インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
何か、疲れさえも吹き飛ばすような衝撃があればいいんですけどね……。
三時間目が始まり、教壇には真耶ではなくて千冬が立っている。
どうやら、今度の授業は千冬が受け持つようだ。
いつも傍で見ていた人物の授業がどんな風なのか、純粋にそれが気になってデュバル達は表情には出さないが、内心ではワクワクしていた。
「三時間目の授業は、実戦で使用する各種装備の特性などについての説明をしていく」
装備の説明。
前世、今世の両方において既に幾度となく実戦を経験している歴戦の猛者である6人娘達からすれば今更な内容ではあるが、だからと言って決して軽んじたりはしない。
もしかしたら、自分達が持っている知識とは何か違う部分があるかもしれないし、そうでないとしても、念の為に何度も勉強しておくことは非常に大切な事だから。
「織斑先生。その前に、まずは『クラス代表』を決めたらどうですか? ほら、色々とあって、何にも話せてない訳ですし……」
「ふむ。それもそうだな。ここらで決めておかないと、このまま流れていきそうだ」
クラス代表?
なにやら聞き覚えのない単語に、全員が心の中で小首を傾げる。
「お前達にも解り易く説明をすれば、『クラス代表』とは普通の学校で言うところの『学級委員長』だ。クラス全体を引っ張っていくリーダー的な枠割を持つだけでなく、私を初めとした先生方と生徒達を繋ぐ連絡役をし、定期的に生徒会で開催される各種会議や委員会への出席。後は、少し先に開催される予定の『クラス対抗戦』に出場する代表選手も兼ねている」
千冬の説明で全員が理解した。
つまり、今から自分達の代表を決めるという事だと。
「因みに、先ほど言った『クラス対抗戦』とは、現時点での各クラスの実力の推移を図る為に開催されるもので、今の時点では余り大した差は無いだろう…『一部』を除いてな」
指摘された『一部』の少女達は一瞬だけ気まずそうな顔になって目を逸らした。
「だが、適度な競争心は同時に向上心も生み出す事になる。一度、クラス代表が決定したら、余程の例外が無い限りは一年間ずっと変更は無いから、そのつもりで。この辺は普通の高校と同じだと思うが」
ある程度の説明を終えてから、千冬は腕を組んでから教室中を見渡した。
「では、誰かいないか? この際だ。自薦、他薦問わないぞ」
そう聞かされて、黙っていないのが年頃の少女達。
特に何も考えていない様子で、一人の少女が手を挙げた。
「はいは~い! 私が織斑君を推薦しま~す!」
「織斑か。他にはいないか?」
「私も私も! 織斑君に一票!」
「私も賛成~!」
一人が挙げだすと、途端に流れに乗ってきて他の女子達も一斉に手を挙げて一夏を推薦しだす。
勿論、ヴェルナー達は一人も挙げていない。
「ちょ…俺かよっ!? 冗談だろっ!?」
当の本人が狼狽え捲る中も、次々と挙手からの一夏コールが続いていく。
このまま一夏に決定か?
そう思われた時、一人の少女が静かに手を挙げた。
「少し待ってくださいまし」
「オルコットか。どうした?」
さっきの休み時間に話しかけてきた少女…セシリアがそっと立ち上がり、鋭い目つきで周囲を見渡した。
「先程から皆さんは織斑さんばかりを推薦していますけど、その理由はなんですの?」
「そ…それは…織斑君が……」
「学園で唯一の男子だから……なんて下らない理由じゃありませんわよね?」
「ギク……!」
一人の少女に睨みを掛けると、そこから連鎖して一夏を推薦した全ての少女達が目を逸らす。
それを見て誰にも分るほどの大きな溜息を吐き、痛そうに頭を押さえる。
「ハァ……全く……愚かにも程がありますわ。そんな理由で勝手に推薦された彼の身になってくださいまし」
なんだか話が長くなりそうだが、場の空気的に何かを挟める感じではないので、皆が黙って聞いていた。
「周り中全てが男子の学校に、自分一人だけが強制的に入れられた挙句、自分が唯一の女子だからと言う理由だけで無理矢理にクラスの代表に選出される。もしもそうなった時、皆さんは何の文句も言わずに素直にその状況を受け入れられますの?」
「「「「「…………」」」」」
一夏を推薦した女子達が全員、俯いて何も言わない。
デュバル達はうんうんと頷き、ソンネンに至っては『よく言った!』と密かにセシリアに向けてサムズアップした。
「嫌でしょう? 私だって嫌ですわ。でも、皆さんはその『嫌な事』をつい今しがた、織斑さんにしようとしていたんですのよ? 自分がされて嫌な事を他人にするなんて、人として論外だとは思いませんこと? 下手をすれば『イジメ』と捉えられてもおかしくないんですのよ?」
「わ…私は別にそんなつもりじゃ……」
「発言した当人にそのつもりが無くても、受け取った方が『イジメ』と感じれば、それはもう立派なイジメですわ。特に、このご時世に性別に関するイジメがどれだけタブーなのか、ここにいる皆さんが知らないとは言わせませんわよ?」
完全な決定打。
もう誰もグゥの音も出ない。
「オルコットの言う事も尤もだな。ただ『珍しい』という適当な理由で選出された者をクラス代表にするわけにはいかん。織斑、お前からは何か言う事はあるか? お前はクラス代表になりたいか?」
「いやいやいや! 絶対嫌だし! ただでさえ皆よりも勉強が遅れてるのに、その上でクラス代表なんてやってたら確実に授業に着いていけなくなるどころか、落第しちまうって!」
三人娘との猛勉強である程度の知識は身に付いたが、それでも決して完璧とは言い難かった。
いかんせん時間が決定的に足りず、その不足した分の勉強をこれから必死にしていかなくてはいけないわけで、今の一夏にはクラス代表をするなんて余裕は全く無いのだった。
「というわけだ。今回は特別に織斑のクラス代表推薦を取り下げる事とする。分ったな?」
「「「「「は~い…」」」」」
セシリアに完全論破された少女達は、完全に意気消沈した表情で返事をした。
「しかしオルコット。そこまで言ったんだ。このまま終わり…という訳ではあるまい?」
「はい。私は私で、ある人を推薦しますわ」
「誰だ?」
「彼女です」
そうして指差したのは、自分の列の二番目にいる車椅子の少女だった。
「……オレ?」
「えぇ。私は、デメジエール・ソンネンさんをクラス代表に推薦しますわ」
「マジかよ……」
精神的に成熟しているので、派手に狼狽えたりはしないが、それでもまさか自分が推薦されるとは思っていなかったので普通に驚いた。
「理由を聞かせて貰おうか。どうしてソンネンを推薦する?」
「その前に一つ、クラスの皆さんに尋ねたいことがあります」
「なんだ?」
「皆さん……」
先程と同じ鋭い目つきで再びクラスを見渡す。
今度は何なのかと思いつつ、冷や汗を流しながら女子達はセシリアを見た。
「心のどこかで、車椅子に乗っているソンネンさんに対して変な視線を送ってなかったかしら?」
セシリアの一言を聞き、数名の女子が顔に冷や汗を掻いて余所を向く。
が、その変化を千冬は見逃さなかった。
「『どうして、車椅子に乗ってるのにIS学園にいるの?』『どうやって受験を合格したの?』『ズルでもしたんじゃないか?』『コネでも使ったんじゃないか?』……心のどこかでそう思っていたんじゃありませんこと?」
「「「「「…………」」」」」
何も言い返せない。
図星である何よりの証拠だった。
「確かに、ソンネンさんは車椅子に乗っている…足が不自由だというハンディキャップを背負ってはいますが、それでも立派に合格してここにいる。先程、少しだけですけど彼女と話をして感じました。ソンネンさんは決して不正などしていない。己の実力と努力によって、正々堂々と受験をし、合格を勝ち取っているのだと」
セシリアの演説に千冬や真耶、試験隊のメンバーや一夏、本音も満足そうに何度も頷く。
注目を浴びているソンネンは物凄く恥ずかしそうにしているが。
「ですが、どれだけ言葉で説明をしても、何も知らない人達にそれを信じさせるのは難しいでしょう。だからこそ、言葉ではなくて行動で示すべきだと判断したのですわ」
「というと?」
「ソンネンさんがクラス代表として活躍することで、学園の内外に知らしめるのです。例え、車椅子に乗っていても、ソンネンさんは立派に頑張っているのだと。体のどこかが不自由な人間でも、分け隔てなく活躍できるのだと」
セシリアの言っている事はとても正しかった。
実際、千冬や真耶も、ソンネンの問題については必ずどこかで解決しなければと考えていた。
健常者の少女達に囲まれている中、一人だけ車椅子に乗っているソンネン。
どうしても、彼女の事はどこかで特別扱いしてしまう事がある。
皆が皆、それに納得が出来る人間ばかりではないので、どうにかしてソンネンが皆と普通に過ごせるようにしなくてはいけない。
そう考えていた矢先のセシリアの発言。
これは、教師二人にとって非常に有り難い助け舟になった。
特に、ソンネンの事を大切な義妹として見ている千冬にとっては。
「勿論、全てを負担させるつもりはありませんわ。手伝える部分は喜んで手伝いますし、それは皆さんも同じだと思います」
意見を求めるように視線を向けると、それに反応して次々と見知ったメンバーが同調し始める。
「当たり前だ。その程度の事でソンネンの助けになるのならば本望だ」
「今更だッつーの」
「少佐の手伝いなら喜んでするわ」
「ボクもです。それで少しでも恩返しになるのなら」
「言うまでも無いよな」
試験隊メンバーは当然として、今世で知り合った者達も同じように頷く。
「幼馴染として助けない理由は無い。好きなだけ頼ってくれ」
「ソンネンにはいつも世話になりっぱなしだからな。ここらで借りを返しておかななきゃ男が廃っちまうぜ」
「私も~! 私もソンソンのお手伝いするよ~!」
ここまで言われれば、もう意見は覆せない。
クラス全体がそんな空気になりつつあるのだから。
「けれど、その前にまずはクラスの皆さんにソンネンさんが『大丈夫』だと証明する必要があると思います」
「具体的には?」
「そんなの、一つしかありませんでしょう? ソンネンさん」
「なんだ?」
「この私と、ISで試合をしていただけませんですこと?」
一瞬、クラスが騒然となった。
イギリスの代表候補生が、車椅子の少女に試合を申し込んだのだから。
「……お前、最初からそれが目的だったな?」
「はて? 何の事かしら?」
「しらばっくれやがって……良い性格してるぜ。お嬢様よ」
なんて言いつつも、ソンネンはニヒルに笑っていた。
結局はこうなるのかと。
なんて自分らしい。分かりやすい事だと。
「いいぜ。その『投げられた手袋』…喜んで受け取ってやる。同じ『イギリスの淑女』としてな」
「ソンネンさんの場合は淑女というよりは『ヤマトナデシコ』と言った方がしっくりきそうですけど」
「そうかぁ?」
幼い頃から和服を好んで着ていたせいか、いつの間にか周囲からは『和風美少女』の印象が強くなってしまったソンネン。
本人は全くそんなつもりはないのだが。
「織斑先生。勝手に話を進めてしまいましたけど、それでよろしいでしょうか?」
「構わんだろう。こっちとしても、早めにソンネンに試合をさせて、こいつの実力を学園中に思い知らせてやらねばならないと思っていたところだ。なぁ、山田先生?」
「そうですね。なにせ、ソンネンさんは実技試験の際に私を完全に圧倒してますから」
「「「「「えええぇぇぇぇぇぇっ!!?」」」」」
学園教師から、まさかの爆弾発言。
傍から見ると弱々しく感じる車椅子の少女が、目の前にいる先生に勝っている?
普通であれば、まず信じられない発言だったが、真耶が嘘をついているとは考えにくいし、千冬ならばもっと思えない。
つまり、それがソンネンがそれだけの実力を隠し持っている何よりの証拠だった。
「やっぱり…そんな事だろうと思いましたわ」
「綺麗な顔をして、その内側には『獣』を飼ってたって訳か。へへ……本当に…楽しい学園生活になりそうだよ」
もう止められない。
セシリアはソンネンのやる気に火を着けてしまった。
だが、彼女は全く怯まない。
それどころか、その『火』に向かって真っすぐと突っ込んでいくだろう。
「では、話は決まったな。特に反対意見も出なかったので、このままソンネンをクラス代表に決定する事とする。そして、ソンネンとオルコットの試合に関してだが……」
「今から一週間後の月曜日なんてどうでしょうか? あの日の放課後なら第3アリーナが使えた筈です」
「それが良さそうだな。ソンネン、オルコットの両名はそれぞれに準備を整えておくように」
「「はい!」」
「いい返事だ。では、改めて授業を始める。教科書の27ページを開け」
千冬の締めにより話し合いは終わり授業が開始されるが、ここでソンネンは自分の致命的なミスに今頃になって気が付いた。
(しまった! そういや、クラス代表云々に関することでオレってば全く何も言えてなかった!)
試合の事ばかりが頭に入って、いつの間にか自分がクラス代表に関する反対意見を言う事を完全に失念していた。
だが、今更になって思い至っても、もう遅いのだ。
後悔先に立たず。
セシリアにしてやられたと思いつつも、ゆっくりと教科書を開くソンネンであった。
最初のプロットの段階では、セシリアと試合をするのはソンネンではなくてデュバルの予定でした。機体の色繋がりで。
でも、そうするとソンネンの車椅子に関する問題がお流れになってしまう可能性があったので、途中でプロットを変えてソンネンにしました。
なんだかソンネンの出番が多いように思えますが、ちゃんと他のキャラ達の出番も用意していますのでご安心を。
というか、私自身が許せないので、絶対に何処かで用意します。