インフィニット・ストラトス IS IGLOO   作:とんこつラーメン

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キリがいいので、ここで一気に時間を飛ばします。

ついでに、ここで今回のサブタイの意味のヒントおば。

白鳥って、表向きは優雅に泳いでいるように見えますが、実際には水面下では必死に足を動かしているんです。
この意味、分かる人は分かるはずです。






白鳥のような少女

 千冬がドイツに来てから約半年が経過した。

 彼女もすっかりドイツでの生活に慣れ始め、それに伴い隊員達の練度も驚くほどに向上していった。

 それに加え、アレクやモニク、ヒデトも一緒に訓練をし続け、今では完全に嘗ての実力を取り戻しつつあった。

 その間も、定期的に日本に連絡をしていて、それが千冬の活力となっているようだ。

 

 カスペン、アレク、モニク、ヒデト達もそれぞれに誕生日を迎え、一歳ずつ大人になった。

 それだけの時間が経ったと言う事は、同時に国家代表であるカスペンもそれだけ仕事をしてきたと言うことになる。

 今回もまた、彼女はとある場所に仕事に来ているようで……。

 

 

 

 

 

・・・・・

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・・

 

 

 

 

 

「これでチェックメイトだ。どうする?」

「ま…参りました」

「よろしい」

 

 ベルリンにあるとある訓練場。

 そこに隣接している訓練用アリーナにて、カスペンが自身の専用機である『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏い、そのプラズマ手刀を目の前でラファールを纏ったまま尻餅を付いている少女に突き付けていた。

 

「手も足も出なかった……」

「そう簡単には負けられないからな」

 

 今回のカスペンの仕事は、ドイツ内にある訓練所を訪れて、そこで頑張っている訓練生の少女達と交流をする事だった。

 ハッキリ言って、カスペンにはこっちの方が今までのアイドル染みた活動よりも遥かに性に合っているようで、代表の仕事で初めて生き生きとした顔をしている。

 

 で、ついさっきまでやっていたのは模擬戦。

 訓練生たちの頼みで試合をしたはいいのだが、案の定カスペンの完勝。

 試合時間は3分にも満たない。

 

「いい動きだった。だが、もっと臨機応変に動けるようにした方がいいな。頭の中で自分なりのパターンを構築するのはいいが、予想外の事が起きた時に動きが止まってしまっては意味が無い」

「は…はい! 気を付けます」

「うむ。少し休憩にしようか」

 

 レーゲンを待機形態にして、カスペンはその場を後にする。

 その小さくも悠然とした後姿を、少女は呆然と眺めていた。

 

「大丈夫だった?」

「う…うん」

 

 他の訓練生の子達が心配するように寄ってきて、その手を引いて立ち上がらせた。

 

「とんでもない強さだったわね~……」

「う…うん。本当に何も出来なかった……」

「あんな重そうな機体を、ああも軽々と扱えるなんて……」

「伊達に国家代表じゃないって事でしょ。その上、あの歳で特殊部隊の隊長までしてるんだから。強いのは当たり前」

 

 矢張り、周囲からのカスペンに対する評価は非常に高いようだ。

 決して彼女は可愛いだけの存在だけではなく、その非常に高い実力とカリスマ性で国家代表に選ばれたのだと、自らの手で証明していった。

 

「あの歳って…カスペン大佐って何歳?」

「15だって」

「「「「15っ!?」」」」

 

 だが、流石にあの容姿で15歳なのは普通に驚くようだ。

 

「え? あんなに小さくて可愛いのに、私達と同い年ぐらいなの?」

「私の場合は年下だけど。どっちにしても、とんでもなく凄いって事には違いないわ」

 

 ふとカスペンが去っていた方向を見ると、彼女が一緒に来ている人物達からタオルとスポドリを受け取っていた。

 

「あの眼帯の子も凄かったわよねぇ~…。特に、あの規格外の胸が」

「あの子、14歳らしいわよ」

「「「「まさかの年下っ!?」」」」

「絶対におかしいわよね。…一体何を食べて、何をすればあの歳であんなグラビアモデルみたいなスタイルになれるのかしら……!」

 

 年頃の少女達としては、眼帯の少女…アレクの有り得ないスタイルは無視できないようだ。

 だが、ここでハッキリと断言しよう。

 彼女は決して何もしていない。あのスタイルは完全な天然だ。

 自然とああなっていったのだ。

 

「で、そんな二人と一緒にいる清楚系なお嬢様は……」

「彼女は13歳ですって。なんでも、大佐とは古い知り合いらしいわ」

「美幼女の周りには、美少女と美女が集うって訳ね……」

「日本じゃそれを『類は友を呼ぶ』って言うらしいわ」

「「「「なんか納得」」」」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「へぷち!」

「え? 大佐…今のってくしゃみですか?」

「悪いか? ズズ…汗の掻き過ぎか?」

「誰かがお前さんの事を噂してたりしてな」

「……普通に有り得るから止めてくれ」

 

 カスペンの仕事に付き添いでついてきたのは、アレクとヒデトの二人。

 アレクの方はカスペンから誘ったのだが、その直後になんでかヒデトも一緒に行くと言い出してきたので、仕方なく同行させることに。

 

「しかし、どうしていきなり着いて来ようと思ったんだ?」

「偶には大佐のお仕事の見学でもしようかと思いまして」

「そうか。殊勝な心掛けだな、中尉」

 

 なんて言ってはいるが、本当は全く違う理由からだった。

 

(あのまま基地にいたら、また『チフユ・ザ・ブートキャンプ』に参加させられちまうからな。大佐には悪いけど、軍人としてチャンスは最大限に活かさせて貰うぜ!)

 

 別に千冬の訓練に着いて行けてない訳ではないが、それでも回避できるのならそれに越した事は無い。

 少なくとも、ヒデトはそんな風に考えている。

 

「そういえば、今日はキャデラック特務大尉の姿を見かけてないな。どうしたんだ?」

「あの人なら、今日は野暮用らしいですよ」

「それならしゃーないな」

「まぁ…無理強いは出来ないしな。私だって、彼女にはプライベートを大事にしてほしい」

 

 こんな風に思ってくれてはいるが、モニクが不在である真の理由を知るヒデトとしては、なんとも胃が痛くなるところだった。

 

(流石に言えねぇよな…。本当は、オリヴァーの奴とのデートをするから来てないだなんて……)

 

 リア充は爆発すればいいと思う。

 

「千冬さんから話だけは聞かされてたけど、国家代表ってこんな仕事もしてるんスね~」

「これも任務だと思って割り切れば何ともないさ」

「達観してますね~」

「達観ってよりは、慣れちまっただけだろ?」

「まぁな……はぁ……」

 

 肉体的疲労よりも精神的疲労で、頭のアホ毛も心なしか萎れている。

 どうやら、アホ毛は彼女の感情とリンクしているようだ。

 

(矢張り、このままじゃダメだな……。レーゲンの性能では、思うような戦いが出来ない。少し前から日本の『倉持技研』に依頼をしている私の『新専用機』……どこまで開発が進んでいるのだろうか……。可能な限り、早々に乗り換えたいところだが……)

 

 自分の拳を見つめながら、カスペンは今の己の未熟さを噛み締めていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 それは、本当に偶然だった。

 夕方、ラウラが訓練で掻いた汗を流す為にシャワー室に向かおうとしている途中、ふと訓練場から誰かの声が聞こえてきた。

 純粋にそれが気になって、彼女はその足でそのまま訓練場へと足を向けた。

 

「もう訓練は終わっている筈。一体誰が……」

 

 そこにいたのは、予想外の人物だった。

 

「はっ…はっ…はっ…!」

 

 代表の仕事を終えて休んでいる筈のカスペンが、軍服を着て訓練場の周りを走っていたのだ。

 その顔には夥しい程の汗が流れていて、どれだけの距離を走っていたのかが用意に伺える。

 

「大佐……なんでこんな時間に……」

「遂に見つかってしまったか」

「きょ…教官っ!?」

 

 驚いて固まっているラウラの傍に、いつの間にか腕組みをした千冬が立っていた。

 発言から察するに、彼女はカスペンが訓練をしている事を知っていたようだ。

 

「あいつはな、これまでずっと、ああしてお前達が訓練を終えた後に一人で訓練をしていたんだ。私がお前達に課しているメニューと同じ…いや、その数倍の量をな」

「す…数倍っ!?」

 

 通常の量でも、自分達は終了後には息も絶え絶えになるというのに、その数倍をたった一人で孤独にやっている。

 ラウラはその事に驚きつつも、どうしてそんな事をしているのだろうと言う疑問を抱いた。

 その心を見抜いたかのように、千冬が前を向いたまま答えた。

 

「あいつは言っていたよ。『代表としての仕事があるとはいえ、そればかりにかまけて自己研鑽をしないのは論外だ。彼女達の上に立ち、国の威信を背負う者として、皆以上の訓練ぐらいは簡単に出来なければいけない』とな」

「大佐……」

 

 仲間や他人には寛容で、自分にはとことんまで厳格で。

 義務。責任。プライド。使命。

 その全てを一人で背負い、カスペンは自分を鍛え、苛め抜く。

 国を、仲間を、世界を守る為に。

 戦友達と一緒に戦場を駆ける為に。

 

「私の元まで来て訓練のメニューを聞いてきた時は何事かと思ったが、これを見せられて納得したよ。一応、恥ずかしいから皆には内緒にしておいてほしいと釘を刺されていたのだがな。偶然で目撃をされては、彼女も文句は言えないだろう」

 

 徐に千冬は、ラウラに程よい温度になっているスポドリを手渡した。

 

「教官、これは……」

「行ってやれ。秘密を共有する者が部隊内に一人ぐらいはいても悪くは無いだろう」

「はい!」

 

 地面に大の字で横たわって体を休めているカスペンの元に、ラウラが小走りで駆け寄る。

 その光景を微笑ましく眺めていると、後ろからまたもや誰かがやって来た。

 

「クラリッサか」

「はい。教官にはバレますか」

「この基地に、あの光景を見てそこまで興奮して鼻息が荒すぎて鎌鼬が起こせそうな奴はお前しかいない」

 

 千冬の指摘通り、クラリッサはその手に双眼鏡を握り、顔を真っ赤にしながら鼻息を荒くしていた。

 そのせいで鼻の穴が大きくなっているが、なんで気にしないのだろうか。

 

「いえいえ。決して汗を掻きまくっている色気たっぷりな大佐の可愛い姿を双眼鏡で観察して脳内保存をするつもりだったなんて、そんな事は全く無いですから。ええ。全く無いですとも」

「同じことを二度も言っている時点で墓穴を掘っていると気付け」

 

 言っても無駄だと思うが、教官として一応の忠告。

 

「…本当は、副隊長として私こそが真っ先に気が付くべきでしたが……」

「意外といいコンビだと思うぞ。まるで本当の姉妹みたいで」

 

 ラウラがやって来たことに最初は驚いていたカスペンだったが、スポドリを渡されてすぐに大人しく観念した。

 優しく微笑みながら、ラウラに礼を言いつつスポドリを飲んで水分補給をしている。

 

「そうですね。ラウラは隊の中でも最年少で、背格好も隊長と同じぐらいなので、自然と気が合うのかもしれません」

「大佐には友も仲間も多くいるが、それとは別に家族のような存在が必要なのかもしれんな」

 

 こうして傍見ていると、千冬が言ったように本当に姉妹のように見える。

 背伸びがちな姉と、世間知らずで純粋無垢な妹。

 見ているだけで自然と笑顔になりそうな光景だった。

 

「大佐は一人娘だと伺っています」

「両親は?」

「どちらとも普通に御存命ですが、両親共に軍務で忙しく、家族が揃う事は非常に稀らしいです」

「そうだったのか……」

 

 千冬も、よく仕事などで家を空ける事が多く、弟の一夏を頻繁に一人にしていた。

 そこで千冬は、少し前に日本に電話をした時の話を思い出す。

 

(家族…か。一夏はあのまま孤児院で暮らしたいと言っていたな…。正直、それも悪くないと思ってはいる。あの家にいい思い出があると言えば嘘になるからな。院長さんの申し出は、寧ろチャンスなのかもしれない。私たち姉弟が本当の意味で『過去』と決別をするチャンスに……)

 

 ふと、訓練場にいるカスペンとラウラの傍に、自分が良く知っている少女達や、ここで知り合った少女達が一緒に寄り添っている光景を思い浮かべる。

 不思議と、凄く自然で楽しげな光景に思えた。

 可能であれば、いつの日か少女達が一緒に笑える未来が来ればいいと願ってしまう。

 

「これからはもっと、一緒の時間を増やすべきなのかもしれませんね」

「その提案には大いに賛成だが、それにかこつけて大佐に何かするつもりじゃあるまいな?」

「まさか! 決して私は『大佐に猫耳や尻尾を着けてニャ~って鳴いてほしいな~』とか、『髪をツインテールに纏めて『クラリッサお姉ちゃん♡』って呼んでほしいな~』とか思ってませんから! 微塵も!」

「……………」

 

 こいつだけ、明日からの訓練の量を十倍に増やそう。

 千冬は密かにそう決意した。

 同時に、私がドイツにいる間は必ずカスペンの貞操を守り抜こうと思った。

 このドイツの地で過ごしてもう半年。

 今ではもう千冬はカスペンやラウラの事は自分の妹のように思っていたから。

 

「明日も晴れるといいな……」

「そうですね」

 

 夕焼けの空に一番星が輝く。

 少女達の前途を祝福しているかのように。

 

 そうして今日も、騒がしい一日が過ぎていったのだった。

 

 

 

 

 




地味に伏線を回収しておきました。

どこなのかは秘密ですけど。

初めてクラリッサがまともな一面を見せましたね。

普段からこうなら、少しはマシなのに……。
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