インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
それどころか、最近はなんだか妙にツイてない気が……。
愛用の靴の底に穴が開いちゃいましたし。
いつの間にか基地内にあったコンテナの中から出現した二体の『ヅダ』の処遇を相談する為に、カスペンは司令室まで行っていて、この場には千冬とモニクとヒデトの三人だけが残された。
因みに、先程コンテナの移動の為にフォークリフトを取りに行った整備員の青年は、戻ってきた時には既にコンテナが開いている様子を見て普通に項垂れていた。
「その…二人は束と会って話をしたんだったな?」
「「はい」」
「…何もされなかったか?」
仮にも親友である以上、見知らぬ年端もいかない少女達に何かをしていたら、なんて申し開きをしていいのか。
どこまでも純粋に二人の事を心配して、千冬はダメ元で聞いてみた。
「部屋に不法侵入してきました」
「サイン書いて貰いました!」
ヒデトの方はともかく、モニカに対してしたことは普通に犯罪だった。
「……殴るついでにドロップキックでもしておくか」
束、重傷確定。
「他には何もないか?」
「いえ、これといって何も。後は普通に話しただけですね」
「オレも~。ま、こっちの場合はオレが寝落ちするまで話し込んだんだけど」
「そうか……」
千冬の目から見ても、彼女達からはソンネンやカスペンと似たような雰囲気を感じてはいるが、果たしてそれだけで本当に束が興味を抱くだろうか?
彼女とはもう十年近くの付き合いになるが、未だにその心の内は全く読めない。
「んお? そんな所で何をやってるんだ?」
「「大尉」」
「お前か……」
そんな三人の元にやって来たのは、同じように基地に来たアレクだった。
今や彼女は完全にハーゼ隊の一員のような扱いになっていて、基地内でもなんでか普通に『大尉』と呼ばれている。
最初は何回か軽く文句を言ったりしたが、自分の事を純粋な目で『大尉』と呼んでくるラウラの視線に根負けして、仕方なく『好きにしろ』と言ってしまったが最後。
もう完全に今では『サレクサンドロ・ヘンメ大尉』に逆戻りだ。
「実は……」
ここでヒデトの『カクカクシカジカ。カクカウウマウマ』が発動。
これで本当に会話が成立してしまうのだから、ジオン軍人とは本当に恐ろしい。
「いやいやいや! ジオン軍人の全てがアレで会話が整理するわけないじゃない! 少なくとも、私には何を言っているのかさっぱりよ!」
どうやら違ったようだ。
「成る程な。奴さんの持ってきたと思われるコンテナから、お前さんらのISが出現した…と」
「そういうことッス」
「なんともまぁ……あの博士さんらしいわな」
アレクもまた束と話をして背中を押された身。
彼女の場合は、ここまでド派手な事はされていないが。
「待たせたな……」
「お。大佐様のご登場だ」
「ん? アレクも来ていたのか」
「まぁな。一応の事情も聞いてるぜ」
「そうか。それならば話が早いな」
たったままなのもアレなので、まずは近くにあるベンチに座る事に。
「取り敢えず、簡単に決まった事だけ報告しておく」
「お願いします」
「まず、二人にISが篠ノ之博士からISを与えられたことは、暫くの間は機密事項とする」
「「デスヨネー」」
ある意味、一番分りきっている事だった。
「暫くってのはなんだよ?」
「文字通りの意味さ。話を聞く限りでは、二人はIS学園に行くことを決意してくれたのだろう?」
「えぇ。……あ、そっか」
「何が『あ、そっか』なんですか? 大尉」
「今はまだ私達は表向きはISとは全くの無関係だけど、IS学園に入ればそうじゃなくなるってことよ」
「キャデラック特務大尉の言う通りだ。学園に入学さえできれば、機体に関しては色々と言い訳もできる。つまり、それまでは……」
「あのヅダの事は内緒にしなくちゃいけないって事ですね」
「そうなるな。出来るか?」
実際には『出来るか』ではなくて『やれ』なのだが、この二人には愚問だった。
「「楽勝」」
「だと思ったよ」
今更な質問だった。
二人とも、あの独立戦争を生き残ってみせた人間なのだ。
これぐらいは朝飯前だろう。
「これがもし、アレクのようにドイツ軍からの譲渡と依頼という形ならば、そこまでひた隠しにする必要も無いのだがな……」
「流石に、開発者からの個人的な譲渡ってなれば、そうもいかねぇよなぁ……」
「全く…あのバカはどこまで……!」
その時の感情に身を任せ、人様に迷惑を掛ける。
拳と蹴りだけでは生温いような気さえしてきた。
「…バックドロップも追加するべきか……?」
束の命は風前の灯かもしれない。
「だが、コンテナの存在が既に基地内に知れ渡っている以上、ここでは下手に隠すのは逆効果だろう」
「箝口令でも出すのか?」
「その予定ですが、その前にヅダの存在を明らかにしておくべきでしょう。下手に隠し続ければ、不必要な不信感を抱かせてしまう可能性がある」
「確かにそうかもな。ここの連中だって借りにも軍人の端くれだ。機密事項ぐらいは守れるだろ」
日々の千冬の訓練に加え、以前からカスペンによる座学にて軍人としての精神を叩きこまれているハーゼ隊の隊員達。
これで少しでも正規の軍人達に近づければ…とは思っていはいるのだが、そう簡単にいかないのが実情なのである。
「それでは、まずは機体の設定でもするか。あのような形で出現した以上、必要あるかどうかは疑問だが」
・・・・・
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・
案の定、もう既に二体のヅダにはある程度のデータが入力されていた。
どこで、どうやって二人に関するデータを入手したのかは疑問だが、あの束がやった事なので深く追求するだけ無駄なので、そこは全員一致で素直に諦めた。
そして午後。
今回もまた急遽、予定を変更することとなった。
「総員注目!! これより、カスペン隊長から話がある! では隊長、どうぞ」
「うむ」
ハーゼ隊の全員が訓練場に整列し、列の前にはカスペンと千冬の他に、アレクとモニク、ヒデトの他に副隊長であるクラリッサも立っていた。
クラリッサの声で全員が姿勢を正し、カスペンが一歩だけ前に出る。
「諸君は今日の午前に格納庫に置いてあった謎のコンテナの事はも既に知っているな? 実は、その中身がつい先程だが判明した」
カスペンの報告で、隊員達の顔に動揺が走る。
見知らぬ少女達が自分達の前にいる時点で既に困惑をしてるのだが、今回のはそれ以上だった。
「あれは、とある人物達に向けて送られてきた篠ノ之束博士のコンテナだった。その『とある人物達』とは、この基地の人間ではないが故に、本来ならばこのような事が起きるのは非常に変な事なのだが、恐らくは篠ノ之束博士がこの基地ならば安全であると判断したがためと思われる」
束の名前が出た途端、隊員達の動揺はピークに達する。
が、ここで変に表情や行動に出せば、それこそ後で追加の訓練が山盛りになるのは自明の理なので、ここは必死に自分達の表情を殺した。
「そして、その人物達とは、ヘンメ大尉の隣に並んでいる二人のことだ。紹介しよう」
ここでモニクとヒデトの二人が前に出る。
今は一般人でも、嘗ては立派な軍人だった二人。
足の運び一つとっても、ハーゼ隊の彼女達とは全く動きが違った。
「モニク・キャデラック特務大尉と、ヒデト・ワシヤ中尉だ」
「初めまして。モニク・キャデラックです」
「同じく、ヒデト・ワシヤです。よろしくお願いします」
ちゃんと敬礼の仕方も忘れていない。
矢張り、魂に染み込んだ軍人としての誇りは忘れたくても忘れられないのか。
「今日の午後は、予定を変更してこの二人のISの起動実験を執り行う」
この展開は流石に予想出来たのか、そこまでの動揺はなかった。
以前にも似たような事があったせいかもしれない。
「猶、この二人の事と先程話したこと、今から披露するISの事は最重要機密事項とする。もしも外部に漏らせば、軍法会議は免れないと思え! いいな!」
「「「「「はっ!」」」」」
少し脅し過ぎたかと思ったが、これぐらいでも言っておいた方が丁度いいかもと後で思い至る。
実際、軍法会議と聞かされて、隊員達の顔はかなり強張っていた。
「では、これより準備に入るので、お前達は端の方にて待機をしているように。以上、解散!」
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「一応、ちゃんと調べはしたのだが……サイズは合ってるか?」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! オレ、ISスーツなんて着るの初めてですよ!」
「それは私もよ…って、なんかこれ、思っている以上に窮屈に感じるのね…。まるで体が締め付けられてるみたいだわ」
場所は変わって更衣室。
モニカとヒデトの二人は、カスペンに連れられて更衣室まで来てから、基地に常備してある予備のISスーツを借りて着用していた。
「問題はなさそうだな」
「みたいです」
「結構。そのISスーツはそのまま二人にくれてやるとしよう」
「「いいんですか?」」
「それぐらいは構わんとも。他にも予備のスーツは沢山あるし、アレクだってここのスーツを貰って着てるんだ」
「そうだったんだ……」
アレクもそうだが、これまでに全くISとは関係の無い人生を送ってきていた二人が、ISスーツなんて代物を持っているわけも無く、このような形でしか触る機会は無い。
一応、市販品でも販売はされているのだが。
「因みに、ISスーツってなんか着る意味とかってあるんですか?」
「ISの操縦のし易さやリンクが若干上がる程度だな。それ以上に、スーツ自体の対弾性が高いから、普通に防弾チョッキ替わりにはなるな」
「胴体部しか守られてませんけどね。この水着みたいなデザインはどうにかならないんですか?」
「言うな。それに関しては、もう皆がとっくの昔に諦めている」
実は、どこぞの未来世紀で使用されている某格闘家達が着用しているような、全身を覆うタイプのスーツも存在はしているのだが、カスペンもそれの事は知らないので、何も言えなかった。
「着替えが終わったのならば、早く行くとしようか。余り待たせても悪いしな」
「「了解です」」
カスペンの言葉に敬礼で応える二人の胸元には、既に全ての設定が完了しているヅダの待機形態である青い羽根飾りがぶら下がっていた。
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格納庫内にて、ヅダを装備してから待機をしているモニクとヒデトの二人。
珍しく静かなヒデトが気になって、少し話す事に。
「どうかしたの?」
「いえね。柄にもなく緊張しちゃって……」
「アナタが? 珍しい事もあるもんね。明日は雪かしら」
「酷っ!? オレだって人間なんですから、緊張ぐらいしますって!」
「冗談よ。…実を言うと、私も少しだけ緊張してるのよね」
「大尉も?」
「うん。またヅダと遭えたのは素直に嬉しいけど、ISに乗るなんてこれが初めてだし、『あの頃』と同じように動けるかどうか……」
「なんとかなるんじゃないんですか?」
「またそんな楽観的に……」
「楽観的じゃないですよ。なんつーか……自分でも何言ってんだって感じなんですけど、不思議とコイツと一緒なら『大丈夫』って気がするんですよ」
「大丈夫……ね」
実は、その感覚はモニクにもあった。
まるで、懐かしい友に再会したような、大好きな母親に抱きしめられているような、そんな不可思議な感覚が。
「どっちにしても、もう私達はここまで来てしまった。後はもう……」
「突き進むだけ…ですね」
「この『道』を大佐や大尉と一緒に進んでいけば、その先に少佐達が待ってる」
「その時まで、止まるわけにはいかないっすね」
「そうね。まずは、このヅダをものにしましょう」
「了解っす!」
改めて気合を入れ直したところで、カスペンからの通信が来た。
『特務大尉、中尉、準備はいいか?』
「「はい!」」
『よし。では、いつでも来い!』
顔を見合わせてから、エンジンに火を灯す。
拳を握りしめ、青く澄みきった空を見上げた。
「モニク・キャデラック! ヅダ3番機!」
「ヒデト・ワシヤ! ヅダ2番機!」
「「発進します!!」」
こうして、またもや嘗ての仲間達が空へと舞い戻って来た。
未来を信じて、少女達は時代を駆け抜ける。
なんか、予告詐欺になってしまいました。
次回こそ、本当に動きます。
それから、またもやストックがかなり溜まってしまったので、こちらの更新を優先するかもしれません。