インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
もうこれはお約束になりつつありますね。
「成る程、成る程~。この子達がスーちゃん達のお友達か~」
もう説明の必要もないだろう。
またもや、場面は束の移動式ラボに移る。
彼女がモニターで見ているのは、喫茶店で女子会を楽しんでいる四人組。
「こっちの赤い髪の子がモニクちゃんで、黒い髪の子がヒデトちゃんね」
「また見てるんですか?」
「まぁね」
もう完全にストーカーに近くなっている束の観察。
流石のクロエも半ば呆れながら、緑茶とお茶請けの饅頭(漉し餡)を持ってきた。
「こうしていると、カスペンさんもヘンメさんも、あんなにも凄い事を普通にやってのけるような人達には見えませんね」
「天才級の才能を持っていることを除けば、何処にでもいる普通の女の子だからね」
「その時点で十分に普通じゃない気もしますけど……」
束と一緒に暮らすようになってから随分と経つが、未だにクロエは天才の定義が分らない。
束独自の理論に耳を傾けていたら頭が混乱する。
「……ツンデレだね」
「ツンデレですね」
二人がモニクを見ての第一印象がこれである。
それ程に外れていないのが地味に凄い。
「もうさ、顔からしてツンデレな感じが出てるもんね」
「寧ろ、ツンデレこそ我が人生と言わんばかりの顔をしてますよね」
本人に聞こえていないから言いたい放題である。
「なんとなく箒ちゃんに似てる気がする」
「顔がですか?」
「雰囲気が。あくまで『なんとなく』だけど」
「そうですか……」
クロエはまだ箒に会ったことが無いので、そうとしか言いようが無かった。
「んで、こっちのヒデトちゃんはあれだね。ムードメーカーっていうか、場を盛り上げるタイプだね」
「でも、こんな人に限って、実は心の底は凄く計算高くて誰よりも優しい心を持っていたりするんですよね」
こっちもある意味で正解。
ワシヤはどんな時も明るく、仲間の死に涙を流せる人間だから。
「……よし!」
「何が『よし』なんですか。何が」
「スーちゃんやアーちゃんのお友達なら、やっぱし一度は会っておかないとダメでしょ!」
「いやいやいや。何を義務みたいに言ってるんですか。意味が分りませんから」
「モニクちゃんとヒデトちゃんだから……モーちゃんとヒーちゃんだね!」
「勝手に渾名を付けないでください。せめて本人達の許可ぐらいは取ってください。それと、モーちゃんってなんですか。牛ですか。少なくとも、年頃の女の子に付けるような渾名じゃないですよ」
「そうと決まれば善は急げだね! 早速、今日の夜にでも行ってみよう!」
「人の話は聞いてください。なんで夜なんですか。普通に明日の昼間とかでもいいじゃないですか」
「いや~! 今から楽しみだな~!」
「……………お好きにどうぞ」
今回の勝負 クロエの敗北。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その日の夜。キャデラック邸。
モニクの自室。
既に風呂に入って夕飯も済ませている彼女は、部屋のベッドの上で一人、カスペンから貰ったIS学園のパンフレットを眺めていた。
「いきなり、こんなものを渡されてもね……」
性別が変わってしまっているとはいえ、砲術長とまた会えたことは純粋に嬉しかったし、あの三人も同じように生まれかわっている事実を聞かされた時は柄にもなく泣きそうになってしまった。
モニクが彼女達と接していた時間はお世辞にも多いとは言い難いが、それでも確かな絆がそこにはあった。
同じ艦に乗って、同じ時代を共に生きた同志達。
二度と会えないと思っていた者達にまた会えた事を喜ばない人間がいない。
「IS学園…か」
前世とは違い、まだ転生してから12年しか経っていない彼女には、まだまだ先の話ではあるが、それでもモニクは迷っていた。
もう既に仲間達は専用機を受領し、日本にいる三人に至っては戦場にすら出ている。
自分達と同じ12歳であるにも拘らずだ。
「少佐達は、大切な人達を守る為ならば、迷わず戦場に赴けるのね……」
言葉に出さずとも分かっていた。
ソンネンも、デュバルも、最後は仲間達を守る為に一人で戦い散っていった。
だからこそ、その行動にも納得がいく。
「私は……」
自分だって、家族や仲間達を守る為ならば、躊躇することなく銃を握る覚悟がある。
その気持ちだけは誰にも負けるつもりはない。
「だけど……」
「だけど? どうしたのかな?」
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」
そっと呟いた瞬間、いきなり横から見知らぬ人物が顔を覗かせた。
余りにも突然過ぎて、思わず叫び声を上げてしまった。
「な…なんなのよ一体っ!? け…警察! 警察に通報しなくちゃ……」
「それだけは勘弁して~!」
「ちょ…返しなさい!!」
当然のように通報しようとしたモニクの手から携帯を奪い取ってから、急いで電源を切った。
一応、世界規模で指名手配扱いになっている以上、警察のお世話だけにはなるわけにはいかなかった。
「アナタな何なのよっ!? ここは私の家で、私の部屋よっ!? 分かってるのッ!? 不法侵入罪よ!!」
「ゴメン! いきなり来たのは謝るから、ちょっと落ち着いて! ね?」
「落ち着けですってっ!? どの口がそれを言うのよっ!?」
超ド正論である。
「うぐ……流石の束さんもグゥの音も出ない……」
「ったく……って、束さん?」
「そ! 私がISの生みの親である篠ノ之束で~す! ブイ!」
「…………は?」
もう意味が分らない。
なんで世界一の有名人が自分の部屋にいて、自分の携帯を握っているのか。
頭が混乱の坩堝になった時、部屋の扉を叩く音が聞こえた。
「姉さん? さっきからなんか聞こえるけど、どうかしたの?」
「エ…エルヴィンっ!? 何でもないわ! ちょっとクローゼットの角に足をぶつけちゃっただけよ!」
「そう? 気を付けてね。おやすみ」
「お…おやすみなさい、エルヴィン」
足音が遠くなっていく。
どうやら、無事に彼は部屋に戻ったようだ。
「今のは?」
「少し歳の離れた私の弟よ」
「ふ~ん……」
モニクと同様に、戦場で散った弟、エルヴィンもまた転生していた。
しかも、またもやモニクの弟として。
これを知った時は誰よりも歓喜した。
「それで? 噂の天才科学者様が私に何の御用なのかしら?」
「うわ~。昼間みたいに私にも優しくしてよ~、モーちゃん」
「誰がモーちゃんよ! 牛みたいな渾名を付けないで!」
「クーちゃんと同じことを言ってる……」
やっぱり、モーちゃんという渾名を聞くと、誰もが真っ先に牛を連装してしまうのか。
「私は可愛いと思うんだけどな~」
「それは間違いなく貴女だけよ……」
眉間に血管を浮き出しながら、怒りで体を震わせる。
束が正真正銘の犯罪者だったら、問答無用で怒りの鉄拳をお見舞いしているところだ。
「私がここに来た理由はね、モーちゃんとお話がしたかったからだよ」
「じゃあ、なんで夜に家に押しかけるのよ。明日の昼間とかでもよかったじゃない」
「一度でもこうと決めたら、すぐに迷わず一直線に突き進むのが私なんだよ」
「それに巻き込まれる方は溜まったもんじゃないわね」
「それ程でも~」
「褒めてない!」
ツッコミ疲れで息も絶え絶え。
何が悲しくて、見ず知らずの女性とコントをしないといけないのか。
「昼間見た時とは大違いだね。それとも、こっちの方が『素』なのかな?」
「み…見てたのっ!?」
「にゅっふっふっ~。束さんはな~んでも知ってるんだよ?」
「世間一般では、それをストーキングっていうのよ」
「そうとも言う」
「そうとしか言いません!」
またツッコまされた。
さっきからずっと、モニクはペースを崩されまくっている。
「それで? 何を悩んでいたのかな?」
「コレよ」
「あぁ~…」
モニクが見せたのは、IS学園のパンフレット。
これだけで、彼女の悩みがなんなのか一発で分かった。
「成る程ね。モーちゃんもこの事で悩んでたんだ」
「私もって……まさか?」
「アーちゃんも前に似たような事で悩んでたんだよ」
「それって…ヘンメ大尉の事よね? あの人も?」
「うん。だけど、今はもう戦う決意を固めてる。だからこそ、あの子は自らの意志で『ヨルムンガンド』を受け取った」
「そう……」
一度は去った戦場に再び舞い戻れと言われれば、誰だって迷って当たり前だ。
だが、それでもアレクは自身の相棒と共に戻る決意をした。
それは本当に凄い事だ。
「これからスーちゃん達が戦おうとしている相手は、想像以上に強大な相手なんだよ。その気になれば、本気で世界の転覆を出来るかもしれない程に」
「……大袈裟に言っている…って訳じゃなさそうね」
ついさっきまで飄々としていた束の顔がいきなり真剣になる。
それだけで、事態の重要性が嫌でも理解できると言うものだ。
「そんな相手に…ソンネン少佐達は戦ったのよね……」
「そうだよ。って、そこでソーちゃんの名前が真っ先に出るって事は、もしかして~……」
「な…なによ?」
ニヤニヤ顔で近づいてきて、耳元でボソッと一言。
「ソーちゃんの事が好きなの?」
「ち…違うわよ! そんなんじゃないったら!」
「ほんと~?」
「本当よ! 私にはもう好きな人がいるし! そんなんじゃないったら!」
「おぉ! なんか面白いことを聞いたかも!」
「し…しまった! 今のは忘れなさい!」
「それは無理かな~? これでも、記憶力には定評がある束さんですから」
「この女は~…!」
もう後先考えずにぶん殴ってしまおうか。
モニクの中の悪魔がそう囁いたような気がした。
「……尊敬してたのよ」
「ふぇ?」
「だ・か・ら! 尊敬してたの!」
「尊敬?」
「……あの人は超一流の戦車乗りで、誰からも尊敬されて憧れを抱かれてた。それは私も例外じゃなかった」
「ソーちゃんは、どこでも変わらないって事か……」
「その言い方、今でも?」
「流石に戦車はしてないけどね。でも、周りの色んな子に尊敬されて、頼られてる。かくいう私も、そんなあの子に頼ってしまっている一人なんだけどね……」
「博士……」
自分が情けなかった。自分が憎らしかった。
幾ら戦闘力が高いと言っても、妹の大切な友人たちに頼らざる負えない現状が嫌だった。
「ねぇ……」
「なに?」
「その…少佐達もカスペン大佐にIS学園に誘われてるの?」
「うん。あの三人はもうとっくに学園に行くことを決めてるみたい」
「守る為に?」
「そうだよ。正直、私も驚くぐらいにすんなりと戦う事を受け入れていた感じがする」
「きっと…心のどこかで、いつの日か自分達が戦場に戻る日の事を想像していたのかもしれないわね……」
膝を抱えて顔を埋めるモニク。
束からは、その表情は伺えない。
「どいつもこいつも……私達を置いて先に行ってしまう……」
多くの戦場で別れを経験した。
彼女達は自分達を命懸けで守ってくれて、その結果として己達だけが生き残った。
必死に戦い、必死に生きた。
それが、彼女達に救われた自分達の義務だと思ったから。
「そもそも、どうして大佐は私達をIS学園に誘おうとしてるのかしら……」
「それはきっと、あそこなら軍以上に協力な手札が集まり易いからじゃないかな」
「手札?」
「あそこには世界各国から代表候補生達が入学してくることがあるし、場合によっては国家代表が来る可能性がある。それらを通じて彼女達の国に話を着ければ……」
「容易に連合軍が作れる……」
「スーちゃんは間違いなく、IS学園を中心にして『亡霊』達の排除を考えてる。だからこそ、君達のような『頼れる仲間』を学園に引き入れようとしてるんだよ」
「頼れる仲間…か」
よくよく考えれば、自分は醜態しか晒してなかったような気がする。
そんな自分でも頼って貰えるのか? 戦力としてカウントされているのか?
「アーちゃんにも言った事を君にも言ってあげる」
「何よ」
「自分の心に嘘だけはつかないで」
「自分の心に嘘を…ね」
「大義名分とかどうでもいいから、今の自分の気持ちに正直になった方がいいよ。やらない後悔よりもやる後悔、だよ」
自分の今の気持ち。
弟を守りたい。家族を守りたい。
けど、それ以上に……。
「…もう二度と、あの人達の背中を見るのは御免なのよ」
「モーちゃん?」
いつも見ているだけだった。何もしてやれなかった。
けど、今度は違う。一緒の戦場に立てる。一緒に戦える。
今の自分はもう、口だけが達者で生意気な小娘じゃない。
あの独立戦争を生き延びた人間なのだ。
「……行くわ」
「え?」
「まだまだ先の話だけど、私…IS学園に行く。今度こそ…あの人達の背中を守ってみせる」
あの頃の自分達の戦いは、生きるための戦いだった。
今度も同じだ。自分が生きる為に。家族と一緒に生きる為に。
大切な『あの人達』を今度こそ生かす為に。
自らの意志で銃を握るのだ。
「……どうやら、大丈夫そうだね」
「ふん。不法侵入者に気遣われるような軟な精神はしてないの」
「ツンツンだね~。でも、そんなモーちゃんをデレさせる方法を、束さんは知っているのだよ!」
「なんですって?」
なんだか嫌な予感がする。
だけど、束の勢いは止まりそうにない。
「そうだな~…近いうちにスーちゃんが勤めている基地に行ってみなよ。そこに、君を待っている子がいるから」
「私を待っている? それは一体……ってっ!?」
話の途中なのに、束は部屋の窓から飛び出す寸前の体勢になっていた。
不審者丸出しである。
「ちょ…どこに行く気なのよっ!?」
「いやね。今度はヒーちゃんの所に行こうかな~っと」
「ヒーちゃんって…もしかしてワシヤ中尉っ!?」
「それじゃあ、おやすみ~!」
「ま…待ちなさい!!」
制止する声も聞かずに、束は夜の街に消えていった。
「なんなのよ……いきなりやって来て、言いたい放題言ってくれちゃって……」
文句たらたらだが、それでも束の言葉に後押しされたのもまた事実だ。
そう思うと、なんともやりきれない気持ちになる。
「……お礼ぐらい言わせなさいよね……バカ」
モニク、遂にデレる。
「けど、彼女はどうやって私の家の場所を知ったのかしら?」
それは聞かないお約束。
聞いたら聞いたで後悔することは確実だから。
「今度会う時は、もうちょっと真面な出会いだといいんだけど……」
まずはモニクから。
ってことは、次回は束とワシヤが絡む回ですね。
本当は一話で二人一気にやろうと思ってたんですが、途中で変更しました。
その方が面白そうだったし。