インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
彼女達はどんな反応をするのでしょうか?
ヨルムンガンドから発射された超高出力のプラズマビームは、地球の磁場の影響を受けながらも真っ直ぐに廃棄決定の戦車へと向かっていく。
今回の目標は全く動かないため、撃つ側がヘマをしない限りは射撃が外れる事は無い。
そして、超一流の大砲屋であるアレクが、こんな事で自分の放った一撃を外すなど有り得なかった。
「く…うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
発射の衝撃に歯を食い縛って耐えながらも、その目はしっかりと目標だけを見据えていた。
紫電を迸らせた一筋の閃光が彼方に消え……。
「よし……!」
数瞬の後、見事に目標に命中し、巨大な爆発を起こして文字通り戦車は木端微塵に消し飛んだ。
戦車の燃料が抜いてあったとはいえ、その爆発はかなりの規模で、十数メートル離れているアレクの足元にまで戦車の破片が飛んできた程。
「まずは上々……! 冷却装置稼働開始! 次弾装填! 砲身の冷却が完了し次第、すぐに次の目標へ向かっての射撃を開始する!!」
先程の目標から右に20メートルぐらい先に、全く同じ型の別の戦車があった。
アンカーを一旦外して再度突き刺しながら、それにスコープを合わせ、念の為に熱源と生体反応の確認を行う。
「どっちも反応なし…か」
最初から分かっている事ではあったが、それでも念には念を入れる。
軍人時代の癖が未だに体に染みついている証拠だった。
「冷却完了! マジかっ!? もう砲身の冷却が終わりとか、昔じゃ絶対に考えられねぇな!」
別の世界で強大に進化したヨルムンガンドの性能に驚きつつも、その顔はどこまでも嬉しそう。
自分の大切な相棒が生まれ変わって帰って来たのだから、アレクが歓喜するのは当然の事だった。
「エネルギー急速収束! ターゲット…ロックオン! 目標までの相対距離算出! アシストインクジェーター再稼働!」
再び、ヨルムンガンドにエネルギーが集まっていく。
数秒でそれは巨大な光の球体となり、最大まで凝縮された。
「
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
ヨルムンガンドの咆哮は、カスペン達がいる即席の観測所まで轟いてきた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「なにあれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「明らかにオーバーキルでしょぉぉぉぉぉぉっ!?」
隊員達は始めて見るであろう、プラズマビームの威力と迫力に圧倒され、誰もが悲鳴を上げていた。
それはラウラも同様で、流石に悲鳴は上げてないが、その凄まじさに目を奪われていた。
「あんな大砲を…ああも自由自在に操れるなんて……凄い……!」
自分とは一歳ぐらいしか歳が違わない少女が、自分では絶対に出来ない事を平然とやってのける。
普通ならば嫉妬の一つでもしそうなものだが、何処までも軍人気質なラウラは、アレクの技量とヨルムンガンドの威力に純粋に感銘を受けていた。
「あれが…あの少女の…実力なのか……!」
あれ程までに長大な砲身を、まるで自分の手足のように扱って、見事に目標に命中させる。
幾ら、相手がスクラップ同然の動かない戦車だとしても、ビームを当てること自体が千冬にとっては普通に凄かった。
同じことを自分がやれと言われても絶対に不可能だ。
あの速度で目標までの距離や磁場の影響などを計算し、同時に砲身全体の状況を見ながら全ての神経を射撃する事だけに集中させる。
本人は自覚していないかもしれないが、それは紛れも無く世界中でも一握りの超人だけが身に付けているスキルだった。
「
まだ年端もいかない歳でここまでの実力を発揮しているのだ。
これから先、もっと成長していけば、間違いなく世界で五本の指に入るほどの実力者になる事は確実だ。
二度も世界の頂点に君臨した千冬が確信したのだから、ほぼ間違いだろう。
本人がそれを望むか望まないかは別問題だが。
『もう一丁っ!!』
今度は左側に置いてある戦車に砲身を向ける。
さっきと同じように、アンカーの位置を変えつつ標準を合わせるアレク。
三度目という事で慣れてきたのか、今度のは一度目や二度目よりも更に早くビームを発射した。
「本領発揮…いや、ブランクを取り戻してきた…と言ったところかな?」
全く衰えていない同胞の実力に嬉しさを隠しきれないカスペンは、映像越しに彼女の事を見ながら満面の笑みを浮かべていた。
『全目標撃破完了! どうだっ!!』
「最高だ! データの方も申し分ない! お見事だよ砲術長!!」
『あったりまえだぜ! こと大砲に関して、このオレ様に不可能な事なんてありはしねぇんだからな!』
「全くもってその通りだ! いつでも戻ってきていいぞ!」
『了解だ!』
完全に呆然として立ち尽くしている全員の前で、カスペンは嬉しさの余り、その場でピョンピョンと飛び跳ねた。
「やったやったやった! 大成功だ! これなら小五月蠅い上の連中だって何も言えないだろう!」
完全にやっていることが幼女になっているカスペンを見ている一人の人物がいた。
鼻から真っ赤な『愛』を流しながら眩しい笑顔でサムズアップを決めている彼女は、ヨルムンガンドの迫力など遥か彼方へと吹き飛んでいる。
(隊長……その可愛らしいお姿…私はバッチリと脳内保存しましたからね!)
どんな状況でも、やっぱりクラリッサはクラリッサなのだった。
・・・・・
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・
「よっ! どうだったよ? オレ様の雄姿はよ!」
「パーフェクトだ。よくやってくれた」
ヨルムンガンドの砲身を折り畳んでから、カスペン達の元までISで戻ってきたアレクは、すぐに機体を収納して待機形態へと戻してから感想を聞いた。
バイザーは外してあり、その左目には眼帯が付いていた。
「あの…ヘンメ大尉」
「なんだ? えっと…ラウラだっけか?」
「お…覚えてらしたのですかっ!?」
「当たり前だ。お前と会うのはこれが最初じゃないんだぞ? それに、カスペンの部下ならオレにとってはダチ公も同然だ。名前ぐらい覚えるッつーの」
本当は少し危なかったが、それでも言った言葉は紛れもない本心である。
軍という場所は良くも悪くもチームワークが最も重要視される。
そのチームワークを最も育むのは、実戦よりも普段のコミュニケーションだ。
そして、仲良くなる最初の一歩こそが、相手の名前を覚える事である…と、アレクは思っている。
「それでなんだ?」
「大尉は…どこであれ程の実力を身に付けたのですか?」
「んなもん、才能と努力に決まってるだろうが」
「才能と…努力……」
「おう。オレには大砲屋としての才能があって、オレ自身も大砲屋としての誇りがあった。でも、それだけで全てが上手く回るほど世の中は甘くない。だから、必死に努力した。自分が必要だと思ったことは全部勉強したし、どんな目標にだって百発百中出来るように研鑽を重ねた。それだけさ」
それだけ、なんて簡単に言ってはいるが、それがどれだけ大変な事なのかはカスペンや千冬はよく分っていた。
特にカスペンは、前世からアレクの努力している姿を見ているので、この場にいる誰よりも彼女の事を理解しているとも言えた。
「自分の才能に胡坐を掻くことなく、力を磨き続けた結果…か」
千冬は初めて、アレクサンドロ・ヘンメという少女に好感を得た。
彼女も一人のIS操縦者であり武人。
幼い頃から自分を鍛え続けている相手には自然と共感してしまうのだろう。
「私からもいいか?」
「なんだい? 織斑教官殿」
「これは聞くべきか迷ったのだが、どうしても気になってな。君の……」
「この目の事かい?」
「よ…よく分ったな……」
「オレの素顔を見た奴は大半が同じことを聞くからな。なんとなく分かるようになった」
「そ…そうか……」
千冬に見せるように、再び眼帯を取ってから機械の目を見せる。
「オレのこの左目は、生まれた時から無かったそうだ」
「生まれた時から……?」
「あぁ。医者が言うには、先天性欠損症の一種らしいぜ。詳しい事は分からねぇけど」
本当に説明に慣れてしまっているのか、まるで何も気にしていないかのように話すアレク。
その姿が、却って聞いている者達の心を締め付ける。
「多分、お袋の体が弱かったのが原因じゃないかって」
「大尉の母親は……」
「死んじまった。オレを生んだ直後にな」
「……済まない」
「気にすんなって。こんな話、どこにでも転がってるだろ」
アレクがこっちの事を気に掛けているのが丸分りな態度。
彼女が本当は他者の事を思いやれる優しい少女であるのを全員が理解した。
「で、このままじゃ不憫だからつって、オレが物心ついたころに親父が昔の伝手を使ってオレの目に機械の義眼を埋め込む手術を出来るように手配した」
「怖くは…なかったのか?」
「そりゃな。自分の体ん中に機械を埋め込むわけだし? 怖くなかったと言えば嘘になるわな。でもよ……」
「でも?」
「……普段は絶対に見せない父さんの今にも泣きそうな顔を見ちまったら、怖いなんて言えないだろ……」
優しさだけではない。
この少女は、家族の為ならばどんな恐怖にだって立ち向かえる『勇気』を持っている。
その『勇気』はどこか、千冬もよく知っている三人の少女達を不思議と彷彿とさせた。
「それで、過酷な手術を経て今に至るって訳だ。最初は違和感しか感じなかったけどよ、慣れればコレはコレでかなり重宝はしてるよ。細かい作業がかなりし易くなったしな。少なくとも、コイツのお蔭でこれから先、眼鏡に頼るような事だけはなりそうにないしな」
「強いんだな」
「無駄にポジティブなだけさ」
二人の会話を聞きながら、周りの隊員達はハンカチ片手に号泣していた。
特にラウラは酷く、自分の境遇とアレクの事を重ねてしまったのか、鼻水まで垂れ流していた。
「ボーデヴィッヒ少尉。鼻水が出ているぞ」
「しゅ…しゅみましぇん……」
「ほら。ちーん」
「チーン……」
ポケットティッシュを一枚出してから、ラウラの鼻をかんでやるカスペン。
完全に姉妹のようにしか見えない光景だった。
「少し長くなってしまったが、今日はこれにて解散とする。後でお前達にはレポートを提出して貰うぞ」
「「「「「レポートォッ!?」」」」」
「そうだ。目の前で『本物のプロ』の仕事を見てどう感じたのか、諸君らの素直な感想が見たいのでな」
ある意味、お約束のような展開。
彼女達にはご愁傷さまと言っておこう。
「大尉にはもう少し付き合って貰うぞ。稼働データの抽出や、各種点検などをしないといけないからな」
「了解だ。点検はオレも手伝わせて貰うぜ。なんせ、こいつはもう『オレの専用機』なんだからな」
「助かる」
こうして、新生ヨルムンガンドの初仕事は幕を閉じたのだった。
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基地内 司令室
基地司令であるウォルター・カーティスが投影型モニターでヨルムンガンドの試射の様子を眺めていた。
「お前の娘は本当に凄いな……。あれは間違いなく『天才』の領域だ」
「当然だ。この俺の娘だぞ?」
司令室にはカーティスとは別にもう一人の男が存在していた。
アレクの実父であるベルナンド・ヘンメだ。
「大きくなったな……。あの手術からもう8年か……」
「ガキがデカくなるのは早いもんだ」
モニターの中では、隊員達とにこやかに話しているアレクの姿が。
普段は工場の人間達としか交流が無い彼女が、ああして外の人間達と交流している姿を見て、思わずベルナンドの涙腺が緩くなりかけた。
「泣いているのか?」
「バ…バッキャヤロー! こいつはアレだ! 目から汗が出てるんだよ!」
「いや…目から汗は出ないだろ……」
実に常識的なツッコミをするウォルター。
今はこれぐらいしか出来ないのが悲しい限りだ。
「…昔から、あいつがなんか勉強をしていたのは知ってたけどよ、まさか大砲に関する事だったとはな……」
「意外か?」
「いや。驚きはしたが、不思議としっくりとはきてるんだよな。分っちまうんだよ。あいつには…アレクはああしてることが自然なんだってな」
「ベルナンド……」
いつもは絵に描いたような頑固親父のベルナンドが、ここでは『父親の顔』をしている。
なんだかんだ言っても、何よりも娘の事を大切に想っている事には違いないのだ。
「今日、ここにお前を呼んだのは、彼女のこれからについて相談するつもりだった。その前段階として、まずはあの大砲『ヨルムンガンド』の試射の様子を見て貰ったのだが……」
「…あいつが大砲屋をやりたいってんなら、俺は何も言わねぇよ」
「自分でここに誘っていきながらなんだが……本当にいいのか?」
「いいっつってんだろ。……小さい頃から、あいつは外で同じ子供達と遊ぶこともせず、学校にも行こうとせずに只管に機械いじりばかりをやってきた。本当は色んな事をやらせてやりたかったが、あいつ自身が『少しでも父さんの事を手伝いたい』って言ってな。多分…あいつなりに必死に母親の分まで頑張ろうとしてたんだろうな……」
今までずっと娘の優しさに、気遣いに甘えてきたが、これも今日までだ。
アレクが本当にしたいことを見つけたのならば、父としてそれを最大限に尊重したいし、応援したい。
「もうそろそろ、アレクは自分の為だけに頑張っていい。我儘を言っていい」
「彼女は友人であるカスペン大佐の助けになるつもりのようだが?」
「それでもいいさ。大佐の嬢ちゃんは俺から見ても優しい子だし、頼りになる。娘の友人があの嬢ちゃんで本当に良かったと思っているよ」
「…そうだな。もしも、この場に大佐の父親である中将閣下も同じことを言っていただろう」
モニターを消して、改めて二人は机越しに向かい合った。
「では、君の娘が試作型ISのテストパイロットになる事は了承してくれるという事でいいかな?」
「おう。一応、家に帰ってからもアイツと話し合うさ」
「そうしてくれると助かる。軍からの正式な依頼とはいえ、父親であるお前の意志を無視するわけにはいかないからな」
「相変わらず、お前さんは律儀だねぇ……。そんなんでよく軍人なんてやっていけてるもんだ」
「自分で言うのもなんだが、私のような人間がストッパーになっているからこそ、軍部はこの程度で済んでいるんだろうさ」
「何気にとんでもない事を言ってるぞ、このオヤジ」
「オヤジなのはお互い様だろう」
この後、アレクとカスペンが一緒に司令室まで来て、ベルナンドが来ている事に本気でビックリするのだが、それはまた別のお話。
これで本当に今まで溜めていたストックが無くなりました…。
なんか、めっちゃかっ飛ばしたって感じがします。
明日からは別の作品たちを久々に更新しなくちゃ……。