インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
彼女が興奮する事と言えば、勿論……?
「こ…これは凄い!!」
IS学園の格納庫に響くオリヴァーの声。
彼女の目の前には、ハンガーに固定されているヒルドルブが雄々しく鎮座していた。
来週のセシリアとの試合に向けて、整備をして万全の態勢で挑もうと思ったソンネンは、603のメンバーと一緒に学園に配備してあるISが置いてある格納庫まで来ていた。
ここは、ISの整備の勉強をする為に技術班の生徒達が入り浸りになったり、授業の一環で訪れる事も多い場所だ。
いつもならば、ここに一夏や箒といったメンバーも一緒にいるのだが、彼らは『自分達がいても大して役に立ちそうにない』という理由から渋々辞退し、セシリアは当然のように来ていない。
その代り、整備班志望の本音と、そっち方面の知識に明るい簪が彼女達に同行していた。
「まさか、ここまで見事にISのサイズまでダウンサイジングされているなんて! 大幅に小さくなっているけど、細かい部分まで全て再現されている! こんな事が本当に有り得るのかッ!?」
さっきからオリヴァーは興奮しっぱなし。
戦う事よりも、後方で機体の整備などを主としている彼女からしたら、無理ない事なのかもしれない。
「いや…有り得てるから、こうして目の前にあるんだろうがよ……」
「確かに、その通りですね!」
目をキラキラさせて振り向き、いつもの大人しいオリヴァーが完全に消えていて、技術マニアの女の子だけがそこにはいた。
「マイマイ…すっごく興奮してるね~……」
「あれが、ソンネンさんの専用機…なの?」
「おう。型式番号YIT-05 ヒルドルブ。オレさまの大切な相棒だ」
車椅子がヒルドルブの待機形態である関係上、現在のソンネンは備え付けのベンチに座っている。
その状態で自慢げに胸を張って腰に手を当てている。
勿論、そんな事をすれば服が張って、普段は隠れている胸が少なからず強調されるわけで。
(ソンネンさん……私よりも大きい……?)
彼女もまた成長期なのだ。とだけ言っておこう。
「見た目は完全に戦車だよね」
「まぁな。伊達に『
「新しいカテゴリーの第一世代機……。まさか、そんな物をお目に掛かれるなんて……」
簪もまた、ある種のオタクであり、ヒルドルブの様なデザインの機体は非常に好みだった。
顔はいつも通りのままだが、心の中はオリヴァーと同じように興奮しっぱなしだった。
(キャタピラによる無限機動と大きな大砲……めちゃくちゃカッコいい!! このカラーリングも最高だし!! 私の打鉄弐式も似たような色に変更しようかな……)
どうやら、簪はジオン軍特有のダークグリーンが気に入ったようだ。
次第には自分の機体にジオン軍のエンブレムを刻みたいと言い出すかもしれない。
「ホント…相変わらずよねぇ~……」
「全くぶれないというか、それでこそって言うか……」
前世から続き、ドイツでもよく一緒にいたモニカとワシヤの二人は、苦笑いを浮かべながらも腐れ縁の少女の事を生暖かく見つめていた。
「久し振りだな……あの感じは」
「けど、なんか安心するよな。あいつがアイツらしい姿を見るとさ」
「かもしれんな……」
デュバルとヴェルナーは、十数年振りに再会した親友の変わらない姿を見て、優しい笑みを浮かべている。
やっぱり、彼女達にとってオリヴァーは特別な存在のようだ。
「ソンネン少佐! 使用弾種も変わらないのですかッ!?」
「何も変わってねぇぞ。オリジナルと同じで、全部の砲弾が使用可能な上、ちゃんとスモーク・ディスチャージャーやマシンガンも搭載してる」
「最高すぎですかッ!?」
さっきから満面の笑みを浮かべっぱなしのオリヴァーは、頬を赤くしてヒルドルブの威容を見上げている。
嘗て、無念の末に散って逝った誇り高き鋼鉄の狼に敬意を表するように。
「ISの技術で完全再現したヒルドルブに、更に向上したソンネン少佐の技量……まさに向かうところ敵無しじゃないか! 今更だけど、なんだかオルコットさんが可哀想になってきたかも……」
目の前でヒルドルブの性能とソンネンの技量を観測したオリヴァーだから言える事。
1対複数の戦いにおいても無双してみせた組み合わせが、もしも1対1の戦いで発揮されたらどうなるか。
並の選手では試合にすらならずに瞬殺されるだろう。
セシリアの実力は知らないが、それでもソンネンの勝利は揺るぎがないとオリヴァーは完全に信じきっていた。
「今のアイツの姿を一夏の奴が見たら、どんな反応するだろうな?」
「だらしなく鼻の下を伸ばすんじゃないんですか?」
「それを目の前で見たら?」
「金的をぶちかました上で、背負い投げからの逆エビ固めの刑ですね」
「「「「……………」」」」
元男だからこそ本気で戦慄するソンネン達四人。
この女、なんちゅー事を言いだすんだ。
頼むから、オリヴァーに向かってラッキースケベなんて発動させないでくれ。
さもないと、お前の人生が終わってしまうかもしれないから。
心の底から、そう願わずにはいられなかった。
「モニクさん。その時は私も手伝う。得意の薙刀で串刺しにしてやるから」
「その時はよろしくね」
「かんちゃん……」
最凶タッグ、まさかの爆誕。
これは流石の本音も呆れてしまう。
「少しパーツが摩耗してるけど、この程度なら全然大丈夫そうだ。すぐに終わりますよ」
「マジか。そいつは有り難い」
ドイツでの初陣からこっち、整備する環境が無いからしたくても出来なかったが、最高の環境で最高の仲間の手によって整備される事に、ソンネンは『結果的にはこれで良かったかも』と思った。
「そうだ! デュバル少佐とホルバイン少尉も機体を受領してるんですよねッ!? カスペン大佐から聞かされました! お見せ頂いてもいいですかッ!?」
「「大佐……」」
自慢をしたい気持ちは分かるが、せめて自分達の目の前で言って欲しい。
けど、そう言ったら絶対に落ち込むので、言えないでいるデュバル達だった。
「え? 二人も専用機を持っているの?」
「まぁな。どうせ、ここに通っている以上はいつかは見る事になるんだ。別に、君達に見せても問題はあるまい」
「だぁな。ちょっと待ってな」
二人が待機形態となっているアクセサリーをハンガーにセットすると、直立不動の状態で展開されたヅダと、固定アームに挟まれて宙に浮く形になっているゼーゴックが姿を現す。
「先にドイツでワシヤ中尉の二番機とモニクの三番機は見ていたから、もしかしてとは思っていたけど…こっちも全てが完璧にダウンサイジングされた状態で再現されている……」
自分達を守る為、数多くの同胞達を守る為に目の前で散って逝った機体が、目の前に立っている。
夢と誇りを胸に戦ってくれた『もう一つの命の恩人』に対し、オリヴァーは無意識の内に敬礼をしていた。
「少尉。この機体名もまた『ゼーゴック』のままなのかな?」
「あぁ。短い間ではあったけど、こいつもまたオレの大切な相棒だからな」
「そう言って貰えて、ゼーゴックも喜んでいると思うよ」
制御ユニットがズゴッグからラファール・リヴァイヴに変更されてはいるが、その内に秘めた魂は何も変わっていない。
寧ろ、ISになった事でより強くなったようにすら思えた。
「見てもよろしいですか?」
「勿論」
「ありがとうございます!」
付属の端末を使い、オリヴァーはヅダ一番機をゆっくりと見ていく。
その顔はすぐに驚愕に染まり、全身を震わせることとなる。
「こ…これは……なんてことだ……! この一番機は…二番機や三番機以上にヅダの欠陥だった部分が全て最高の形で改善されているっ!? エンジン部の問題も、装甲部の問題も、なにもかもが! これが…これこそが、ヅダの本来の姿! しかも! 他の二機に比べてエネルギーゲインが1.5倍以上ッ!? い…いや、デュバル少佐の卓越した技量を考えれば、寧ろこれぐらいが妥当なのか……。通常出力では、ヅダの持つ真の力も、デュバル少佐の潜在能力も完全に発揮されない。成る程な……」
ブツブツと独り言を繰り返しながら、自分の顎に手を当てて考え込む。
まるで、前世の彼女の姿を見ているようだ。
「このゼーゴックも見事としか言いようがない。ズゴックからリヴァイヴに変わって装甲自体は薄くなってるけど、そこはシールドバリアーがあるから問題は無い。寧ろ、原型よりも汎用性が増して、使い勝手は向上したと言えるだろう。その上でちゃんと全ての兵装が使用可能なんだから驚かざるを得ない。まさしく、これは嘗てのゼーゴックの正当進化だ。ここまで高性能な機体が大気圏から強襲してこられるとか……少尉と敵対する相手には同情を覚えてしまうな……」
こうなると、もう周りの声は完全に聞こえない。
自分だけの世界にのめり込み、こっちから何かアクションをしない限りは絶対に戻ってこない。
「もしかして…私達の声、聞こえてない?」
「でも、とっても楽しそうだよ~。今のマイマイ…輝いてるよね~」
「輝いてる…か」
生き生きとした顔でヅダとゼーゴッグを見ているオリヴァーを見て、ふと『ある言葉』を思い出し、自然と口に出していた。
「『真に価値ある技術は、正しく評価されるべきもの』……」
「なにそれ?」
「あいつの……オリヴァーの口癖さ」
「例え、世間からどのように言われていても、彼女はそんな意見には一切耳を貸さず、常に正しい評価をしようと心掛けている……それが彼女の『信念』なのさ」
「信念……」
果たして、自分に『信念』と呼べるものがあるのだろうか。
今のオリヴァーのように、心から夢中になれるものがあるのだろうか。
簪は初めて、自分の将来について少しだけ真剣に考えた。
「そういうところでは、デュバル少佐とオリヴァーって似た者同士ですよね」
「そう…なのか?」
「はい。他人の意見に流されない所とか、自分なりの信念を持っているところとか」
「ふむ……私と彼女がなぁ……」
まんざらでもない顔のデュバル。
モニクに指摘されるまでは気が付かなかったが、言われてみればそうかもしれない。
「……よし! 本音!」
「うん!」
簪と本音は互いに頷いてから、オリヴァーの元まで小走りで向かっていった。
何か考えがあっての事だと判断し、603の皆は誰も口出しせずにいた。
「あ…あの! オリヴァーさん!」
「ん? どうしたんだい?」
「マイマイ! 私達にも手伝わせて! お願い!」
勢いよく頭を下げてから、オリヴァーに頼み込む二人。
勿論、生粋のお人好しである彼女が、それを断る筈も無く……。
「喜んで! それじゃあ、簪さんはこっちをお願い。布仏さんは……」
てきぱきと二人に指示出しをする姿を見て、なんだか微笑ましくなる面々。
今思えば、603でも彼には後輩のような人間は誰もいなかった。
簪と本音は、彼女にとって後輩の様な存在なのかもしれない。
「整備室ってのは本来、オレらのようなパイロットには暇な場所の筈なのにな……」
「不思議と、あの三人は見ていて飽きないな」
「仕方がないわね……」
小さく溜息を吐くと、モニクは徐に出口まで向かっていった。
「あれ? 特務大尉、どこに行くんスか?」
「自販機。何か飲み物でも買ってきてあげようと思って。少佐達の分も買ってきますよ。何がいいですか?」
「お茶系なら何でもいいぜ」
「オレンジジュースを頼む」
「スポドリ系」
「んじゃ、オレは……」
「中尉は私と一緒に来て荷物持ちをして頂戴」
「なんでオレだけっ!?」
「何よ。女の子を一人だけで行かせる気?」
「今はオレも立派な女の子なんですけどッ!?」
悲しい抵抗も虚しく、結局はモニクと一緒に買い出しに出かけて行ったワシヤ。
やっぱり彼女は貧乏クジを引く運命なのかもしれない。
「なんか…こうしてると、孤児院を思い出すよな」
「ソンネン。もうホームシックか?」
「ちげーよ。ただ……」
「ただ?」
「いつか、あいつらも連れて行きたいなって思ってさ……」
「そうだな……カスペン大佐やヘンメ大尉なんかも一緒に……」
「考えるだけで楽しそうな光景だな」
「全くだ……」
IS学園で再会した仲間達や、新しく知り合った友たちと一緒に孤児院に行き、一緒に笑い合っている様子を思い描きながら、目の前で整備に勤しんでいる三人を静かに眺めているソンネン達だった。
いつかはしなくちゃと思っていた、オリヴァーと生まれ変わった機体達との邂逅。
どの機体も自分が携わっているから、絶対にパイロットと同じぐらいに愛着はあると思うんですよね。特に彼女の場合は。