インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
けど、それとは別の場所で事態が動いていて……?
実技試験が終了し、再びピットに集合する三人娘。
ソンネンが車椅子を押していると、他の二人がこちらに気が付いて小走りでやって来た。
「おう! そっちはどうだった?」
「言うまでも無いだろう?」
「ってことは……」
「勿論! 楽勝だったぜ!」
三人で笑い合い、笑顔でハイタッチ。
ピットに来ていた他の受験者の少女達は、その反応を見てすぐに彼女達は確かな手応えを感じたのだと実感した。
「でもよ、そっちは楽勝だったかもしれねぇが、こっちはそうでもなかったぞ」
「そうなのか?」
「あぁ。オレに当たった試験官のねーちゃんなんだが……ありゃ、相当に強いぞ」
「お前が誰かをそんな風に言うのは珍しいな……」
別に自分以外の他人を見下しているわけではないが、元が軍人で、しかも教官だったという事もあり、普段から自分にも他人にも厳しい評価を出しがちなのだ。
「近接戦と遠距離戦と言う分野は違うけどよ、あれは間違いなく千冬の姉御と同格の実力者だぞ」
「千冬さんと同レベル…だと…?」
「マジかよ……」
「IS学園で教師もしてるって言ってた。あれは過去に代表候補生とかしてたに違いないな。しかも、相当上位にいたに違いない。もしかしたら、千冬の姉御の補欠とかだったのかもな」
「ふむ……IS学園の教師も中々に侮れない…ということか」
「だな。だからこそ、より一層、入学した時が楽しみなんだけどな!」
「もう合格した気でいるのかよ?」
「当たり前だろ?」
「気が早い立つめ」
「「「ははは……」」」
そうして雑談をしながら出口へと向かっていると、入れ違うように簪と本音がISスーツを着た状態で入ってきた。
「あ…三人共。終わったの?」
「ついさっきな。お前達は今からか?」
「そ~なんだよ~」
ISスーツを着ると、嫌でも体のフォルムが明確に現れる。
簪はともかくとして、本音のスタイルはどう考えても、少し前まで中学生とは思えない程だった。
「ど~したの?」
「「「いや…なんでもない」」」
体は女の子でも、中身はまだまだ男…のつもりだったが、本音の胸を見て何とも言えない複雑な感情を抱いてしまった三人。
それを見て、簪はすぐに三人が何を思ったのか理解した。
「三人共、そこまで気にしない方がいいよ。本音は別格だから」
「「「成る程」」」
「なにが?」
そんな考え方もあるのか。
簪の割り切り方に感心しつつ、そろそろ本格的に更衣室に戻る事にした。
「んじゃ、オレらは行くわ。二人とも、頑張れよ」
「「うん!」」
手を振りながら、三人はドアを潜って更衣室へと向かっていった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
更衣室で着替えを済ませながら、三人は今回の試験について盛り上がっていた。
「なんつーかさ、昔っつーか…前世? を思い出すよな」
「それってアレか? ジオン軍に入隊する時の事か?」
「あぁ。もう随分と昔のことだってのによ、今でも昨日の事のように思い出せるんだよな……」
感慨深く思い出に浸り、遠い眼で虚空を見つめるソンネン。
それを見て、デュバルやヴェルナーも同じ気持ちになった。
「私達もだよ」
「へ?」
「軍に入った時の事は鮮明に思い出せる。入ったばかりの頃は、コロニーのプールで訓練訓練の毎日だったな……」
「逆に、私はヅダのデータと睨みっこしながら、会社と本国とを行ったり来たりの毎日だったよ」
「そういや、オレもあの頃は毎日のように戦車に乗ってたな……」
三人それぞれに同じ軍にいながらも所属している部隊が全く違ったので、こんな機会でもなければ話す機会すらなかったであろう三人。
同じ艦に乗りながらも、奇妙な擦れ違いで出会う事が無かった、非常に数奇な運命を辿った者達。
しかし、今はこうしてここにいる。
そして、他にも同じ国で生まれて、同じ旗の元で戦った同志達がいる。
「合格…してるといいよな」
「大丈夫だ。やれる事は全てやったんだ。後は静かに結果だけを待とうじゃないか」
「そこまで心配はしてないけどな。行こうぜ」
互いに頷いてから、鞄を持って更衣室を後にする。
廊下に出て、先程の休憩スペースで簪たちを待つ事にした三人の後ろから、誰かが足音を立てながらやって来た。
「なんとか間に合ったか」
「わぉ……」
「千冬さん」
「おいおい…仕事の方はいいのかよ?」
「別に、私一人いなくても問題無いさ」
三人の元まで来たのは、仕事用のスーツを着た千冬だった。
余り見慣れない格好なので、微妙な違和感がある。
「こんな所まで来てどうしたんだい? まさか、口で直接、合否の通知でもするのか?」
「そんなわけないだろう。ここに来たのは普通に私用だ」
「ふ~ん…」
本当に何をしに来たのだろうか。
三人揃って小首を傾げていると、いきなり千冬が三人纏めて抱きしめた。
「うわぁっ!?」
「おっと?」
「おぉ~…」
突然の事にそれぞれのリアクションをしていると、千冬が今にも泣きそうな顔で微笑を浮かべた。
「お前達の雄姿は見させて貰ったよ……本当に強く、大きくなったな。お前達の事は幼い頃から知っているから、物凄く感慨深い。お前達三人は…私の自慢だ」
「そ…そうか……」
「て…照れますね……」
「えへへ……」
千冬にしては珍しい、ストレートな褒め言葉に柄にもなく照れる三人娘。
どれだけ精神が成熟していても、やっぱり褒められれば嬉しいものなのだ。
「特にソンネン。まさか、あの真耶をあそこまで追い詰めるとは思ってなかったぞ」
「ってことは、やっぱあのねーちゃんって凄い奴だったのか?」
「あぁ。彼女…山田真耶は私の後輩であり、嘗ては日本の代表候補生を務めていた。もし仮に、私がIS業界に足を踏み入れていなければ、代表選出はほぼ確実と言われていた程の実力者だ」
「道理でな。オレもそうだが、あのねーちゃんもイマイチ、実力を発揮できてないように見えた。多分、実技試験ッつー名目上、色々な制約もあったんだろうな」
「そこまで理解していたか……全く…お前って奴は♡」
「ちょ……やめろって~」
嬉しそうにソンネンの顔に自分の顔をくっつける千冬。
もう完全にシスコン状態になっていた。
それだけ、彼女が三人娘の事を溺愛している証拠でもあるが。
「ソンネンの場合は時間切れではあったが、あそこまで奮戦した上、デュバルとヴェルナーも余裕で勝利している。これは流石に身内贔屓になってしまうが…お前達ならば問題あるまい。口は固そうだしな」
三人の顔を寄せてから、周囲には聞こえないように小さく呟いた。
別に最初から誰もいないのだが。
「今回の試験…お前達三人はほぼ間違いなく合格だ」
「……マジで?」
「どれだけ頭の固い連中でも、お前達の実力を目の前で見せつけられて不合格を出すほど愚かでもあるまい。寧ろ、お前達ほどの才能の持ち主を放置しておくような真似は絶対にしないだろう」
「そこまで言われると…その…リアクションに困るな……」
照れながら頬を掻く三人の可愛さに、心の中で悶絶する千冬。
ここが試験会場だから良かったものの、もしもここが孤児院だった場合、彼女は間違いなく三人の事を抱き枕にしていただろう。
そんな幸せの時間を引き裂くように、千冬のスマホがいきなり鳴った。
「む…? 一体どこの誰だ? こんな無粋な真似をするのは……」
(((た…助かった……)))
あのままだと、本気で帰れなくなる可能性があった。
三人は密かに電話をしてきた人物にお礼を言った。
「もしもし? 誰だ?」
『私です! 山田真耶です!』
「なんだ山田先生か。私の大切な可愛い義妹達との逢瀬を邪魔しようとは、いい根性をしているじゃないか。帰ったら覚えてろよ」
『なんで着信早々に怒られてるんですか私っ!?』
完全なとばっちりである。
少なくとも、真耶は本当に何も悪くない。
「で、何の用事だ? 私の携帯に直接掛けてくるということは、何かあったのだろう?」
『そ…そうなんです! 大変なんですよ~!』
「何がどう大変なんだ。ちゃんと主語を言え。主語を。そして、落ち着け。深呼吸だ。深呼吸」
『スー…ハー…スー…ハー…』
「落ち着いたか?」
『は…はい。なんとか……』
「それで? 何が大変なのか話して貰おうか」
『えっとですね……信じられないかもしれませんけど……』
「言ってみろ。まずは聞かない事には判断のしようがないだろう」
『た…確かに。でも、私も未だに信じられないんですよ……だって、まさか……』
『迷子になって試験会場に迷い込んだ男の子が、搬入してあったISに触れて起動させただなんて……』
「………………は?」
一瞬、本気で千冬の表情が凍りついた。比喩でなく。
「お…おい? 千冬の姉御っ!?」
「し…しっかりしてください!」
「なんか凄い顔になってるぞっ!? 具体的に言うと、まるで小学生の書いた似顔絵みたいになってる!」
真耶が言った言葉が頭の中を反芻してグルグル回る。
男がISを動かした? しかも、試験会場に迷い込んで?
『お…織斑先生? だ…大丈夫ですか~?』
「だ…大丈夫だ。問題無い」
『それ、ある意味で一番言っちゃいけない言葉ですよっ!?』
千冬、自ら死亡フラグを立てる。
「な…何を言っている。決して私は取り乱したりなんかしていないぞ。この混乱を落ち着かせる為に、義妹達の胸元にダイブして、その匂いをクンカクンカしたいだなんて微塵も思っちゃいない」
「「「危ね―――――――――――――――――っ!?」」」
『全然、大丈夫じゃないんですけど――――――――っ!?』
混乱の余り、遂に普段から心の奥底に眠らせていた本心を暴露してしまった。
今後、千冬は彼女達から冷たい目で見られることだろう。
『と…兎に角、その男の子はこちらで保護していますので、早く戻って来て下さい』
「わ…分かった。それで、その男子の身元などは判明しているのか?」
『は…はい。生徒手帳を持っていたので、それで名前だけは……』
「その名前は?」
『織斑一夏くんと言うそうです。あ、今思えば、織斑先生と同じ苗字ですね』
「…………なんですと?」
千冬、再び小学生の書いた似顔絵になる。
しかも、今度はさっきよりも影が濃い。
「ちょ…さっきよりも酷い顔になってるぞっ!?」
「一体何が起きてるんだ…?」
全く状況が把握できていない三人娘が困惑していると、千冬がゆっくりとスマホから耳を離して、体を震わせながら三人の方を向いた。
「い…一夏が……」
「一夏? アイツがどうかしたのか?」
「あ…ISを動かしたって……」
「「「……はい?」」」
三人娘もまた、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔になって固まった。
「い…今…なんて……?」
「一夏が…ISを動かした…って……今…連絡が……」
「「「え――――――――――――――――――――――――――っ!?」」」
三人の叫びが、静かな廊下に大きく響き渡った。
はい、遂に判明しちゃいましたね。
果たして、一夏はどんな御叱りを受けるのやら。