インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
ドイツ編はあと数話で終わります。
それは即ち、一つが始まり、同時に一つが終わることを意味しています。
始まるのは『原作』。
まさか、70話近くになってようやくの原作突入とか、間違いなく私の中でも最長記録です。
そして、終わるのは『アンケート』。
技術屋に関するアンケートの期限は『原作開始』まででしたので。
途中からのまさかの逆転劇に、私が一番驚いています。
一応、どっちでもいいようにプロットは軽く作成していたのですが、片方は無駄になりそうですね。
今日も今日とて訓練漬けの一日。
千冬が檄を飛ばし、隊員達が汗を流しながら体を動かす。
クラリッサはカスペンの事を妄想し、ラウラはカスペンの期待に応える為に一生懸命に訓練に励む。
これが現在の日常風景の一つだった。
そして、今は休憩中。
彼女達は地面に座って水分補給をしたり、大の字で寝転がって風に涼んでいたりしている。
そんな時、ラウラがある事に気が付いた。
「あれ?」
「どうしたの?」
「いえ……今日はまだカスペン大佐の事を見かけてないなと思って……」
いつもならば、国家代表の仕事がある時も、必ず出かける前に一回は顔を見せたりしていたカスペンが、今日は基地内のどこにもいない。
これは非常に珍しい事だった。
「ん? もしや、知らされていないのか?」
「何をですか? 織斑教官」
そこに、タオルで顔の汗を拭いている千冬が近寄ってきた。
どうやら、彼女は何かを知っているようだ。
「大佐ならば、今日は実家に帰っていると聞いている」
「御実家に?」
「恐らく、日本行きに備えての事だろう」
「全く知りませんでした……」
何も知らされていなかったことに、少しだけショックを受けるラウラ。
ちょっと拙い事をしたかも知れないと思った千冬は、ここで急いでフォローに入る。
「あ…余り気にするな。彼女の事だから、うっかり忘れていた可能性がある」
「そうでしょうか……」
「そうだとも! この間なんか、マヨネーズとマスタードを間違えていたぞ?」
「そのお話、是非とも詳しく私に!!」
「なんでそこでハルフォーフ大尉がでしゃばってくるっ!?」
色々とありつつも、今日も基地内は平和です。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
所変わって、ここはカスペン家の屋敷。
誰が見ても分かるほどの超豪邸で、エントランスから既に恐ろしく巨大なシャンデリアがお目見えしている。
だが、それすらも霞む程の迫力を持っていたのが、カスペンの目の前にズラ~リと並んでいるメイド&執事の集団である。
全員が軍人顔負けな程に綺麗に整列していて、カスペンが屋敷の扉を開いて中に入った途端、一斉に腰を曲げた。
「たった今帰ったぞ」
「「「「「「お帰りなさいませ。ヘルベルトお嬢様」」」」」」
「あ…あぁ」
何度聞いても、やっぱり慣れそうにはないな。
メイド達と執事達を見て、密かにそう思った。
そんな彼女の元に、優雅に階段を降りてきた一組の夫婦がやって来た。
夫の方は煌びやかな勲章を多数身に付けた軍服を、妻の方は真っ赤なドレスを身に纏っていた。
「おかえり、ヘルベルト」
「おかえりなさい」
「只今帰りました。お父様。お母様」
そう。この二人こそが、この世界におけるカスペンの実の両親なのだ。
父の名は『マーク・フォン・カスペン』
母の名は『エリス・フォン・カスペン』
二人とも現役の軍人で、多くの人間達から尊敬の念を一身に受けている、現在のドイツ軍には無くてはならない存在だ。
「しかし、まさかお二人が家にいるとは思いませんでした。軍務はどうしたのですか?」
「なに。大切な一人娘が久し振りに家に帰ってくるというのに、親である我々が出迎えない訳にはいかないと思ってな、急いで仕事を終わらせてきた」
「少し、部下の皆には無理をさせてしまったけどね」
「お父様…お母様……」
前にも言ったが、カスペンの両親は娘である彼女の事を超溺愛している。
それこそ、娘に会う為ならば少々の無理は平気で通してしまうほどに。
「戻ってきた理由は、日本行きに備えて色々と準備をする為だろう?」
「はい。暫くは向こうで過ごす事になるので、少しでも準備は万端にしておこうと思いまして」
「いい心掛けだ。それでこそ、我がカスペン家の人間」
「お褒め頂き光栄です」
まるで親子とは思えないような厳格な態度。
だが、それはあくまでも『ポーズ』に過ぎない。
もうそろそろ、本性が見えてくる頃だろう。
「今日はこっちに泊まっていくのか?」
「そのつもりです。本当は、荷物を纏め次第すぐに基地へと戻ろうと思っていたのですが、司令が『折角の帰省なのだから、偶にはのんびりと羽を伸ばしてきなさい』と仰って下さいましたので」
「そうか……ウォルターめ、粋な真似をしてくれる」
「そうね。今度、ちゃんとお礼を言っておかないと」
この会話からも分かるとは思うが、基地司令の『ウォルター・カーティス』と、この両親は古い知り合い同士なのだ。
と言っても、ウォルターの方が圧倒的に老けて見えるが。
マークとエリスは、15歳の娘がいるとは思えない程に若々しく、姿だけを見れば十代の若者と間違われることもしばしば。
「ところでヘルベルト……」
「なんでしょうか、お父様」
「いつになったら俺のことを『パパ♡』って呼んでくれるんだっ!?」
「呼ぶわけないでしょうが!! 何度言ったらわかるんですかっ!?」
「そ…それじゃあ、お母さんの事を『ママ』って呼ぶのは?」
「それも無しです!! 大体、私が実の親の事を『パパ』とか『ママ』って呼ぶようなキャラですか!」
はい。シリアスムード終了です。
ここからは『いつものカスペン親子』になります。
「いいじゃないか! そのギャップが更にヘルベルトを可愛くするのだから!」
「ギャップって何ですかっ!? 意味が分りませんよ!」
「ギャップとは、即ち『萌え』よ!」
「なんで、そんな単語を知ってるんですかっ!?」
「「調べた!!」」
「時間の無駄遣い!!」
家族揃ってのボケとツッコミの応酬。
これが、この親子のいつもの光景だった。
メイド達も執事達も、全く動じずに淡々と聞いている。
「因みに、ヘルベルトが出演したテレビ番組は全て録画し、ラジオは録音しているぞ!」
「雑誌の方も全て購入済みよ! 勿論、読書用に保存用、布教用とちゃんと三冊ずつ買ってるから安心して! ねぇ皆!」
「「「「「「ハイ! エリス奥様!!」」」」」」
エリスの声に合わせて、全てのメイドと執事が雑誌を取り出した。
「お前達もかっ!?」
「お嬢様が表紙の飾っているので!」
「カスペン家に仕えている者として!」
「雑誌を購入するのは当然の務め!」
「務めじゃないから!」
ここでカスペンはある事に気が付く。
雑誌ですら、こんな風に買うのだから、自分のCDはとんでもないことになっているのではと。
「あ…あの…まさかとは思いますが、あのCDも……」
「勿論……」
「「「「「「購入済みです!!」」」」」」
「やっぱりかぁ~!!」
両親、メイド&執事達が一斉にCDを三つずつ取り出した。
「視聴用!」
「保存用!」
「そして、布教用!」
「「「「「抜かりなく買っております!」」」」」
「お前達は……!」
頭が痛くなってきた。
どうして実家に帰ってきて、こんなに精神的な意味で疲れないといけないのか。
「もういいです! 私は部屋に戻りますので、食事の時にでもメイドに呼びに来させてください!!」
怒り心頭といった感じで、カスペンはプンプンと階段を上がって自分の部屋へと戻っていった。
だがしかし、そんな娘の怒りも親バカな二人には全く通用していなかった。
「怒っているヘルベルトも……」
「可愛いな~♡」
この夫婦、娘にデレッデレである。
本当に目に入れても痛くないかもしれない。
「旦那様」
「どうした?」
「シュヴァルツェ・ハーゼ隊のクラリッサ・ハルフォーフ大尉から封筒が届いております」
「彼女から? どれどれ……」
メイドの一人から貰った封筒を開けると、中には数枚の写真が入っていた。
それを見た夫婦は、驚きの余り固まってしまった。
「「こ…これはっ!?」」
それは、最近はすっかり見なくなったカスペンの笑顔の写真の数々だった。
アレクと一緒に食事をしながら微笑んでいたり、モニクと共に訓練をして爽やかな笑顔を見せていたり、ヒデトが疲れている姿を見て大笑いしていたり。
どれもこれもが、軍人になって少なくなっていた愛娘の少女らしい一面だった。
「……あの子の笑顔だなんて、見るのは何年振りかしらね」
「どんなに厳格にしていても、やっぱり根の部分は『女の子』なんだな……」
親として安心したような、軍人として心配するような。
けれど、共通しているのは『娘が元気に過ごしている』という事実を喜んでいる事だった。
「ハルフォーフ大尉にはキチンと礼をしなくてはな。よし!」
マークが手を叩くと、他のメイドが一人やって来た。
「ハルフォーフ大尉に『例の写真』を送ってくれ」
「承知しました。ヘルベルトお嬢様の『3歳(水着)』と『4歳(パジャマ)』と『5歳(サンタ服)』で、よろしいでしょうか?」
「完璧なチョイスだ。きっと、大尉も心から喜んでくれるだろう」
どうやら、身近な所に共犯者がいたようだ。
知らぬが仏とはよく言ったものである。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「全く……あの二人は相変わらず……」
呆れながら自室の扉を開けるカスペン。
久し振りに入った自分の部屋は、前に帰省した時と全く変わっていない。
正確には、机の上にある物などの位置が全く変化していない。
そのかわり、部屋の床には埃などの汚れが全く無い。
それは、部屋の主がいない時もずっと誰かが掃除をしてくれていた証拠だった。
「我が家のメイド達は本当に見事な腕をしているな。お前もそう思わないか?」
徐に後ろを向くと、そこには銀色の美しい髪を靡かせた一人のメイドが静かに立っていた。
「エターナ・フレイル」
「お久し振りでございます。ヘルベルトお嬢様」
エターナは優美な笑みを浮かべながら、ゆっくりとお辞儀をした。
彼女はこのカスペン家のメイド長であり、カスペンが信頼している数少ない人間の一人でもある。
「一応、聞いておくが、まさかお前も……」
「買っておりますよ。雑誌もCDも」
「やっぱりか……」
エターナもまた、マーク&エリス夫婦に負けず劣らず、カスペンの事を溺愛していた。
実際、カスペンも彼女の事は幼い頃から姉のように慕っていた。
「お嬢様。お手伝い致します」
「助かるよ。ありがとう」
エターナと一緒に部屋に入り、まずはクローゼットから服を取り出した。
その殆どは親から与えられた華やかなスカートなどばかりで、最初は抵抗感を感じていたが、今ではそこまで嫌でもなくなっている。
「お嬢様が日本に行ってしまったら、またお屋敷が寂しくなりますね」
「たった三年間の辛抱だ。そうすれば、また会える」
「そうですね……」
予め用意しておいた旅行鞄に、取り出した服を入れていく。
そんなカスペンの事を、エターナが後ろからそっと抱きしめた。
「どこに行っても…貴女が元気でいてくれさえすれば……私は充分です……」
「エターナ……」
自分に腕を回した、その細い腕に己の腕を沿えた。
「今度、ここに戻ってくる時は…私の大切な『友』達と一緒だ」
「お嬢様のご友人…ですか?」
「あぁ。私に多くの大切な事を教えてくれた、こんな私に力を貸してくれることを約束してくれた…掛け替えのない『友』達だ。きっと、お前達とも仲良くなれる」
「その時を楽しみに待っております…ヘルベルトお嬢様」
それから、二人は何気ない会話を楽しみながら一緒に荷物を纏めていった。
久方振りに、カスペンは心安らかな時間を過ごしていった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「これでよし…っと」
「思ったよりも時間が掛かってしまいましたね」
窓から見える空は赤くなり始め、荷物を纏め初めてかなりの時間が経過したことが伺えた。
そんな時、部屋の扉がノックされた。
「誰だ…って、勝手に開くな」
「別にいいじゃねぇか。お互いに知らない仲じゃねぇんだしよ。お嬢」
カスペンが返事をする前に扉を開いたのは、何故かバンダナを着けている一人の執事だった。
「ラナロウ。何度も言っているでしょう? この方の事は『ヘルベルトお嬢様』とお呼びしなさいと」
「へいへい。悪かったよ、エターナの姉御」
彼の名は『ラナロウ・シェイド』。
カスペンの父であるマークの古い友人で、傭兵あがりの男だ。
どうして、そんな男が執事なんてやっているのかは謎だが、それでも彼が優秀な人間なのは確かだった。
「で? 何の用なんだ?」
「用があるのはお嬢じゃなくてエターナの姉御だよ」
「私? 何かしら?」
「クレアとニキの二人が姉御の事を呼んでたんだよ。とっとと行ってやってくれ」
「分かったわ。それではお嬢様、私はこれで」
「あぁ。また後でな」
会った時と同じように、優美なお辞儀をしてからエターナは静かに去っていった。
「お前は行かないのか?」
「俺は休憩中だよ」
「本当はサボっているんじゃないのか?」
「人聞きの悪い事を言わないでくれよ。これでも、仕事だけは真面目にしてるつもりだぜ?」
「だけって……」
呆れながらジト目を向けるが、心から蔑んではいない。
寧ろ、全く変わっていない彼の様子に安心すらしていた。
「旦那から色々と聞いてるよ。大変らしいな」
「そうでもないさ。確かに一人だったら大変だったかもしれないが、今の私は一人じゃない。頼りになる『仲間達』がついてるからな」
「へぇ……言うようになったじゃねぇか。お嬢も成長してるってこったな」
「当たり前だ。人間とは成長する生き物だからな」
「なら、後は背の高さと胸が大きくなれば完璧だな」
「セクハラで訴えるぞ。これでも、それなりの権限は持ってるんだからな」
「おぉ~…怖い怖い。そんじゃ、俺も仕事に戻ろうかね」
肩を竦ませながら、ラナロウは足音を立てながら出て行った。
「全く……あれで嘗てはお父様とコンビを組んで戦場を縦横無尽に駆けていた超一流の傭兵だったとはな……人の過去とは本当に分からないものだ」
カスペンが言った独り言は、まるで自分に言い聞かせているようだった。
もう言わなくてもお分かりですよね?
またもや長くなったので『後編に続く』です。