インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
これから暑い時期に突入…するかと思いきや、なんだか涼しい始まりとなりましたね。
流石にこれは予想外。
何事も無く筆記試験が終了し、今は実技試験の真っ最中。
受験生達は別に用意されている部屋にて待機をし、番号が呼ばれた者から実技試験用に用意された簡易アリーナへと通され、そこにてIS学園から持ってきたISを装着し、試験官と1対1で試合をすることとなっている。
とはいえ、ここに来ている殆どの少女達はISに乗った事は愚か、一度も触れた事すらない、その目で直に見た事すら無いような者達ばかり。
学園側も、流石に素人にすらなれていない少女達に『試験官と試合をして勝利せよ』とは言えるわけも無く、実際にはISを起動出来た時点でほぼ合格は確定に等しいのだ。
そんな事とはつゆ知らず、まだ呼ばれていない者達は呑気に会話を楽しんでいた。
ごく一部の少女達を除いて……だが。
「へぇ~…姉貴が在学生で、それを追う形で受験をした…ねぇ……」
「やっぱり変……かな……」
「そんな事はねぇよ。なぁ?」
「あぁ。そこまで深く気にする必要はないさ」
端の方にあるベンチで、ソンネンとヴェルナーが先程の水色の髪の少女と仲良く話していた。
もう既にお互いに自己紹介は済ませていて、気が付けば行動を共にしていた。
この水色の髪の少女の名は『更識簪』という。
大人しい少女ではあるが、それが却って三人娘の母性をくすぐるのか、なんでか世話を焼くような事になっていた。
因みに、デュバルは今、廊下にある自販機に飲み物を買いに行っていて席を外している。
「オレ達だって、似たような理由で受験してるしな」
「そうなの?」
「まぁな。オレ達三人にとっての大恩人がいるんだが、前に会った時にその人がこう言い残したのさ。『IS学園で待っている』…ってな」
「その言葉を胸に、オレ達は今までずっと必死に頑張ってきた」
「そう…なんだ……」
まるで、青春ドラマのような出来事を、この少女達は実際に経験している。
事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだが、まさか目の前でそれを見せつけられるとは。
「今までって…いつからなの?」
「いつからって?」
「その…IS学園に行こうって決意をしたのはいつかな…って」
「中1の頃。12歳ぐらいの時だな」
「そんなにも早い段階から…?」
中学一年生と言えば、簪はまだ将来の事なんて微塵も考えていなかった。
明日の事さえも碌に考えていなかったと言うのに、彼女達はその時期から既に高校受験の事を念頭に入れて努力をし続けてきた。
それだけ、彼女達の決意が固いと言う証拠なのだが、それ以上に簪にはソンネン達が非常に眩しく見えた。
「……凄いんだね」
「そうかぁ?」
「そんなに大したことじゃないだろ?」
「ううん…そんな事ないよ……」
少なくとも、簪は中2の後半辺りに入って初めて高校受験の事を考え始めた。
それに比べれば、彼女達はとても立派で、だからこそ誰よりも合格して欲しいと思う。
「お~い。買ってきたぞ~」
「お? 帰ってきた……って?」
「なんか『おまけ』を連れてきやがった」
「あれって……」
四人分のホットドリンクを両手に持って帰ってきたデュバルの隣に、泣きべそをかいているダボダボの服を着ている少女が歩いていた。
「本音。君が言っていた『かんちゃん』とは、彼女の事か?」
「ふぇ……? あっ!?」
何かに気が付いたのか、少女は一直線に走ってきた…のだが、その速度が余りにも遅すぎたので、全く周囲の迷惑になっていなかった。
「がんぢゃ~んっ!!」
「本音っ!? どうしてデュバルさんと一緒にいるのっ!?」
簪の質問をガン無視して、本音と呼ばれた少女は簪の体に抱き着いた。
「さっき、私がドリンクを買いに行った時に自販機の近くで座り込んでいてな。余りにも不憫なので事情を聞いてみたら、『知り合いと一緒に受験に来たのはいいが、その知り合いとは別々の部屋で筆記試験を受ける事になってしまって、試験が終わった後に探したけれど、全く見つからないから途方に暮れていた』と言っていたんだ。それで、彼女の探し人の特徴を聞いて……」
「そこからデュバルは簪がその『探し人』なんじゃないかと推理をして、そいつをここまで連れてきたって訳か」
「そういうことだ。水色の髪なんて聞かされれば、余程の事が無い限りは一発で分かる」
「「確かに」」
普通に考えてもかなり珍しい髪色であることが、今回は幸いしたようだ。
「会えでよがっだよぉ~! がんぢゃ~ん!!」
「迷子の子供じゃないんだから…ほら、涙と鼻水拭いて」
「ん……チーン!」
完全に簪があやす側になっている。
意外とこれが、彼女の本来の姿なのかもしれない。
「ちゃんとデュバルさんにお礼言った?」
「そうだった! バルバル! 私をかんちゃんの所まで連れてきてくれて、本当にありがとう!」
「どういたしまして。……因みに、その『バルバル』とは私の事か?」
「そうだよ~。『デュバル』だから『バルバル』。可愛いでしょ?」
「可愛い……のか?」
「あんまり気にしない方がいいと思う」
「そ…そうか」
束からも渾名で呼ばれている彼女達だが、本音のセンスはある意味でそれを大きく上回っていた。
「簪。よかったら、オレ達にもそいつを紹介してくれないか?」
「うん、わかった。本音」
「は~い!」
すっかり泣き止んだのか、本音は普段通りの笑顔を取り戻して、ソンネンとヴェルナーに自己紹介をした。
「初めまして! 私は『布仏本音』だよ!」
「おう! こっちこそよろしくな! オレはデメジエール・ソンネンだ!」
「ヴェルナー・ホルバイン。よろしく」
「うん! よろしくね~! ネンネン! ホルホル!」
「ネンネン……」
「ホルホル……」
これまた斬新な渾名を頂戴した二人。
何気にデュバルが口を押えて必死に笑いを堪えている。
「ほ…本音っ!? ご…ごめんなさい! 昔からこの子ってば、色んな人に変な渾名をつけたがることがあって……」
「変じゃないよ~! 可愛いよ~!」
「そう思っているのは本音だけだから!」
「ぶ~!」
ぶー垂れている本音を余所に、渾名を付けられた二人は放心状態から我に返った。
「べ…別に気にしてねぇよ?」
「あぁ。中々に良いセンスをしてるじゃねぇか」
「そ…そう?」
「えへへ~…」
本当はなんじゃこりゃと思っているが、こうでもしないと収拾がつきそうにないので、仕方なく同意しておいた。
孤児院で子供達を世話していた時に身に付いたことだ。
「あれ? ネンネン…その足……」
「やっぱ気が付いたか。この会場で車椅子ってのは相当に浮くからな」
「あの…気に障ったのならごめんなさい。ソンネンさんは、今あってる実技はどうする気なの? 私もこんな言い方は嫌いだけど…その足じゃISは……」
質問している自分の方が心苦しくなる。
本当はこんな事なんて聞きたくはない。
けれど、これは非常に重要な事でもあるから、聞かずにはいられなかった。
「大丈夫だよ。心配すんな」
「「え?」」
重苦しい空気になりかけていたところを、ソンネンの明るい声がその空気を一瞬で掻き消した。
「車椅子に乗った状態じゃ通常のISに乗れない事なんてのは、オレ自身が一番よく分かってるさ」
「だよね…ごめんなさい……」
「だから、謝るなって。それに、こう見えてもちゃんと実技試験に対する『対策』はして来てるんだぜ? な?」
さっきから大人しく話を聞いていたデュバルとヴェルナーに同意を求めると、二人も自信たっぷりに頷いた。
「ソンネンの事に関しては心配は無用だ。確かに、普通に考えれば無謀極まりない事かもしれんが、だからこそ万全の用意をしてきた」
「ちっとばっかし評価基準が高くなるかもしれねぇが、ソンネンなら大丈夫だろ。寧ろ、コイツに当たる試験官に同情すらするね」
「「えぇ~…?」」
一体どうして、そこまで自信満々なのか。
流石の本音も戸惑いを隠しきれなかった。
「それよりも、筆記試験の方はどうだったよ?」
「思ったよりも楽勝だったな。勉強したところがまんま出ていた」
「見事にオレのヤマ勘が当たったな」
((本当は、そのニュータイプ的な勘を当てにしたとは言えない……))
今回の筆記試験は、三人共確かな手応えを感じていた。
事前に、ヴェルナーにくじ引きの要領で試験に出そうなところを教えて貰い、その問題が見事に的中したからだ。
伊達に機械よりも先にミサイルの接近を感知し、全弾回避という神業を成し遂げてはいない。
「でも、油断は禁物だ。ちゃんと帰ってから答え合わせをしないとな」
「分かってるって。最後の一瞬まで気の抜かない。常識だぜ」
「問題は、実技試験がどれぐらいの時間掛かるか…だな」
ここには相当な人数の受験生が来ていて、それらを一人一人実技試験していったら、時間が幾らあっても足りない。
だから、試験は複数人で、別々の簡易アリーナにて同時に行い、その時間もかなり短縮して行われる。
早い者では、試験開始から終了まで1分にも満たない者もいるぐらいだ。
『受験番号236番、237番、238番の方。試験の準備が整いましたので、すぐに簡易更衣室前まで来て下さい。繰り返します。受験番号……』
建物内に呼び出しのアナウンスが流れる。
それを聞いて、三人娘の表情が一気にマジモードとなる。
「どうやら、遂にオレらの出番のようだな」
「フッ……楽しみだな」
「柄にもなくワクワクしてやがる。久し振りだぜ…この感じはよ」
明らかに周りとは纏っている雰囲気の違う三人を見て、まるでモーゼのように人込みが向こうから勝手に避けていく。
「あ、そうだ」
「な…なに?」
「そのホットドリンク。まだ飲み終えてないから、オレ達が終わるまで持っててくれないか?」
「「う…うん」」
「ありがとな。んじゃ、行ってくるよ」
言う事だけ言って、三人は扉を開けて廊下に出て行った。
「なんか…迫力凄かったね……」
「カッコよかったね~……」
三人がいなくなっても、まだ胸ノドキドキが止まらない。
それ程までに、彼女達の放つ空気は異常だった。
「大丈夫…だよね」
「きっと大丈夫だよ、かんちゃん」
彼女達の合格を信じて、静かに三人の飲みかけのペットボトルを握りしめた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
試験会場の裏側。
ここでは、IS学園から派遣されている教員達が試験の様子をモニタリングしている。
「織斑先生。次の子達が来ます」
「そうか」
ここには当然、学園の教員である千冬もやって来ていた。
腕組みをしながら立っている姿は威風堂々といった感じだが、内心ではかなり緊張していた。
(なんで教員になってまだ一年足らずの私が、こんな重要な仕事を任されるんだ……!)
全ては千冬の過去の栄光が起因しているのは、本人もよく分かっている。
だからと言って、そう簡単に納得出来るものではないが。
そんな彼女の隣に立っているのは、現役時代の千冬の後輩にして、嘗ては日本の代表候補生も務めていた『山田真耶』。
彼女もまた、千冬と同様に過去の実績を高く評価されて教員になった。
「ん? あれは……」
モニターに映ったのは、千冬が実の妹のように溺愛している三人の少女達。
遂に彼女達の実技試験が始まると思うと、自然と顔がにやけてしまう。
「あれ? あの子達は……」
「どうした? 山田先生」
「いえ……次の子達…どこかで見たことがあるような気が……どこだっけ…?」
「???」
首を捻って必死に思い出そうとしてはいるが、全く思い出せる気配はない。
やがて、素直に諦めてからモニターの方に目を向けた。
「この子……車椅子で来てるんですね……」
「心配か?」
「当然です。身体的なハンデを抱えている以上、健常者の子達よりも合格ラインが高くなってしまうから……」
「確かにその通りだ。だが……」
自信に満ちた三人の顔を見て、千冬はほんの僅かに胸の中にあった心配を全て消し去った。
「あいつ等ならば問題は無い。何故なら……」
「何故なら?」
「私の大切な、自慢の『妹達』だからだ」
「えっ!?」
驚く真耶を余所に、千冬は笑顔を浮かべながらモニター越しにエールを送った。
(お前達ならば、必ず合格してみせるだろう。だから、私に見せてくれ。お前達の実力を。その覚悟を。あいつが……カスペンがお前達を待っているぞ)
久し振りに子供のように、今から始まる実技試験を楽しみにしている自分がいる。
なにせ、今までずっと片鱗だけしか見れなかった三人の力を、ようやく見る事が叶うのだから。
「ところで山田先生。次の試験官の一人は君じゃなかったか?」
「あぁ~! そ…そうでした~! 急いで準備しないと~!」
千冬に指摘されて思い出したのか、真耶は急いで部屋を後にしようとする。
そんな彼女の背中に向かって、千冬が背中越しに言葉を送った。
「山田先生。君があの三人の内に誰を担当するかは分からないが、これだけは言っておくぞ」
「な…なんですか?」
「年端もいかない少女だと思って油断をしていたら……逆に喰われかねんぞ? 誰と当たってもな」
「えぇっ!?」
なんとも不安を掻き立てる言葉を聞き、シュン…と猫背になりながら出て行った真耶。
それを見て、少しビビらせ過ぎたか? と、後でちょっとだけ後悔した。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
一方その頃。一夏はというと……。
「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な? ゆ・か・り・ん・と・ゆ・ゆ・こ・さ・ま・と・か・な・こ・さ・ま・と・え・い・り・ん・と・びゃ・く・れ・ん・の・い・う・と・お・り! よし! こっちだ!」
まだ道に迷いまくった末、神に縋って道を探索していた。
だが、そんな適当なやり方が上手くいく訳も無く……。
「……あれ? ここってさっきも来なかったか?」
織斑一夏のダンジョン探索はまだまだ続く。
簪に引き続き、今度は本音も早めに登場。
個人的には一期ヒロインズよりも好きなので、こうして早い段階で日の目を浴びる事に。
果たして、彼女は誰に懐くのやら?