インフィニット・ストラトス IS IGLOO   作:とんこつラーメン

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もう12月……早いもんです。

よくよく思い出したら、この作品って今年の初め頃に連載開始してるんですよね。

正直、途中どこかで必ず挫折とかすると思ってました。

なのに、気が付けば一年間連載してました。

こんな事を言うようになるのは、自分が歳を取ったせいなのかもしれませんね。







鋼鉄の狼VS蒼い雫(中編)

 初手から全力全開で挑むソンネンとセシリアに、観客席で見ている者達は勿論、ピットで観戦している者達も、その熱に当てられていた。

 

「すげぇ……あれがソンネンの戦いかよ……」

「とてもハンデがある身体とは思えん程に激しい戦いをするのだな……」

 

 始めて見るソンネンの『本来の姿』を見て、幼馴染達は大きく口を開けたままの状態で驚いていた。

 モニターの向こうにはもう、車椅子に乗っていた弱々しい少女は何処にもいない。

 いるのは、戦車に自分の全てを賭けた一人の戦士だけだった。

 

「会長…あれが…そうなんですか…?」

「あぁ。近い将来、君と戦場で轡を並べる少女の姿だよ」

 

 暗部として色々な人間を見てきた楯無でさえも、あの変貌ぶりには驚きを隠せない。

 そもそも、足が不自由な状態でISに乗ると言うこと自体が前代未聞なのに、それを前提とした機体を持ってきた上に、並の国家代表選手が簡単に霞んでしまいそうなレベルの実力を目の前でまざまざと見せつけられた。

 現役で国家代表を務めている楯無からすれば、衝撃以外の言葉が出ない。

 

「ソンネン少佐…なんでスモークを使わないんだ…?」

 

 そんな中、たった一人だけ驚きではなく疑問を感じていたのがオリヴァーだった。

 彼女はモニターを見つめながら、ずっと小首を傾げていた。

 

「スモークって…煙幕の事だよな? ヒルドルブについてるのか?」

「うん。相手の隙を突いたりするためにね。オルコットさんの機体の主武装はレーザー兵器。ビームと違って、それならばスモークを散布することで光を拡散させてから威力を大幅に下げることが出来るのに……」

 

 どうして自分にとって有利なフィールドを作らないのか?

 戦士ではないオリヴァーには理解が出来ないでいた。

 そんな彼女に向かって、隣にいたモニクが静かに声を掛ける。

 

「そんなの、理由は一つしかないじゃない。ねぇ? デュバル少佐?」

「ふっ…そうだな。アイツの事だ。変な小細工なんかしないで、正々堂々と真正面からオルコット嬢とぶつかって、その上で勝利を収めたいんだろうさ」

「ですよね。ほんと…いつまで経っても、どれだけ可愛くなっても、猪突猛進で馬鹿正直な所だけは変わらないんだから……」

 

 皮肉っぽく聞こえるが、実際のモニクの顔は笑っていた。

 嘗て、酒に溺れて失った物を、今のソンネンは完全に取り戻したかのように見えたから。

 

「…山田先生。この試合の映像…ちゃんと録画しているか?」

「はい、バッチリと。でも、なんでそんな事を…? 資料として保管でもするんですか?」

「それも有るが……」

 

 千冬は腕を組みながら、モニターの向こうで激戦を繰り広げているソンネンを見る。

 あれだけの重装甲の機体を、軽自動車のように軽やかに動かし、未だに一度も被弾をしていない。

 

「…試しに、この映像をIS委員会に提出してみようと思っている」

「それって…まさか、ソンネンさんをどこかの代表候補生に…?」

「可能性の話だがな。しかし…これ程の腕ならば、代表候補生を通り越して、一気に国家代表にまで上り詰めるやもしれんな……」

「ソンネンさんなら、十分に有り得る話ですね……」

 

 義姉として、先達として、そして教師として。

 千冬はソンネンの将来の可能性を少しでも広げてあげたいと考えていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 セシリアは焦っていた。

 牽制だと分っているマシンガンでさえも、恐ろしい程の命中率を誇っていたから。

 少しでも油断を見せれば、次の瞬間には弾丸の雨が降り注ぐ。

 そして、着弾の隙を狙って最大にして最強の一撃がお見舞いされるだろう。

 一瞬、一秒とて全く気が抜けない状況。

 これまでの人生の中で、最大級に神経を張りつめながら回避と射撃を繰り返す。

 

「器用に避けながらも、とんでもない精密射撃…いいねぇ! いいねぇ! そうでなくちゃ面白くない!!」

 

 装甲越しなので表情は見えないが、ソンネンは心から楽しんでいる。

 きっと、あの中では無邪気な子供の様な笑顔を見せているのだろう。

 その表情にちょっとだけ興味を持ってしまったのは内緒。

 

(ビットさえ使えれば少しは戦況を変えられるかもしれない…けど!)

 

 顔のすぐ横をマシンガンの弾が霞めていく。

 それに反応して、すぐに反撃としてライフルを発射するが、器用に車体を動かしてからギリギリの所を回避する。

 あれだけの高速移動をしながらも、必要最小限の動きが出来る姿を見せつけられれば、嫌でも相手が自分よりも遥かの上の実力者だと認めざる負えない。

 

(その隙が全く存在しない! この状況では私はビットを使えない(・・・・・・・・・・)!)

 

 セシリアには、ビット兵器を扱う者として致命的な欠点が存在していた。

 彼女は、ビットを展開している時、その操作に集中する余り一切身動きが出来ずに棒立ちになってしまうのだ。

 ソンネン相手に、それは本気で致命的。

 動きが止まった途端、あっという間にあの大砲が火を噴くのは目に見えていた。

 

「…デメジエールさん。その機体の横についているのはスモーク・ディスチャージャーですか?」

「そうだけど、それがどうしたんだっ!? おらぁ!」

「くっ! それを使えば私のレーザーを大幅に弱体化できるのに、どうして使用しないんですの? まさかとは思いますけど、私の事を……」

 

 遠距離からの攻防を繰り広げながらも器用に話している二人。

 こんな事、熟練の二人だからできる事である。

 

「心配すんな。別にお前の事を見縊っている訳じゃねぇよ」

「では、どうして……!」

「んなの、答えは一つに決まってんだろ!」

 

 急ブレーキをかけてヒルドルブを止めて、その巨大な両腕を振り回しながらアリーナ中に響く様に叫んだ!

 

「変な小細工とかは無しに、お前と…セシリアと真正面から全力でぶつかり合いたかったからだよ!!」

「デメジエールさん……」

 

 ソンネンの心からの叫びに、思わずセシリアも動きを止めて聞き入ってしまった。

 同時に、ソンネンに対する感情が『友情』から別の何かへと変化し始める。

 

「お前もオレも! まだ全然本気を出しちゃいねぇ! 最初はセオリー通りに行こうかとも思ったが、もう止めだ!! ここからは戦術も作戦も関係ない!! お互いの全力と全力を激突させようぜ!! なぁ…セシリア!!」

「勿論ですわ!! セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの本領を今こそ見せてご覧に入れますわ!!」

 

 ソンネンの言葉に完全に触発されたのか、この瞬間…セシリアの中にあった『タガ』が外れた。

 優雅? 華麗? 祖国の為? 家の為?

 そんなのはもう関係ない!

 今、この瞬間だけは、全てを忘れて最愛の人との逢瀬を心から楽しもう!

 

(成る程…これが初恋というものなんですのね! 間違いなく、私は最高の人に恋をしましたわ!!)

 

 アドレナリンが分泌されまくって彼女自身、色んな事を勘違いしているが、本人がいいのならばいいのだろう。

 

「いきますわよ!! デメジエールさん!!」

「来やがれ! セシリア!!」

 

 さっきまで出し渋っていたビットを全く躊躇することなく全基展開。

 まるで従者のようにセシリアの周囲の浮遊し、彼女の指示を待っている。

 

「眼前の相手を屠りなさい!! ブルー・ティアーズ!!」

 

 レーザーライフルを指揮棒のように振り回すと、それに従ってビットたちが次々とソンネン目掛けて襲い掛かってくる。

 勿論、それを黙って見ている彼女ではなく、すぐに回避行動へと移行した。

 

「へへ…一気に攻めにくくなったな! けど、これだけじゃねぇよなぁ!!」

「無論…ですわ!!」

 

 地面を擦りながらビットから放たれるレーザーを回避していると、左手に装備していたマシンガンに一筋の光が命中し、爆散した。

 

「マシンガンがっ!?」

「まずは一丁…ですわ!」

 

 凄まじくビットを動かしながら、セシリアはスコープを除きながら銃口を向けていた。

 そう、セシリアはビットを動かしながらも自身も同時に動いていたのだ。

 

(不思議ですわ…ついさっきまで不可能だと思っていた『ビットと本体の同時行動』が、まるで当たり前のように出来る! 今ならば、本当の意味でティアーズを使いこなせるような気がする!!)

 

 セシリアの目は血走り、完全に優雅な英国貴族の彼女はいなくなっていた。

 それは、敵を貫く事だけを目的とした冷酷無比なスナイパー。

 ソンネンは自分の言葉によって、対戦相手を更なる高みへと導いたのだ。

 

「ククク……そうだよなぁ……そうこなくっちゃなぁ!!」

 

 ヒルドルブのモノアイがソンネンの気合に呼応するかのように大きく光る。

 無限軌道が激しく回転し、レーザーの雨を掻い潜りながら着実にセシリアへと接近していく。

 

「そこですわ!!」

「甘い!!」

 

 背後からのビットの攻撃を、前を向いたままの状態で難なく回避。

 だが、もうその程度の事では驚かない。

 ソンネンならば、その程度の芸当は当たり前。

 今のセシリアは完全に、そんな思考になっていた。

 

「しかし…手数で負けてるってのはアレだな…! それなら!!」

 

 ガコン!

 砲身にある弾倉に、とある砲弾が装填される。

 勿論、その音はセシリアにも聞こえていた。

 

(何かが装填されたッ!? けど、無暗矢鱈に撃っても意味が無い事はデメジエールさんも十分に承知している筈! ならば、一体何を……)

 

 この時点ではまだセシリアはヒルドルブの見た目故の思い込みに支配されていた。

 勘違いをしてはいけない。

 ヒルドルブは戦車ではなく『I・T(インフィニット・タンク)』なのだ。

 即ち、その砲身から放たれるのが通常弾倉だけとは限らない。

 

「……そこだ!! 食らいやがれ!!」

 

 右から来たビットの攻撃を避けながら、砲身を撃って来たビットに向ける。

 そこの付近には別のビットがもう一基浮遊していた。

 普通ならば『だからどうした』と思うが、ここからセシリアも観客も全く予想だにしてない事が起きる。

 

対空用榴散弾(type3)…発射!!」

 

 放たれたのは一発の砲弾ではなく、幾多にバラける無数の細かな散弾。

 火を纏った流星の如き一撃は、目の前の空間にいた二基のビットを粉々に砕いてから爆発させた。

 

「さ…散弾っ!? そんな物を発射できるのですかッ!?」

「当たり前だろ! こちとら、この大砲一つで勝負してるんだ! それなら、色んな状況に合わせて多種多様の砲弾を用意しておくもんだろ!」

「その通りですわね! いいですとも! ここからは更に気を引き締めますわ!!」

 

 ビットの数を半分にされたからと言って、今のセシリアの戦意が削がれる事は無い。

 寧ろ、数が減った事でビットの動きはより激しく機敏になり、セシリアの闘争心に油を注ぐ結果になったのだから。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 激しい一進一退の攻防を見せつけられ、ピットの中は大騒ぎしていた。

 

「きゃ~! 見ました今のッ!? 試験の時に、私もあの散弾を食らって凄く驚いたんですよ~!」

「嬉しい気持ちは分かるが、少し落ち着け山田先生……」

 

 本当は自分も一緒にはしゃぎたいが、先に真耶にされてしまったせいでしにくくなってしまった千冬。

 後悔先に立たず、である。

 

「マシンガンを壊されたと思ったら、今度はソンネンがビットを壊した!」

「お互いに手数が減った事になるが…二人とも全く動きが衰えない!」

「ソンネンさん…凄く楽しそう……」

「ソンソン~! がんばれ~!」

 

 もう気分は完全にスポーツ観戦。

 自分達の幼馴染、あんなにも凄い試合を繰り広げている事に悔しいという気持ちは吹き飛び、それ以上に最高に誇らしかった。

 簪もまた、代表候補生の一人としてソンネンの熱気を肌で感じ、本音は単純に応援していた。

 

「ふむ…正直、そこまで期待はしていなかったのだが…セシリア・オルコット…か。どうやら、見た目に反して内に秘めたる潜在能力は高いようだな。あれ程のスナイパーが背後にいてくれれば非常に頼りになる」

「こっちとしても、同じ超長距離射撃仲間が増えるのは嬉しいけどな」

 

 どうやら、セシリアはカスペンのお眼鏡にかなったようで、アレクもまた頼もしさを感じ始める。

 図らずも、新たな戦力の目途が立ってしまった。

 

「今は互角…に見えるが……」

「たかがマシンガン一丁を破壊されたからと言って……」

「ソンネン少佐の流れであるのは変わりないわね」

 

 デュバルとヴェルナーが冷静に戦況を分析し、モニクは自信満々にソンネンの勝利を信じている。

 その傍で、オリヴァーが拳を握りしめながらジッとモニターを凝視していた。

 

(オルコットさんが予想以上の実力者な事には驚いたけど、ソンネン少佐とヒルドルブにはまだ『アレ』がある。モビルタンクの頃には出来なかった、ITになったからこそ出来るようになった『切り札』が! 少佐…見せてください! 貴女とヒルドルブの真の実力を!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、決着。




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