姿勢制御の為だけに全ての機能を割り振っている。逆を言えば、それだけしないとまともに撃つことも出来ないって事なんだよな。つくづく、オレの相棒はとんでもねぇよ」

 

 バイザー内に送られてくる映像を確認すると、遠くの方に戦車らしき影が見えた。

 あれが今回の試射のターゲットなのだろうか。

 

「おいカスペン」

『なんだ?』

「目標はアレでいいのか? なんか戦車っぽいんだけど……」

『戦車であってるぞ? より詳細に説明すると、廃棄予定の戦車になるがな』

「ちょ…いいのかよ? 普通はそーゆーのって修理とかするんじゃ……」

『修理不可能なレベルなんだよ。それならばいっそのこと、木端微塵にしてから、その廃材を別の物に使った方が建設的だと思わないか?』

「戦車をリサイクルしようって考えるのは、世界中探してもお前ぐらいだよ」

『そうだろうか?』

「普通に断言出来るわ」

 

 話しながらも、ちゃんと観測は続けていて、徐々に発射準備は整っていく。

 

『それと、これも話しておく。今のヨルムンガンドは連射とまでは流石にいかないが、オリジナルよりは遥かに次弾発射までの時間が短くなっている。そちらの技量次第では、もしかしたら連射に近い事が出来るやもしれんが』

「そこは、こっちの腕の見せ所だな」

『私達に見せてくれ。君の…大砲屋の生き様ってやつを』

「任せときな。んじゃ、そろそろマジで通信切るぜ。集中したいからな」

『了解だ。健闘を祈る』

 

 プライベート・チャンネルが切れ、アレクが本気の集中モードに入る。

 緊迫した空気が流れ、風が吹き彼女の髪を揺らす。

 

「…これより、第一射を開始する! 冷却材準備よし! アシストインジェクター最大稼働! 全ハッチ…クローズ!! 全アンカー射出! ISコア…最大励起!」

 

 砲身全体に紫電が走り、開いていたハッチが全て閉じていき、腰部のチェーンアンカーが地面に向かって伸びて固定されると同時に、脚部のスパイクアンカーも伸びて地面に刺さる。

 先端部に全てのエネルギーが収束し、周囲の空気を震わせる。

 

「エネルギー充填…70…80…90……」

 

 ゴクリと唾を飲む。

 汗が頬を伝い、地面に落ちた。

 

「発射体制完了!! 初弾装填!!」

 

 ガコン!

 そんな音と共に連結されている巨大な弾倉が砲身内へと入った。

 全力でサブトリガーを握りしめ、全身に力を込める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨルムンガンド………………発射っ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凄まじい咆哮を轟かせながら、超絶的な威力のプラズマビームが発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でやっと、溜めていたストックが切れます。

それ以降は前のように他の作品を更新しながらののんびりとした感じで進んでいくと思います。

緊急事態宣言……やっと解除されましたね。

まだまだ油断は禁物ですけど。
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