インフィニット・ストラトス IS IGLOO 作:とんこつラーメン
まだダルさは残っているのですが、少しだけマシになってきたので執筆再開です。
勿論、明日も何かを書きます。絶対に。
次の週の月曜日の放課後。
遂に訪れた対戦の日。
第3アリーナのAピットに、既にISスーツに着替えた状態で車椅子に乗っているソンネンの周りに、一夏や箒、デュバルやヴェルナーを初めとした603の面々に加え、本音や簪まで来ていた。
その近くに、教師である千冬と真耶が立っている状態だ。
「いや…幾らなんでも大所帯すぎだろ……」
「いいじゃないか。それだけ、この試合に注目しているという証拠さ」
「そうかもしれねぇけどよ……」
今までに、誰かに応援されながら戦った事なんて一度も無い為、こうして皆に見られながら試合をすることは、なんともむず痒い気分だった。
「そう渋るな。観客席の方はもっと凄い事になってるぞ?」
「大佐っ!? それに砲術長達まで!?」
アホ毛を激しく左右にピョコピョコと動かしながらカスペンがやって来て、その背後にアレクと楯無、それから虚もついてきていた。
「大佐。観客席の方って、どういう事ですか?」
「私が説明をするよりも、直接見た方が早いだろうさ。山田先生、お願いできますか?」
「あ…はい!」
カスペンに言われ、急いで機器を操作してモニターに観客席の様子を映しだす。
因みに、完全に年下&幼女みたいな見た目からは想像も出来ないような威厳と威圧感により、地味に真耶はカスペンに頭が上がらないのだ。
初対面の時に感じた可愛さと中身とのギャップとの衝撃は、今でも鮮明に残っているらしい。
「な…なんじゃこりゃ……」
「す…すげー……」
「これはなんとも……」
モニターに映った画像に目が点になるソンネンと一夏と箒。
そこには、開いた席が一切無い程に生徒達で埋め尽くされている観客席があった。
「多分、新聞部の子達が噂を広めたのね」
「新聞部ってよりは、薫子個人だろうがな」
まだ見ぬ存在ではある先輩ではあるが、絶対に一癖も二癖もある人物だと、ここに集った一年生たちはすぐに悟った。
「この映像を見る限りじゃ…セシリアの奴はまだ準備中みたいだな。じゃあ、そろそろこっちも準備をしますかね。お前ら、オレから離れてた方が良いぞ」
ソンネンに注意され、全員が彼女の周囲から離れた。
が、そんな中で一夏と箒だけが離れてもまだ、ずっとソンネンに視線を向け続けていた。
「ん? どうした?」
「いや…なんつーか……ソンネンのそんな恰好って、なんだか新鮮っていうか……」
「ソンネン……本当に(胸とかお尻とか括れとか)立派になって……」
一夏は年頃の男子らしい反応をして、箒の方は色んな意味で感動していた。
普段は重ね着をしている関係上、体の形状は分かりにくいのだが、ISスーツを着れば嫌でも明らかになる。
流石に箒やアレクには負けるが、それでもソンネンのスタイルは高校一年生とは思えない程に成長していた。
具体的には、もしもソンネンが健常者で普通に歩けば軽く揺れるほどに。
(やっぱり…ソンネンさん、私よりも大きい……)
そして、そんな彼女の隠されたスタイルにショックを受ける簪。
この瞬間、簪の中でソンネンは本音と同類であるとインプットされた。
「いでっ!? ち…千冬姉ッ!?」
「私は、お前を成長した幼馴染に欲情するような男に育てた覚えはない」
「い…いや! 俺は別に……」
突如として振ってきた千冬の出席簿によって頭に星が走った一夏は、姉の言葉に対して必死に言い訳をしようとするが、一概に否定できないので最終的には語尾が小さくなってしまった。
こういう時、男という生き物は例外なく無力である。
「何やってんだか」
「一夏…哀れな奴」
そして、幼馴染二人からも辛辣な一言。
まだ何も始まっていないのに、もう既に一夏の精神はボロボロだった。
「なんだか知らねぇけど…ま、いっか。機体を展開するぞ~」
車椅子の手すりを掴んでから目を瞑り、精神を集中させる。
ソンネンはこの時、いつも不思議な光景を目にする。
まるで白昼夢の様な、だけど、何故か懐かしいような。
掛け替えのない無二の親友に出逢ったような気分になるのだ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
何も存在しない真っ白な空間。
ソンネンはそこに座り込んでから、何か『大きなもの』と向き合っていた。
「よぉ……随分と待たせたな」
「……………」
それは、青白い毛並みの巨大な狼だった。
鋭い牙と鋭い眼光を持ってはいるが、その奥に宿る瞳には確かな優しさがあった。
「……………」
「おっと。ははは……くすぐったいっつーの」
ソンネンの頬に自分の顔を擦り付けるようにして寄せていき、まるで子犬のような鳴き声を出しながら、彼女の体にそっと優しく抱きついてくる。
「ここからだ。ここから本当の意味で始まるんだ。行こうぜ…何も知らない連中に、オレとお前の実力を見せつける為に。そして、新しく出来た親友と戦う為に」
そのモフモフの毛並みに顔を埋めながら、ソンネンも静かに抱きしめた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
時間にして一秒にも満たない時間。
だが、ソンネンにとっては無限に等しい時間の間に機体は展開して、この場にその巨大な体躯をまざまざを見せつけていた。
「こ…これが…ソンネンの専用機……」
「YIT-05 ヒルドルブ。こいつがオレさまの相棒だ。どうだ、驚いたか?」
「あぁっ! めちゃくちゃスゲェよ! めっちゃカッコいいぜ!」
「ははは! そうかそうか!」
一夏も立派な男の子。戦車とかには普通に目が無かった。
ソンネンが昔から戦車大好きっ子であるのは知っていたが、まさか専用機まで戦車だったとは思いもよらず、一夏は凄く目をキラキラさせていた。
「なんという迫力だ……見ているだけで圧倒されるな……」
「それが『戦車』って存在だからな。伊達に嘗て『陸の王者』とは呼ばれてないって訳だ」
普段から心身ともに鍛えている箒でさえ、ヒルドルブの迫力には気圧される。
デュバルからフォローされるが、それでも彼女の手には汗が滲んでいた。
「成る程……足が不自由なソンネンさんだからこその機体…なんですね」
「見たまんまの『
整備班らしく、すぐに目で解析を始める虚と、冷や汗を流しながらもヒルドルブを見上げる楯無。
情報では知らされていたが、まさかここまでとは思っていなかったようだ。
「ソンネン少佐! ヒルドルブはこの間の整備で完璧に仕上げてあります!」
「知ってるよ! この目で見てたからな! 後は全部任せとけ! 『勘』で何とかしてやるよ! 『あの時』みたいにな!」
「はい!」
力強く頷くオリヴァーに応えるソンネン。
強い信頼関係があるからこそ、お互いに全てを任せられる。
オリヴァーが整備をして、自分が動かす。
己の仕事はここからだ。
「あっ!?」
「どうした、山田先生?」
「あの…キャタピラじゃカタパルトには乗れないですよね…どうしましょう……」
「あ」
ここに来て、まさかの事態。
真耶の指摘通り、学園のカタパルトはキャタピラを搭載した機体には対応していないし、同じようにヒルドルブもまたカタパルトから発進することを想定していない。
ならば、一体どうすればいいのか。答えは簡単だった。
「心配いらねぇよ」
「え?」
「元々、こいつには飛行能力なんて無いからな。だったら、やる事は一つだろ」
「まさか……」
この瞬間、真耶は猛烈に嫌な予感がした。
以前に試験の時に戦った際に思い知った事。
このソンネンという少女は、大人しそうな顔とは裏腹に、非常に好戦的で行動力の塊なのだと。
「もう、向こうも待ってるみたいだしな。ここでもたもたしてられないだろ」
モニターを見てみると、そこには自身の蒼い専用機を纏って待機をしているセシリアの姿が。
それを見てから、ずっとソンネンのハートは興奮状態なのだ。
早くステージに降り立ちたい。そして、思う存分に戦い合いたい。
今の彼女の頭にはそれしかなかった。
「お前ら! 壁際まで離れてろ! 一気にぶっ飛ぶぞぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「やっぱりぃぃぃぃぃぃっ!?」
全員が急いで壁に沿うように離れたのを確認すると、途端にコアの出力を最大まで上げてキャタピラを高速回転させる。
そのまま、ヒルドルブは凄まじい音を出しながら親友の待つ場所まで飛び出していった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
その時、セシリア以外の全ての生徒達が己が目を疑った。
今、カタパルトから何が飛び出して来た?
巨大な鉄の塊が勢いよく飛び出してきて、そのまま地面に落下、その周囲に土煙を発生させていた。
土煙はすぐに機体の排気によって消し去られ、その威容が衆目に晒される。
「なに…あれ……」
「せ…戦車……?」
「すっごく強そう……!」
今までに軍事兵器とは全く縁のない人生を送ってきた少女達にとって、初めて目にした戦車がソレだった。
IS学園に存在する機体としては余りにも異質であり、同時に全身から溢れる凄まじいまでの迫力。
怪しく光る
「それが…デメジエールさんの専用機ですのね?」
「おう。ヒルドルブ。オレの大切な相棒だ」
「大神オーディンの異名の一つ…その意味は『戦場の狼』……」
「よく知ってるな」
「勉強してますから。けど、その姿を見れば納得ですわ……まさに鋼鉄の毛皮を持つ戦場を駆ける狼……」
驚きが隠せない生徒達がいる中で、セシリアだけが極めて冷静にヒルドルブを見ていた。
(あの超巨大な主砲の直撃を受ければ一溜りも有りませんわね……。口径から見ても、一撃必殺の威力を持つと見て間違いないでしょう……。あれ程の機体をデメジエールさんはどのように駆るのかしら……)
実の所、セシリアもこの試合を非常に楽しみにしていた。
同じ部屋になり、大切な親友にもなった少女はどんな機体に乗って、どのような試合をしてくれるのか。
その興奮は今、最高潮に達しようとしていた。
「んで、それがセシリアの専用機か?」
「えぇ。イギリスが開発した最新鋭の第三世代機『ブルー・ティアーズ』ですわ」
「『蒼い雫』…ね。お前に相応しい綺麗な名前の機体じゃねぇか」
「お褒め頂き光栄ですわ。でも、それだけの機体じゃありませんことよ?」
「みたいだな。その背後に浮いてるのは噂に聞く『ビット兵器』って奴だろ?」
「御存知でしたのね……」
「その手の情報は逐一、仕入れるようにしてるんでね」
実際には、宇宙世紀にもビット兵器搭載型の機体が存在していたから、すぐに分かった事なのだが。
だが、彼女が知っているビットに比べては、かなり大型だった。
「この機体は、ビット兵器を運用することを前提に開発されたISなんですのよ」
「俗に言う『試作実験機』ってやつか……」
なんだ。セシリアの機体と自分のヒルドルブは同じなのか。
どっちも試験的に生み出された実験機で、それが今から戦おうとしている。
(はは…なんだかまるで、これから次期主力量産機を決めるコンペでも始まるみたいだな)
そう考えると、増々やる気が出てくる。
セシリアに早く見せてやりたい。
そして、観客席でバカみたいに口を開いて眺めている連中に見せつけてやりたい。
ヒルドルブの性能を。その力を。
同時に、セシリアの専用機の性能も見てみたい。
ソンネンは生まれて初めて、早く時間が過ぎる事を祈った。
早く試合開始のブザーよ鳴ってくれと。
早く自分達を戦わせてくれと!
「「……………」」
会話が止み、二人の緊張感を表すかのように会場全体が静寂に包まれた。
セシリアがライフルのグリップを強く握りしめ、ソンネンもまた装甲越しに両手に掴んでいるマシンガンのグリップを握る手に力を込める。
心臓が激しく鳴る。
装甲の下でソンネンの頬に汗が滲んで、それが彼女の膝まで落ちた。
まだか、まだかと待っていると、その瞬間は唐突にやって来た。
((鳴った!!))
戦いの始まりを告げる
「まずは先制!」
「させるかよ!!」
上空から放たれるセシリアの持つ長大なライフル『スターライトMk-Ⅲ』のレーザー射撃。
着弾するまでに一秒と掛からない、その一撃を、ソンネンは戦車兵としての長年の勘によって前方に全速前進することで見事に回避。
「避けられたッ!? けどっ!」
連続で撃ち続けるが、ヒルドルブは戦車の様な姿からは想像出来ない程の速度で器用に左右に蛇行しながら全弾回避してみせた。
(あの巨躯で、なんという機動力なんですのっ!? 完璧に狙っている筈なのに、全く当たる気配が無いなんて!)
決してソンネンと、その愛機の事を軽視したわけじゃない。
それでも、掠るぐらいはすると思っていたが、その想像は根本から覆される。
掠るどころか、軽快な走りを見せながら徐々に自分に向かって近づいてきているではないか。
その走行速度は、まるで『
「正確無比な射撃…だがな! それじゃあ当たってはやれねぇな! そら! 今度はこっちの番だ!!」
「くっ!?」
両手に持っていたマシンガンを乱雑に発射する。
必中を狙っている訳ではない。あくまでも『本命』を狙う為の牽制。
それは撃たれたセシリアも分かっていた。
二人の試合は、開始直後から近年稀に見る程の白熱っぷりを見せていた。
ここから、試合は更に加速していく。
最初からソンネンとセシリアの試合は前後編のつもりでいたのですが、もしかしたら三話構成になるかもしれません。
その時はどうか許してヒヤシンス。