インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
めっちゃめちゃに緊張しましたけど、これからは普通に出来そうです。
今から届くのが楽しみです。
朝食を食べ終えた面々は、それぞれの教室へと向かって授業の準備をする。
それから少しして、担任である千冬と副担任である真耶が教室へと入ってきた。
「諸君、おはよう。本日も昨日と同様に座学をメインでやっていくのだが…その前に一つ、報告するべき事がある」
報告するべき事。
千冬らしくない仰々しい言い方を聞いて、彼女を知る者達はすぐにただ事ではないと悟る。
「織斑」
「は…はい!」
「政府からの通達でな、お前に対して特別に『専用機』を与えることになった」
「専…用機? それって確か……」
これまでの勉強内容を書きとめた、三人娘特製ノートを急いで開き、目的の場所を探す。
「あ…あった。これだ。えっと…『国家の代表や代表候補生、または企業のテストパイロットなどに対して特別に与えられる個人専用ISの総称。個々人に合わせて細かいセッティングがされていて、量産機とは一線を画す性能を誇っている高性能機であることが多い』…ですよね?」
「大まかな所はそれで間違ってはいない。お前にそれを教えてくれた三人に感謝しておくんだな。もしも何も教えて貰えていなかったら、お前は間違いなく、この場で恥を晒していたんだからな」
「う…うす」
実際、一夏は三人に対して非常に大きな恩義を感じている。
それは何も勉強だけの話ではなく、こうして男一人でIS学園に放り込まれてからも、以前と変わらない感じで接してくれているから。
それだけで、彼の精神的負担は大幅に減少している。
「今、織斑が説明をした通り、専用機とは本来、その実力や努力が認められた者のみが得ることが許される、ある種の『成果』の形と言える。だが、お前の場合は意味合いが全く違ってくる」
「意味合いが違う…それは、もしかして……」
「ほぉ…? どうやら、マイは一瞬で織斑が専用機を与えられる意味を理解したようだな。いや、マイだけではないな。他にも数名、同じように一瞬で理解した者がいるようだ」
勿論、ここで千冬が言っている『理解した者』とは、ソンネン達を初めとした技術試験隊のメンバーの事だ。
それ以外では唯一、セシリアだけが納得したように頷いていた。
「ではマイ。試しに説明してみせろ」
「分かりました」
千冬に指名され、オリヴァーがその場で立ちあがる。
彼女が何を言い出すのか、他の生徒達はドキドキしながら見守っていた。
「ボク…じゃなくて、私が察するに、一夏くんが専用機を与えられる理由は大まかに分けて3つあると思っています。まず一つは、彼が少しでも多くISの訓練が出来るようにする為。IS学園にも練習用の訓練機は配備されていますが、その数は限られており、しかも、その殆どは現在、上級生達が使用しています。入学したばかりの我々は使いたくても使えないのが現状です。私達ならばそれでも構わないかもしれませんが、彼の場合は違ってくる。世界で唯一無二の男性IS操縦者という立場上、嫌でも私達以上に『結果』を要求されてきます。それに伴い、少しでも一夏くんの訓練時間を増やす為に、特例として専用機が受領される事になった…ですよね?」
「大正解だ。では、他の二つは?」
正解と言ってはいるが、実際には千冬が想像している以上の答えを言ってきて、心の中で本気で驚いている。
少しだけ、オリヴァーの後ろに束の幻影が見えたのは内緒である。
「二つ目は、データ採取の為です。世界で全く前例のない貴重な存在である一夏君のデータを少しでも多く採取する為に、専用機を与えられるのでしょう。生体データに戦闘データ、取るべきデータはそれこそ山のように存在しますから。多分、その『専用機』にもデータ採取の為の装置が内蔵されているのでは?」
「そ…そうだな。確かに、そのような話は聞いている」
段々と教師としての立場が無くなってくる。
オリヴァー・マイ。技術屋としての本領発揮である。
「そして三つ目ですが、それは自衛の為です。IS学園にいる間は基本的には問題は有りませんが、一歩でも外に出れば話は違ってくる。いつ、どこから彼の事を狙っている人間がいるか分かりませんからね。本来ならば外でのISの使用は基本的に禁止になっていますが、実はこれには一つの例外が存在しているんです。それは『専用機所持者が外で命の危機に晒された時』です。この時だけ、専用機所持者は己の身を守る為に機体の装甲を部分展開することが特別に認められています。無論、武装を展開することは禁止されていますけど。自己防衛目的でISを外部で展開した場合、これは法律上『正当防衛』となります。彼の貴重性、重要性を加味して、多少のコストが掛かってでも一夏君を守る事を優先した結果、自己防衛用に専用機を与えることになった……ってところですかね?」
「そ…その通り…だ…」
もうお前が教鞭を取ればいいんじゃね?
そう思わずにはいられない程に、完全完璧な答えを言いきった。
文字通り、ぐぅの音も出ない。
「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~!!!!!!」」」」」
オリヴァーのまさかの答えに、生徒達全員が歓声を上げた。
中には立ちながら拍手をしている者さえいる始末だ。
「ちょっと! マジで何なの、あの子はッ!?」
「幾らなんでも凄過ぎでしょ!!」
「可愛くて頭もよくてスタイルもよくて…完璧か!? 完璧美少女かっ!?」
「よし! 何か分からない事があれば、絶対にマイさんに聞こう! うん!」
「これで一組は安泰じゃ~!!」
いきなりの湧き上がりに、目をパチクリをさせながら棒立ちになるオリヴァー。
本人からすれば、大したことなど何もしていないつもりなのだ。
彼女はただ、自分が思った事を口にしただけなのだから。
「相変わらずの技術バカだな……」
「フッ…それでこそだ」
「変わってないようで、逆に安心したよ」
三人娘は嬉しそうに微笑んでいた。
いつも、自分達の事を後ろから支えてくれた大切な友人の変わらない姿を確認できたから。
「マ…マイが全て言ってしまったが、要はそういうことだ。織斑、お前は決して実力を認められた訳でもなく、選ばれた訳でもない。全てはお前を守る為、お前のデータを取る為に与えられるんだ」
「それは、さっきのオリヴァーの説明でめっちゃ分かったよ……」
流石の一夏も、あそこまで懇切丁寧に教えられれば理解せざる負えない。
と同時に、これから先の勉強に置いて非常に心強い味方を得たと喜んでいた。
「説明ご苦労だった。もう座っていいぞ」
「はい」
皆から拍手をされながら、オリヴァーは恥ずかしそうに席に座った。
その仕草で更にファンを増やしたのは言うまでも無い。
「織斑先生」
「なんだ、デュバル?」
「一夏の専用機に関してですが、どんな機体なのかもう判明しているのですか?」
「あぁ。機体自体はまだ届いていないが、基本スペックなどの情報に関しては先に送られてきたからな。だが……」
「はい……」
「???」
なにやら頭を痛そうに抱える教師二人に、全員が小首を傾げる。
「まさか、とんでもない低スペックの機体が送られてきたのでは……」
「いや、そうではない。性能自体は非常に高かった。第三世代機なのだが、並の専用機よりも機体性能は高いだろう。だが…武装がな……」
「実は……」
なにやら凄く言い難そうにしている二人。
そんなにも武装が酷いのかと懸念していると、真耶が渋々といった感じで発表した。
「剣一本だけなんです」
「「「「「「……はい?」」」」」」
聞き間違いか?
思わず変な声が出てしまったが、真耶の顔色は全く変わらない。
「織斑君の専用機は、剣が一本しか装備されてないんです」
「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
そう叫んだのは、一番の当事者である一夏本人。
それ以外はポカ~ンと口を開けたまま呆けている。
「一体何を考えたのかは知らんが、あれではまともに試合なんて出来ん。熟練者ならばいざ知らず、まだ碌にISに乗った事も無いような素人に与えていい機体じゃない。どう考えてもミスチョイスだ」
「じゃ…冗談だよな? 今は剣一本だけだけど、後でちゃんと他の装備も使えるんだよな?」
「いや、データを見る限りでは、あの剣以外の武装は装備できないようだ」
「なんでやねん」
思わず一夏が関西弁になるのも無理はない。
常識的に考えても、剣一本だけで高速移動するISに肉薄しろなどと、狂気の沙汰ではない。
「お前は公式の試合などには出ない方がいいかもしれんな。出たら最後、相手の格好の的になるだけだ」
「いや…でも、頑張ればなんとかなるんじゃ……」
「では想像してみろ。目の前にはマシンガンやミサイルランチャー、バズーカなどを装備した相手がいて、相対する自分は剣一本だけ。一秒後には弾丸やミサイルの雨霰が自分に向かって降り注ぐ光景を」
「一瞬で蜂の巣ですね。分かります」
なんとか反論したかったが、千冬のプロならではの意見に完全論破されてしまう。
少し前までの脳筋な考えの一夏ならば『それでも!』とか言いそうだが、今の一夏は三人娘の手によって常識的な視野を手に入れているので、それがどれだけ無理で無謀な事なのかをちゃんと理解していた。
「もしも専用機の事で他に分からない事があれば、同じクラスにいる専用機持ち達に相談するといいだろう。幸い、お前の身近に沢山いる事だしな」
「俺の身近に……って、まさかっ!?」
反射的にグルっと後ろを向くと、そこには可愛らしい笑顔を浮かべながら手を振っているソンネンが。
更に、その後ろの席ではデュバルが『やれやれ』といった感じの顔をし、更に後ろではヴェルナーが良い笑顔でサムズアップ。
「……マジで?」
「マジだ」
「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」」」」」」
非常に貴重な専用機持ちが、あろうことか既に自分達のクラスに存在していた。
代表候補生であるセシリアが専用機を所持している事は知っていたが、まさか他にもいただなんて全く想像してなかった。少なくとも、他の生徒達は。
「これまでにも散々と世話になってるんだ。専用機持ちの後輩として、後で色々と聞いておけ。いいな」
「分かりました……」
自分の知らない所で色んな事が進み、同時に幼馴染達の知らない部分が見え隠れする。
何とも言えない気持ちになった一夏であった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
毎度御馴染み、いつものように皆を観察している篠ノ之束の移動式研究所。
束とクロエは、モニターの前で完全に固まっていた。
「なんですか…あの人は……」
「うわぁ~……」
クロエは本気でドン引きしていて、束は同類を見つけた喜びで目をキラキラさせている。
「束さまがもう一人いる! IS学園に金髪碧眼でゆるふわ系美少女な束さまの分身的な女の子がいます~!!」
「うん。言いたいことは分かるけど、そこまで言う?」
滅多に見られないテンションの高いクロエに引いてしまう束。
けど、束も同じように『自分と同じ感じがする』と思っているので、何にも言えない。
「データによると、あの子が『ビグ・ラング』の専属パイロットなんだよね……」
「オリヴァー・マイさん…でしたよね。あの人がカスペンさん達がよく言っていた『束さまと気が合いそうな技術屋』なんですね」
クロエも束の手伝いでビグ・ラングの開発を手伝っているので、アレがどれだけ巨大で強大なのか知っている。
だからこそ驚きを隠せない。
完成すれば、どんな戦況も根本から覆してしまう程の性能を秘めているから。
「けど…成る程って感じがするよ。確かに、あの子…オーちゃんとは物凄く気が合いそうだよ。スーちゃん達やソーちゃん達が『親友』って言う気持ちも分かっちゃうかも」
「傍から見ていると、とても可愛らしい女の子に見えますけどね……」
「人は見た目じゃ判断できないよ。あの子達がいい例でしょ?」
「そうでしたね。ソンネンさんやデュバルさん、ヴェルナーさん達も見た目は何処にでもいそうな女の子でしたけど、その内に秘めた才能と実力は凄まじかったですから」
「そういうこと。それじゃ、オーちゃんの為にもビグ・ラングを一刻も早く完成させないとね!」
「はい。次は確か、大型ビット兵器『オッゴ』を組み込むんですよね?」
「そうだよ。本来は有人機だけど、小型化しちゃった状態じゃ人間は乗せられないからね。だから、ビグ・ラングから無線誘導が可能な小型無人機的な扱いにすればイケると思って」
「オッゴ自体にも後付けで様々な武装を懸架可能……汎用性に富んだビット兵器というのも斬新ですね」
「これでビグ・ラングは更に強くなる。『亡霊』との決戦にも盤石の態勢で挑めるよ」
束とクロエもまた、最後の決戦に備えて着実に準備を進めている。
真紅の異形が完成した時こそが、決戦の狼煙が上がる時か、それとも……。
技術屋、まさかの活躍。
ISで戦うばかりが全てではないのです。
次回は生徒会室訪問で、カスペンとの久々の再会になる?