インフィニット・ストラトス IS IGLOO   作:とんこつラーメン

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今回は、飯テロ&入浴シーンです。

お好きにご想像ください。








おかえりなさいませ お嬢様(後編)

 夕食時になり、食堂に三人の親子とメイド達、執事達が一堂に会する。

 このカスペン邸の食堂は、金持ちの家などによく見られる、無駄に大きくて広いテーブルの端にちょこんと座って、碌に会話もしないままの状態で食事が進んでいく…なんてことはない。

 マークもエリスも、娘であるカスペンも家族同士のコミュニケーションを最も大切にしているので、必然的にテーブルはそこまで大きなものにはならず、家族三人がちゃんと座れる程度の大きさに落ち着いている。

 それでも、ちゃんと豪華絢爛で装飾が多いテーブルだが。

 

「本日のメニューは『ヴィーナー・シュニッツェル』と『ケーゼシュペッツレ』でございます」

 

 【シュニッツェル】とは、薄く延ばした肉に衣をつけて揚げた、日本で言うところのカツレツのような料理。

 全ての世代に愛されていて、日本のカレーのような国民食でもある。

 中でも、仔牛肉を使ったシュニッツェルは【ヴィーナー・シュニッツェル】と呼ばれている。

 

「今夜のシュニッツェルは、奥様が直々にお作りになられたものでございます」

「なんと…お母様が?」

「はい」

 

 カスペンの傍に控えているエターナが、一歩だけ前に出てから教えてくれた。

 それを言われて、エリスは少しだけ恥ずかしそうにしている。

 

「久し振りに作ったから、変になってないといいんだけど……」

「そのご心配は無用かと。私達から見ても、奥様の手際は見事の一言でした。コック長も『これなら、自分達がクビになっても大丈夫そうだな』と言っていましたし」

「クビにする気なんて全く無いのに……」

 

 カスペン家直属のコックは、その腕前だけでなく、その中身も重視されていて、マークとエリスが直々に選抜した人間達ばかりだ。

 それ故に、この屋敷の全員が全幅の信頼を置いている。

 

「お母様のシュニッツェルか……懐かしいな……」

 

 ふと昔を思い出すカスペン。

 まだ彼女が幼かった頃は、この家もここまで大きくなく、よくエリスが料理を作っていた。

 

「エリスの手料理か。これは食べるのが楽しみだ」

「そうですね。お父様」

 

 嬉しそうに笑いながら、家族は静かに食事を始める。

 ナイフを器用に使ってシュニッツェルを切り分け、それを口に運んでからゆっくりと咀嚼する。

 

「美味しい……お母様の味だ……」

「ヘルベルト……」

 

 その一言だけで泣きそうになる。

 このところ、お互いに会う事も困難だったが故に、こうして娘が自分の作った料理を食べてくれて、しかも『美味しい』と言ってくれた。

 母親として、これ以上に喜ばしい事は無かった。

 

「お嬢様! お嬢様! そのシュニッツェルは私も手伝ったんだよ!」

「え? クレアが? 本当に?」

 

 クレア・ヒースロー。

 カスペン家に仕えるメイドの一人で、生粋のアニメ&マンガ&ゲームオタク。

 日本が大好きで、彼女の部屋には日本の漫画やゲームやアニメのポスターなどが大量に置いてある。

 噂では、休みの日に日本まで赴いてコミケにも参加しているとかなんとか。

 

「その通りよ。貴女が思っている以上に手先が器用だったわ」

「でしょでしょっ!? これこそまさに『おあがりよ!』って感じよね~!」

「なんだそれは……」

 

 また知らない知識を出された。

 そんなクレアを、横にいたクールな青い髪の女性が嗜めた。

 

「調子に乗りすぎですよ。少しは大人しくしなさい」

「はーい。ごめんね、ニキちゃん」

「私に謝ってどうするんですか……」

 

 ニキ・テイラー。

 メイド達の中の古株の一人で、実質的なナンバー2。

 冷静沈着で実力も確か。

 何気にカスペン家の縁の下の力持ち的な存在だったりする。

 

「そうだよクレア。少しはマリア姉さんを見習いなよ」

「ちょ…ちょっと、シェルド。どうしてそこで私を引き合いに出すのよ……」

「うえ~ん…シェルド君が私を苛める~」

 

 男女で並んでいる二人。

 メイドの方は『マリア・オーエンス』といって、執事の方は『シェルド・フォーリー』という。

 なんでシェルドがマリアの事を『姉さん』と呼んでいるのかは謎。

 

「そういえば、去年から教官として基地に滞在している織斑千冬さんはどんな感じだ? ちゃんと馴染めているか?」

「そうですね。最初は文化の違いなどに悪戦苦闘していましたが、一ヶ月もすれば少しずつ慣れていったようです。今ではもうすっかりドイツでの生活が身についているようです」

「それは良かった。最初に聞かされた時はどうなるかと思ったが、ヘルベルトがそう言うなら大丈夫なんだろう」

 

 ホッと胸を撫で下ろしながら、マークはケーゼシュペッツレを口に運ぶ。

 この『ケーゼシュペッツレ』とは、細く伸ばしたパスタに、溢れ出そうな程のチーズをかけて焼いた一品で、レストランや各家庭などで使用するチーズは異なるが、基本的には濃厚なチーズと柔らかく茹でられたパスタの相性は抜群だ。

 

「教導の方はどうなの?」

「そちらの方も問題ありません。正直な話、最初は私も色々と心配をしていましたが、すぐにそれが杞憂であると思いました。粗削りながらも、私では決して届かない場所に手を伸ばしてくれて、隊員達はメキメキと実力をつけていきましたよ」

「ヘルベルトがそこまで言うのなら、私も一度、千冬さんの教導の様子を見てみたいわ」

「お母様が言えば、すぐに許可は下りると思いますが……」

「そうなの? なら、試しにカーティス司令に頼んでみようかしら?」

「あんまり彼を困らせるなよ?」

 

 仕事の話などは一切せず、最近の身の回りで起きたことや、自分の友人たちの事などを楽しげに話していくカスペン。

 彼女がここまで饒舌なのは本当に久し振りだった。

 

 そうして、娘の話を嬉しそうに聞いている両親の笑顔と共に、食事は進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 食事が終わったら、今度はバスタイムに突入する。

 

 基本的にドイツのバスルームはトイレやシャワーが一緒になっているパターンが殆どなのだが、カスペン家のバスルームはかなりの大浴場なので、そんな事は無い。

 

 更に、ドイツ人は殆ど湯船に浸かることはなく、大抵はシャワーで済ませてしまう。

 ドイツ人にとってバスタブに体を入れるというのは、本当に特別な事なのだが、今回の場合はその『特別な場合』に該当しているようだ。

 

 他にもドイツの風呂に関する事を言っていけばキリがないのだが、ここでは敢えて省略することにする。

 気になったら、各自で調べてみる事を推奨する。

 

「ふぅ……」

 

 これまた、無駄に豪華な大浴場の端っこで、カスペンが一人で湯に浸かっている。

 普段はポニーテールにしている髪も、今はタオルで頭の上に纏めている。

 その雪のように白い肌に少しだけ汗が滲み、湯の中へと落ちていく。

 

「ここに入るのも本当に久々だが……」

 

 周りを見渡すと、そこには黄金で形作られているマーライオンがあり、その口からお湯が出ている。

 何故にマーライオン?

 純粋な疑問が浮かんだので、試しにマークに聞いてみたところ、こんな返答が帰ってきた。

 

『なんかカッコいいから』

 

 意味が分りません。

 美意識は人それぞれだと言うが、少なくとも、父から美意識だけは遺伝しなかったようだと密かに安心したのは昔の話。

 

「もう少し落ち着いたデザインには出来なかったのだろうか……」

 

 それは、暇な時にでも父親に直訴して欲しい。

 

「ん?」

 

 改めて我が家の大浴場に呆れていると、いきなり大浴場の入り口が開く音が。

 誰かと思って振り向くと、そこにはバスタオル姿のエリスが立っていた。

 

「お…お母様っ!?」

「偶には母娘水入らずと思って。ダメ…かしら?」

「別にいいですよ。入る場所なら沢山ありますから」

「それもそうね」

 

 優しく微笑みながら、エリスはバスタオルを取ってから湯船に入り、カスペンの隣に来た。

 15の娘がいるとは思えない程にエリスの体は美しく、未だに10代でも通用するんじゃないかと思ってしまう。

 前に一度だけエリスと一緒に外出をしたことがあったが、その時は普通に姉妹に間違えられた。

 

「こうして、ヘルベルトと一緒にお風呂に入るのは何年振りかしらね……」

「よく覚えていません。かなり幼い頃の話ですから」

「それもそっか……」

 

 そこで会話が途切れる。

 母娘は沈黙の中で湯に浸かっていた。

 

「ねぇ……」

「はい?」

「ヘルベルトは、どうして『亡霊』との戦いに固執するの?」

「…奴らが危険だからです」

「危険?」

 

 いきなりの踏み込んだ話に少しだけ動揺してしまったが、すぐに冷静になって返事をする。

 

「私は知ってしまった。奴らの恐ろしさと危険性を。そんな連中に私よりも先に真っ向から立ち向かった、勇気ある友たちのことを」

「前に話してくれた、日本に住んでるって子達の事ね?」

「はい。彼女達は、『大切な友人を守る』という理由で、海を越えてドイツの地までやって来て、亡霊達と戦いました。彼女達が立ち上がったのならば、私も同じように立ち上がらなければいけない」

 

 あの時の事は、今でも昨日の事のように覚えている。

 時空と世界を越えて再会出来た友人たちと顔を合わせた時の感動と、その彼女達と相対した連中がどれだけ強大で凶悪な存在であるかを知った時の焦燥と決意。

 奴らと戦い、倒す事が自分の、自分達の使命であり、生まれ変わった理由であると、不思議な確信があった。

 そうと決めた以上、後はもう真っ直ぐに突き進むだけ。

 

「御心配なく。この世の全ての闇を払う…とまでは流石に言いませんが、少なくとも、この世界で最も巨大な『闇』ぐらいは、私達の代で消してみせますよ」

「……ごめんなさい……貴方達に全てを背負わせるような真似をさせてしまって……」

「お母様……」

 

 涙声になりながら、エリスがそっと後ろからカスペンの事を抱きしめる。

 久々に感じる母の温もりに、自然とカスペンの顔も緩んだ。

 

「別に、私達で全てを背負うつもりはありませんよ。母上と父上には銃後の守りを頼みたいと思っていますから」

「そう…ね。私達には私達にしか出来ない事があるものね……」

「その通りです。でも……」

 

 そっと振り向いてから、カスペンはエリスの涙を指で拭って、自分からも抱き着いた。

 

「全ての戦いに決着がついた時は、娘らしく、思い切りお母様とお父様に甘えてさえせて貰います」

「ふふ……その時が楽しみだわ」

 

 その後、エリスがカスペンの頭や体を洗ってあげるというキャッキャウフフな事が起きたりもしたが、その光景は諸君の想像にお任せする。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 ハーゼ隊基地 隊員寮内の一室。

 

「い…今…なんと仰いました?」

 

 千冬が携帯を耳に当てながら、冷や汗を掻いていた。

 その顔はいつにも増して引き攣っていて、携帯を握る手が震えている。

 

『聞こえなかったのかね? ならば、もう一度だけ言ってやろう』

 

 通話の相手は偉そうな口調で、はっきりとソレを口にした。

 

『ドイツから帰国し次第、君にはIS学園の教員になって貰う』

「ふざけないで頂きたい!! 私がIS学園の教員? 出来るわけないでしょう!! 私は教員免許も持ってないんですよっ!?」

『知っている。教員免許ならば、仕事をしながら勉強して取得すればいい。天下のブリュンヒルデならば楽勝だろう?』

「無理難題を言わないでください!! ブリュンヒルデは万能の人間じゃない! 単なる称号なんですよっ!?」

『そんなのは知っている。だが、君の場合は違いだろう?』

「な…何を言って……」

 

 急に雰囲気が変わり、流石の千冬も動揺を隠せない。

 

『【織斑計画】』

「!!!!!」

『その、唯一無二の成功体であるお前ならば、その程度の事なんて苦も無く行える筈だ。違うか?』

「…………っ!」

 

 自分にとって、最も忘れたい過去。捨てたい記憶。

 それが、今になって襲い掛かって来た。全く予想しない形で。

 

『それに、勘違いをしているようだから一言付け加えさせて貰おう』

「何を……」

『これは『命令』ではない。『決定事項』なのだよ。今更、何を言っても決して覆る事は無い』

「お前は……!」

 

 何が何でも、自分の事を縛り付ける気か。

 悔しさの余り、唇を噛んで血が出てしまう。

 

『では、君が戻ってくる日を楽しみに待っていよう』

 

 言いたいことだけを言って通話は切れた。

 思わず千冬は、ベッドの上に携帯を投げてしまった。

 

「ふざけるな!! 私の事をなんだと思っているんだ!!!」

 

 抑えられない怒りを少しでも小さくするために、千冬は予め買っておいた缶ビールを開けて、一気に飲み干す。

 

「クソッ…! 私は…お前達のオモチャじゃないんだぞ……!」

 

 その呟きは、誰にも聞かれる事無く消えていった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「ククク…! これで私の地位は増々安泰だ…!」

 

 小さくほくそ笑む男の後ろに、一つの人影が出現する。

 影が深くて、それが誰なのかは全く特定できない。

 

「私の大切な『新しい孤児院の仲間』に対して、随分な事をしているな」

「え?」

 

 その声を聞いて、慌てて後ろを振り向く。

 すると、男の顔が一瞬で青褪めて、大きく目を見開き、全身に汗を掻いた。

 恐怖の余り、椅子から転げ落ちて尻餅を付いたまま後ずさりをする。

 

「あ…ああああああああああああああ貴方様はっ!!? ま…まさかっ!?」

「言い訳は聞かない。慈悲も無い」

「き…聞いてください! これは少しでも多くの優秀なIS操縦者を生み出す為に必要不可欠なことで……」

「それは決して、彼女の人生をお前の玩具にしていい理由にはならない。それと……」

 

 超絶的な殺気が男に襲い掛かる。

 それだけで、人一人を殺せそうな程に濃密な殺気が。

 

「言い訳は聞かないと言った」

「あ…あ…あ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 IS委員会の幹部の一人である男が、自宅にて変死体となって発見された。

 死因は不明で、恐らくは窒息死なのではないかと考えられている。

 事故なのか、他殺なのか、それとも自殺なのか。

 それすらも全くの不明で、それからどれだけの月日が経過しても全く解決できず、完全な迷宮入りと化したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もうそろそろ、本気でドイツ編も終わりかな~。

本当に…本当に長かった……。
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