インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
軽い日射病になった挙句、意識が朦朧とした途端に階段から転げ落ちる始末。
頭と腰がめっちゃ痛いです……(泣)
「まさか、教官の部屋の掃除が最後の訓練になるとは思ってませんでしたよ……」
「本当に済まない……」
基地内にある隊員寮。
その一室で、カスペンと千冬が額に汗を掻きながら立っていた。
カスペンは心身共に疲れ果てたと言った感じで、一方の千冬は非常に申し訳なさそうに俯いていた。
「よもや、たった一年であんな事になっているとは……」
「よく、弟やデュバル達にも言われている……。『何をどうすれば、こんな事になるんだ』と……」
「心中お察しします……弟さんと彼女達の」
「うぅぅ……」
最後の最後に何とも情けない姿を晒してしまった。
というのも、今日が千冬のドイツ滞在最後の日で、今日の昼をもって全ての仕事が終了し、日本へを帰国することになっているのだ。
それと同時に、カスペンも一緒に日本へと渡り、IS学園へと向かって編入の手続きを済ませる手筈となっている。
もう既にこっちである程度の事は終わらせてはいるのだが、学園に直接赴いて書かなくてはいけない書類も少なからず存在しているので、こればかりは仕方がない。
どっちにしてもいずれは日本に行くのだから、カスペンからしたら都合が良かった。
で、もうすぐここを去るに際して、まずしなくてはいけない事は今までずっと暮らしていた部屋の片づけ&掃除である。
だが、これがこれまでで一番の難関だった。
部屋の中はカスペンやラウラ、他の隊員達が想像している遥か上を行く散らかりっぷりで、隊員だけではなくて基地内の人間総動員をし、更にはアレクやモニク、ヒデトも駆り出される程の規模になった。
それが三日ほど続いて、ようやく部屋は一番最初の状態に戻った。
最後の仕上げはカスペンと千冬でしたのだが、それでカスペンの女子力の高さに愕然とし、同時に女としての自信が地味に喪失しかけた千冬だった。
「大佐の方の荷物は大丈夫なのか?」
「勿論。一ヶ月ほど前から着々と進めてきましたから」
「うぐ……!」
足元にあるバッグを持ち上げて、自分の荷物をアピールするカスペン。
教官&年上としての威厳、丸潰れである。
「……短いようで長い一年間だったな」
「そうですね。貴女がドイツに来たのがついこの間の事のようです」
最初は半ばなし崩し的な感じでやって来たドイツの地だったが、終わってみれば中々に有意義な一年間だった。
様々な出会いがあり、沢山の新しい経験をし、色んな事を考える時間が生まれた。
終わってみれば、千冬にとってはこの一年間は、これまでの人生の中で最も濃密で刺激的な一年間だった。
きっと、これから先どれだけの月日が経っても、このドイツの地で過ごした一年間の事は絶対に忘れないだろう。
結果として、千冬にはとてもいい思い出がまた一つ増える事となった。
「では、そろそろ行きましょうか」
「そうだな……」
名残惜しく感じながら、千冬は今まで世話になった部屋の扉を閉めた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
寮を出てから基地に戻ると、そこにはハーゼ隊を初めとした基地内の人間が勢揃いしていた。
「終わったかね?」
「はい…なんとか」
「それはなにより」
カーティス司令が案視したように頷く。
かくいう彼もまた、千冬の部屋の惨状に腰を抜かした人間の一人だったりする。
「千冬くん。今まで本当に世話になった。ありがとう」
「いえ。こちらこそ、普通ではとても得難い経験をさせて頂きました」
最後にカーティス司令と千冬が握手を交わす。
少しクるものがあったのか、千冬の目が潤んでいるように見えた。
「お前達! 私の教えたことを忘れずに、これからも訓練に励めよ!」
「「「「「はい! 織斑教官!!」」」」」
数多くの訓練を通じ、ハーゼ隊と千冬の間にも確固たる絆が生まれていた。
特に、ラウラの見せる表情は、最初にあった時とは別人とも言えるほどに明るくなっている。
「おいおい。オレ達もいる事を忘れんなよ」
「お前達も来てくれていたのか!」
隊員達の後ろからやって来たのは、アレクとモニクとヒデトの三人。
どうやら、彼女達もカスペン達の見送りに来てくれたようだ。
「アンタと会えた事はいい思い出になったよ」
「こっちこそな」
非常に高い確率でまた会う可能性があるが、それをまだアレク達は知らない。
「日本に戻っても、どうかお元気で」
「そっちもな」
酒さえ飲み過ぎなければ大丈夫だろう……多分。
「前に貰ったサインは家宝にするッス!」
「そ…そうか」
お前は少しは空気を読め。
ここでカスペンが千冬に耳打ちをする。
(前に聞かされた、貴女がIS学園で教師をするかもしれない話…まだしていないのですか?)
(いや…中々に話す機会が無くてな。ならばいっそのこと、このまま黙っていて、再会した時に驚かせるのも面白そうだと思ってな)
(確かに……)
何気にお茶目な一面がある二人であった。
「ところで、マイ技術中尉はどうした?」
「あいつ、今日も家の用事で来られないそうなんですよ。マジで残念がってました」
「本当に間が悪いわよね……」
「そーゆー星の元に生まれたんだろ」
本当は単純に『
「あら。どうやら私達が最後だったみたいね」
「そのようだな」
「え?」
めっちゃ聞き覚えのある声。
アレク達が来た方角とはまた違うところから、メイドと執事の集団と一緒に、ある夫婦が堂々とやって来た。
「お…お父様にお母様っ!?」
「愛娘が遠い異国の地に旅立つと言うのに、それを見送らない親がどこにいる」
「色々と理由をつけて、ここまで急いで駆け付けたの。皆一緒にね」
「みんなって……」
恐らく、屋敷にいるメイドと執事が全員集合しているのではないか。
思うわせる程の集団がそこにはいた。
「おぉ…君が織斑千冬君か。娘がいつも世話になっていたな」
「本当にありがとう。貴女が来てくれたお蔭で、あの子の顔に少しずつだけど笑顔が戻ってきた。親として、どれだけ感謝してもしきれないわ」
「ど…どうも。ところでお二人は……」
「おっと。興奮の余り、自己紹介を忘れていたな。これは不覚」
千冬の手を取って握手をしていたが、当の本人は困惑するばかり。
ワザとらしく咳払いをして誤魔化してから、改めて自己紹介をした。
「初めまして。ヘルベルトの父の『マーク・フォン・カスペン』だ」
「同じく、母の『エリス・フォン・カスペン』よ」
「は…初めまして。織斑千冬です」
ずっと噂に聞いていたカスペンの両親。
ドイツ軍の重鎮にして、名家『カスペン家』の元当主。
本人曰く『超が付くレベルの親バカ』らしいが。
「本当は、もっと早くに挨拶をしたかったのだが、私達はお互いに忙しい身でね。結局、君が日本へと帰る日になってしまった。許してくれ」
「い…いえ! そちらの事情はご息女からも伺っていましたし、私は気にしていませんから!」
「そうか? そう言ってくれると、こっちとしても有り難い」
この夫婦。どう見ても15歳の娘がいるような見た目をしていない。
それどころか、千冬よりも年下と言われても違和感が無い程だ。
「お嬢様。日本での御武運を祈っていります」
「ありがとう、エターナ」
そして、このメイド&執事軍団である。
もう圧巻としか言いようがない。
「体調には気を付けてくださいね?」
「なぁに。お嬢なら大丈夫だって」
「ヘルベルトお嬢様。良い旅を祈っております」
「私はまたコミケに参加しに日本に行くかもだから、そこまで寂しくないかにゃ~」
「本当にさ…少しは場の空気って奴を読もうよ…クレアは……」
「それが彼女ですもの。今更、気にしてもしょうがないわ」
こんな時で、いつも通りの従者軍団。
だが、それが却って場の寂しさを紛らわしてくれた。
「大佐! 教官! 車の準備が出来ました! いつでも発車できます!」
「どうやら、時間が来たようだな」
カスペンは足を揃え、眼前にいる皆の顔を一人一人見つめていく。
そして、いきなり大きな声で叫び始めた。
「アレクサンドロ・ヘンメ大尉!」
「はっ!」
「モニク・キャデラック特務大尉!」
「はっ!」
「ヒデト・ワシヤ中尉!」
「はっ!」
「そして…ラウラ・ボーデヴィッヒ少尉!」
「はっ!」
名前を呼ばれた者達が次々と敬礼をしていく。
その姿勢は非常に綺麗で、まるでお手本を見ているかのようだった。
「私は一足先にIS学園へと向かう! そこで君達が来た時の準備を整えておくことを此処に誓おう!」
ここでカスペンも敬礼をした。
ほんの僅かではあるが、その手は確かに震えていた。
「故に、私は別れの言葉は言わずに、こう言い残そう!」
まるで、太陽のように眩しい笑顔を浮かべ、一筋の涙と共に言い放った。
「待っているぞ! 私の掛け替えのない『友』たちよ!」
「「「「はいっ!!!」」」」
名前を呼ばれた四人もまた、同じように涙を浮かべていた。
また会えると分かっていても、寂しいものは寂しいのだ。
「カーティス司令。皆をお願いします」
「任せておけ。貴官が帰る場所は私達が全力で守り抜く。君は君で、自分の使命を全うしなさい」
「了解です!」
今度は両親を初めとする家の者達へ。
「お父様。お母様。行って参ります」
「頑張れよ、ヘルベルト。俺達はいつでも、お前の無事だけを祈っている」
「いってらっしゃい」
「……はいっ!」
その後、用意された車に乗って基地を後にし、そのまま空港まで向かった。
道中、車内ではずっとカスペンは黙っていた。
彼女の心情を察し、千冬も敢えて何も言わず、窓を眺めている彼女の事を見つめていた。
「あれっ!? 私には全く触れてくれないんですかっ!?」
どこぞの変態な副隊長の事なんて、シリアスブレイカーになるだけなんでいりません。
「酷いっ!?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
空港に到着し、丁度良い時間だったので、すぐに出国手続きを済ませてから飛行機の乗る事に。
日本行きの飛行機はすぐに発進し、ここからは暫くの間、空の旅となる。
「……………」
自分の拳を見つめながら、カスペンはずっと俯いていた。
チケットを用意した者はかなり気を効かせてくれたようで、カスペンと千冬は隣同士の席となっていた。
(ここまでずっと準備をしてきた。ここからが本番だ。日本に渡り、IS学園へと入学し、そこで可能な限り戦力を集める。後は全ての準備が終わるまで、亡霊共が動き出さない事を祈るばかりだが……)
これからの事を考えて気を紛らわそうとしてはいるが、それでも別の感情が浮かんでくる。
それが何なのかはよく知っているし分かっている。
だが、これからの自分には不要な感情ということも理解していた。
(……いや、それはダメだな。感情をコントロールする事と、感情を捨て去ることは全くの別だ。私は…私達は、人間のまま、人間として勝利しなくてはいけないんだ。自分の感情を否定してはいけない……。フッ…私もまだまだ未熟だったということか……)
日本に着くまでまだまだ時間がある。
ここはダメ元で、隣に座っている千冬に頼んでみた。
「あの…少しいいですか?」
「どうした?」
千冬が振り向いた瞬間、カスペンは何も言わずに彼女の体に抱き着いた。
いきなりの事に驚きつつも、千冬は何の抵抗もせずに黙っていた。
「暫くの間でいいから……このままでいさせて……」
「いいとも。私などで良かったら、好きなだけ抱き着いているといい」
「ありがとう……」
カスペンの体が震え、自分の服が少しだけ濡れたことに気が付く。
それが彼女の流した涙だと言う事を理解するのに時間は掛からなかった。
僅かでもいいから慰めになればいいと、そっと彼女の頭を撫でた。
(私に妹がいれば…こんな感じだったのかもしれないな……)
実際、ドイツで過ごす間に、千冬はカスペンの事を実の妹のように思っている事があった。
自分がこの己の体に抱き着いている小さな少女に心を許していた事が、なんとも微笑ましく感じた。
結局、カスペンはそのまま千冬に抱き着いたまま寝てしまったが、そんな事は全く気にせずに、ずっと彼女の事を優しく抱きしめ返していた。
・・・・・
・・・・
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「情けない姿をお見せしました……」
「気にするな。寧ろ、私は大佐の普段は見れない一面を見れて嬉しく思っているよ」
「うぅぅ……」
関西国際空港。
無事に飛行機は到着し、そのまま二人は空港内へと降り立った。
機内から降りる際、なんでか本当の姉妹のように手を繋いでいたが。
荷物を受け取り、入国手続き等を全て済ませ、後は外に出るだけ。
あれからもずっと千冬にベッタリだったカスペンは、空港に入ったからずっと恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
千冬が心の中でそれに萌えたのは内緒だ。
「そうだ。今度は私の方から言わなくてはな」
「え?」
出入り口から外へと出て、青く晴れ渡った空を見上げつつ千冬は言った。
「ようこそ、日本へ」
次回、遂にドイツ編最終回。
その次の番外編を挟んで、遂に原作が始まる……。
ついでに、アンケートもマジで終わる。