インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
これでようやく消耗した体力を少しは回復できる……マジで。
男である一夏がISを動かした。
衝撃的な一報が入ってからも、試験自体は恙なく続いていった。
どのような理由があろうとも、大事な試験を中止する訳にはいかないから。
その代り、裏で密かにとある処置が行われていた。
まず、本来ならば現場監督として派遣された千冬を、緊急事態と言う事で仕方なく帰宅させることに。
なんせ、ISを動かした一夏は千冬の弟なのだ。
まずは姉弟で今後の事をキチンと話し合うべきだと判断された。
千冬の代理として、真耶が現場監督の任を引き継がれる事と相成った。
そして、その情報を最も近くで聞いていたソンネン、デュバル、ヴェルナーの三人もまた、千冬と一緒に帰る事にした。
本当は、簪たちが終わるまで待っているつもりだったが、今回は事情が事情なので、二人の携帯に謝罪のメールを入れておくことで一応の対処をすることに。
そうして、話の舞台は皆の大切な家である孤児院に移ることになった。
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「「「お~り~む~ら~く~ん?」」」
「帰って来て早々からめっちゃ怖いんですけどッ!?」
孤児院に帰ってきた直後、一夏は孤児院のロビーにて強制的に正座させられ、三人娘から鬼の形相で迫られていた。
「昔から色々とドジをする奴ではあったが、まさかここまでとは思わなかったぞ……!」
「つーか、何がどうなったら、ISを動かしちまう事になるんだよ?」
「ちゃんと説明をしやがれ」
「わ…分かってるって!」
少年説明中……。
「つまり? お前は受験会場で散々迷った挙句」
「目の前にあった扉に入って、其処にあったISになんとなく触ったら……」
「なんでかISが起動してしまって、其処を偶然にもやって来た係の人に見つかってしまったと……」
「そ…そうなんだ! いや、俺にも非があるのは分かるよ? でもさ、あんな所にISがあるだなんて誰も思わないだろ? ……って、あれ? 皆? 千冬姉? お~い?」
一夏の話を聞きながら、三人娘と千冬は眉間をピクピクと痙攣させながら、こめかみに血管を浮き出させていた。
「「「「一から十まで全部お前が悪いわ!!!!」」」」
「うわぁっ!?」
四人の同時口撃に思わず尻餅を付く一夏。
だが、その程度ではまだまだ終わらない。
「まず、どうしてあの受験会場で迷うっ!? 迷う要素なんて微塵も無かっただろうが!」
「あったって! こう…迷路みたいに複雑な作りになってて……」
「……一夏。まさかとは思うが、お前は『真ん中の道』に入っていったのではあるまいな……?」
「ま…真ん中? いや、あの時は緊張してたから良く覚えてないけど……」
千冬は、自分のスマホで撮影していた受験会場の館内見取り図を表示させて、それを一夏に見せつけた。
「これを見ろ。この右に行く道がIS学園の受験会場に続く道で、左が藍越学園の受験会場に続く道だ。この二つの道は全く同じ構造になっていて、そのまま真っ直ぐに進んでいけば、誰だって会場に行くことが出来る」
「え? じゃあ…俺が歩いてた道は……」
「あそこはスタッフしか入ることが許されていない道だ! 防犯用に複雑な構造になっていて、何も知らない奴が入ったら、まず間違いなく迷うようになってるんだ!」
「え―――――――――――――――――――――っ!!?」
まさかの真実。
一夏は完全にスタートから間違えていた事になる。
「そもそも、迷った時点でどうしておかしいと思わなかった?」
「いや……普通にそういう場所なのかと思って……」
「ンなわけあるか! IS学園ならまだしも、なんでごく普通の高校である藍越学園の受験会場が迷路みたいになってるんだよッ!?」
「ご…御尤も……」
「因みに、お前がいた場所が完全に違う場所だという事を証明する『証人』もいるぞ」
「証人っ!? 一体誰だっ!?」
「あの時、弾を初めとしたクラスの皆が複数名、同じ受験会場に来ていたんだ。皆は私達よりも早く会場に入っていたらしく、会う機会は無かったがな」
「帰る途中に弾からメールが来て、初めてそれを知ったんだ」
「そ…そうだったのか……」
三人娘の発言で、どれだけ自分が注意力散漫だったのか、改めて思い知らされた瞬間だった。
「というわけで、これよりその証人に電話を掛けようと思いますが、よろしいでしょうか。裁判長」
「よろしい。許可する」
「あれ? なんか急にロビーが暗くなって、いつの間にか千冬姉が裁判官のコスプレをしてるし、デュバル達もスーツなんか着てるの?」
いきなり謎の裁判空間に突入。
一夏の場所だけがスポットライトに当てられて明るくなっている。
「もしもし? 弾か?」
『お? ヴェルナーか? 急にどうした? 今日はIS学園の受験だったんじゃないのか?』
「それはもう終わって、今は帰って来てるよ」
敢えて、スピーカーモードにして一夏にもちゃんと聞こえるようにしてある。
弾の発言で、少しでも自分に情状酌量の余地がある事を祈りたい。
「それでだな、実は弾に聞きたいことがあるんだ」
『なんだよ、藪からスティックに』
「今日皆と行った藍越学園の受験会場だけど、迷ったりしたか?」
『はぁ? んなわけないだろ? そもそも、ちゃんと会場に行く為の案内板と係の人がいたし、会場までは真っ直ぐの一本道だったんだぞ? あんな道で迷うわけないだろ? 寧ろ、一体どうしたら迷えるのか教えてほしいぞ?』
弾の全く悪気のない言葉が、一夏の精神に着実にダメージを蓄積させていく。
彼が何かを言う度に、一夏は胸を押さえて苦しんでいた。
『けど、なんでそんな事を聞くんだ?』
「いや、ちょっとな。変な事を聞いて悪かったな」
『別にこっちは構わないけどよ……まさか、あの会場で迷子になった奴がいたのか?』
「うぐっ!?」
『まさか、そんなわけないよな~。あんな道、幼稚園児でも普通に行けるぞ?』
「ごはぁっ!?」
『…さっきから聞こえる声はなんだ?』
「気にしないでくれ。どこかの馬鹿が自分がしたことを顧みて勝手に苦しんでるだけだから」
『そ…そっか……』
「詫びって言っちゃあれだけど、また機会があればオレが釣った魚でも持っていくよ」
『おぉ~! それって、またヴェルナーの魚料理が食えるかもしれないって事だよなっ!? 蘭も母さんもじいちゃんも大喜びするよ!』
どうやら、五反田家は既にヴェルナーの魚料理によって胃袋を掴まれていたようだ。
彼女の見た目とスキルのギャップが魅力的に映っているのだろうか。
「それじゃ、またな」
『おう! またな!』
通話終了。
織斑一夏。完全KO。
「何か言い訳は?」
「ありまぜん……」
同姓の親友からトドメを刺され、最早ぐぅの音も出ない一夏。
正座をしたまま真っ白に燃え尽きていた。
「俺に弁護人はいないのか……」
「逆にいると思うのか?」
「思いません……」
今回ばかりは、自分でも擁護できないと自覚している。
「うぅ……なんでこんな事に……」
「それはこっちのセリフだ。なんでISを動かせたんだ?」
「俺が知るわけないだろ……」
「確かにな。千冬さん」
「あぁ。後で束に連絡してみるか」
「それが一番手っ取り早いな」
これで話は終わり……と思ったが、まだ締めが残っていた。
「では裁判長。判決をどうぞ」
「判決となっ!?」
「被告人『織斑一夏』……
「被告人っ!? しかも有罪かよっ!?」
「「「「当たり前だ!!」」」」
「デスヨネ―――――――っ!?」
裁判は終わった。
この瞬間、一人の男の運命が決したのだ。
「終わったかな?」
「院長さん。お待たせしました」
話が終わったタイミングを見計らって、院長と子供達がロビーにやって来た。
子供達は、床に正座させられている一夏を見つけて、すぐに面白そうな気配を察知して寄ってきた。
「一夏兄ちゃん。なんで床に座ってるの?」
「ちょ…ちょっとな……」
「また何かやらかしたんでしょ? この間も、うっかりとか言ってジャン姉さんの着替えを除いてたし」
「い…いや! それはだな……」
「ほぅ…? 後で詳しく話を聞こうか……!」
「なんか千冬姉の顔が鬼を越えて阿修羅と化してるんですけどっ!?」
被告人『織斑一夏』
孤児院の少女の証言により、更なる罪状が判明。
「それよりも、問題はこれからどうするかだろ」
「そうだな。経緯はどうあれ、一夏は男の身でありながらISを動かしてしまった」
「このままいけば、ほぼ確実に世界中の研究者連中がやってくるだろうな。一夏がISを動かしたメカニズムを解明しようとして」
「じょ…冗談だろ?」
「冗談で済めばどれだけよかったか……」
「マジかよ……」
先程とは打って変わり、完全シリアスな空気を出して説明する三人娘。
彼女達が真剣な顔をする時は、大半が本当に大変な時であると理解していた。
「千冬さん。ここはアレしかないと思うのですが……」
「デュバルの言う通りだな。もう選択肢は一つしかあるまい」
「え? え?」
姉とデュバルが互いに頷き合っている。
一体、何の話をしているのか皆目見当がつかなかった。
「一夏」
「な…なんだ?」
「IS学園に行け」
「…………ハイ?」
一瞬、千冬の言葉を正しく理解出来なかった。
IS学園に行け? 誰が? 自分が?
「あそこには一般の生徒への外部からの接触を禁ずる校則が存在している。たった三年間だけの場繋ぎだが、それでも現状を打破する為の時間稼ぎにはなるだろう」
「ちょ…ちょっと待ってくれよ! 俺がIS学園に行く? 冗談だろッ!?」
「冗談なわけあるか。今はもうそれしか方法が無い」
「で…でも、あそこって殆ど女子高みたいなもんなんだろっ!? そんな場所に男一人って……」
「その通りだ。だが、全く知り合いがいないという訳じゃないだろう?」
「え? それって……」
丁度、両隣にいたソンネンとヴェルナーの肩を叩き、二人の事を前に出した。
「IS学園にはこの三人もいる。私は教師という立場上、積極的な援助は出来んが、こいつ等ならば話は別だ。だろう?」
「あぁ。千冬さんの言う通りだ。何か困ったことがあれば、なんでも私達に相談しろ」
「ま……流石にそれぐらいは面倒見てやんねぇと可哀想か……」
「いつもの事な気がするけどな」
「おまえらぁ~……(泣)」
なんて頼もしい幼馴染達なのだろう。
少し情けない気もするが、我儘を言えるような立場じゃないので何も言わない。
「それにしても、一夏くんは本当に予想が出来ないねぇ~」
「それって褒められてます? 院長さん……」
「ははは……」
「なんか笑って誤魔化されたっ!?」
因みに、子供達は遊ぶのに夢中で彼女達の話をよくは聞いていなかった。
下手に知られたら間違いなく騒がしいので、ある意味で丁度良かった。
「取り敢えず、今話したことは私から学園の方に報告しておく。近いうちに正式な通知が来る筈だ。ということはだ……分かっているな? 三人共」
「「「うん」」」
「な…なんだ?」
瞬間、猛烈に嫌な予感がした一夏は、急いで立ち上がろうとするが、脚が痺れて上手く動けなかった。
それにより、満面の笑みを浮かべた三人娘から優しく肩を叩かれることになった。
「い・ち・か・くん♡」
「IS学園の入学式までまだそれなりの時間はある。だから……」
「その間に、たっぷりとISに関するお勉強をしような?」
「また勉強かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
結果、一夏は左右をヴェルナーとデュバルに挟まれて身動きできない形でソンネンの部屋まで強制連行されていった。
「千冬ちゃんはこれからどうするのかな? 学園に戻るのかい?」
「いえ。今日はもう休んで、明日の朝一で行こうと思います。今日は受験で忙しいでしょうから、こんな日に騒動を持ちこんだら、それこそ教員達が過労で倒れてしまいます」
「それもそうだ。ははは……」
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それから数日後。
世界中に衝撃的な緊急ニュースが流れた。
【前代未聞! 日本の男子高校生が受験会場にてISを動かす! その人物はなんと、あのブリュンヒルデの実の弟!】
その情報はネットを通じて瞬く間に広がり、日本中は愚か、世界各国にも拡散した。
例えばドイツ。例えば中国。例えばフランス。例えばイギリス。
そして、その情報は当然のように『彼女』の耳にも入ったわけで……。
「「ブ――――――――――――――――――――!!」」
束の移動式研究所。
その中でのんびりとお茶を飲んでいた束とクロエは、いきなりのとんでもニュースを見て盛大に茶を噴き出した。
「な…なんでいっくんがISを動かしてるのさ―――――――っ!?」
「もう本気で意味不明なんですけど……」
その後、千冬から一夏がISを動かした件について相談され、更に頭を悩ませた束であった。
そして、時間は経過し……春。
新たな季節と共に、少女達の新しい生活が始まろうとしていた。
完全なイレギュラーである一人の少年と一緒に。
次回、遂に三人娘達と一夏がIS学園に!
そして、もしかしたら…やっと技術屋が登場するっ!?