インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
応援の言葉などを受け取って復活です。
別に止めたつもりではないんですけど。
筆記試験を終えてからの実技試験。
ソンネンは自身の愛機である『ヒルドルブ』を展開し、眼前にいるラファール・リヴァイヴを装着している試験官『山田真耶』をじっと見据える。
「はは……ははは……!」
「ど…どうしました?」
「いや…なんでもないよ。気にしないでくれ」
これからの事を考えると、思わず笑いが込み上げてくる。
別に真耶の事を馬鹿にしている訳じゃない。
寧ろ、彼女の事はかなり特別に見ていた。
(分かる…オレには分かるぜ。この女は間違いなく『強者』だ。他の連中は分からないかもしれないが、オレには…オレ達にだけは隠しきれない。はは……IS学園には、こんな連中がゴロゴロいやがるのかもしれないと思うと、それだけで今からワクワクしてくるじゃねぇか…!)
装甲越しに真耶の事を見ているソンネンだったが、彼女の目には真耶の後ろに自分の宿敵に姿が見えている。
まるで、ここまでやって来いと言わんばかりに。
(あぁ……分かってるさ。ここはまだ『通過点』にすぎない。大事なのはここからだ。これはゴールじゃねぇ。ここはスタート地点だ。今いるこの場所こそが、オレ達にとってのスタートラインなんだ)
装甲の中で汗ばんできた拳を握りしめ、自分の事を高揚させる。
(待ってやがれ。三年前以上に強くなって、今度こそテメェの喉元に食いついてやる!!)
ゴールは見えている。いや、三年前から既にゴールは見えていた。
後はただ只管に、我武者羅に、目指すべき場所まで向かって突き進むだけだ。
もう…迷いはない。
「ところでよ、少し気になった事があるんだけど」
「なんですか?」
「この実技試験って、一体何をどうすれば合格なんだ? いやな、一応の説明はちゃんと受けてるんだけど、どうも実感が涌かないって言うか……」
「そうですね。では、改めて説明します」
巨大な戦車に向かってISを纏った女性が説明をする。
傍から見ると、かなりシュールな光景だった。
「基本的に、ここを受験するのは今までずっとISに乗った事が無い子達ばかりなので、ISの起動に成功し、実際に搭乗して動かすことが出来た時点で合格はほぼ確実です」
「成る程。んじゃ、試験官がいる意味は?」
「受験する子達の中には、極稀にISの搭乗経験があったり、国の代表候補生だったりする子もいます。そんな子達を平等に試験する為に、私達がいるんです。普段は説明役で終わるのが大半なんですけどね」
「だろうな……アンタも難儀だな」
「あはは……」
前世ではソンネンも人に教える立場だったので、真耶の気苦労はかなり共感できた。
もし入学できれば、教師たちのいい相談相手になれるかもしれない。
「つまり、オレみたいな専用機持ちを試験する時の為に、アンタのような試験官がいるって訳か」
「そういう事です。それと、これは補足なんですけど……」
「なんだい?」
「えっと…ですね? さっきも言いましたが、ソンネンさんのような障害者の子も稀に受験することがあって、そんな時は通常時よりも評価基準が少し高くなっているんです」
「そりゃそうだろ。普通に考えて、健常者と一緒に授業を受けさせようってんだ。必要以上に能力を求められるのは自然の摂理だな」
「すみません……まるで、差別を助長するような事をしてしまって……」
「気にすんなって。この手の事にはもう完全に慣れっこだからよ。こちとら、5歳の頃からずっと、この体で生きてきたんだ」
「ご…5歳……!?」
随分と慣れた手付きで車椅子を動かしていたから、幼い頃から足が不自由だったのだろうと想像はしていたが、まさかそんなにも小さな頃からだったとは思わなかった。
これまでの人生でずっと、そのような人間が一人もいなかった事もあり、真耶は思わず絶句していた。
「そんな事よりも、とっとと試験を始めようぜ。この後も閊えてるんだ。早く終わらせないとな」
「そ…そうですね。では、これより実技試験を開始します」
真耶が両手で保持するようにしてアサルトライフルを装備し、それに対してソンネンは、その両手にIS用マシンガンを二丁装備した。
(流石にこのねーちゃん相手に『一発あれば十分だ』なんて台詞は吐けそうにねぇなぁ……!)
見た目が可愛らしい少女でも、その身に宿る魂は歴戦の勇士。
相手を姿形だけで舐めて掛かるなんてことは絶対にしない。
どんな相手も全力で、全身全霊でぶつかっていく。
それが、ソンネンなりの礼儀だった。
「さぁ……行くぜ!!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
別に油断をしていたわけじゃない。
どれだけ相手が不自由な体をしていても、その目から、全身から湧き出てくるプレッシャーが、目の前の少女が普通の人間じゃない事を教えてくれていた。
「いいじゃねぇか! そうでなくっちゃな!!」
「その巨体で、なんてスピードなの…!」
現在、二人はステージの周りを滑るように移動しながら、互いに銃を撃ち続けている。
汎用性に優れているリヴァイヴならば、どのような状況下でも常にこっちの期待に応えてくれる筈…だった。
だがしかし、現実はそう甘くは無かった。
確かに、リヴァイヴは優秀な機体だ。
決して他の機体と比べても極端に劣っている部分は無いだろう。
けれど、今の状況では、その『汎用性』が完全に足を引っ張っていた。
「重装甲と高機動…そして、高火力。陸戦限定ではあるけれど、現代では考えられないような超高性能機じゃないですか!」
「当然だろ! 寧ろ、これぐらいのじゃじゃ馬じゃないと、オレについては来られないんだよ!」
通常のISと比べても、かなりの巨体であるにも拘らず、その姿からは想像も出来ないような速度と機動を見せ、全く被弾する様子が無い。
それどころか……。
「まずはコイツを食らいな!
「危ないっ!?」
真耶のほんの僅かな隙を狙って砲弾を装填し、最高のタイミングで発射する。
咄嗟に体を捻って回避するが、その砲弾はアリーナの壁にぶち当たり、粉々に破壊している。
「うげ! これってもしかして弁償かっ!?」
「だ…大丈夫ですよ! こうなる事も想定した上で試験をしていますから!」
「マジか! 流石はIS学園! 太っ腹だな!」
歳相応な元気な声を出しながらも、ちゃんと次弾の装填は欠かさない。
この時になって初めて、真耶は部屋を出る前に千冬が言っていた言葉を正しく理解した。
(先輩が言っていた通りだ…! この子の技量は間違いなく、其処ら辺の代表候補生なんか比較にすることが烏滸がましい程に高い! どうして、こんなにも凄い子が今までずっと誰の目にも触れずに注目されてこなかったのかとか色々な疑問があるけど、そんな事を考えている暇も余裕も無い!)
凄まじい速度で移動しながらも、ちゃんとヒルドルブの主砲は真耶の方を向いている。
まるで、本物の戦車に狙われているような錯覚を覚えるほどに、ヒルドルブの威容は圧倒的だった。
(ヒルドルブ……確か、北欧神話に登場する主神オーディンの異名の一つだった筈……その意味は……)
戦 場 之 狼
(あれこそ正しく、戦場に降臨する鋼鉄の狼! 僅かでも隙を突かれれば、食われるのはこっちの方だ!)
足が不自由だから。車椅子だから。
それがどうした。だからなんだ。
目の前で大地を駆ける少女は、間違いなく『戦士』だ。
自分のハンデなんてものともしない。
そんなのなんて知った事か。
ソンネンのそんな言葉が、あの分厚い装甲の中から聞こえてきそうだ。
目つきを変えた真耶は、今まで一丁しか持っていなかった銃をもう一丁出してから両手で構える。
その瞬間、一気に真耶の動きが激変した。
「あはははは! ようやく本気になってくれたか! そんじゃあよ……こっちも遠慮しなくてもいいよなぁ!!」
戦車とは思えない程に滑らかな動きで急カーブをし、突如として真耶の方に突撃してきた。
巨大な鋼鉄の塊が高速で突っ込んでくる異常な光景だったが、真耶は冷静に状況を判断して右側に避ける。
だが、まるでそれを予見していたかのように、ヒルドルブの砲身が真耶の事を追いかけるようにして振り向いた。
「見破られていたっ!?」
「単なる勘だよ!」
などと言ってはいるが、実際には戦車兵としての抜群の観察眼と反射神経により、僅かな体の動きで真耶が次に動く場所を予想していたのだ。
「
「これはまさかっ!?」
瞬時にシールドを展開し、自分に向かって降り注ぐ弾丸の雨を防御する。
SEへのダメージは大幅に軽減できたが、命中時の衝撃が凄かった。
「キャァァァァァァァァァアッ!?」
たった一発でシールドはスクラップと化し、その表面には無数の小さな弾痕がついて煙を上げている。
「その見た目で…散弾を搭載してるなんて思いませんよ……」
「どんな相手が来るのか分らないんだ。あらゆる状況を想定して、色んな砲弾を用意しておくのは当たり前だろ?」
「御尤もです……」
操縦技術。戦術眼。状況判断能力。
機体の性能が高いのは当然だが、それ以上にソンネンの実力が化け物級だった。
間違いなく、今回の受験生たちの中でも最上級の逸材だ。
(これは……合格はまず間違いないかしらね……)
これ程の超天才少女。寧ろ、合格にしない方がおかしい。
もしも不合格になんてしてしまったら、世間から大ブーイングは避けられないし、IS学園にとっても非常に大きな損失だ。
「まだまだやれるだろ? 続き…しようぜ!」
「あ……はい! って…あれ?」
「ん? いきなりどうした……んあ?」
ここでいきなりのブザー。
それを聞いて、真耶が武装を解除した。
「時間切れです。これで試験は終了です」
「えぇ~っ!? マジかよ~!?」
「仕方ありません。他の子達も控えてますから」
「そりゃ…そうだけど……」
不貞腐れるように頬を膨らませながら、ソンネンは大人しくヒルドルブを待機形態である車椅子へと戻した。
「ぶ~! 盛り上がってきたって所なのに~!」
「機嫌直してください、ね?」
「う~……」
ちょっとだけ涙目になりながら、ソンネンは仕方なく頷いた。
先程までの戦士としての顔とは真逆の可愛らしい少女としての表情に、真耶は完全なギャップ萌え状態になっていた。
「か…可愛い…♡」
「ん?」
山田真耶。
生まれて初めて、歳下の女の子に本気で胸キュンした。
「と…とにかく、これで終わりですから、後はもう着替えて帰ってもいいですよ」
「了解だ。多分、向こうも終わってるだろうしな」
「向こう? もしかして、お友達と一緒に来てるんですか?」
「おう。同じタイミングで実技試験受けたからな。あいつ等の事だ。きっと同じようになってるか。もしくは、とっくの昔に終わらせてるかのどっちかだな」
「そ…そうなんですか……」
ソンネンと同レベルの実力者が、最低でも後二人いる。
そう思うと、なんだか複雑な気持ちになった。
「えっと……車椅子を持ち上げますね?」
「頼むわ。流石に自力じゃ上に登れないからな」
「はい! 任せてください!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「こ…これが…あの三人の実力か……」
モニター越しに試験の様子を見ていた千冬は、三人娘の実力に驚愕していた。
昔から、彼女達が超天才級の実力を持っているのは知っていたが、こうして実際に動く姿を見せられれば、嫌でも実感する。
あの子達は普通じゃないと。束と同類か。もしくはそれ以上の存在だと。
「ソンネンは、あの真耶とほぼ互角……いや、違うな。ソンネンは一度も本気で動いていない。真耶が本気になっても……」
ソンネンと真耶が映っているモニターの隣を見ると、そこには試験官に勝利したデュバルと、更にその隣にはISを解除したヴェルナーが両手を上げて喜んでいた。
「他の二人も、試験中は少しも本気を出していない。それでも、学園の教員を圧倒するとは……我が義妹ながら末恐ろしい連中だ」
これは、私じゃなくても合格を出すな。
優しく微笑みながら、千冬は三人の事を見ていた。
だが、その笑顔はすぐに崩壊することになる。
他ならぬ、実の弟のせいで。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「お? なんか見た事無い場所に出たぞ?」
迷いに迷った一夏は、ようやく見慣れない場所に出た。
と言っても、似たような廊下の果てに一枚のドアがあるだけなのだが。
「もしかして、ここが試験会場かっ!? って、ンなわけないか」
床に座り込んでから体を休め、今の状況をようやく冷静に考えてみる。
「そういや、なんで今まで誰にも会わなかったんだろ…?」
それは単純に、お前がスタッフ以外に入ってはいけない場所に迷い込んでしまったから。
そのスタッフは自分達の仕事に忙しく、奇跡的な確率で遭遇していないのだ。
ここまで来ると、逆に凄いと思えてしまう。
「取り敢えず、まずはあのドアに入ってみるか。誰かいるかも知れないし」
どっこいしょと立ち上がり、よろよろと歩きながらドアを開ける。
「邪魔すんで~。邪魔すんなら帰って~。なんちゃって」
謎の一人コントを繰り広げながら部屋に入ると、一夏の視界にある見慣れない物体が映り込んだ。
「え? あれって…もしかして……」
それは、女性にしか纏えない鋼鉄の鎧。
誰もが一度は憧れる空へと誘う翼。
「ア…IS……?」
ここから、本当の意味で物語が始まる。
久し振りの割にはいい感じに書けたと思います。
次回はいつになるかは不明ですが、近日中には更新予定です。