インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
ダンボール戦記の事は全く知らないのですが、それでも十分に楽しめています。
割と素で夢中になりそうです。
束がキャデラック家から去って約一時間後。
ワシヤ家にあるヒデトの自室では、部屋の主がベッドの上でタブレット片手に動画を見ていた。
「やっぱ、猫って可愛くて癒されるよな~♡ もう、見てるだけで心が洗浄されていくっていうか……」
普段は見せない…いや、もしかしたら見せているかもしれないにやけ顔を晒しながら、ヒデトの猫に関する独り言は続いていく。
「あぁ……このしっぽ…モフモフしたい……。出来れば、このお腹に顔を埋めたい……」
「そうだよね~。分かるよ~…猫ちゃんは本当に可愛いよね~」
「でしょ? 最近は動物アレルギーで猫嫌いになってる人もいるみたいだけど、こうして画面越しに見るだけなら何の問題も無いんだから、嫌いになるのだけは止めてほしいんだよな~」
「うんうん。全くだよね。本当に可愛いものから眼を背けて、その本質を見ようとしないなんて愚の骨頂だもんね!」
「その通り!」
……いつの間にか独り言に束が加わっている事に全く気が付かないまま、ヒデトは猫の動画で一人、興奮していた。
動画が終わり、其処で顔を上げて一息つく。
そこで横を見て、ようやく束の存在に気が付いた。
「……………誰?」
「いやいやいや! さっきまで楽しくお話ししてたよねっ!? 全く気が付いてなかったのっ!?」
「うん」
「じゃあ、なんで普通に返答してたわけ?」
「いや、遂にオレにも霊感的なものが覚醒したのかな~っと」
「私は幽霊じゃないんですけどっ!?」
「いや、流石にそれは分かるけど」
こんな幽霊がいたら、霊媒師の人が可哀想過ぎる。
普通に面白半分で誰かに憑りつきそうだ。
「っていうか、私がこの部屋にいる事に全く驚かないんだね。なんで?」
「少し前に知り合いから『もうすぐ、そっちに無駄に騒がしい不法侵入者が来るかもしれないから気を付けて』ってメールが来たんだよ」
「モーちゃんっ!? 出来ればもう少しオブラートに包んだ表現にして欲しかったんですけどッ!?」
これでも十分過ぎるほどにオブラートに包んでいると思うのだが。
「その『モーちゃん』って、もしかしてキャディラック特務大尉の事?」
「そうだよ。モニクだからモーちゃん。可愛くない?」
「可愛い、可愛くないはともかく…なんか面白い! よし! 今度オレもあの人の事を『モーちゃん』って呼んでみよう!」
「いいねいいね! やれやれ~!」
「あ…でも、もし呼んだら呼んだで、次の瞬間に正拳突きとかされそう……」
「正拳突きとなっ!?」
「そうなんだよ。あの人、護身用とかつって、数年前から空手を習ってるんだ。かなり筋がいいみたいで、今じゃ確実に体格が上の大人の男相手でも普通に投げ飛ばしたりとか普通に出来ちゃうんだよ」
「怖っ!? 私…もしかしなくてもピンチだった?」
「もしかしなくても…だよ。あの人の部屋に侵入するって、ホワイトハウスに裸で乗り込んでリンボーダンスをするぐらいに無謀な事だと思うぞ?」
「例えが変すぎるっ!」
完全にノリが一緒…というか、波長が合いすぎている。
篠ノ之束。遂に別の意味での同類に出会う。
「そんで、アンタの名前ってなんすか?」
「今更それを聞くのッ!? 遅くないっ!?」
「大丈夫。誰も気にしないし、ここにいるのはオレとアンタだけだから」
「そうだよね! うん! 気にしない気にしない!」
少しは気にしろ。
「私の名前は篠ノ之束! あのISを開発した天才科学者だよ!」
「おぉ~! そういや、なんかアンタの顔ってニュースとかで見たことがあるような気がする!」
「でしょでしょ?」
「あ。サイン貰ってもいいっすか?」
「いいよ~! 何に書く?」
「んじゃ、この愛用のタブレットにお願いするっす」
「よっしゃ! サラサラサラ~ってね!」
どこから出したのか、黒いマジックペンでタブレットの裏側にかなり上手なサインを書いた。
「スゲー……。めっちゃ上手っすね!」
「実は、こんな事もあろうかと、密かにサインの練習をしていたりして」
「さっすが大天才の篠ノ之博士! そこに痺れる! 憧れるぅ~!」
「君のタブレットに最初にサインをしたのはそこら辺の芸能人なんかじゃない! それはこの束さんだぁ~!」
「ヒャッホォ~!!」
遂にはネタまでブッこんできた。
お前らはもうコンビでも組んでM-1にでも出場しろ。
2回戦ぐらいまでは行けるかもしれない。
「そういや、キャデラック特務大尉が『モーちゃん』なら、オレは何になるんですかね?」
「君は…ヒーちゃんだよ!」
「ヒーちゃん……それ良いっすね! 気に入ったっす!」
「ホント!?」
「もち! よし、今度から皆にはオレの事を『ヒーちゃん』って呼ばせよう!」
「それがいいよ!」
一体どこまで突っ走れば気が済むのだろうか。
いい加減にブレーキを掛けて欲しい。
「んで、どうしてその天才科学者さんがオレん所に来たんだ?」
「純粋に君とお話がしたかっただけだよ」
「マジっすか! たったそれだけの為にここまで来るなんて…パネーっすわ…」
「そうかな?」
「そうっすよ! あ、カップケーキ食べます? なんか小腹空いたんで」
「食べる~! いたっだっきま~す!」
こいつらは少しでも話の流れを守ろうとする意志は無いのだろうか。
マイペース過ぎて独特の空気になりつつある。
「お? これ美味しい?」
「喜んで貰えてよかったですよ」
「もしかして、これってヒーちゃんの手作りだったり?」
「正解! いや~、暇潰しに作ってたら、いつの間にか趣味になってて。そんな訳で、無事に正解した篠ノ之選手は豪華ハワイ旅行の旅に自腹で行ってきてくださ~い!」
「わ~い!」
この二人について深く考えるのは止めた方がいいかもしれない。
「もぐもぐ……ヒーちゃんはさ、IS学園に行きたいって思ってる?」
「IS学園?」
「そう。昼間にさ、スーちゃんからパンフレットを受け取ってたでしょ?」
「スーちゃんって…カスペン大佐? あの人、そんな風に呼ばれてたんだ」
「名付け親は私です」
「だと思った。スーちゃん大佐って呼んだら怒るかな?」
「怒るってよりは恥ずかしがりそうだけど」
「確かに。でも……」
「「それはそれで大いにあり!」」
お願いだから、話を元に戻してくれ。
「オレ自身は別に行ってもいいかな~って思ってるけど。なんか普通に面白そうだし? ISに興味が無いわけじゃないし」
「そうなんだ」
「だって、元々はISって宇宙空間での活動を目的として開発されてんでしょ? いいじゃないっすか、宇宙。まさに人類のマロンっしょ」
「それを言うなら『ロマン』だよ」
「そうとも言う」
「そうとしか言わないって」
「「ハッハッハッ!」」
こいつらは脱線をしながらじゃないと、まともに会話も出来ないのだろうか。
だとしたら、彼女達と会話をしたら、それだけで日が暮れそうだ。
今は夜だから、実際には朝日が昇りそうだが。
「ま、実際にはそれだけじゃないんだけど」
「と言うと?」
「……少佐達にはデカすぎる恩があるからな。絶対に返せないと思っていた借りを返せるチャンスがあるなら、オレはどこにだってすっ飛んでいくよ」
ここでようやくそれらしい雰囲気になった。
我等はそれを待っていた。
「ソンネン少佐は、オレの大切な友人と上官を命懸けで守ってくれた」
実際に交流があったわけじゃない。
それでも、仲間を守って散った事を知った時は、心から敬意の念を抱いた。
「デュバル少佐は、それまでずっと落第生の烙印を押され続けてたオレの事を初めて真っ直ぐに見て評価してくれた人だ。あの人がオレをヅダ2番機の専属パイロットに選抜してくれた時の事は今でも覚えてるよ」
他人の悪評や噂なんかに惑わされず、純粋な『能力』で評価をしてくれた。
生まれて初めて、自分は本当の意味で誰かの役に立てると思った。
「カスペン大佐は、その身を挺いてオレ達の帰る場所を守ってくれた。口では色々と言っていたけど、間違いなくオレが知る軍人の中じゃ一番の勇気を持ってる人だよ」
規律正しく軍の任務を全うする。全ては自軍と祖国の勝利の為に。
だが、それ以上に、仲間の事だけは絶対に見捨てない。
例えそれが大きく歳の離れた学徒兵だったとしても。
「ホルバイン少尉に至っては、直接助けられてるしな。ほんと、あいつの直感が無かったら、どうなっていた事か……」
誰よりも海を愛し、眼前にどんな困難が待ち受けていようとも決して諦める事をしない。
直感だけじゃない。その不屈の精神に誰もが感銘し、死した時は誰もが悲しんだ。
「会いたいんだ……あの人達に……また……」
「ヒーちゃん……」
「そしてさ、今度こそ必ず言うんだ。『ありがとう』って」
少し涙ぐんではいたが、その顔は悲しみに染まってはいない。
どこまでも真っ直ぐに、『もしも』を『絶対』にする決意に満ちていた。
「きっと言えるよ。そして、あの子達もヒーちゃんにまた会えるのを楽しみにしてると思う」
「そうかな~? 特にデュバル少佐にはかなり扱かれたからな~。出会ってからすぐに叱られそう」
「なんか普通に有り得そう。デューちゃんはかなりの真面目っ子だからね~。だけど、この束さんはそんなデューちゃんの弱点を知っているのだよ!」
「マジでッ!?」
「大マジです! デューちゃんは実は……」
「じ…実は?」
「可愛いものが大好きなのです!」
「な…なんだって――――――っ!?」
もうすっかりシリアスな雰囲気は霧散した。
だが、今はこれぐらいでいいのかもしれない。
「めっちゃ可愛い子猫ちゃんを抱き上げた時なんか、満面の笑みを浮かべてたんだから!」
「想像…出来るような、出来ないような?」
「束さんの情報では、密かに動物のぬいぐるみなんかを買い集めているとかなんとか」
「まさかの情報キタ―――――――――!」
「だから、もしも学園で再会することがあったら、可愛いぬいぐるみなんかを進呈すればガシっと心を鷲掴み確定だよ!」
「よっし! さっそく明日から街中のファンシーショップにレッツゴーだ!」
「その意気だよ!」
やっぱり、この二人は本当に息が合っている。
千冬にだけは絶対に会わせてはいけないコンビかもしれない。
間違いなく過労で倒れる。
「いや~! 天才科学者なんて聞いてたから、もっと堅苦しい人を想像してたんだけど、まさかここまでフランクに話せる人だとは思わなかったよ!」
「それはこっちのセリフだって! まさか、この私にここまでテンションがついて来れる子がこの世に存在してるなんてね! このままもうお友達にでもなりたい気分だね!」
「なに言ってんスか……オレ達もう…親友同士でしょ?」
「ヒーちゃん…♡」
「いや、親友ってよりは、心の友と書いて『心友』ですね」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! マイフレ――――――――――ンド!!」
「フレ――――――――ンド!!」
ガバっと抱き合ってから友情を確認し合う二人。
親友というよりは恋人同士のようであるが。
結局、この日の夜は更けるまでずっと二人で色んな話題で語り明かした。
ワシヤ家の屋敷全体が防音加工されていた事がせめてもの救いか。
そうじゃなかったら、間違いなく騒音被害で近所から訴えられていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ん……んん……?」
次の日。
いつの間にか寝ていたヒデトが目を覚ますと、もうそこには束の姿は無く、その代わりに一枚の置手紙が机の上に置いてあるだけだった。
「流石に帰っちゃったか……フワァ~……」
大きく欠伸をしながら背中を伸ばす。
今まで余り目立っていなかったが、実はそこそこの大きさを誇るバストが強調される。
「昨夜は本当に楽しかったな~。生まれ変わってから、初めてあんなにも笑った気がする」
昨日の事を思い出しながら部屋のカーテンを開ける。
眩しい朝日が差し込む中、彼女は束が書いたと思われる置手紙を読んだ。
『昨夜は本当に楽しかったよ! ヒーちゃんと出逢えて本当に良かった! そんな私から友情の証としてプレゼントがあるのぜい! 暇な時で構わないから、スーちゃんが勤務している基地に行ってみて! そこでヒーちゃんの『翼』が待ってるよ! 愛しの束さんより』
手紙を読んでから、彼女が何を言いたいのかをなんとなく察したヒデトは、静かに微笑んだ。
「友情の証って…それじゃあ、結局はアンタにも借りを作ることになるじゃないか……。嬉しいけどさ」
手紙は丁寧に折り畳んでから、机の引き出しに仕舞った。
因みに、手紙は全文がドイツ語で書かれてあった。
天才の名は伊達じゃない。
「『翼』…ね。間違いなく『アレ』に決まってるよな」
自分と共に戦場を駆けた相棒。
自分を認めてくれた人が与えてくれた鋼鉄の戦士。
「あの時は向こうから来てくれた。今度はオレから迎えに行く番だ」
晴れ渡る青空を見上げるヒデトの目は、力強く輝いていた。
ヤバい……今までで一番、書いてて楽しかった……!
お蔭で、めっちゃ筆が進んだ気がします。